Focus 5
最後はブーケトスになっていて、背中を向けた新婦がブーケを投げ上げることになっていた。
意識せずに、カメラを構えた視線の端に、黒いカフェエプロンが映る。
どきりとして注意を向けた一瞬に、ブーケは投げられてしまい、シャッターを切るタイミングを逃してしまった。
慌ててシャッターを切っても、ブーケはすでに人の手に渡っていて、手にした女性のまわりには人だかりが出来ていた。
はしゃぐ女性をカメラに収めてから、もう一度カフェエプロンの人物を確認するとその人は沙奈さんだった。
ただ一人ではなく、この会場のシェフ御山さんと一緒だった。
二人で話している姿があまりにも自然で、近寄りがたく……声をかけられなかった。
「今度はなに?」
再び、厨房に現れたオレを見て、ミオが声をかけてくる。
アイスクリームメーカーに、ソルベ用の果汁を注いでいたミオは手を止めることなく、動かしていた。
「なにって…オレが聞きたい。沙奈さん、御山さんと付き合ってるの?」
「……さぁ聞いたことないわ」
「一緒にいたよ、さっき」
つい言葉にふて腐れたような音色が混ざる。
「聞けばいいじゃない」
「なんて?」
「付き合って下さい、とか」
「いきなりすぎじゃない…つか…なんでそういうコト言うわけ」
ばん、ミオが調理台を叩く。
「好きなんでしょ、いつかは言うんでしょ」
「だから何でそれを言うかなミオが」
「じれったいのよ、見てて」
ミオはまた、こっちに背中を向けてアイスクリームメーカーを覗きこんでいる。
ため息をついて、髪をかきあげる。
「……まだね、話したこともないんだよ?いきなり告白とかないよ」
「…じゃあ話せばいいじゃない」
「……うん……」
彼女とは接点がない。もし昨日、教会に行かなかったら、彼女を見る機会もなかったかもしれない。
彼女のことを、どう位置づけていいのかぐるぐる考えているままだ。
気になる、興味がある
その先にはLikeがあるのかそれともLoveがあるのかわからない。
意識せずに、カメラを構えた視線の端に、黒いカフェエプロンが映る。
どきりとして注意を向けた一瞬に、ブーケは投げられてしまい、シャッターを切るタイミングを逃してしまった。
慌ててシャッターを切っても、ブーケはすでに人の手に渡っていて、手にした女性のまわりには人だかりが出来ていた。
はしゃぐ女性をカメラに収めてから、もう一度カフェエプロンの人物を確認するとその人は沙奈さんだった。
ただ一人ではなく、この会場のシェフ御山さんと一緒だった。
二人で話している姿があまりにも自然で、近寄りがたく……声をかけられなかった。
「今度はなに?」
再び、厨房に現れたオレを見て、ミオが声をかけてくる。
アイスクリームメーカーに、ソルベ用の果汁を注いでいたミオは手を止めることなく、動かしていた。
「なにって…オレが聞きたい。沙奈さん、御山さんと付き合ってるの?」
「……さぁ聞いたことないわ」
「一緒にいたよ、さっき」
つい言葉にふて腐れたような音色が混ざる。
「聞けばいいじゃない」
「なんて?」
「付き合って下さい、とか」
「いきなりすぎじゃない…つか…なんでそういうコト言うわけ」
ばん、ミオが調理台を叩く。
「好きなんでしょ、いつかは言うんでしょ」
「だから何でそれを言うかなミオが」
「じれったいのよ、見てて」
ミオはまた、こっちに背中を向けてアイスクリームメーカーを覗きこんでいる。
ため息をついて、髪をかきあげる。
「……まだね、話したこともないんだよ?いきなり告白とかないよ」
「…じゃあ話せばいいじゃない」
「……うん……」
彼女とは接点がない。もし昨日、教会に行かなかったら、彼女を見る機会もなかったかもしれない。
彼女のことを、どう位置づけていいのかぐるぐる考えているままだ。
気になる、興味がある
その先にはLikeがあるのかそれともLoveがあるのかわからない。
Focus 4
ジューンブライドが気持ちのいい季節だなんて、それは梅雨のない外国だと思う。
今にも泣き出しそうな雨雲を頭上に、ブライダルパーティーは始まった。
今回、カメラマンが任されているのは花嫁の支度からで、メイクの終わった花嫁と新郎が顔を合わせるシーンもカメラに収めることになっている。
