2025年10月3日にルクセンブルク大公としてギヨーム5世が即位しました。新大公夫妻の即位を祝う晩餐会で輝いた大公家のティアラを紹介した記事の続きです。
今回はギヨーム大公の4人の叔母(伯母)達が着用したティアラです。(ギヨーム大公の父であるアンリ大公は5人兄弟の第二子で、姉が1人、弟が2人、妹が1人います。)



●マリー=アストリッド公女(第一子)
ショーメ・チョーカー・ティアラ
ダイヤモンドの格子模様が特徴的なこのティアラは、フレームから取り外してチョーカーとしても着用することができます。ショーメが製作し、公開オークションで売却された後、大公家の所有物となったことをショーメが公表していますが、その売却時期や詳細は公表されていません。このティアラを着用された写真が確認できたのは1980年代からです。

1981年にアンリ大公世子と結婚したマリア・テレサ大公世子妃(当時)が結婚後に撮影された公式写真でこのティアラを着用されました。(左)
1982年にはルクセンブルク大公宮殿で行われたリヒテンシュタインのニコラウス侯子との結婚舞踏会でマルガレータ公女もこのティアラを着用されました。(中央)
アンリ大公やマルガレータ公女の母であるジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃はパールをさらに追加した別のセッティングを好まれたようで、パール付きのセッティングの着用写真が複数確認できました。(右)
今回の晩餐会でアンリ大公の姉マリー=アストリッド公女はパールなしの控えめなセッティングで着用されました。

2000年のアンリ大公即位後はショーメ・チョーカー・ティアラはマリア=テレサ大公妃のお気に入りとなりました。
他のティアラに合わせてショーメ・チョーカー・ティアラをチョーカーとして身に着けることもありました。右下の写真ではチョーカーと別のダイヤモンドネックレスを重ね付けしています。

その後、ベルギアン・スクロール・ティアラを愛用された為、マリア=テレサ大公妃の着用機会は減りましたが、娘のアレクサンドラ公女がこのティアラを着用し始めました。2016年の建国記念日を祝う晩餐会でショーメ・チョーカー・ティアラを控えめなセッティングで初めて着用、翌年2017年のアンリ大公の来日に同行された際の国賓晩餐会ではパールもセッティングしたフルバージョンのティアラを着用されました。

2018年にはステファニー大公世子妃(当時)もオランダ国王夫妻を歓迎する国賓晩餐会でショーメ・チョーカー・ティアラをパール無しの控えめなセッティングで初めて着用されました。
2023年にはニコラ・バゴリーと結婚したアレクサンドラ公女のウェディングティアラとして貸与されました。
今後はステファニー大公妃のフルバージョンの着用、チョーカーとしての着用が見られることが期待されるティアラです。



●ディアーヌ妃(第三子ギヨーム公子の妻)
アクアマリン・バンドゥ・ティアラ
ディアーヌ妃は華やかなETROのドレスにダイヤモンドとアクアマリンが輝くジュエリーを身に着けました。これらはルクセンブルク大公家のコレクションから貸与されたもので、バンドゥー型のティアラはダイヤモンドの格子模様があしらわれた大きなアクアマリンが特徴です。
ピンク地に赤い刺繍のドレスにはアメジストのティアラや、ダイヤモンド、パールなどのティアラの方が合いそうに思われるかもしれませんが、以前マルガレータ公女も赤いドレスにこのアクアマリンのジュエリーを着用されていたのを見たことがあります。ドレスとティアラ、ジュエリーの色でルクセンブルク国旗のライトブルー、白、赤を表現していると好評でした。大公家のアクアマリンのジュエリーは赤系のドレスと合わせるコーディネートも珍しくないようです。

アクアマリン・パリュールは、豪華なネックレスとイヤリング、ティアラとしても着用できる大きなブレスレット、バングルで構成されており、いずれも大きなスクエアと長方形のアクアマリンがセットされています。

アクアマリン・パリュールのネックレス、イヤリング、ブレスレット(ティアラとしても着用可能)、バングルを着用するマリア・テレサ大公妃

これらのジュエリーの起源は不明ですが、1953年にベルギーのジョセフィーヌ=シャルロット王女がルクセンブルクのジャン大公世子と結婚した際に贈られたギフトの一つ、またはジャン大公の在位中にジョセフィーヌ=シャルロット大公妃のために購入されたものだと考えられています。大公家にはジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃のバンドゥ&パリュールのセットが複数存在します。1970年代に2人の娘マリー=アストリッド公女とマルガレータ公女が成人すると、ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃は多くのブレスレットをティアラとしても着用できるように作り替えたと言われており、アクアマリン・バンドゥ・ティアラもその一つです。


1970年代、パリュールのブレスレットはジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃と長女マリー=アストリッド公女によってバンドゥティアラとしても着用されました。ティアラの位置は現代よりも低めでした。
ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃(左・中央)、マリー=アストリッド公女(右)


ティアラを額に付けるスタイルが流行していた時期があるようです。エリザベス2世女王の母エリザベス皇太后も若い頃に額にティアラを飾られていました。


マリア・テレサ大公妃(左上、中央上)、マルガレータ公女(右上)、テシー元妃(左下)、ステファニー大公妃世子妃(中央下)、アレクサンドラ公女(右下)

アクアマリン・バンドゥ・ティアラは元々、額にバンド状に被せることを想定していましたが、このスタイルは現代では一般的ではなく、大公家の女性達のスタイルも額から頭上へと変わっていきました。テシー元妃にも別のティアラと合わせてアクアマリン・パリュールのイヤリングが貸与されたことがあります。




