- メソポタミヤの殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)/アガサ クリスティー
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1 序章
バクダットの<チグリス・パレス・ホテル>の広間では、ひとりの看護婦が手紙を書き終えようとしているところだった。彼女はよどみなくペンを走らせた。
・・・これで、お知らせすべきことはすべて書きつくしたようです。今まで、英国しか知らなかったわたしですが、おかげで今度は世界の一部を見ることができました。(中略)
またお便りします。さようなら。 エイミー・レザラン
彼女は手紙を封筒にいれ、ロンドンの聖クリストファー病院、カーショウ看護婦と宛名を書いた。
万年筆のキャップをはめたとき、現地人のボーイが近づき、声をかけた。
「ライドナー博士がお見えになりました」
レザラン看護婦はふりかえった。
褐色の顎ひげをはやし、優しげな疲れたような眼をした、中背でややなで肩の男が立っていた。
ライドナー博士の眼に映ったのは、背すじがまっすぐにのび、自信に満ちた三〇代の女性の姿だった。
少し突き出た青い眼、艶のあるとび色の髪の快活な女性だった。神経を病む患者にふさわしい看護婦だ、と彼は考えた。明るく、頑健で、頭の回転が早く、しかも実務的な女性らしい。
このレザラン看護婦なら、きっとうまくやってくれるだろう、と彼は考えた。(P15-17より)
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5 ヤミリア遺跡
(中略)
だが、そこにいたのは想像と正反対の女性だった!
まず第一に、彼女は本当に美しい女性だった。
夫とはちがってスウェーデン系ではないが、外見はそれを感じさせるものだった。まれにしか見ることのできないスカンディナヴィア系の見事なブロンドの髪。
もう、若いとはいえない。三〇代半ばというところだろう。顔は少しやつれ、美しいブロンドの髪は少し白いものが混じっていた。
だが、眼は若々しく、愛らしかった。すみれ色の瞳という形容があるが、それを見たのはこれがはじめてだった。眼は大きく、その下にはかすかなくまができている。
かぼそく、華奢な体つきで、強い倦怠の雰囲気をただよわせながら、同時に生気にあふれている、といったら矛盾していると思われるかもしれない---だが、それが私の受けた印象だった。
そして、彼女は本当のレディだと感じた。レディというものは大切な存在だ。たとえ、現代のような時代でも。
彼女は手をさしのべ、笑いかけてきた。声は低く優しく、ちょっとアメリカ人的なものうげな響きが混じっていた。
「はるばるおいでいただいて、ありがとう。お茶はいかが?
それとも、まずあなたのお部屋に行ってみましょうか?」
(P53-54より)
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☆クリスティ。やっぱり最高です。
”考古学者と再婚したルイーズの元に、死んだはずの先夫から脅迫状が舞いこんだ。さらにルイーズは寝室で奇怪な人物を目撃したと証言する。が、それらは不可思議な殺人への序曲にすぎなかった・・・。過去から襲いくる悪夢の正体をポワロは暴くことができるのか?中近東を舞台にしたクリスティー作品の最高傑作” (裏表紙の解説より)
2時間で読みきれて、楽しい別世界へ連れていってくれる、この名手ぶり。冒頭の書き出しから、静かな緊張感があふれていて、次に何が起こるのか、ゆったり始まる物語に、もう、どんどんひきこまれていきます。
有名な本作は、皆さん、どこかでトリックを聞いたことがあるかもしれませんね。しかし、物覚えの悪い私は最後まで犯人がさっぱりわからず、結末で大変おどろきました。ええー。びっくりしたー。そんな、まさか!? うーん。そうきたかーーー。
気分転換の楽しみ読書にぴったり、おすすめです。
クリスティの描く殺人事件は、なんというか、よい具合に現実味がなくて、ほのぼのと楽しめるところが大好きです。さりげなくユーモアも散りばめられていて。結末がわかったあと、ゆっくりもう1回、最初から読み返すのも楽しい。
現代ミステリーだと、とっても現実感がありすぎて、悲惨さに、PTSDというか、読後に後遺症が残ってしまって立ち直れないときがあるのですが、ミステリーの女王、クリスティならそんな心配はまったくなし。ソファに寝転んで、ポテトチップでもかじりながら、安心して楽しめます。本作を読んで、クリスティーの、人々を楽しませる、エンターテイメントに徹するその姿勢、手腕に、改めて感心しきり。
クリスティー、やっぱり大好きです。それを全部、図書館で無料で読めるのも幸せですね。図書館さん、ありがとうー。いつもお世話になっております。
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