シェルター・メディスン、始めました 《導入する理由と目的について》 | 87便り "一生一緒の家族を探しています”

 

『シェルター・メディスン、始めました 《預かりっ子を経由して経験した2つの感染症》』 のつづきです。

 

シェルター・メディスンについて初めて聞かれる方のために、まず、言葉の定義を統一させてください。

 

『シェルター・メディスン』の『シェルター』とは、「保護動物が出入りする施設」です。

 

最初にこの言葉の定義を知った時は、驚きました。

 

”え?うちもシェルターなん??!!”

 

一般的に『シェルター』と聞くと、動物保護団体が何十匹もの動物を保護している施設を想像しがちですが、私のように自宅で動物保護活動をしている住宅も、「公園で子猫を拾った」「迷子犬を保護した」という心優しいご家族のお宅も、たった1匹でも(同居する犬猫がいなくても)保護動物の一時預かりボランティアをされていたら、そこは『シェルター』という定義だそうです。

 

初めは驚いた私ではありますが、シェルター・メディスンの中身を知れば知るほど、我が家が『シェルター』であることに納得がいきました。

 

そして、前回の記事で申し上げたとおり、大手動物保護団体のように人里離れた場所で数十匹、数百匹の動物を保護をし、お散歩も敷地内もしくはその近隣でまかなえるシェルターと比較して、私のように東京の住宅密集地に居住し、半径3㎞のお散歩範囲では不特定多数の動物や人間と触れ合うことが多く、近隣の犬友ともお互いの家にお邪魔したり、一緒に外食や旅行に行くような環境のほうが、感染症はもちろん保護犬の行動(吠える、攻撃的である、など)による周囲への影響が大きく、より『シェルター』としての自覚とリスク管理の責任があると思いました。

 

 

 

 

『シェルター・メディスン』とは、直訳すれば『群管理の獣医療』。

『群管理の』と言ってはいますが、その内容は、保護動物の診療方法から飼育管理に始まり、施設(自宅)の設備/導線管理、人材(ボランティア)の教育や業務効率化など多岐にわたり、それらのすべてにおいて過去の実績と科学的根拠に基づいた適正基準を提示してくれるのです。

 

もちろん基準通りにいかないことも多々あります。

保護状況や、個々の環境と能力、保護動物の性質や種類(子犬、要介護犬等)などによって、現実は変わってくると思います。

ただ例えば人間に置き換えた場合、「身長160cmの適正体重は56㎏ですよ」という基準値は知っておいていいと思うんです。

もちろん、40㎏でも80㎏でも何の問題もなく生活できる人はいるでしょうが、もし最近身体の調子が悪いなとか、なんだかやる気が起きないななんていう不調を感じたら、これまでのデータ分析によって導き出された最も健康でストレスがないと想定される適正体重に近付けるように意識すれば体調が改善するかもしれないって話なのです。そして、改善するならこういう方法を試してみたらっていう策も、シェルター・メディスンは教えてくれます。・・・この例え、うまく説明できてるかな?(主人はわかりづらいと言っています)

 

 

 

 

シェルター・メディスンのはじまりは、アメリカで動物保護活動が活発化していた2000年頃。

多くの人が強い想いで動物保護活動に取り組んでも、どうしても解決できない課題がたくさんあったそうです。

 

・譲渡数が増えない。

・譲渡後の返還数が多い。

・トレーニングをしても問題行動が改善しない。

・感染症予防をしていても、シェルター内に感染症が蔓延してしまう。

・シェルター内における死亡数や、やむを得ない事情による安楽死数が減らない。

 

こういった課題は、さらに新たな課題に派生し、活動を悪循環させます。

世間から活動が評価されずにボランティアや里親希望者、寄付金が減るとか、近隣から苦情が多くてシェルター運営を継続できないとか。

 

これらの課題を解決するために、さまざまなシェルターから集めた膨大なデータを統計分析し、それを獣医学的観点から研究した学術分野が『シェルター・メディスン』です。シェルター・メディスンは、つい感情が判断に影響しがちな動物保護活動において、科学的根拠に基づいた適正管理方法と基準値を提示することによって、動物保護活動の健全化を図る手段といえます。

 

2001年にアメリカ・カリフォルニア大学デービス校で始まったこの研究は、今では米国のその他の大学でも取り組まれています。

そしてその研究結果を動物保護団体が活動に反映させることによって、アメリカの動物保護活動は可視化が進み、動物の適正管理はもちろん、譲渡数の増加、支援者(ボランティアや寄付)の増加に繋がっています。

 

