NO.614
「路上のX」
著者:桐野夏生
読了日:2020年12月18日

この作品はミステリーではありません
しかし、きっと現実に起きているであろう社会問題

物語:
ある日偶然知り合った三人の少女たち
互いに帰りたい家がない
自分を守ってくれる家族がいない
信じられる大人を知らない
それぞれ、ネグレクトや虐待などによって苦しんでいる
頼りたい大人たちには背中を向けられ
頼ってしまった大人たちは自分たちを蔑み
彼女たちを利用することしか考えていない
知り合った日、三人はある男の部屋で揉め事になり、その男を殴ってしまうのだが、
そのことが発端で、彼女たちの人生が良からぬ方向へ転がりだしていくのだった

読後の感想:
途中から、もうこの物語にハッピーエンドを期待してはいけないと感じた瞬間から
ずーっと気が重かった
主人公たちのと同じように落ち込み、すり減らされたように思う
親も、誰からも守ってもらえない、誰も信用できない
肩身の狭い思いをして、飢えと恐怖を抱えて生きる
希望を欠き、冷静さを失い、理不尽な暴力や、怪しげな大人たちに翻弄される少女たち
彼女たちとともに一縷の望みをさがした
あの最後どう思いますか
読む人によっては、光を感じたんだろうか


ページ数
462(単行本)
読みやすさ
3(満点3)
わかりやすさ
3(満点3)
ストーリー
2(満点3)
テンポの良さ
3(満点3)
意外性
1(満点3)
私個人の好み
2(満点5)
合計
14(満点20)

2020年46作品目

つぶやき:
不覚にも2冊連続で重いテーマの作品を読んでしまった
現実感がありすぎるストーリーに落ち込むよ

次に読む本:
知念実希人 著「崩れる脳を抱きしめて」
 

NO.613
「希望が死んだ夜に」
著者:天祢涼
読了日:2020年12月16日

物話:
巡回中の警官が一人の少女を逮捕する
首をつって死んでいる少女B
自分が殺したと自供する少女A
殺害は認めるものの、動機に関して一切黙秘を貫き通すA
AとBには、学校での交流関係の証言も獲られない
そんな最中、判明する死亡鑑定では「自殺」の可能性が高いとなるのだが......
二人の評価は対照的
少女Aは貧困家庭で学習意欲も低く教師からは意欲無しのレッテルを貼られていた
一方、少女Bは裕福な家庭で育ち容姿もよく、クラスでも人気の優等生
あくまでも殺害を主張するA
いったい、この二人の接点は?

読後の感想:
あまりに現実感がある、それだけにありふれたことと流せない
心に引っ掛かりがあるのだ
何だろうこの作品は、大人になった自分だからわかるのか、やるせなさ、無力感、敗北感などの様々な負の感情をぶつけられる
どうか生きた彼女に、「信じられるもの」を与えてほしい
どうか信じたい人を失ったあの子にも、「立ち直る支え」を与えてほしい

印象に残ったことばたち:
「違いますよ。私は、別に別に黙っていたわけではない」

「いまのが『違いますよ』の真意です。『思っていた』のではなくて、『思いたかった』のでしょう」

「あの年ごろの子どもたちにとって、いじめは最高の娯楽です。......」

でも、きっと三浦先生の言うとおり「アフリカの子ども」に較(くら)べれば贅沢なのだ。

ページ数
268(単行本)
読みやすさ
3(満点3)
わかりやすさ
3(満点3)
ストーリー
3(満点3)
テンポの良さ
3(満点3)
意外性
3(満点3)
私個人の好み
4(満点5)
合計
19(満点20)

2020年45作品目

つぶやき:
人は、他人から見れば些細なことであろうが
掛け替えのないモノを失ったと感じたなら
生きる意味をなくしてしまうこともある

本当は、その立場で無ければわからない

当然、希望を失った後になっても生きなければいけない
その意味などわからなくとも
死にたいわけではない、ただ、生きていたくないだけなのだから


次に読む本:
桐野夏生 著「路上のX(エックス)」
 

NO.612
「最後の証人」
著者:柚木裕子
読了日:2020年12月14日

特徴:
①痴情のもつれによる殺人事件として起訴される被告人
②主人公の弁護士は、元検事のヤメ検
③もはや語ることのない被害者の真意とは
④七年前に交通事故死した息子を持つ夫婦の事件とのかかわりは
⑤法廷で導き出される真実で救われるのは誰なのか
あなたもミスリードさせられているかもしれません

感想:
「検事の本懐」を読むために再読です
初めて読んだ時よりも、ある想いを背負って生きることを強いられた夫婦の苦悩をより深く感じられたと思う
今回はミスリードに引っ張られることはなく混乱なく読めました
被告人と被害者をわかった上で読んでも、十分にラストの法廷劇には心を揺さぶられ、続編を読むことに意欲が増します
ただ真摯に真実を探求する主人公に感動しました

ページ数
304(文庫本)
読みやすさ
3(満点3)
わかりやすさ
2(満点3)
ストーリー
3(満点3)
テンポの良さ
3(満点3)
意外性
3(満点3)
私個人の好み
4(満点5)
合計
18(満点20)

2020年44作品目

つぶやき:
今野敏さんの解説を読んで、彼の言う「動機に力を入れて書く作家(柚木裕子)」の作品「孤狼の血」「慈雨」など読みたくなった、まずは「検事の本懐」からかな

次に読む本:
天祢涼 著「希望が死んだ夜に」