ふんわりシフォン -30ページ目

はっぱ

雨が降ると

空に向けて

広げたはっぱに

水がたまる



ぽつり

ぽつり



少しづつでも

たまっていく



あふれるほど たまったなら


はっぱを振るわせ

水をそそぐ



根っこに回った水は

茎をしならせ

はっぱや

花を駆け巡る



水をためる

はっぱ

水を与える

はっぱ

ひとつだけじゃなくて

本当はいくつもの

姿をしている

形見分け

「形見分け何が欲しい?」

兄に聞かれても、何が欲しいなんて特になかった。

普通なら時計とか眼鏡なんだろうけれど、男物のそれはわたしの手には余り身につけられない。

高価な物があるわけではないし…



片付けていた荷物の中に、使い込まれた小さなカバンがあったのを思い出す。

鉛筆と手帳、父の写真の貼られた市場への入館証。それは花の買い付けに父が使っていたもので、もう使うことのない物だった。



手帳には几帳面な父の文字が並び、買い付けた花の番号がびっしり記されていた。

父の目から入って

心を通り指先から出てきたもの


細長いしっかりした文字


父の考えを覗くような、その手帳が欲しくなった。




時計や免許証は兄に

わたしは手帳と市場の入館証




入院する間際まで働いていた父が、使っていた物。

父にとっての生き甲斐であった、仕事の一部に触れることのできる品。



棺に入れてあげなくて
ごめんね




向こうへ行ったら

また


真っ白な手帳を用意してね

だんごむし

「瀬波さん、瀬波さん」

風とともに高瀬さんがやって来た。

「どうしました」

「ちょっと来てください」

座っていた姿勢で、白衣の袖を掴まれ立ち上がる。駆け出しそうな勢いに、ゆるく巻かれた髪が揺れる。

「見せたいものがあるの」

言葉とともに、とびきりの笑顔で笑いかけてくれる。
それが、あまりにも綺麗で、眩しい気がして、目を細める。

「それは 楽しみですね」

それが何かなんて事よりも、彼女がこんなに笑っていることのほうが、ずっと嬉しい。

自分に何か見せたくて、走ってきてくれたことが嬉しい。

「早くいきましょう」

自然に手を引かれて、歩き出す。彼女と小さな手を繋ぐだけで、どれほど自分が幸せになるのか…

きっと あなたは知らない。


振り向いて、話しながら歩くのを見ながら、後からついて行くのも悪くない。

だらしなくなりそうな口元は、上向きになっている。





「いいですか。よーく見ていて下さい」

玄関さきにある植木鉢に手をかけて彼女が言う。

「いち…にの………さんっ」

植木鉢の下からは、だんごむしが溢れ出てきた。

急に植木鉢が取り去られたので、皆慌てて散り散りに逃げ惑っている。

彼女の目が、何か期待するようにこちらを見ている。

「だんごむしは好きですか」

「そうですね。かわいいです」


心の中で、あなたのほうが、と付け加える。思わず口元がほころぶ。


「だんごむしはどんな虫ですか」


「正しくは昆虫ではありません。エビやカニなどの甲殻類の仲間になります。少しの間なら水に落ちても大丈夫ですよ」

「泳ぐんですか」

「あれを泳ぐというなら、そうかもしれません。食べ物は枯れ草や昆虫の死骸、新聞紙や段ボール、変わった所ではコンクリートや石も食べます。だから野原より人間の側のほうに多く見られます」

「コンクリートを食べるなんて不思議ですね」

「ええ。何か成長に必要な栄養が含まれているようです」

屈み込んでだんごむしを見つめる彼女は、今ここでコンクリートを食べないかと待っているようだ。

「背中に黄色い筋が入ったのがメスです。お腹の袋に赤ちゃんを入れて育てます」

指先でひっくり返すと、ちょうど赤ちゃんだんごむしをお腹に抱えていた。軽く押さえて彼女に見せる。

「たくさんいますね」

にこっと彼女が笑う。こちらも笑い返しながら、彼女の反応に安堵する。普通なら出る言葉を彼女から聞かないことに、彼女が愛おしくなる。自分と同じ物の見方、感じかたが出来る女性は今までいなかった。

「だんごむしは脱皮しながら少しづつ成長します。一日目に後ろ半分、二日目には前半分と二回に分けて脱皮します。脱皮した殻は栄養があるので食べてしまいます」

「食欲旺盛なんですね。何でも食べちゃいますね」

「庭の掃除屋と言われています」


お互いの目に自分の姿を見つける。

何もしなくても、何もなくても彼女さえ居たなら、自分は幸せでいられるだろう。

確かにそう思える。




「……戻りましょうか」

もじもじと彼女が身じろぎする。玄関先で座り込んでいることに気づいて、人の出入りが気になったようだ。

立ち上がった彼女へ、腕を差し出すと、目を丸くして僕を見る。

「立ち上がらせてくれないのですか」

「……しません。さっきは緊急事態だったから、です」

みるみるうちに頬が赤く染まっていく。学校内で手をつないだことは今までなかった。

立ち上がると彼女の手を取り指を絡ませる。力を入れると彼女も握り返してくれた。

「戻りましょう」

彼女の耳元で囁く。

「可愛いいです。ここではキスできませんから」

言ってから、髪にキスする。耳まで赤くなった彼女の手をひいて歩き出した。








終わり。

Focusが時間がかかるので、ちょっと短編を挟みました。