ハリウッドでも活躍の場を広げているアクションスター、ドニー・イェンの原点ともいうべき格闘アクション作品。

中国返還前の香港。裏社会で頂点を目指す青年ベンは『伝説の狼』とよばれた男にある依頼をしようとしていた。
神出鬼没に現れる男ワイの案内で導かれた彼の目の前に現れたのは並々ならぬオーラをみせる老人の男だった。
自分の野心をみせ、いきり立つベンに対して静かにそれでいてひびくような口調でその男は過去の物語を話し始める。

太平洋戦争後の中国のとある村。
貧しいながらも村人たちが手を取り合って生きているこの村の青年ワイは悪ガキ仲間たちと争っていると、ふらりと見慣れない男が村を訪れる。
身なりはよく金持ちだが、鍛えられた肉体と傍らに巨大な鉈をもつ男に得たいの知れない警戒心を抱くなか、村の代表としてワイが接触してくる。

男は村外れにある『七星廟』に案内してほしいといい、大金のチップに味をしめたワイが案内人として彼についていくことに。
森奥深くを移動し、近道と称する場所をくぐり抜けた先でワイは村外れの悪友に絡まれるが、その後ろには山賊と化したとなり村の男たちがワイたちを狙っていた。
有無をいわさず襲いかかる山賊たち。ワイは必死で抵抗するのだが、その男は並外れた体術と大鉈をふるい、彼らの屍の山を築いていく。
ワイが気づいたころには山賊たちは全滅し近くの川の水が血で赤く染まるほどの死体の山となっていた。

男の強さに心酔したワイは弟子入りを志願。七星廟近くのあばら屋に涼をとった二人はそこでしばらく滞在することにする。
男は名前も何もかも思い出せないほど記憶を失っていたが、毎夜みる殺しの悪夢にうなされ、かすかに残る記憶で七星廟で待つということだけを頼りにこの村にやってきたのだという。

廟の近くにはかなり警戒心の強い少年がひとり住んでいた。ワイは接触をとろうとするが、鎌を掲げ威嚇するため、何も様子は伺い知ることができなかった。

一旦村へと戻ったワイは、男の強さを語るのだが、久しぶりの来訪者に村人たちは有り金全部奪ってでも男を金を巻き上げようとする。
論より証拠とばかりにワイは腕自慢の若者数名をつれて男がまつ七星廟へと案内する。

案の定戸外へと吹き飛ばされる若者たち。
しかし室内の様子がおかしい。
ワイが覗き見ると、男は腕に鎖を巻いている男たちと戦っていた。
彼らは明らかに男の命を狙ってきていた。
壮絶な死闘の末に男は鎖の男を返り討ちにするのだが、自身も大ダメージをおい意識を失ってしまう。

昏睡状態の男を助けるため、廟の近くにすむあの少年のもとにワイは助けを求める。
最初こそ警戒して鎌を振り上げようとするが、男の姿をみた少年はその動きをとめる。
少年のようなカッコをしていたのは実はカモフラージュで男と顔見知りの女性であった。
その女性、ウェイ・イーによると男の名はマンヒンといい、彼女とは幼なじみであり恋仲であったという。

ウェイ・イーの必死の看護もあってマンヒンはようやく回復するのだが、記憶は失ったままであった。
自身が何者かもわからないまま、献身的に尽くしてくれる彼女に感謝するマンヒン。
その様子をウェイ・イーは複雑に受け止めるしかなかった。

その夜。村に復帰したマンヒンとウェイ・イーのささやかな宴がワイたちによって開かれる。
記憶をたどり、マンヒンとの馴れ初めを語るウェイ・イー。だがそれすらも思い出せないマンヒンは困惑の表情をうかべる。
やがて突然の雨が降りだし宴は中止となり、マンヒンとウェイ・イーは二人で雨宿りをすることに。
そこでウェイ・イーはマンヒンが最も愛した男で恋人であることを語るのだが、記憶がないマンヒンは思わずたじろいでしまう。

ショックを受けたウェイ・イーは大雨のなかを走り、マンヒンはそれを追いかけると、自分の記憶が失われてしまったことを慟哭する。
そして激しい雨が降り注ぐなか、マンヒンはウェイ・イーと重なりあい、一夜を共にするのだった。

翌朝。村ではワイがマンヒンに習った薪割りのデモンストレーションを村人たちに披露していた。
その刹那、村の入り口より村人たちを蹴散らしながら物々しい集団が中央の広場へとやってくる。

彼らはこれまでとは違う統率された山賊団であった。首領であるウルフが近づいてくると、彼は命か惜しければマンヒンを差し出せと迫る。
怯えて命乞いを始める村人に対してウルフは非情にも大鉈で彼らを次々と斬殺していく。
それを合図に山賊たちは次々と村人たちを襲い、殺しと略奪を始める。