ウエディングドレスをまとい、きちんと髪をつくり、メイクをした花嫁の姿を、嬉しそうに照れくさそうに見つめる新郎もいい表情をしていて、作り物ではない幸せがここにあった。
ふわふわと逆毛をたてた髪に、真っ白なユリをあしらった花嫁は可愛らしさのなかに、清楚な印象を与える。
ブーケもユリをメインにして、葉もののグリーンをアクセントにして作られていた。
花嫁がブーケを手にする前に、新郎の胸を飾る花が沙奈さんから手渡される。
「こちらの花は、新婦様から新郎様の胸ポケットへ飾ってあげてください」
沙奈さんが用意した花は、花嫁のブーケと同じユリをあしらったもので、生花を飾る新郎も華やかな雰囲気になる。
はにかみながら花をつける仕草をカメラに収める。これから挙式前に庭での撮影をすることになっているのですぐに移動することになる。
沙奈さんは色ドレスに合わせたブーケも用意しいて、そのブーケの水やりについて花嫁に二言三言話しかけ、部屋から出て行った。
彼女の仕事は、ブーケ、教会や会食のテーブルのアレンジフラワーなので式当日は仕事がない。つまり今日はもう会えない。
名残惜しく背中を見送って仕事だから、と気持ちを切り替える。山並さんの代わりとはいえ、任された仕事をきちんとこなせないようでは紹介してくれた礼治さんの顔を潰すことになる。
場所を変えて何枚か取り終えると、挙式の時間になったので、教会まで移動する。
応接室を利用したというその場所は、十分な広さがあり、壁面に作られたステンドグラスの前に祭壇が設えてあった。
祭壇脇にある花と、椅子に渡されたリボンに飾られた花は沙奈さんの生けたものだ。花嫁の支度に合わせて、真っ白なユリが香りを放っていた。
沙奈さんの生けた花は、どこかしっかりと地面に繋がっている気がした。
まるで見えない茎を伸ばして、地面に繋がっているようで、切り取られた花なのに、溢れるような生命力があった。
全てのユリからおしべは摘み取られていて、花粉の心配をすることもない。
これもまたプロの仕事だ。
式はなごやかに進んでいく。写真を撮りながらも、無意識に沙奈さんの生けた花に目がいく。
無意識に花も新婦も綺麗に撮れるように、動いてしまう。
たかが、花と言い切ってしまうには沙奈さんの花は存在感がありすぎた。まだ土に植えられて、生きているように感じられる。
挙式の後は集合写真を撮り、会食になる。隣の厨房から運ばれる料理は、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくサーブされて、変化をつけている。サラダに盛られたドレッシングのジュレがきらきらとして目も楽しませてくれる。小さなヒレステーキにはクレソンの緑が映え、味のアクセントにもなっていた。
会食が進み、デザートになると、場所をオープンエアに移すことになる。
そしてこの場はミオが仕切ることになる。新郎新婦の隣に付き添い、指示を出していく。
白いクロスをかけたテーブルに、フルーツを乗せたケーキが置かれ、最初の共同作業としてケーキに包丁を入れる。フラッシュをたかれる二人を見守りながら、ミオは皿やフォークを用意し、盛り付ける。
新郎新婦が切り出した一切れを食べさせあう脇で、ミオは列席する人に残りのケーキを切り分け盛り付けていく。
一生に一度の大切な時間が、淀みなく流れるように進行していく。
「ミオはどうしてブライダルのパティシエをしてるの」
「きらっきらのお店に並ぶケーキもいいけど、ブライダルは幸せのお手伝いって感じがするでしょ。やっぱりケーキは幸せな気持ちで食べて欲しいし、それを見ることが出来るってのは、やり甲斐があるよね」
おまけ、そう言ってミオの写真も撮ってやる。
「美人天才パティシエの紹介の時に使わせてもらうわ」
にこっとミオが笑うと三日月の目がなくなった。
「自分で美人とか天才って自分から言うなんて有り得ないだろ」
「隠しきれなてないからいいのよ」
「マジありえねー」
ミオと二人顔を見合わせて笑った。
今にも泣き出しそうな雨雲を頭上に、ブライダルパーティーは始まった。
