阪急京都線9300系の製造初年は2003（平成15）年ですが、その基本的な座席配置は1989（平成元）年から1992（平成4）年に製造された神戸線・宝塚線用の8000系3扉セミクロスシート車に準じています。
異なるのは、シートピッチが950mmに拡大されたこと、大阪側の連結面寄りをボックスシートに変更したこと、その背面に4人分の補助椅子を設けたこと、座席下の暖房をつり下げ式にしたこと、京都側の連結面寄りのロングシートのうち3人分を収納座席として車椅子スペースを確保したことなどです。
シートピッチは先代の6300系や先々代の2800系に比べて50mm長いですが、6300系と2800系も両端のみは930mmだったので、ボックスシート区画で比較すればそれほどの違いはありません。むしろ座席下に足を伸ばせるようにしたことが大きな改善点ですが、これは当然、ボックス区画には及ばない効果です。
シートピッチ950mmというのは特別料金不要列車としては相当な高水準ですが、そこにこだわるよりは全転換方式を採用したほうが良かったのではないでしょうか。
そのことを示唆しているのが、1986（昭和61）年に登場した山陽の5000系です。同車は3扉の集団離反型クロスシート車として製造されましたが、1990（平成2）年の増備車は扉間が全て4列の転換クロスシートに変更されました。座席配置と窓割りが合わないことが玉にキズでしたが、これも1993（平成5）年の最終増備車で改善されています。
その後、集団離反型クロスシート車の一部も転換クロスシート車に改造されましたが、これらは中央扉脇の座席が固定式で残る折衷型になっています。現在は後継車の5030系を加え、ほとんどの車両が阪神との直通特急運用に就いています。
山陽5030系とその車内
その阪神や阪急の3扉車と、山陽5000系・5030系の扉の配置間隔はほぼ同じです。つまり、阪急9300系・8000系（阪神9300系・8000系も）の扉間を全転換クロスシートにすることは十分に可能なのです。
また、山陽5000系・5030系の連結面寄りは5人掛けのロングシートであり、京阪新3000系より1名少ないですが、その分だけ扉脇のスペースには余裕があり、快適性や使い勝手では優っています。
山陽5030系のクロスシートは通路を挟んで横3列なので座席数が少ないですが、京阪新3000系ともども中2列を両側とも2人掛けに変更すれば、さほどの混乱もなく座席定員を増やせると思われます。
以上のように、京阪・阪急・阪神といった大手私鉄の3扉転換クロスシート車が直面している問題は、すでに山陽の5000系によって答えが出されていたのです。
そのことがあまり認知されていないのは、当初は転換クロスシート車でなかったこと、山陽が準大手私鉄であり相対的にマイナーな存在であること、山陽5000系がJRとの競争に押されて埋もれがちな印象を与えることなどが理由であると考えられます。
しかし、それらは車両そのものの評価とは別です。転換クロスシート車の運用については京阪や阪急のほうがキャリアが長いですが、3扉という制約の下では山陽5000系の優秀さは際立っており、敬意を払わなければならないでしょう。
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