灰羽紳士による名言・珍言集 -5ページ目

「蒼き神の再誕」 その六

「もう少し接近してくれないか。社には『何』が祀られているか気になる」


 気が進まなかったが仕方なく言われるまま、社に手が届くぐらいの所まで距


離を詰める。朧げながらも祀られている物体が何であるか見えてきた。それは


水晶だった。球体である事やわずかに見える表面つや等からなんとか水晶だ


と認識出来たが社同様やはり長い年月、海中にあったためその大半を藻のよ


うな海草が茂っている。これもまた失礼ながら御神体としては少々、ありがた


みに欠けるというのが率直な感想だ。まさか、今回『これ』を持って帰るとか言


わないだろうな。考えただけでも罰当たりな話だがあの人なら本当に言いか


ねないから恐ろしい。


「ふむ、なるほど」


 神馬さんの呟きが聞こえてくる。いつ、とんでもない命令が来るのかと考え


ると場所も場所なだけに不安で仕方がない。あと、桜沢が隣にいるのだが余


計な事をしないかとこっちこっちで心配が尽きない。


「桜沢、切石。やはり何も感じないか」


 俺も桜沢も先程と同様に首を振り、質問に対して否定で返事をする。


「よし、分かった。お前ら戻ってこい。明日の朝もう一度来るがおそらく今回は


『はずれ』っぽいな。視覚的にも知覚的にもここまで感知出来ないならこの場


所はおそらく『シロ』だ」


 珍しいというか初めての事なので少し驚いている。つまり無駄足というわけ


だがここまでの装備を揃えて、何もありません……あり得るのか?我ながら


なぜ、そんな事を考えるてしまうのか不思議だった。普通に喜ばしい事だろう


が。しかし、なんなんだこの腑に落ちない感覚は。俺は何か厄介事を期待し


ていたと?そんな馬鹿な。


 思わずそんな思考を振り払うように首を左右に振る。桜沢が先行して帰還


の途についているのが視界に映り、慌ててそれについていく。


 海から上がると神馬さんは笑顔を浮かべながら、労いの言葉と共に。


「まっこんな事もあるさ。明日、念のためにもう一度潜るがそれで何も発見出


来なければ楽しい楽しい、自由時間としようじゃないか」


 そう言いつつ水上に後片づけを指示し、蔵森さんには港へ引き返すように


言うとそのまま何やら考え込み始め、そこからは何を話しかけても適当に返


されるだけだった。


(続く)

