シェルター・メディスン、始めました 《預かりっ子を経由して経験した2つの感染症》 | 87便り "一生一緒の家族を探しています”

 

『7年』

『3団体』

『21匹』

『2つ』

 

長らく私のブログを読んでくださっている方であれば、上述した数字の意味がある程度ご想像いただけるかと存じます。

 

最後の『2つ』は、動物保護活動においてとても大事な話なのに、一般的には大っぴらに話すことがタブー視されている傾向があり、私もうまく伝えられるか自信がなく、これまで記事にすることを避けてきました。正直に言うと、今も自信がありません。でも、現在日本の動物保護活動はものすごく大切な過渡期を迎えています。これからの動物保護活動の底上げをしていくためには、これまで避けてきた話題もみんなで一緒に話せるようにならなければいけないと感じています。

 

 

 

私は、2012年3月に一時預かりボランティアを始めてから『7年』、それぞれ特徴の異なる『3団体』にボランティア登録し、これまで『21匹』(個人保護含む)の犬をお預かりして、”一生一緒の家族”との御縁を繋ぐお手伝いをしてまいりました。そして、その間に預かりっ子達を経由して、『2つ』の感染症を家に入れました。そのうち1つは、自分の犬も感染させてしまいました。

 

 

ジアルジア と レプトスピラ。

 

 

ジアルジアは糞便から、レプトスピラは尿から、いずれも、犬から人間にも感染する『人獣共通感染症』です。

特にレプトスピラ(*下記参照)はさまざまな型があり、型によっては治療できますが、犬の場合は急性型の感染で2‐4日後に死亡し、人間でも重症型の場合は5~50%の確率で死亡すると言われている危険性の高い感染症です。

 

*レプトスピラは、感染症法の四類感染症(⁑下記参照)であり、家畜伝染病予防法の届出伝染病にも指定されている。と畜場法(家畜)においては全頭廃棄の対象となる。(Wikipediaレプトスピラより抜粋)

⁑四類感染症とは,動物,飲食物などの物件を介してヒトに感染し,国民の健康に影響を与えるおそ れがある感染症である。媒介動物の輸入規制,消毒,物件の廃棄などの物的措置が必要とされる。(三重県感染症情報センターHPより抜粋)

 

おかげさまで、ジアルジアとレプトスピラに感染した預かりっ子たちと私の犬は治療を受けて元気にしています。特にレプトスピラは長くて辛い治療が続きましたが、無事に乗り越えてくれました。その後預かりっ子たちは、一生一緒の家族に経緯をご説明し、快く家族の一員に迎えていただいております。

 

 

 

預かりっ子を経由して感染症を経験するまで、動物保護活動において感染症が自宅に入り込む確率とは、宝くじで10億円が当たるようなものだと思っていました。どこかで誰かは当たっているんだろうけど、自分には無縁なことと思っていました。でも実際は、何も知らずにセブンイレブンで買い物をしたら、「700円以上ご購入の方は、くじをお引きください」と言われてドリンクが当たるくらい身近なことでした。

 

私が「(感染症は)自分には無縁」と思っていたのは、保護動物の感染症予防(適切な健康診断をする、ワクチンをうつ、駆虫する、検疫する等)は動物保護団体が責任を持ってやってくれていると、何の疑いもなく思っていたからです。それは、「電気屋さんは家電に詳しいんだろうな」とか「八百屋さんは、お野菜のことをよく知っているんだろうな」とか、そういう感覚で、一時預かりボランティアは、ただただ預かりっ子を家庭犬として愛し、基本的なしつけや社会化のお手伝い、日常的な健康管理、性質・性格に合わせたトレーニングをすればいいと思っていました。

 

 

 

でも実際は(全て当時の話です)、私が経験した3団体のうち1つの団体は、預かりっ子を迎え入れた直後は動物愛護センターで検疫済みであっても再度自宅で1週間の隔離期間を設けて検疫することや、健康診断の必要項目、健康管理に関する注意事項、検疫が終わるまでの食器やクレートの消毒方法などについて指導してくれました。2つの団体においては、こちらが感染症予防に関する医療データ(ワクチン、駆虫、検疫などに関する情報)を再三請求しても、ほとんどの場合において対応いただけませんでした。それでも私は、「きちんと感染症予防をしているから、対応の優先順位を下げてるんだな」と信じていましたし、「シェルターから来たから大丈夫なんだろうな」という根拠のない安心感も持っていました。動物保護団体は常に人手が足りず経済的にも厳しい状況にありましたので、ボランティアの私があまり手を煩わせてはいけないという遠慮もありました。しかしながら、たった3団体における経験ではありますが、私は動物保護団体の規模や知名度に関係なく、感染症予防のガイドラインを設けたり、そのデータを一時預かりボランティアと共有したり、感染症が防ぎきれずに発症した際にボランティア間で注意喚起や情報共有をするという習慣を持たない団体が少なくないのだということを知りました。

 

 

 

大きな原因の一つは、立場の違いではないかなと思いました。

動物保護団体は、多岐に渡る業務の中でも、保健所から引き出しの依頼があったり、動物を棄てたい飼主から身勝手な問い合わせがあったり、多頭飼育崩壊の情報に対応したり、「現場から救い出す」ことが最優先されます。一方、一時預かりボランティアはその救い出された命をお預かりし、「医療面ならびに性質・性格においてバックグラウンドが不明瞭な動物を一般社会に適応させる」ことが責任です。そのためには、預かりっ子の健康はもちろん、まずは感染症について、自分の家族や近隣の犬友、ひいては一生一緒の家族へのリスクを可能な範囲でクリアにしておく必要があると思います。厳しい環境下で暮らしてきた子達は、感染していても発症せず、ただただウイルスや細菌を排出するキャリアになっていることが多々あります。そのような状態で、検疫もせずに預かりっ子をお散歩させることで、近隣の犬を感染させてしまい、不幸にも亡くなってしまったりしたら、もちろん責任を取ることができませんし、その事実を知ることさえできない可能性もあります。自身の動物保護活動の継続はもちろん、その場所に住み続けることさえもできず、保護動物への不要な誤解を生みだすことになるかもしれません。

