ふんわりシフォン -27ページ目

Focus 9 Reiji side

ここから礼治さん視点が入ります。別立てのサイドストーリーにしようかと悩みましたが、本編よりむしろそっちを書きたい欲求があり、強引に割り込ませることにしました。しばしお付き合いくださいませ。



ちなみに他にもサイドストーリーを書いていますが、その二人が凄い好き。とはいえ世間的にはどうかな。あまり需要はないかもしれません。本編完結後にお披露目します。







Reiji Side


気持ちを切り替えたくて、海岸線を歩き出す。まだ煙草をくわえたまま海を見つめる。

透明度の高い海は白い砂が透けて見えるほど明るく澄んで、光をはね返していた。

本当は玲奈ちゃんに詰め寄って問い質したい。どうしてそんなポージングをするのか、俺のことをどこまで知ってそんなことをするのか。



背後でさくさくと砂を踏み締める音がした。結輝ではないその音に動揺する。大人げなく撮影を中止している自分に嫌気がさすものの、振り返って手招きした。



「礼治さん……」

「どうしてあんなポージングをしたの」

玲奈ちゃんのしたポージングは、鏡でピアスを確認して振り返る仕草だ。遠くをながめて少し目を細めたり……普通のグラビア撮影のイメージではない。

「礼治さんに撮ってもらえるなら、してみたかったんです……」

「どうして」

風で流れる煙が彼女にぶつからないように体をずらすと、ぴくりと体が動いた。
「あたしが好きな写真だからです」


「Echo?」

「はい。18ページ」

自分のファンだと言った時点で、いつの作品だろうかと考えていた。

最近の物ならいい。でも返ってきた答えが最悪すぎる。『Echo』は付き合っていた彼女と結婚する前から短かった結婚時代に撮ったものだ。

「よくそんな古い写真集知ってるね」

「10年前です。あたしは8歳でした。」

「その頃から?」

こっくりと頷く。

「両親が行く写真展について行って、あたしも見ました。大賞を取って写真集になった頃です。どうしてもその写真が欲しくて、お願いして写真集を買ってもらったんです」

「それがさっきの?」

ピアスを付ける環

風景から人物写真に切り替えたのは、被写体として彼女がいたからだ。他に撮りたい人物がいた訳じゃない。思いがけなく賞をいただきプロとして食べていけるだけの仕事ができた。

「その時からずっと考えてました。どうしたら礼治さんに会えるのか」

ずっと考えていたのか言葉にはよどみがない。胸の前で手を握り見つめてくる瞳は真剣そのものだった。

「ただ会うだけじゃ、ダメなんです。そんなんじゃすぐ忘れられちゃう…」

ふいっと視線を逸らせて唇を噛み締める。

「モデルになろうかと牛乳を飲んだのに、身長はあんまり伸びなくって胸ばっかり成長しちゃって…だから礼治さんがグラビアの撮影OKしてくれて、すっごく嬉しかったんです」

まっすぐな目をしていた。ちっぽけな自分が恥ずかしくなる程の。

「だから…あの…あたしに到らないことってたくさんあって…不快にさせてしまったのならすみませんでした」

どこまでも正直な子だ。

「いいんだよ。もう理由もわかったから。もう戻ろう」

先立って歩きだすと、少し遅れてついてきた。撮影のための青空がもどり、気持ちも少し軽くなっていた。

Focus 8

翌日の撮影では快晴で光と風に恵まれていた。

暑さを和ませる風は撮影の妨げになるものだけれど、礼治さんは構わない。

自然にあるものを否定しない。


玲奈ちゃんは髪をゆるくハーフアップにして、胸をぎりぎり見せることのできるシャツを白い水着の上に羽織っている。

はっきりと出た胸と細いウエストはグラビアならではの容姿だ。


「今日はよろしくぉ願いしまぁす」


「はい。よろしくね」

またペこりと頭を下げるので、まとめた髪が砂に付きそうになる。

未成年の玲奈ちゃんが加わったことで、昨日の酒宴ははやばやとお開きになり、各自部屋に戻って休んだので、宿酔いにも日差しにも負けることもなく撮影がはじまる。

俺もレフ板を持って参加している。


「そのまま、好きにポーズをとってみて」


礼治さんの呼びかけに玲奈ちゃんが動くものの、グラビアらしくない。胸を強調するような仕種も、上目遣いもない。もちろんそれだけで写真集一冊できる訳ではないので、いろんな表情があっていいものの違和感がある。


「……ごめんね。少し晴れ待ちしようか」


礼治さんはわずかに空が陰ったのを見て、玲奈ちゃんから目を逸らすように、煙草に手をやる。

まだ撮影を始めたばかりなのに、礼治さんのテンションがあがらない。

とんとんとせわしく叩いて取り出した煙草に火をつけると、吸い込んだ煙りを鯨のように吐き出した。
ちりちりと音をたて大量に吸い込むので、吐き出した煙りの渦に巻かれてしまう。

「礼治さんらしくないですね」


すでに二本目を口にくわえて、手で風を遮り煙草に火をつけた礼治さんが俺を見る。

「俺らしい、ってなに結輝」

「いつも冷静で大人じゃないですか。モデルの扱いだって上手くて気分を上げるのなんて簡単にしてましたよ」


「じゃあ今の俺は、なに?」

礼治さんの目は煙草の煙で細められ鋭くなる。

「……礼治さんです」

「俺は俺だよ。らしくなくてもね」



くるりと踵を返して「5分休憩ー」と言いながら歩いて行ってしまった。



拒絶している背中を追いかけようか迷っていたら、栗色の髪を揺らして玲奈ちゃんが後を追った。

それを見て何かが変わるそんな気がした。

降りしきる

君の言葉がちいさなかけらとなって


僕の心に降りしきる

君のまなざしや

君の息づかいも

くだけていく



なにひとつ

逃すことなく

ちいさなかけらは

降りしきる



ゆらゆらと揺れ

ちらちらと光り

僕の胸を満たしてゆく



心の最奥へ

するりと入りこみ

僕の一部となり

僕の言葉となり

僕の体を駆け巡る



きらきら

ちらちら

降りしきる