「蒼き神の再誕」 その五

「おい、聞こえるか」


 初めてのスキューバダイビングに少々ね面食らっていたところに耳に装着し


ているインカムから神馬さんの声が聞こえる。装備的にこちらから返事出来な


いのだがっていうかその事は神馬さんも知っているだろうに。


「ああっそっちから返事出来ないんだったな。じゃあいいか。お前らそのままと


りあえず前、方角で言うと南西方向へ進んで。すぐにでかい岩みたいなのが見


えてくると思うから」


 指示内容を聞くと俺と桜沢は視線を合わせお互いにうなずく。『ついてきて』の


ジェスチャーをした後、桜沢は体の向く方向を変え、指示の方角へ進み始める。


 俺も少し慌てつつそれについていく。


 しかし、学校のプールで何度か練習したとはいえ、やはり本物の海だと妙に感


覚が違うような気がする。さすがに南の海のような様々な海洋生物が見られる


事などははなから期待していなかったがしかし、本来の海とはここまで生物が


いないものなのだろうか、魚の姿などが全く見えず、それなのに海水そのもの


は妙に澄んでいて視界はすこぶる良好。なのに、そうまるで生物感がなくまる


ででかい水槽で泳がされているそんな気さえする。


 そうこう考えているうちに目的の場所に到着する。それは本当にまるで岩がそ


こに生えているようにそれは存在した。高さは五メートル山なりの形状をした、そ


の岩は外観上は自然物のようにも見えるのだが何も存在しなかった海底にそれ


だけがポツンとたたずむ様は何かの意図がとも考えられた。


「よし、到着したな。その岩のどっかに祠みたいになっている所があると思うから


それを捜して。くれぐれも見つけても指示があるまで触るなよ」


 いや、言われなくてもそんな得体の知れないモノに誰が触るか。


「特に桜沢。絶対触るなよ」


 ああっこいつは触るわ。


「ああっ後、少しでも違和感を感じたら、知らせて。カメラからこちらもチェックし


ているとは言ってもカメラ越しではどうしても感知し辛いからな」


 まぁそうならないように祈るわ、マジで。


 ほどなくして祠を発見、同時に社らしきものも見つけるに至った。話だけ聞い


ているどれだけ大層な神社かと思っていたが失礼な話、それはかなり粗末な


ものだった。一応、社の体は成しているがボロボロの上にとても小さく、その辺


の道端にある名もなき社にすら劣る代物であった。長く海中にあったことや場


所的な事も考慮にいれれは、仕方がない事かも知れない。ただ、この辺り一


帯の自然を司っていた神と聞かされていたので少々、拍子抜けだ。


 確認のため、桜沢のカメラに向かって、『これ?』のジェスチャーを行う。


「うん、それそれ。やっぱり痛んでるわね。何か違和感とかは?」


 俺と桜沢返事の代わりに首を振って返事をする。確かに妙だとも思える。い


つもならばこういう場所に来た場合、周辺の霊子が濃いせいもあり呼吸の際


違和感を感じたりするのだが水中にいるせいか今回はそういう感じが全くしな


い。海の状況に違和感は感じるが感覚としての違和感は感じられないそれが


現状だ。もしかして俺達が気付いていないだけなのか。そんな嫌な思考が頭


を過ぎった。


(続く)