こういったそれぞれの立場における優先事項や責任の違いを動物保護団体と一時預かりボランティアが率直に話し合って理解し合う努力をすれば、解決策が見えてくるのではないかと思いました。

 

 

 

そうして私は当時、1つの団体に対して、感染症対策ガイドラインの策定と一時預かりボランティアとの情報共有について協議する機会が欲しいとお願いしました。ありがたいことに、当該団体はその願いをすぐに聞き入れてくださいました。

協議の日までに、主人(獣医師)と私は全国の獣医師が常駐するシェルター3か所の感染症予防ガイドラインを調査し、当日は当該団体の理事とスタッフの方々に各種感染症とその対策について勉強会ならびに提案をさせてもらいました。その経緯は、すぐに理事会で協議され、すべての理事が「シェルターから一時預かりボランティア宅に感染症が入り込むようなことがあってはならない」と合意してくださったそうです。そして、感染症が発覚したわずか1か月後には、感染症予防ガイドラインが策定され、一時預かりボランティアに犬猫を預ける前には当該団体のオフィスにて1週間の隔離期間を設けることも周知され、一時預かりボランティアのガイドブックにもその内容が含まれました。また、以前から動物保護団体の権利のみが主張される一時預かりボランティアの契約書にも疑問を持っていたのですが、その契約書にも「一時預かりボランティアに犬猫の飼育を依頼する際は、ガイドラインに則って感染症予防をする」との一文が組み込まれました。私は、当該団体の迅速な対応に心から感謝しています。感染症予防は通り一遍にはいきませんが、そのプロトコル(手順)については、保護動物の臨床獣医師によって繰り返し見直されていると聞いています。それでも感染症を防ぎきれないこともあるかと思いますが、外部から感染症予防について尋ねられた際に、「私たちはガイドラインに則って対応しています」と返答できることは、当該団体の活動を守ることにも繋がると信じています。

 

全てが円滑に平和に進んだように聞こえるかもしれないのであえて申し上げますが、協議の途中ではお互い感情的になることもありましたし、当該団体への信頼を失くしてボランティアをやめてしまう仲良しのボランティア友達もいました。お互い言いたくないことを言ってしまって落ち込むこともありました。すごく仲良く楽しく活動していたのに、たった1つの感染症でどうしてこんなことになってしまったんだろうと悲しく思う日々が続きました。でも、家族でも友達でも仕事でも、そういう困難をともに乗り越えられるか否かが、将来の成長へと繋がっていくのではないかと思います。それがさらに動物の笑顔に繋がってくれれば、すごくうれしいです。

 

 

 

そして全ての協議が終わった後、当該団体の理事が私にかけた言葉は、今でも胸に残っています。

 

「このガイドラインは、いつか形骸化するでしょう。シェルターのスタッフは入れ替わりも多く、その業務内容は一時預かりボランティアの活動内容とは異なるため、このガイドラインが何の目的で導入されているのか理解したうえで運用され続けることは難しいです。なので、やはり一時預かりボランティアは自ら感染症を勉強して、そのリスクに対応していく必要があります」

 

無責任な言葉と捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、私はすごく正直で誠意に満ち、私の甘えと今後の活動を叱咤激励してくれていると感じました。実際にその理事は、何度も自宅や保護活動において感染症を経験し、その経緯や個人的に対応している独自の感染症予防策を教えてくれました。お知り合いが迎えた保護犬がパルボに感染していて直ぐに亡くなり、一年後にそのショックから立ち直ろうと迎えた保護犬が、一年前のパルボが玄関に残っていたせいでまたすぐに亡くなってしまった話はものすごく怖かったです。こういう話を聞くだけでも、とても勉強になりました。そして理事は、今回の経緯をブログに載せてほしいと仰ってくださいました。とても遅くなりましたが、今回ようやく掲載できました。

 

 

 

そして今回、私は個人保護主として、動物保護団体と同じ立場に身を置くことになりました。

感染症予防や適切な管理、保護動物特有の健康診断など、すべての責任を負うには、私の『7年間』『3団体』『21匹』『2つ』はあまりにも経験不足と感じました。自分が無知なせいで、預かりっ子や家族の悲しい目を見てから反省するのはもう嫌です。

 

したがって、私は『シェルター・メディスン』を導入します。次回の記事で詳しく書きますが、『シェルター・メディスン』は、かつて問題に溢れていたアメリカのシェルターにおける過去20年間分のあらゆるデータを統計分析し、獣医療の観点からさらなる研究をすすめた学術分野です。私のつたない経験に、20年間分の幅広い経験からくるアドバイスと最新の科学が加わることで、私の動物保護活動に安心と安全、保護動物へのさらなる理解をお届けできるように取り組みます。

 

その具体的な話は、次の記事で。

長い記事を最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。動物保護活動への批判と取られたくなくて、なかなか書き上げることができずお待たせしてすみませんでした。

まだまだ記事は続くのですが、みなさんの率直なご意見をお聞かせいただけるとうれしいです。

 

つづく

 

 

めいちゃんは、今日も元気です!

 

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