ふんわりシフォン -57ページ目

パイの実

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部活のバスケ帰りにハルがリュックから引っ張り出したのは、パイの実『シェアパック』という大袋だった。


「なんかいーの持ってるじゃない」


ウキウキと袋の口を開けたハルの目をかすめて、袋に手を突っ込んで、つかみ出す。


「バカヤロー海斗っお前、手がデカイから!それ取りすぎだろ」

「もちろん、片手でボールが掴めるさ。バスケ部だからなー」

大袋のパイの実は、二個づつの個包装で、かたっぽが表かたっぽが裏でなんだかカワイイ。

「いくつ取るつもりだバカ!手ぇ開いてみろ」

ハルの目の前で開いて見せると7袋あった。


「オレが楽しみにしてたパイの実だぞ」

ひょいひょいと手の平の菓子を取り上げて、俺の手の平には三つ残っただけだった。


「こんだけかよ~ケチ」


「アホ~オレはね、朝からスーパーの買い出しに付き合わされて、お一人様一個の限定品に並ばされたわけ。これは正当な報酬なんだって」

「今日は何?」

「卵と玉葱」

「そらイカンわ付き合わないと」


「だろ?」



袋を破ってパイの実を取り出し、口にほうり込む。サクサクした生地とチョコにほうっと息が漏れる。



「はー旨めー」

「だよな」

手の平にあるパイの実は、片方だけ裏返しではなくて、留め口を下にすると両方が裏返しのものもあった。

「ちょっと袋、貸してみ」


ハルから奪って中味を空けた。ばらまかれた中には、表裏のペアだったり、裏だけ、表だけのペアもあった。


「なにすんだよ海斗、数数えたってやらないかな」

「違う、全部が、かたっぽづつ裏表だと思ってた」

「そんな訳ないだろ。機械から出てくるパイの実を誰がひっくり返してるんだよ。偶然なんじゃない」

「…そうかもな」

袋から菓子をばらまいて確認することだったかと、ちょっと頬があつくなる。

「ただ何となく…表とか裏のある和菓子とかだったら、渡す時に気をつけるだろ。袋からつかんで、はいって渡されて両方裏だったら凹まないか。だから片方裏返しなんだと思ってた。表とか裏なんてないんだって」



「ほら」

ハルが目の前に握り拳を差し出す。
ついじいっと見ていたら拳を振って催促してきた。あわてて拳の下に手の平を差し出すと、パイの実が二つを落ちてきた。

そのどちらもが、片方づつの表裏だった。偶然だけど。

「やっぱさ、そういうの日本人らしいよ。海斗の言ったこと どこまでホントかわかんないけどさ」




相手を思う。そんなことありふれていて それでも上手くいかなかったりする。だから気づいたときには、笑っていよう。

今みたいに。




「サンキューハル」

銀杏

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君の町にも

銀杏の手紙が届いただろうか


晴れた空に

わずかな風で

はらはら積もる



はらはら

はらはら

想いは厚く

散り敷かれ



届かない手紙が

あふれている



君の目に映るのは

真っ白な世界



輝きをまとった木々に

広い広い大地



光の海に身をひたし

泳いでいく



季節は

僕を置き去りで

流れていく



銀杏の絨毯の上で

遠く遠く

想いを馳せる

闇を抜けて

君が寝静まった後で

星の明かりは

君を見守る



夜の帳のなか

液体は巡回し

物質は融合し

分裂し

結合し

変容していく



君の知らない間に

ほら

空に蒸気を放つだろう



釜の中から

逃げる熱は

肌をこがし

髪を焼くだろう

大量の熱を

蒸気を

空に放ちながら




釜から放たれた物質は

熱を放ちながら

冷えていく

キンとした空気のなか

音色を奏でながら



誰も知ることなく

ひっそり

音は闇に消えていく



君が知らない間に

世界は変わっていく



僕のしらない間に

月が欠け

月が沈むみたいに



闇のなかでも

放出される

熱があるように



君のなかにも

潜んだ熱を解放したらいい




白い蒸気が

くっきりと闇に浮かぶように


それは

存在を知らせるだろう