「蒼き神の再誕」 その四

「何をしているんですか?」


「ん?切石か。見ての通り、下準備だ。もしかしたらって事もあるからな、水中


用簡易結界とちょっとした自動迎撃霊具をこの辺に撒いてるところだ」


 神馬さんの手は釣りの球場の浮きとビー玉のようなモノを手に持っていた。


「いろいろ、あるんですね。準備してもらうのはいいんですけどそれってやっぱ


りそういうモノが出てくる可能性があるからやってるって事ですか」


「お前はまたそうやって悪い方にすぐ考えるなぁ。何もしなかったらしなかった


で文句いうクセに。心境は分からんでもないが少しは信じろよ」


 神馬さんはやれやれといった感じで呆れた表情を見せ、作業を再開する。


 そう言われると少々、状況に過敏に反応し過ぎかな。自己嫌悪で少し気ま


ずい気分になる。


 準備が整い、いよいよ潜る直前となる。さっきまで晴れていた空が徐々に


曇天の様相を呈してきて、さら俺の不安を煽る。


「よし、準備は出来たな。今からミッションをスタートする。今回の対象物は


事前に知らせた隠し神社こと『蒼竜神社』。その外観の確認と周囲の霊的現


象の有無の確認。命令は基本的にこちらから出すわ。何か質問は?ないな


ら始めるぞ」


 潜る準備をしていると目の前に水上がいるのに気付く。一応はウェットスー


ツを着てはいるが今回はこいつは潜らない。


「いつもとは逆だな。こういう斥候役はお前が多かったんだけどな」


「まぁな。何もなければ今回の依頼、俺はただいるだけの存在になっちまう」


 今回の水上の役目は所謂、保険というやつだ。万が一俺達に何かあった


場合状況に応じて助けに行くという絶対起こって欲しくない事態に陥った時


初めて水上に役割が発生する。つまり何も起こらなければ彼は暇というわ


けだが桜沢と違って別に揉め事や戦闘を進んで行うタイプではないと認識


しているのだがやや、不満そうな表情の水上を見ると自信の認識にやや疑


問を持つ。


「やっぱり、いやか?」


「まぁな。別に戦闘とか危険うんぬんはどうでもいいんだ。戦闘担当である


俺が出ないことはいい事だからな。けど俺がここにいる理由は……」


「おい、いつまで喋ってるんだ。さっさっとしろ。そういう話は後で旅館ででも


しろ」


 水上の少し、寂しそうな雰囲気が気になったが神馬さんの一喝により、い


よいよ本当に潜らなければいけないらしい。我ながら往生際の悪いことだ。


このまま水上と会話しててもよかったのだがそうもいかないらしい。


 俺は覚悟を決め、隣にいる桜沢と一瞬、視線を合わせるとお互いうなずく。


それと同時に桜沢がまず水中へ、俺もそれに引っ張られるような形で海中


へ飛び込む。


 水の冷たさに少し驚きつつも自分を落ち着けさせ、すぐに桜沢を視界に


捉える。さぁ、ミッションスタートだ。


「蒼き神の再誕」 その三

 港に着き、俺たちはとりあえず車から降り、辺りの風景を見回す。夏の日差


しf厳しいが潮風がそれなりにある。そのせいかそれほど暑さそのものはそれ


ほどでもない。


 港のわりには船や人影がほとんど見られず、俺らが乗るであろう漁船が一


隻とその操縦者であろう人物がこちらへ近づいてくる。


「この方が今回、調査地点までの案内人兼漁船の船長の蔵森 久人さんだ」


「どうも、みなさんこんにちは。今日はよろしく。で、姐さん、どうします。長距離


の移動だったわけですし、少し休憩でも?っと言っても近くには喫茶店ぐらい


しかありませんが」


 この蔵森 久人という男は年齢は見た感じでは二十代後半から三十といった


ところか。浅黒い肌や筋肉質な腕などからいかにも漁師っぽい人だなとは思


ったが地元の漁師がこういう調査に協力してくれるのはちょっと意外だと思っ


た。漁師のイメージとしてこういうオカルト的なものに信仰が深いとか思ってい


たのだが若いからだろうか。


「いえ、結構です。すくにかかってもらえますか」


「オーライ。じゃついて来て」


 正直、少し休憩したいところだったのだが、まぁ面倒事はさっさっと片付けた


いって気持ちもあるため別にいいが。


 心地よい潮風と共に沖合に浮かぶ漁船。見える陸の大きさから考えるとそこ


まで沖には来ていないようだ。


 俺は潜水の準備を桜沢としながら不安を募らせる。対して桜沢はというと鼻


歌交じりに計器類をチェックしている。こいつは変わらないな。


「なんで、そんな楽しそうなんだよ。水中だぞ。最悪、逃げ場もないっていうの


になぜそんなに楽しそうなんだよっていうのは聞くだけ無駄か?」


 ちょっと皮肉っぽく言ってみる。


「いや、私スキューバダイビングって初めてでさ。お前はそうじゃないのか?」


「ここが沖縄とか南の島だったらな。こんな日本海のど真ん中で潜水して何が


楽しいんだよ。しかもなんか『出る』可能性があるんだろ。最悪、溺死する可能


性だって。溺死だぞ。絶対したくない死に方ベスト五に入る死因だ」


「お前は考えすぎなんだよ。今まで大丈夫だっだろうが。神馬さんもその辺は


重々、承知しているはずさ」


 毎度、毎度の事ながら、神馬さんの事を信頼し過ぎなような気がするがなぜ


こいつらはそこまで信じているのだろうか。俺的にはどうも何かわ隠している