ワイたちが応戦をするも圧倒的な戦力の差になすすべないなか、騒ぎを聞いて駆けつけたマンヒンは因縁の相手を前にウェイ・イーの手を離し敵の前に踊りだす。
凄まじい速さで敵をなぎ倒していくマンヒンだが、ウェイ・イーがウルフたちに捕まりさらわれてしまう。

連れ去られるウェイ・イーを追うマンヒン。
ウルフの配下の刺客達が襲いかかるなか、マンヒンはそれを撃破しながらウェイ・イーの行方を追う。
そして遂にマンヒンはウルフのもとにたどり着く。

ウルフから語られるマンヒンの失われた記憶の秘密。マンヒンは戦争が終わった後、ウルフたち『7匹の狼』とよばれる暗殺者集団の仲間であったが、ウルフの兄が女性を襲おうとしたところを裏切り、彼を殺害。マンヒンはかつての仲間たちから命を狙われ、重傷を負い逃げ延びたもののその最中で記憶を失っていたのである。

知らされた過去に呆然とするマンヒン。
それでもどんな姿のマンヒンも愛するというウェイ・イーに逆上したウルフはマンヒンの目の前で彼女を斬首して殺害する。
うなだれるマンヒンに襲いかかるウルフが大鉈を振り下ろそうとするが、全てを失い怒りで覚醒したマンヒンは傷を負いながらも反撃の狼煙をあげる。

怒れるマンヒンは全てをかけてウルフとの一騎討ちに臨むのだが…

アクションスター、ドニー・イェンが初の脚本などを手掛けたワンマンアクション作品。

当時新進気鋭の若手アクションスターの一人だったドニー・イェン。
彼が並々ならぬブルース・リー信奉者であることは有名な話であるが、そんな彼が初めて注目され話題となったのがテレビドラマシリーズの『精武門』である。
これはあのブルース・リーの出世作『ドラゴン怒りの鉄拳』のリメイクであり、ドニー自身が企画から参加して作り上げた作品であった。

このドラマのヒットをきっかけに本格的に映画界への進出を始めたドニーは自ら脚本、武術監督などをこなし、その後のアクションスターとしての分岐点となる作品を製作する。
それが本作である。

元々の中国語原題はその色はなかったのだが、日本をはじめとする世界的マーケットを視野にいれた展開を考えていた本作は英語題名を『THE NEW BIG BOSS』としたことにより、ブルース・リーのあの人気作に乗っかった題名が各地でつけられることとなった。

ちなみに本作はブルース・リー版の『ドラゴン危機一発』とはかけ離れており、関係性はない。

初期のドニー・イェン作品ではアクションに重きをおいてストーリー性は二の次という作品が多いのだが、本作は記憶喪失の男と待ち続けた女の悲恋物語を織り混ぜながら、極めて暴力性が高く、速すぎるアクションが話題となった。
安価ではあるが、しっかりとストーリーも効いており、クライマックスの衝撃の展開まで決してだれることはない。

話題となったアクションであるが、前述したようにドニーのポテンシャルを最大限に活かした自らによる武術指導もあって全体的にハイレベル。
中でも圧巻なのはクライマックス前、ウェイ・イーを追って森のなかを疾走するなかでの刺客達とのバトル。
拳銃使いとの戦いで弾丸を避けながら一撃をくらわすのもなかなかだが、この後の鉄の爪つきの虎爪拳達人との一騎討ちは互いの攻撃が速すぎて追いつけない程。そしてここでのドニーの華麗な足技も素晴らしい。連続のソバットからテコンドーのようにフラミンゴスタイルで蹴りまくるなどスーパーキッカーとしての片鱗も見せてくれている

クライマックスは実力派格闘俳優のベン・ラムとの死闘。ヒロインの斬首というエグい展開から始まる戦いは、キックボクシング出身の彼らしい首相撲からの連続膝蹴りや長い足を活かした回し蹴りでドニーを大いに苦しめている。

なおドニーの盟友として知られる谷垣健治氏はしっかりとスタントマンとして参加しており、乱戦の最中に時折その顔を確認することができる。

全体的に荒削りな感じながらもしっかりとアクションのすごさは描かれている本作。
本作をみて日本への公開を持ち込もうとした江戸木純氏の熱意もわかるというもの。
実際これをきっかけにドニー・イェンを知った日本のファンも多く、個人的には代表作『葉問』に並ぶドニー・イェン入門編として推したい作品である。

評価…★★★★
(清楚でエロチシズム漂うヒロイン、カルメン・リーも注目ですね)

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