今回、カメラマンが任されているのは花嫁の支度からで、メイクの終わった花嫁と新郎が顔を合わせるシーンもカメラに収めることになっている。
ウエディングドレスをまとい、きちんと髪をつくり、メイクをした花嫁の姿を、嬉しそうに照れくさそうに見つめる新郎もいい表情をしていて、作り物ではない幸せがここにあった。
ふわふわと逆毛をたてた髪に、真っ白なユリをあしらった花嫁は可愛らしさのなかに、清楚な印象を与える。
ブーケもユリをメインにして、葉もののグリーンをアクセントにして作られていた。
花嫁がブーケを手にする前に、新郎の胸を飾る花が沙奈さんから手渡される。
「こちらの花は、新婦様から新郎様の胸ポケットへ飾ってあげてください」
沙奈さんが用意した花は、花嫁のブーケと同じユリをあしらったもので、生花を飾る新郎も華やかな雰囲気になる。
はにかみながら花をつける仕草をカメラに収める。これから挙式前に庭での撮影をすることになっているのですぐに移動することになる。
沙奈さんは色ドレスに合わせたブーケも用意しいて、そのブーケの水やりについて花嫁に二言三言話しかけ、部屋から出て行った。
彼女の仕事は、ブーケ、教会や会食のテーブルのアレンジフラワーなので式当日は仕事がない。つまり今日はもう会えない。
名残惜しく背中を見送って仕事だから、と気持ちを切り替える。山並さんの代わりとはいえ、任された仕事をきちんとこなせないようでは紹介してくれた礼治さんの顔を潰すことになる。
場所を変えて何枚か取り終えると、挙式の時間になったので、教会まで移動する。
応接室を利用したというその場所は、十分な広さがあり、壁面に作られたステンドグラスの前に祭壇が設えてあった。
祭壇脇にある花と、椅子に渡されたリボンに飾られた花は沙奈さんの生けたものだ。花嫁の支度に合わせて、真っ白なユリが香りを放っていた。
沙奈さんの生けた花は、どこかしっかりと地面に繋がっている気がした。
まるで見えない茎を伸ばして、地面に繋がっているようで、切り取られた花なのに、溢れるような生命力があった。
全てのユリからおしべは摘み取られていて、花粉の心配をすることもない。
これもまたプロの仕事だ。
式はなごやかに進んでいく。写真を撮りながらも、無意識に沙奈さんの生けた花に目がいく。
無意識に花も新婦も綺麗に撮れるように、動いてしまう。
たかが、花と言い切ってしまうには沙奈さんの花は存在感がありすぎた。まだ土に植えられて、生きているように感じられる。
挙式の後は集合写真を撮り、会食になる。隣の厨房から運ばれる料理は、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくサーブされて、変化をつけている。サラダに盛られたドレッシングのジュレがきらきらとして目も楽しませてくれる。小さなヒレステーキにはクレソンの緑が映え、味のアクセントにもなっていた。
会食が進み、デザートになると、場所をオープンエアに移すことになる。
そしてこの場はミオが仕切ることになる。新郎新婦の隣に付き添い、指示を出していく。
白いクロスをかけたテーブルに、フルーツを乗せたケーキが置かれ、最初の共同作業としてケーキに包丁を入れる。フラッシュをたかれる二人を見守りながら、ミオは皿やフォークを用意し、盛り付ける。
新郎新婦が切り出した一切れを食べさせあう脇で、ミオは列席する人に残りのケーキを切り分け盛り付けていく。
一生に一度の大切な時間が、淀みなく流れるように進行していく。
「ミオはどうしてブライダルのパティシエをしてるの」
「きらっきらのお店に並ぶケーキもいいけど、ブライダルは幸せのお手伝いって感じがするでしょ。やっぱりケーキは幸せな気持ちで食べて欲しいし、それを見ることが出来るってのは、やり甲斐があるよね」
おまけ、そう言ってミオの写真も撮ってやる。
「美人天才パティシエの紹介の時に使わせてもらうわ」
にこっとミオが笑うと三日月の目がなくなった。
「自分で美人とか天才って自分から言うなんて有り得ないだろ」
「隠しきれなてないからいいのよ」
「マジありえねー」
ミオと二人顔を見合わせて笑った。