ような気がしてならない。


 そんな風に考えながら、俺は船室を出るそこには海に向かって何かを撒く神


馬さんの姿があった。

「蒼き神の再誕」 その二

「切石、そう深刻そうな顔するな。お前は何事も悪く考えすぎだ。もっとプラス


思考でいかなきゃ、そのままだとお前、成人前に禿げるぞ」


「いや、誰のせいでっていうか、今までの結果とかから顧みてそう考えない方


がおかしいですよ」


「今回は除霊は依頼内容には含まれていない、ヤバそうだったら報告書に『や』


『ば』『い』の三文字を書いてやって、依頼人に渡してやればいい。なにもなくても


同様だ。あとは近場の海水浴場で夏休みを満喫してもらえばいい。私や要の豊


満で傲慢な水着姿が拝め、お前たちにとったらむしろプラスの材料の方が多い


だろ?」


 いや、そういう問題じゃなくて、マイナスの方が圧倒的に勝っててとてもそういう


気分にはなら……


「神馬さん! なぜ、今の話題から私を外したんですか」


 突っ込むとこそこかよ。


「いや、そのお前はそのなんだ、頑張れ」


「どういう意味ですか」


「まぁ、そのなんだ。そういう需要もあると思うよ。なぁ、切石」


「いや、そんな事、振られても俺はどう返せばいいんですか」


 っていうかなぜ俺に振るんだよ。


「もう、切石君。分かってるくせに」


 バックミラーにはおもしろそうにニヤニヤしている神馬さんの顔が映っている。


 うぜぇ。別に桜沢に対してそういう感情は……なくもないが……


「そうよ。切石、お前はどうなの。こんな私ってどうなの」


「わけわかんねー質問するなよ。別に俺はどうでもいいよ、そんな事」


「ちゃんと答えなさいよ。貧しい私ってどうなの」


「あっ俺はどっちかって言うと手の平に納まるぐらいがいいっすかね」


 隣でずっと黙っていた水上が真顔でいきなり答え、俺と桜沢は急に喋った水


上の方向に顔を向けたまま、数秒固まる。


 たまにこいつは突拍子のない発言するなぁ。


「うん。っていうか水上を見習いなさいよ。男ならハッキリ言いなさいよ。で、切


石はどっち貧乳派、巨乳派?」


「それ、どう答えても俺は変態みたいになるだろうが」


「いいね、いいね。青春だね。そういうわけだから面倒事はさっさっと片付けて


お楽しみタイムへの突入するべく、お仕事頑張りますかっていうか、がんばれ」


 俺たちのやりとりがおもしろかったのか、それとも余裕なのか、笑顔を見せつ


つワゴン車は停車する。目的地の海岸へと到着したらしい。


 車酔いのせいか、不安のせいかどちらが原因かは分からないが妙に吐き気


を覚えた。

「蒼き神の再誕」 その一

 夏の暑さで目を覚まし、ダラダラと惰眠をむさぼる日々。夏休みには入った


が別にそれはさしたる変化になるわけでもなく。休みなのは確かに嬉しいが


趣味の読書もそんな長時間は読まないし、遊ぶ友人も正直、そんなに多く


ない事もあり、俺は五日ほどで既に夏休みに飽き始めていた。部活の方も


依頼があれば召集がかかるらしい。そう聞かされた時は夏休みの間、そん


な連絡が一切、来ないことを切に願った。予想では意外と頻繁に召集され


るんじゃないかなと思っていた。


 しかし、そんな連絡は全くなく、なんの音沙汰もないまま一週間が過ぎた


ある日、俺は一抹の寂しさと持てあました暇に負け(何か、起きねぇかな)と


一瞬、思った直後だった。俺の携帯電話がけたたましい音と共に着信を知


らせたのは。


 車窓から海が見え、美しくそして夏を感じさせる景色が広がっている。こう


いう状況でなければ、歓声のひとつも出ただろうがとてもそんな気分にはな


れない。はずなのだが前の席では桜沢が一人、テンションを上げてはしゃ


いでいる。


「おお、凄い。海よ、海。要、いよいよ来たって感じだねぇ」


「ええ、そうね。潤。ただ、一応、依頼で来てるんだからそれだけは忘れない


でね」


 森先輩はそう言い終わると桜沢の方向に向いていた視線を膝の上にある


ノートパソコンの画面の方へ戻す。


「分かっているわよ。相変わらずだな要はまぁ安心してよ。その件を含めて


のテンションが今の私ってわけだから」


 こいつのそういう所も相変わらずだな。っていうか結構な時間を社内で揺


られていたにも関わらず、この元気さはどこから出てくるんだよ。俺も車酔


いする体質じゃないはずだがさすがにちょっと胸の辺りが気持ち悪い。+厄


介事を目の前にして気分は正にストップ安。最悪だ。


「今回の件はあくまで確認作業が主だから、そんなに警戒しなくてもいいと思


うぞ」


 そう軽い感じでムードを和らげようと運転席にいる神馬さんが声を掛けるが


それをはい、そうですかヤッホーっとなる程馬鹿ではない。


 今回の依頼内容は先程、神馬さんが言っていた確認作業。所謂、曰くつき


の場所がありそこが本当に安全な場所かどうか、霊視的観点から確認する


という内容だ。なんでもこの地域にある海中、しかも酸素ボンベが必要なレベ


ルの深度に隠し社のようなモノがあり、そこへ俺と桜沢がスキーバダイビング


するというミッション内容らしい(そのためここ数日、学校のプールでスキュ


ーバの真似事をさせられた)


