・九人との対談集。もちろん「動的平衡」が中心テーマの一つにはなるが、ほかにもいろいろ面白いテーマがとりあげられている。九人分ダイジェストを書くのも何なので・・・。2,3件、面白そうなテーマを並べると;

 

カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞受賞者):・・「記憶とは、死に対する部分的勝利」「私たちは、とても大切な人を死によって失います。それでも、彼らの記憶を保ち続けることはできる。これこそが記憶のもつ大きな力です。それは、死に対する慰めなのです。だからこそ、アルツハイマーの人々の苦しみが悲劇的に思えます。彼らはアイデンティティだけでなく、大切な人の記憶まで失ってしまっていると感じるからです。」(p.75)

 

・これに関連して読書感想:「脳科学者の母が、認知症になる」(恩蔵絢子著、河出文庫) | 雑文・ザンスのブログ (ameblo.jp)を読むと、認知症が「今、そこにある危機」であることがよくわかる。

 

佐藤勝彦(宇宙物理学者):(pp.1智将10-111)「・・確かに進化の過程でたくさんのサイコロが振られていることを思えば、二、三回の実験でいまと同じ人間が生まれてくるとは考えにくい。しかし、地球のような星が他に無数にあるとするなら、どこかで人間のような知的生命体が生まれることは、統計的に必然です。・・中略・・ありとあらゆる場所にありとあらゆる生物が生まれ得るなら、そこには何らかの形で必ず知的生命体が含まれるはずです。その場合、それがわれわれと同じように、DNAから生まれる生命体である可能性も決して低くないのではないでしょうか。」つまり「私たちが地球外の知的生命体とまだ出会えていないのは、宇宙が広すぎるから・・・中略・・というのが、おそらく最も可能性が高い。

 

隈健吾(建築家):(p.186)東北の被災地復興について・「・・マスタープランがないと予算がつかない。・・中略・・それより「全員が満足するようなマスタープランはできない」という前提に立って、場所に応じてだましだまし復興する形にしたほうがいい。そこでつくるものには新陳代謝ができる仕組みをあらかじめインプットしておく。その方が、はるかに時代に合っていると思います。」

・これを受けて、福岡氏のコメント。(pp.186-187)。「・・だましだましは、地球上の生物が三十八億年の進化の歴史の中で採用した方法でもあります。(人体と恐竜の進化の2つが例示されている・・。)現代から過去をレトロスペクティブに振り返ると、まるで合目的に進化したように見えても、実はその時々で行ける方向に行っただけ。生物の進化は、転用と代用、バックアップとバイパスの連続です。それこそ「負けた者」の、その場しのぎの歴史なのです。」・・(この後、スティーブジョブスの有名なスピーチ(2005年のスタンフォード大の卒業式でのスピーチ、pp.187-188)が引用されている。)