私が個人保護主として活動を再開するにあたり、せっかくアメリカが20年分の失敗と成功を研究していてくれたんだから、これを日本の文化と私の環境と能力に照らし合わせて導入すれば、私の保護活動はグン!と信頼性と安全性の高いものになるのではないかと感じています。

 

 

 

そしてシェルター・メディスンを知れば知るほど、あれもやりたい!これもやりたい!と導入したい事柄ばかりなのですが、私の場合、急いては事を仕損じるので、動物への影響と自分のダメなところを考慮しながら優先順位をつけて取り組んでいこうと思っています。

 

まずは以下の2点。

 

①保護動物に適切な予防と医療を行うこと

②自分のキャパ以上に保護しすぎないこと
 

まずは、①保護動物に適切な予防と医療を行うこと。

前回の記事でお話したとおり、私は7年間で2回、預かりっ子を経由して人獣共通感染症を経験しました。

シェルター・メディスンについて知るようになってから、私は初めて、保護動物の予防と医療は一般のペットと異なるアプローチが必要であると学びました。動物病院において、バックグラウンドが不明瞭な保護動物を診療してもらう際には何に気を付けて診察してもらうべきか、譲渡率を上げ返還率を下げるためにはどのような健康診断が必要か、シェルター・メディスンはこれまでの私の無知と失敗の理由を見事に言い当てていました。

 

これまで我が家が経験してきた悲しみと恐怖を、保護動物も私の家族も、近隣の犬友も、もちろん一生一緒の家族のみなさんにも、味わってほしくない。

もちろん100%の感染症予防は存在しませんが、我が家ではシェルター・メディスンに基づいた予防と対応を行い、里親を希望されるご家族に経緯と結果の説明ならびに情報の共有を行います。

 

医療については、保護動物の性質などを理解することと、潜在的な疾患を発見することが目的です。

性質については、たとえば、ビビりだと思っていたら貧血でしんどいから怖がっていたとか、手足を拭かせてくれないなと思ったら股関節に異常があって痛がっていたとか、そういった医療面で判明できることに気付かずに、社会化を強いたりトレーニングを組んだりしないように、基本的な健康診断を行います。また、個々の犬種や体格を考慮し、持病や慢性疾患の発見に努めます。これは、一番最初に預かりっ子としてやってきたあかときいが教えてくれました。あかときいは、千葉県の動物愛護センターからちばわんを経由して我が家にやってきましたが、受け入れ翌日に近医で受けた一般的な健康診断で心臓病の疑いがあると診断されました。その翌月には、麻布大学の動物病院で慢性心不全との診断を受け、検査費用も10万円ほどかかりました。こういうことが譲渡後に発覚することで、「こんなはずじゃなかった」と返還される子もいると思うんですよね。病気が悪いっていうんじゃなくて、事前にある程度わかっていたら、里親希望者さんへの適切な説明と、納得いただいたうえでの譲渡ができると思うんです。

 

次に、②自分のキャパ以上に保護しすぎないこと。

これは私自身の問題だけではなく、現在の動物保護活動において最も不安視されている問題でもあります。

環境や経済的な許容範囲を超えて、それでも「一匹でも多くの動物を助けたい」「私が助けなきゃ誰が助けるの!」という強い想いのもと多頭飼育崩壊してしまう保護団体や個人保護主がすでに存在します。でも、でも・・・近所にボロボロの外飼いの子がうんちまみれで飼育放棄されていたら・・・私はNOと言えないかもしれない・・・

 

でもこれが、シェルター・メディスンだとちゃんと計算式があるんですって!

 

まず私の恥ずかしい話からいたしますが、私はこれまで我が家における保護頭数について、「猫はまだだけ、犬はあかときいと預かりっ子1匹(”一生一緒の家族”と出会うまで何年いてくれてもいい)、そして短期間(~1か月)であればもう1匹預かってもよい」という独自のルールを決めていました。このルールの基準は、犬同士の相性や自家用車のサイズ、家の間取り(隔離できるか)なども関係しますが、一番大切にしていたのは、もともと確保しているあかときいのお散歩時間(あかときいの大切なQOL/笑顔の素)を減らさないために、「全頭一緒にお散歩できるか」という条件でした。そして、「全頭一緒にお散歩できるか」の基準は、「(私の)腕が2本だから最大4匹」という考え方でした。このさき大地震や大洪水、たとえ富士山が噴火しても、防災リュックを背負って、まだを入れたキャリーバッグを斜め掛けして、右手にあかときい、左手に預かりっ子1-2匹・・・「うん、いける!」という何とも稚拙な考え方でした。もうホント、過去に戻ってあの時の自分を叱りたい。

