ふんわりシフォン -29ページ目

Focus 6

週開けに礼治さんに会うと、開口一番「海にいくよ」と言った。

「マジっすか」

とんとんと煙草の縁を叩きながら、礼治さんは笑っている。

「グラビアの仕事だから、3、4日向こうに行くことになるよ。予定あけといてね。行きの予約は一緒にしとく。帰りは好きにするといいよ」


ぐっと握り拳に力が入る。

「言われなくてもそうします。で、海って何処ですか」

美味そうに煙草を吸って、唇の端があがる。

「喜べ沖縄だ。好きだろ、結輝は」

「大好きですよ。すげぇ嬉しい」



頭のなかで旅行の荷物のパッキングが始まる。

服を適当に。日常使いのヘアケアや身の回りの小物を突っ込んでから、あれこれ機材の選択をする。



「そんなに喜ばれるんなら…受けて良かったね」

にかっと礼治さんが笑う。

「礼治さん最高~」



おかげでその日の仕事は、いつも以上にいい雰囲気のうちに終わった。






出発当日は快晴になった。撮影するモデルは仕事があるため、夕方合流になる。
先に乗りこんだオレ達は、翌日の撮影に備えて下見…はちらっと済ませ飲みにくりだした。

「ソーキそば…あとチャンプルー、島豆腐も食いたい」

あれこれ注文して、なごやかに酒宴が始まる。人数は礼治さん、俺、編集部の伊部さん、現地コーディネーターの四人になった。

泡盛のグラスを傾けた礼治さんも機嫌がいい。

「沖縄の光はいいよね」

「あ、わかります。明るいんですよね。視覚的でなく、感覚的に」

光を気にする礼治さんらしく、沖縄の光はお気に召したようだ。グラビアという屋外で水着☆室内でも水着☆みたいな条件での撮影ではありがたい。

わいわい杯を重ねていると、伊部さんの携帯が着信をつげる。「失礼しますね」と断ってから電話をつなぐ。


席を立たずに話しはじめた伊部さんのために、聞き耳をたてないように、そしてあなたの電話には興味ありませんというポーズをつくる。俺の場合、それは小鉢のミミガーを味わうことで実現されていた。

「えっ、なに、何処にいるかなんて、なんで知りたがるんですか」

言葉に狼狽が混じり、視線が礼治さんを捕らえる。
すぐさま携帯の下部を押さえ、礼治さんにお伺いをかける。


「モデルとスタイリストさんが合流したいって。いいでしょうか」

ぴくりと礼治さんの眉が揺れた。


「こんなオジサンと飲んで楽しいかねえ。まあ依頼主を無下に断れないでしょう。御足労ですが来ていただいて」



明らかにほっとした伊部さんが、通話を再開する。簡単に場所と名前を告げ、会話を終了した。



「すみません、本当。明日から撮影する子は礼治さんのファンで、わざわざ礼治さんを指名してきたくらいですから悪い子じゃないんです。ただいまどきの若い子ですから失礼もあるかもしれません」

ピタッとテーブルに両手をついて、伊部さんが礼治さんを伺う。

「そんなに気にしなくていいよ、伊部ちゃん。どうせ明日からは一緒に行動するから慣れといて構わない」

上書き

「何か理由つけてる」

彼は伏せ目がちな顔を覗きこんだ。

「気持ちと体が合ってないみたいだね」

とん、と肩甲骨の間をはたかれた。

「ぎゅぎゅっと歯を噛み締めてないで、力を抜いたらいいよ」

意識して呼吸するだけで、体の力が抜けるのがわかった。

彼の顔は、にこりと口角があがり、三日月のような目になる。つられるかのように、僅かに唇が上向くのがわかった。



「笑ってたほうがいいよ」

「そうですね」

息を出し切るまで吐いて、また新鮮な空気を吸い込んだ。

私が落ち込んだところで、日々は変わらずに過ぎていく。理由をつけて現状維持する必要はない。

よしっ

ぐっと胸につくくらいの握りこぶしをつくる。

すっと背筋を伸ばすと視界も開ける。

出来ることをやろう。今の自分にとって。

お久しぶりです

父の四十九日の法要が終わりまして、またしても脱力しています。



ゴリゴリした人間関係を感じまして、人に理解してもらうため、分かってもらおうと口にしたことが行き違うこともあるのだなと感じました。



ぽかりとあいた穴の深い底には、星を映した水面があって、わたしはその周りを歩いているのです。

時折、覗きこみながら水面が溢れるほど水を湛えるのを待っているようです。





なんで書くのか

自分が辛かったり、苦しかったりした時に、話しかけるのが自分の中のもう一人の自分で、その自分のしたいこと興味のあること…別の人間であったならしたであろうことを書いているのだと思います。



表面的な造形や性別、年齢などを越えた根っこにあるもの。

それは同じで、違うのは興味の対象かもしれません。




人の激しい感情に触れて、わたわたしていましたが、父が穏やかであり、わたし自身も衝突のないなごやかな雰囲気であって欲しいと願っています。



それは意見を言わないということではなくて、お互いの意見を言い合っても上手くすり合わせていけたらいいということです。






余談ですけれど

父のお骨を納骨しました。理由あって叔母のお骨もあります。血が繋がらない祖父のも。

一族とか血族とか言うけれど一緒に生きてきた証が家族になるということではないでしょうか。