ふんわりシフォン -46ページ目

ヒヤシンス

ふんわりシフォン-120302_082636.jpg

花が咲いたら

君に見せよう

花が咲いたら

一緒に見よう



何をしても

何をしなくても



それは君が決めたことなんだよ


花の香りが滲み出るように

君からも香りがたつ

目を閉じて

君とわかるように

料理男子。

たまに。

というか、無性にカレーが食べたくなったりする。

がしがし米をといで、炊飯器のスイッチを入れる。

玉ねぎ、にんじん、ジャガイモを刻んで、玉ねぎから炒めていく。隠し味に使うニンニクもこの時におろして入れる。

肉はバラ肉でもいいし、切り落としでもいい。



「あれ~もう海斗がキッチンにいる」

ぱたぱたと軽いスリッパの音がして、妹の未也が帰ってきた。

「遅い。寄り道したろ。なんで部活してる俺より遅い訳?」

「だってさードーナツいこーって遥香が言うんだもん」

荷物を下ろした未也が、キッチンに入ってくる。

「んー今日はカレー?」

鍋で飴色玉ねぎを作っている俺の手元を覗く。

「そう。食べられないなら、軽く盛るから」

ニカッと笑った未也は、

「口直しに食べる!新作ドーナツがさー酷かったんだ。アーモンドドーナツ、史上最悪。マズイって思ったの初めて!」

「てか食えるの?」

「もち。この味のままなんて我慢できない」

冷蔵庫から、パックジュースをグラスに注いで部屋に上がっていく。

「未也、風呂な」

「はーい」

という返事はパタンと閉じられたドアの向こうからだった。

追いかけて行って、本当に風呂掃除する気あるのとまでは聞かない。これは我が家の暗黙の了解だからだ。
母親の帰宅が遅い我が家での手伝いルール。どちらかが料理したら、もう一人は風呂掃除。




玉ねぎをがしがし炒めて飴色になったら他の野菜も軽く炒める。そのあと水を入れて煮込む。夏ならトマトを崩して入れてもいい。煮込み時間が勿体なくて、いつも簡単なサラダを作り、包丁を研ぐ。

ボウルに沈めていた砥石は、仕上げ用の砥石で、粒子がきめ細かい。母方の祖母について行った荒物屋で、料理するならと買って貰ったものだ。

料理上手な祖母は、包丁が切れなくなることを嫌い、自分で研ぐため、一通りレクチャーも受けている。

ふきんを敷いて砥石を置き、研ぎはじめた所に母さんが帰って来た。



「サンキュー海斗。今日はカレー?」

ばさばさと肩を下ろして荷物を大量に落とすと、キッチンを覗きに来た。

「んん~海斗、もしかして油、サラダ油?」

ショートカットの下の眉毛が寄せられる。

「…そうだけど」

「だっダメよ!ダメ料理男子はオリーブオイルじゃなくちゃ!!」

ばたんとガス台下の収納庫からエキストラバージンオイルが出てくる。

しかも1000ミリの大瓶で。

「は?」

あまりのことに、ぽかーんと口が開く。

「MOCOよ!速水もこみち!彼はオリーブオイルキラーなの!」

「で、なんで俺まで?」

「今から仕込めば、第二のMOCOも狙えるわ!」

言いながら、すたすたリビングに移動した母はリモコンを掲げて録画再生を始めた。

「ほらっ、この回はMOCOが5日ぶりにオリーブオイルを使った神回よ!仕込み、調理、仕上げの三段活用なんだから」

ふーんと鼻息も荒く母が解説をする。

「別に俺、サラダ油でいいけど」


つーんと母が答える。

「料理も個性なの!向井理みたいなフレンチでもいいわよ。いい油を使うことは大切なんだからね」

「じゃ太白ごま油にして。オリーブオイルは臭いがきついから、和食には合わない」

「贅沢言うなー」



画面ではMOCOが奥様方に大評判だというその手で、材料を仕込んでいた。

鍋ではカレーを煮込んでいて、冷蔵庫にはサラダもある。もう米も炊きあがっていて、あとはカレールーを入れて煮込むだけだ。

そんな ささやかで、うるさい我が家の週末。





おわり



MOCO'S キッチン 一回、健康診断の時に見ました。この前、ネットニュースになっていたのでびっくりw(゚o゚)w
それと前々から温めていたネタで。包丁ネタで。

アオイさんから頂いたもの

アオイさんから、素敵な小説を頂きました♪


アオイさんのブログ




アオイさんといえば、アメブロで『となりの、』や『悲しみのポルカ』を連載しているのですが、恋愛ブログランキングで常に上位の素晴らしい方です。

わたしも杏奈ちゃんと広田のじれじれラブストーリーをいつも楽しみにしてます。キーマンは桃ですね~これからの展開を握ってます。


『てんとう虫』を気に入ってくださり、二次小説を書いて頂いたので、アオイさんの了解を得て公開することにいたしました。

自分だけで堪能するのは勿体ないでしょう?