 想像しただけで胃が痛くなりそうな内容だ。水中でもし、そこに『本物』がい


たらどうする気だ。水中だぞ?逃げ場ないんだぞ。


 そんな俺の不安をよそに車は目的の場所へ向けて疾走する。


 




「誘う刀」 その7

7 しかし、俺の手のひらに走った感触は予想していた金属の冷たいそれで


はなく。全くそれとは逆のベクトルの感触。やわらかく、そしてその弾力の


ある『それ』は俺の人生で覚えのない感覚が脳内に走り、先程まで刀しか


見えていなかった視野狭窄のような状態も解除され、思考も正気に戻され


る。落ち着いて目の前を見るとそこには俺の手をつかみ、自らの胸に俺の


手を押しつけている森先輩が顔を赤らめてそこに立っていた。


 俺は状況を飲み込めず、混乱する。


 一体、何が起こったんだ。


「おい、切石」


 いきなり横から桜沢の声が聞こえ、驚きと同時声の方向へ向く。


「けじめだ。歯ぁ食いしばれ」


 そこには拳を振り上げる桜沢が視界に入る。


(グーかよ)


 殴られる刹那、俺はなんとなくそう思う同時に右頬に衝撃が走り、のけ


ぞりながら、倒れる。もちろん痛いし、なんか泣きそうだ。なぜこんな目に


遭わなければいけない。


「ふぅ、まさか相手を選ぶ妖刀とはね。予想外だったわ。切石、大丈夫」


「てめぇで殴っといてよく言うよ。ったく」


「だって、あんた要の胸揉んだじゃない。女子の胸を揉んどいて、ただで


済まそうなんて、要が許しても私が許さないわ」


「元凶はお前の持ってきた刀だろうが」


「それは確かに悪かったとは思うけどそれとあんたが要の胸を揉むのは


別問題でしょ」


「なんで俺が揉みたくて揉んだみたいな話になってんだよ」


「じゃああんたは要のあのわがままボディを揉みたくないっていうの?そ


れこそ失礼じゃない」


「もういい。黙れバカ」


「はい、ストップ、ストップ。二人共落ち着いて」


 俺達の間に森先輩の体が割って入り、一旦、会話を打ち切る。


「私の事はとりあえずいいから。問題は刀の方でしょ。潤」


 落ち着いた瞳で桜沢を見据え、語りかけ、場のテンションをクールダ


ウンさせる。


 三人共、一旦さっきまで自分の座っていた位置へ戻り、茶を淹れなお


し、一服すると俺は今回の事の顛末を話し、この刀がヤバい刀だという


ことを改めて再認識し、刀をどう処置するかの話題となった。


「うん、まぁそうだけど妖刀って確定しちゃった以上は神馬さん預かりだ


ろうけどな。一応、簡易式の封印札を貼っとくか」


 桜沢はポケットからいつもの札を数枚取り出すと次々と刀に貼ってい


く。


「っていうか最初からそうしとけよな。危ねぇ」


「そう言うなって。仮にお前があのまま刀を取ったとしても『放課後の血


の惨劇とはならなかったさ。刀身が抜けないように細工してあったしな」


「ったく」


「けど今回の一件でひとつ分かった事があるぞ」


「?」


「若人のエロの力は本能の殺戮欲すら凌駕する。どうだ大学の論文に


もなりそうな結論だろ?」


 俺と森先輩顔を見合わせる。森先輩はあきれた表情をしていたがお


そらく俺もしているだろう。


 とりあえず、帰りたくなった。



「誘う刀」 その6

(君が私を扱う資質のある人間だからだよ。現に私の声が聞こえているだろ?