●マルガレータ公女(第四子)
サファイア・ブレスレット・ティアラ
1953年、ベルギーのジョゼフィーヌ=シャルロット王女がルクセンブルクの大公位継承者であるジャン大公世子と結婚した際、あらゆる関係者からウェディングギフトが贈られました。ジョゼフィーヌ=シャルロット王女は婚約時かその直後、ベルギー貴族協会からスリランカ産の大粒サファイアと258個のブリリアントカットのダイヤモンドをあしらったブレスレットを贈られました。

ジョゼフィーヌ=シャルロット王女は結婚式前の舞踏会でブレスレットを身に着けたそうです。
また、ブレスレットの中央部分はブローチまたはティアラとしても着用可能です。
ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃
ティアラとして着用(左)、ブローチとして着用(中央)、ブレスレットとして着用(右)

元々ティアラとしても着用できるジュエリーとして製作されていたかどうかは定かではありませんが、このブレスレットはジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃と長女のマリー=アストリッド公女、次女のマルガレータ公女もティアラとして着用されたことがあります。
先に紹介したアクアマリン・バンドゥ・ティアラと同じように、ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃の意向でティアラとしても着用できるよう作り替えた可能性も考えられます。

おそらくマリア=テレサ大公妃がこのティアラを身に付けたことはありませんでした。2005年にジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃が亡くなると、次女で結婚によりリヒテンシュタインのプリンセス(侯子妃)となったマルガレータ公女に受け継がれました。
2007年にアンリ大公夫妻が公式訪問でベルギーを訪れた際、ベルギーに住んでいたマルガレータ公女と夫のニコラウス侯子も、親族であるベルギー王室(当時の国王アルベール2世は母ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃の兄)との晩餐会に出席され、マルガレータ公女は私物であるサファイアとダイヤモンドのイヤリングとともに、ベルギー王女だった母ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃のサファイア・ブレスレットをティアラとして着用しました。 
また、母ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃がこのジュエリーをブローチとしても着用していたことから、2012年にはマルガレータ公女が甥ギヨーム大公世子(当時)の結婚式でつけていたサファイアのブローチはブレスレットの中央部分だったと考えられているようです。

2012年のブローチについて見比べてみました。
ジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃のブローチ(左)は確かにティアラの中央部分と同じ形に見えますが、2012年のロイヤルウェディングでマルガレータ公女が身に着けたブローチは形が違うように見えます(右)。サファイヤの周りのメレダイヤモンドもティアラは円形のように見えますが、2012年のブローチは楕円形または尖っている長細い形状に見え、その周囲の曲線を描くパーツも明らかにデザインが違います。よって、私はサファイア・ブレスレット・ティアラとは別のブローチだと考えていますが、詳細は不明です。


●シビラ妃(第五子ギヨーム公子の妻)
プリンセス・シビラズ・ダイヤモンド・アールデコ・ティアラ
シビラ妃はアールデコ様式のダイヤモンド・ティアラをとルビーとダイヤモンドのジュエリーを合わせました。ダイヤモンドの三日月形のブローチはジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃のジュエリーコレクション、ルビーのジュエリーは夫の両親であるジャン大公とジョゼフィーヌ=シャルロット大公妃からのウェディングギフトだと言われています。


1994年にジャン大公の三男ギヨーム公子と結婚したシビラ妃は1990年代後半から、2つの異なるセッティングで着用できる(2way)ダイヤモンドティアラを着用し始めました。




正式な発表はありませんが、このティアラはシビラ妃の両親からのプレゼントだと考えられています。シビラ妃は、自分のティアラを所有して以来、ルクセンブルク大公家のティアラを身に付けていません。
※シビラ妃の母方の祖父はドン・アレッサンドロ・トルローニア、第5代チヴィテッラ・チェージ公子(1911年12月7日 - 1986年5月1日/12日)です。トルローニア家(チヴィテッラ=チェージ公爵家)は、ローマ出身のイタリア系公爵家の名前で、18世紀から19世紀にかけて、バチカンの財政管理を通じて莫大な財産を築きました。
また、シビラ妃はスペイン国王アルフォンソ13世の曾孫でもあります。母方の祖母はスペインのベアトリス王女(アルフォンソ13世の長女)で、シビラ妃の母ドナ・オリンピア・トルロニアとフアン・カルロス1世はいとこ同士、シビラ妃とフェリペ6世(現スペイン国王)は、はとこ同士の関係です。家柄を考えるとティアラのプレゼントも納得です。

10年以上の間、このティアラを身に着けたのはシビラ妃のみでしたが、その後このティアラは貸し出されたこともありました。

義兄ジャン公子の妻ディアーヌ妃はギヨーム大公世子(当時)とステファニー大公世子妃(当時)の結婚式前夜の晩餐会でシビラ妃から借りたティアラを着用しました。(シビラ妃自身は、母方の曾祖母でスペイン国王アルフォンソ13世の妃ヴィクトリア・エウヘニア王妃所有だった別のティアラを着用しました)。さらに、このティアラは、スウェーデンのマデレーン王女の結婚式に出席したアーレンベルクのピエール王子の妻シルヴィア妃にも貸与されました。
※アーレンベルク家はアーレンベルク公国を統治していた時代もあるドイツ=ベルギーの上級貴族の家系。

宝石を付け外しするだけではなく、ティアラの形、サイズをここまで変えることができるティアラは珍しいのではないでしょうか。


①、②で7つのティアラをご紹介しました。
ルクセンブルク大公家にはまだまだティアラがありますので、今後も晩餐会など様々な場面で見られることを期待しています。




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以上です。最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。