自分の作ったキャラクターに対してレスポンスがあったのは初めてで、とても光栄なことであり、幸せな作品です。


てんとう虫本編を読まなくても、このお話だけで十分美味しゅうございます。

では。
ここから頂いた小説になります。じっくりご堪能くださいね。



『永遠のてっぺん』

 瀬波さんの研究室からの帰り道、枯草に停まったてんとう虫を見つけた。短い足を懸命に動かし、もたもたとてんぺんに登っていく様をじっと見つめてみる。
 虫は嫌いじゃない。蝶もトンボもダンゴ虫も、小さいながら逞しく生きて可愛いとさえ思う。その造形にも美しさを覚えるけれど、それは一般女子から離れたちょっと特異な感覚だと思うので、人様の前では口にはしない。
 私が虫に好意を寄せるのには、ほかにまだ理由がある。虫は人間みたいに余計なことをしないから。食事と睡眠と生殖行為。彼らが熱心なのはそれだけだ。誰かを僻んだり、出し抜いたり、陥れたりすることなんでしないもの。
 
 なんて素直な生き物なの。
 
 そんなことを思いながら、もう少しで頂上に辿り着くてんとう虫にそっと人差し指を差し出してみた。痒みを覚えるほどの、ほんのわずかな接触。てんとう虫は私の指に戸惑うことなく、そうすることが当然とでも言うように指先から腕へ、上へ上へと上り詰めていく。

 瀬波さんは言った。てんとう虫はアブラムシを食べる肉食であると。あの時はキスとハグに翻弄されて瀬波さんを捕食者(プレデーター)だと思い込んだけれど、ひとりになって余裕の生まれた今、違う考えが閃く。

 瀬波さんがてんとう虫? 
 ううん、違う。この可愛らしくも獰猛な虫は、瀬波さんではない。
 たぶんきっと、私こそがてんとう虫。

 瀬波さんを見つけたその時から、知らず知らずのうちにその白衣に停まってしまった私。そうしたが最後、もう自由に飛び立てなくなってしまった。だって瀬波さんは、私が腹を立てようとも悲しみにくれようとも、いつだって絶妙のタイミングで新しい貌を披露して、私からマイナス感情をきれいに拭い去ってくれるから。そんな魔法を使われては、瀬波さんから飛び立とうにも飛び立てない。私の知らない表情や仕草がまだまだたくさんあって、てっぺんはまだまだ先だよと囁くんだもの。
 だから、たとえばこれから先、瀬波さんがしばし私を忘れて研究に没頭しようとも、私は彼から飛び立たない。
 そこに、あなたという枝がある限り。

「さあ、てっぺんですよ。ほら、行っちゃえ!」

 腕を上げ下げすることで頂きを調節していた私は、人差し指を太陽に向けて言い放つ。私の涙よりも小さい虫は、赤と黒のマントを広げて慌ただしく飛び立っていった。

 とっくの昔に視界からてんとう虫は消えていたけれど、私はそのまま天を仰いだ。まるで今日という日を祝福するかのような青空。視界を遮るものは何もない。
 望めばてっぺんはどこまでも。

「あ、メール……」

 空を見上げていた私は電子音に呼ばれてバッグを漁った。メールの送信者は瀬波さん。中を開けばこんなことが書かれていた。

『寄り道はいけませんよ? 迷子にならずに、おうちに帰ってくださいね』
「……瀬波さんったら」

 どうして道草していることが分かったのかしら。私の行動もお見通しだなんてちょっと悔しい。だって何だかまるで私という人間の習性を熟知しているような――……。
 そんなことを思って、ふと一笑した。
 ほらね、やっぱり私がてんとう虫。瀬波さんは枝のタクトで私を操っている。そして不思議なことに、こんな関係も嫌いじゃない。
 私はもう一度笑うと、すぐに彼に返信した。『私は瀬波さんという一本道しか知らないので、迷子になんてなりません』と。

 メールを開いた瀬波さんは、てんとう虫の羽のように耳を赤く染めてくれるかしら。今度ははにかむ表情を見てみたい。
 でも焦りは禁物。ふたりの未来は始まったばかりなのだから。時間をかけてゆっくりといろんな表情の瀬波さんを見つめていこう。

 私は携帯を閉じて歩き始めた。
 そうよ。天は限りないの。望めばてっぺんはどこまでも!

 やさしい風に吹かれて、羽織っていたカーディガンがふわりと膨らんだ。
 それはまるで、虫の羽のように。


end