しかも君にだけだ。)


 確かに。桜沢や森先輩が全く反応していない。


(まぁ考えておくよ)


(随分とアッサリした反応だな。あまり興味がないか)


(いや、正直ないわけじゃないが、俺はまだあんたを信用していないんでね。


後でその手の専門家が来るんでね。その人に鑑定してもらって、話はそれ


からだな)


(慎重な事だ。いや、単に臆病なのか)


(いや、あんたどういう経緯でうちにいると思ってるんだよ。普通に考えたら


警戒するに決まっているだろうが。それとも何か? あんた、調べられるとヤ


バい要素でもあるのかよ)


 なんか普通にこうやって脳内で会話しているがよく考えたらこれすげぇよ


な。俺もなんでこう平然としてるんだか。


(ふむ。そこまで阿呆でもなかったか。学生なのでもしかしたらと思ったがな


かなかどうして)


(もう少し営業トークってヤツを学んだ方がいいんじゃね? あれじゃ、その辺


ガキも引っかからない。後、本性だすのも早過ぎるだろ。もう少し、粘れよ)


(なに、ほんの余興だ。気にしないでくれ。『こういう』誘い方をした場合人は


どういう反応するかなっていうね。もう少し面白い反応を期待したのだが……


最近の若者ってのは皆、こうなのか)


(どうかな)


 なんか、よく分からないがとりあえず現状を桜沢にすぐ話すべきだと本能的


に察知し、桜沢に声を掛けようとする。が少し遅かった。


(君の反応はおそらく正しい。ただ、結果は変わらんがね)


 急に金縛りのような状態になり声も出せなくなる。そして得体の知れない『な


にか』が俺の思考を侵食していく感覚。そしてそこから溢れ出るはドス黒い感


情。それは俺の意思ではない俺の意思。ならば、今の俺がやろうとしている事


は俺の……


(妖刀っていうのは普通、邪気を発し、手にした者を狂わせる)


 『普通の妖刀』ってなんだよ。って突っ込みたかったがそんな余裕はどうやら


なさそうだ。このドス黒い感情は間違いなく『殺意』しかも対象は……桜沢か。


(だが私ほどのレベルになれば触れずともしかも『対象』を限定して狂気に誘う


事が出来る)


 くそっ、ダメだ。まるで心の奥底から無理矢理、引きずり出されたその殺意は


俺に目の前の刀で桜沢を斬れと命じてくる。ただ斬るだけじゃだめだ。嬲るよう


に弄ぶように。殺意と共に強烈な嗜虐心。これは一体。


 俺はそんな事を考えながらも立ち上がり、ただ一点を見つめる。その先にあ


るのは妖刀『冥月』。ゆっくりと歩を進め、一歩また一歩、刀へ近づいていく。


それに比例するようにますます強くなっていく殺意。最早、俺に抗う術はなく殺


戮劇の開幕を知らせるブザーは今、まさに鳴ろうとしている。そして俺は今、目


の前にある刀に手を伸ばし……





「誘う刀」 その5

 部室の違和感からこの急展開だったため、気付かなかったがあれは何だ。


どう見ても刀だがなぜ、こんな所に? 普通に考えればなんらかの曰く付きの


モノと考えるのが妥当か。だが何も施さずに部屋に転がっているのがよく分か


らない。そういうヤバいモノなら札のひとつでも貼って然るべきなのだが。


「なぁ、桜沢。あの刀はなんだ」


 俺は隣で自分の作った炒飯を無視し、茶を啜る桜沢に声を掛ける。


「ん? ああ、あれ? 一応依頼品だよ。知り合いの骨董商からの依頼でね。


その骨董商が言うにはその業界では有名な妖刀らしいわ。持っていても、不


幸になる。捨てても、不幸になる。そしてそんな刀だ、誰一人として受け取っ


て貰えない」


「なんか呪いの武具みたいだな。あの装備したら外せないっていう」


「それに近い側面はあるわ。要するに所有者が死ぬまでその者の物として


あり続ける。正に妖刀ってわけ。まぁどこまでが事実でどこからがたまたま


なのかは分からないけどね」


「見た感じでは俺には何も見えないな」


「私も一緒よ。何の変哲もない刀にしか見えないわ」


 珍しく意見が一致する。何もないならそれに越したことはないのだが桜


沢のやや、つまらなそうな表情から意見は一致しているが思考回路は全


く逆のベクトルなのだなと思った。その点に関しては俺も彼女に対してど


うあるべきなのだろうか。


 そんな事を考えているとふと妙な事に気づく。刀の柄の部分に目のよう


な物がある。さっきまでなかったような……装飾か?