 

これがシェルター・メディスンのデータ分析と研究によると、施設の大きさなども著しく関係してきますが、1日あたり1匹に費やす時間の基準値が示されています。それによると、1日あたり保護動物1匹に費やす時間が15分で最低限、30分で平均的、1時間(以上)であれば理想的な動物保護活動ができるそうです。この時間は、お散歩や掃除、食事の用意、人間との触れ合いなどの活動を含みます。(電話対応、面談、経理、ウェブサイト/SNS管理、保護動物の受け入れ/お届けなどは、別途時間の確保が必要です)

 

この計算式に当てはめると、もし犬を100匹保護しようと思ったら、1日最低1500分(25時間)のお世話が必要です。

もし5人のボランティアさんが1日5時間お世話をすれば、最低限の保護活動ができます。10人のボランティアさんがいれば平均的、20人のボランティアさんがいれば理想的な保護活動ができるのです。保護動物に費やす時間がこの範囲に満たない場合、動物は極度のストレスを感じたり、施設の衛生面が保てなかったり、十分な健康管理ができなかったりします。ひいては、ストレスの影響でワクチンの効果が発揮されずに感染症予防をしているのに感染症が蔓延したり、適切な健康管理に手回らずに持病に気付けぬまま何の説明もなく譲渡して後日帰ってきてしまったり、ストレスによって吠えたり喧嘩したり臆病になったりといういわゆる問題行動を持つ保護動物が増えて譲渡率が下がってしまうことに繋がります。そうすると、シェルター内の飼育頭数は増加をたどる一方で、しかも里親希望者や寄付金は減っていくという悪循環にはまってしまうのです。

 

私の場合、自宅で家庭犬として保護する活動ですので、大規模シェルターと違って「理想的」でありたいと思っています。

なので、現在まだとあかきいと過ごす時間に、プラス1時間のお世話と、さらにブログやインスタグラムの更新管理、問い合わせ対応などでプラス1時間、毎日計2時間の時間が確保できれば1匹の保護動物を保護できるのです。私の場合、家事はサボれるけど仕事はサボれないし、仕事をサボると動物を養えないので、そのバランスを考えても、妥当な基準値かなと思います。もし緊急で短期的にもう1匹預かる可能性がでてきたら、その期間「さらに2時間」を確保できるかを考えて判断すればいいのです。じゃあ保護できないと判断した場合、その子はどうしたらいいのかという問題については、横の繋がりや行政との連携など、異なるアプローチを取っていきたいと考えています。

 

そしてまた、これは保護動物だけでなく、我が家の3匹を考えてのことでもあります。またいつかご紹介いたしますが、昨年あかに悪性腫瘍が見つかりました。太もも横の最も被毛がふさふさしているところにゴマ粒大のデキモノを見つけたのが始まりでした。一時は近医の診断により断脚も懸念されましたが、おかげさまで無事に摘出手術を受けて、現在は順調に経過観察中です。腫瘍専門医によると、ゴマ粒大でも早期発見とは言えないとのことでした。もし私が動物保護活動を行うことで我が家の3匹との触れ合い時間が減るようなことがあれば、私はまだとあかきいの異変に気付けないかもしれません。動物保護活動の基本は、自分の犬猫の幸せと笑顔を守ること。シェルター・メディスンは、保護動物だけでなく、我が家の犬猫を守ることにも繋がるのです。

 

 

 

 

 

私の当座の目標は、めいちゃんの保護において、シェルター・メディスンの導入を成功させることです。

「個人で活動してんねんから、好きに導入したらええやん」ってな話ですが、シェルター・メディスンの導入には専門家のアドバイスに加え、動物病院の協力や里親さんの理解が必要不可欠で、それらを得られなければ成功とは言えません。

 

次の記事で我が家のシェルター・メディスンの具体的な取り組みについてご紹介いたしますが、早速想定外の恐怖と不安を感じる出来事がありました。おかげさまで、先週全ての結果がクリアとなり、めいちゃんは元気です。

 

再び長い記事を読んでくださり、本当にありがとうございます。

引き続き、みなさんのご意見をお聞かせ頂けると有難く存じます。

また、前回の記事にはたくさんの貴重なコメントをお寄せくださり、ありがとうございました。

インスタグラムにも、経験談に基づくコメントをいただいておりますので、よろしければ御覧いただけるとうれしいです。

毎日肝に銘じていることではありますが、「良いことをしているんだから、ちゃんとしないといけない」と、改めて身の引き締まる思いです。

 

 

つづく

 

めいちゃんは、27㎏になりました!

 

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