ため息の充満する部屋で、うずくまる小指を宥めながら
か弱い声に白い息を吹きかける

吐いた煙は天に召しますか、
地に落ちて埋葬されますか。

かたちにすらなれない哀れな意志は、消えるともなく失われて
いつか海馬から追い出されてしまう

憂鬱を吐き出す呼吸は、輪廻もできず壁に閉じこもって
原型のない拘束を不自由だと罵っている
鬱蒼とする頭はなにも考えることのないまま水分を奪われる

屈伏してしまえば楽だ、とつぶやいた誰かは
一酸化炭素とともに眠りについて
光の闇に消えていった。

絶え間なく、少しずつ、不幸せは蓄積されて
それでも世界は幸福だと叫んでまわっていた。
俯く焦燥に寄りかかる感傷、彼方に見えたハライソは死んでしまったのです。
嗚咽噛み殺して乾いた舌は、炎症に泣いて膿んでゆくのです。

もう全部「いいえ」で済ませて
もう全部泣かずに終えたい
世界はいつだってうつくしいと言う口を、噤んでしまってこれきりで

信じなくていいように、傷付くのをやめたのです。
傷付かなくていいように、見ることをやめたのです。
もう見なくていいように、聞くこともやめたのです。
なにもないと嘆く頭は、なにもかも捨てたからです。

堕落、怠惰、墜落、かんじょう。
虚勢、欺瞞、高慢、じょうぜつ。
後ろめたささえ壊してしまえば、なんだって手に入るような気がした。
壁に背中預け、電気信号に感情預け、
おはなしごっこ どうぞ。
画面上に模す笑顔、色のないお声、
かんけいごっこ どうか。

差し上げる言葉なんてありません。
持ち合わせていません。

独り善がり寄せ集まって、無表情すり寄って、
熱は生まれますか。

何もありません、何も生みません。
意味もなく漂う浮遊体のかなしい集合です。

左脳で計算するさみしい演算です。

最後に掛かる符号はただ、
さあどうぞ、解散。

・朝
赤い電車と人の波
多分私を知る人はない
グレイプバインを聴きながら
強がってみたり寂しくなったり、する


・昼
この小さな社会の
広く窮屈な教室から
うまくはみ出さないように
詰まらないことばかりでも
書いたり消したり笑った振り、する


わたしは普通じゃないよ
普通になりたくないから


・夕方
人の波で上の空
多分私を知る人はない
たわいのないお喋りをしながら
赤い電車に乗って赤い空を眺める


叫びだしたい、走り出したい
普通の毎日を


・夜
ささやかな夢を抱えて
誰もが何か悩んでいる
壊さないように、でも
救いもしないように
下らないことばかりでも
本当に怒ったり泣いたり笑ったり、できる


時々誰にも理解されない気がして
苛々を溜め込んで心臓がいたい


「明日も朝早いし、寝るね
おやすみ」ってメール
普通、普通に、普通に。

貴方を傷つけることしか出来ないこの両の手は

まるで神さまから罰を
与えられたかのように
醜く腫れ上がってゆく

愚鈍な嗅覚は
貴方を怖がらせて

フィルムに映った虚像
それらでしか貴方を
満たすことが出来ない

(僕を見て
今ここにいる僕を見て)

僕に何かが足りないならどうかその魔法の手で
救われる術を教えてよ

もう、二度と
壊すような真似はしないから

(醜悪に膨張した
この躯は二度と
戻ることはないだろう)

(そしてこの声も
届くことはない)

(ゆるして)