(おい、お前)


 急にここにいる誰でもない者の声が聞こえ、驚愕のあまり、体が硬直


する。


 桜沢と森先輩は何やら別の話をしているらしく、こちらの変化には気づ


いていない。恐怖のあまり、声を掛けようとした次の瞬間、またその声が


聞こえる。


(おい、少し落ち着け)


 いや、これは『聞こえる』というよりはもっと違う、そう、聴覚を通さず直


接、脳に語りかけられているようなそんな感覚。


(聞こえているなら、返事をしてくれないか。反応から察する。聞こえて


いると見受けるが?)


(だったらなんだっていうかお前誰だ)


 とりあえず、冷静を装い、思った事を念じてみる。


(私は冥月。見ての通り刀だ。君の名も聞いておこうか?)


(切石 クロエ。で何か)


(お前、私の相棒にならんか)


(いや、いきなりなんだよ)


(そうであったな。順を追って説明しようか。私は所謂、霊刀というや


つでな。こうやって意思も持っている。付喪神は知っているか)


(まぁ物が何年か経つと物に魂が宿るとかいう、あれか)


(そうだ。簡単に言えば俺は意思を持ち、霊体を斬る事の出来る刀


というわけだ)


(で、その霊刀さんがこんな俺になぜそんな話を?)


 既に胡散臭いとは思うがとりあえずもう少し聞いてみようとなんとな


く思いこの会話を続ける。

「誘う刀」 その4

 目の前に置かれた以上は当然食べなければいけないわけだがいかん


せんこの見た目だ。食欲はみるみる減退していく。ダイエット食品として


はいいかもしれない。


「さぁ食べて、食べて♪」


 嬉しそうな桜沢を後目に俺は森先輩と目を合わせ、あ互い、覚悟を決


める。蓮華でその謎の青い炒飯をすくうと心の中で気合を入れ、一気に


口へ運ぶ。


 食った瞬間に口内から鼻孔へ強烈なチーズの風味が貫く。


(なんだこれは……)


 味は完全にチーズが支配しており他にもおそらく何か入れているのだ


ろうがその全てがほとんど消失してしまっている。そしてなぜかご飯その


ものがかなり水分を含んでいて、おおよそ、それは炒飯とは呼べる代物


ではなく。どっちかというと感じ的にはリゾットに近いだろうかリゾットに失


礼だが。というかリアクションに困る味だ。食べれなくもないが決して美味


しくない。


「微妙だな」「微妙ね」


 俺と森先輩発した料理の感想、第一声がハモるように室内に響く。俺は


料理を租借しながら、残っている、自分の分のその炒飯(自称)を見て、さ


らにゲンナリする。


「それ、どういう意味?まぁまぁってこと?」


「いや、お前、ポジティブに捉え過ぎだから。ぶっちゃけあんまり美味しくな


いっこと」


「マジで! ? っていうかお前、意外とはっきり言うな」


 そう言いながら桜沢は自分の分の炒飯を食べ始め、ゆっくりと味わいな


がらわずかに表情を歪める。


「これは確かに微妙だな。色々、入れたのにチーズの味しかしないし、ベチ


ャベチャしてるし。おかしいなぁ何回もフランベしたのに」


「いや、フランベってそういう目的の調理法じゃないから、その時点でアウト


だよ。まぁ次は水上にでも付いて貰って作ったら?」


 俺はそう言いながらとにかくその炒飯をただひたすら口へ運ぶ。このまま


食べずに捨てるのはなんか抵抗があったのでとりあえずよそわれた分は食


べようと試みてはみたが、これは凄い、食べれば食べる程不味くなっていく。


舌の上に苦みを覚え始め、軽い車酔いみたいな感覚を覚える。どんな料理


だよ、全く。


「おおっ! なんだかんだ言いながら食べてるね、切石。意外とアリ?」


「ねーよ。限りなくアウトに近いアウトだよ」


「それってただのアウトじゃん」


 面倒臭せぇ。そんな事を心の中で呟きながら森先輩の方へ視線を向ける


と炒飯には手をつけず、なぜかこちらを見てニヤニヤ笑っている。


「なんですか」


「いや、別に。ただ今の君は見ていておもしろいよ。料理は不味いが」


「要まで。そこまで不味くはないでしょう」


 自分の分をなんとかクリアし、お茶を飲みながら口内を洗浄する。やれ


やれと一息つき、部屋全体を視界で巡らせると部屋の片隅に刀が置いて


あるのが目に入った。