灰羽紳士による名言・珍言集
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寝るな。

 会社で今日、年一の面談があり、無事五千円昇給となったやったぜ。とりあえず寝るなと言われた。それ以外は高評価らしい。

 昔から慢性的な寝不足もあるが眠くなる。カフェインも効くには効くけどだいぶ耐性出来てる気がするし、どうしたものか。ライフスタイルを改めるか、何か対策するか。さてどうしたものか。

変人

 自分はスポーツは見るのもやるのも好きで昨日はサッカーをテレビで観戦し、

今日はジョキングをしたりする。

 野球はヤクルトが好きでサッカーは京都サンガが好きっていう兵庫生まれで

現在大阪に住んでる人間とは思えないチョイスに我ながら変人だなぁと思う。

 昨日、京都は引き分けで今日ヤクルトが負けた事で今週は頭からテンション

が上がらない話ではある。基本勝ったら喜び、負けたらスルーのスタンスを心

がけてるんだけどやはり難しい。なんか腹立つし、もやもやする。

 ジョキングは最近始めたんだがひとりだと多分続かないのでそういうサークル

に入ったんだけどなんか誘われてフルマラソン走る事に。人生はわからんね。

なんとなく

 なんとなくだがここでブログを書いてみようと思う。誰も見に来ない前提でとりとめもなくただ、ただ、思いついたことを書いてみようと思う。

 書かなくなってから六年経つがわざわざこんな黒歴史の博物館みたいなとこで書かなくてもとも思うがせっかくあるのだから使ってみたいとなんとなく思った。

嗤う遊女 その4

「はぁ?」

 俺は一拍、置き思わず頓狂な声を上げる。どういう質問だ。面接の続きか?

いや、違う。じゃあこの質問の意味は? 落ち着け絶対意味があるはずだ。と

にかく冷静にと自分に言い聞かせる。

「一応、信じてますかね。全面的に肯定するわけではないですけど全否定す

る程でもないっ程度ですかね。そういうよく分からない不可思議な現象って

いうのは少なからずあるでしょうよ」

「随分と曖昧な回答ね。割と一般的な回答とも言えるけど君の場合は」

 彼女はそう言いかけるとゆっくりと立ち上がり、後ろを向くと床の間に飾

ってある日本刀を手にした。俺は思わず身構え、前掲気味に立ち上がろうと

した瞬間、右手を何者かに捻りあげられたと同時に背中にとんでもない重量

がかかる。そのまま畳に組み伏せられる。腕を捻られているため全く動けな

い。自分の背中に視線を走らせるし自分の背中に乗っていたのは先程から出

入りしていた仲居だった。

「ちょっと! おい、どういう事だよ。これ」

 思わず叫び、もがくも右腕がきっちり極まっており動けない。無警戒だっ

たというかいたのか気配が全くしなかったため、いとも簡単組み敷かれてし

まった。

「いい働きよ、翠」

「てめぇ! 」

「怒らない、怒らない。こうでもしないと君は私に指一本、触れる事すら許

してくれないでしょ?」

「当たり前だ、バカ! こんな事してくる奴に近づく事すらさせるか」

「でしょ? だからこうしてちょっと取り押さえさせてもらったわけ。オッ

ケー?」

「全然、納得いかねぇ。つーか前提条件がすでに……」

「はいはい」

 俺の言葉を流しながら、刀を床の間に戻し、こちらへ近づいて来る。さら

に無理矢理動こうと試みるが翠とか言う仲居はそれに反応してさらに肩の関

節を曲げてはいけない方向に傾け、痛みで俺を制する。詰んだか。

「そう、睨まない睨まない。私がこれほどまでに君という人物を求めるのか

一番分かりやすい形で示してあげるんだから。えーと一番分かりやすいのは

……やっぱ味かな。おい」

 女は俺の目の前に腰を下ろし、正座する。そして俺の顎を鷲掴みすると持

ち上げ無理矢理、視線を合わせ、顔を近づけてくる。近づいて来る顔は見れ

ば見るほど美しく魂をへし折るような妖艶さは俺の直感がやばいと警告を告

げる。俺は焦り、慌てて顔を逸らそうとするも顔を掴まれていて、体も拘束

されていては何もできない。

「あっ」

 俺がそう声を上げると同時に女との唇が重なり合う。強引に舌を差し込ん

でくると数秒、俺の舌を蹂躙した後離れる。顔全体が熱く、頭もどこか呆け

てしまい、うまく思考する事が出来ない。

「ふっ、この程度の事で心ここにあらずとはまた随分と青いわね。初々しく

て面白いからいいけど」

「この行為に一体、なんの意味が?」

 俺は顔を上げ、女を睨みつけようとするも興奮しているのか、それとも混

乱しているせいか、視線に力が入らない。

「百聞は一見にしかずってね。口頭でごちゃ、ごちゃ言うよりはこっちの方

が早いのさ」

 そう言うと女は背後にある戸棚から何やら小さい壺を取り出す。不安しか

ないのだが依然、拘束されている状態で何も出来ない。

 女は壺の蓋を開けると指を入れ、中から得体のしれない物を取り出し、俺

に見せる。よく見るとそれは梅干しで自家製なのか、妙に色が鈍く、暗い色

をしていた。
 
 女はその梅干しをよく俺に見せつけ、そして自らの口へ放り込んだ。

 驚愕、混乱。俺の口の中に強烈なすっぱさが突然、広がり梅の香りが鼻孔

を突き抜ける。事態に俺の頭の処理能力は完全に置いてけぼりを喰らい、思

考が停止する。

「おおっ、よしよし。予想通りの反応ね。わけがわからないでしょう? よし

翠、離してあげて」

 背中にかかっていた重さが消え、拘束がとかれる。

 俺は口を押え、必死に思考を巡らせる。

 手品? しかし、どうやって? 未知の技術? 薬品? 口づけ時に何かを?ク

ソッ、分っかんねぇ。

「共感覚」

「ああっ?」

「私の能力って言うと一気に嘘っぽくなるから嫌なんだけどね。ある一定条件

を揃える事で感覚を共有出来る。私はそういう能力の持ち主なの」

 信じ難い。そんな事あるはずが……しかし、今起こった現象は紛れもなく現

実? いや、待て待て、こんなもん手品に決まっている何か仕掛けがあるはず。

そう自分に言い聞かせ、とにかく冷静であろうと意識する。

「はっ、騙されるかよと言いたいところですがこちらも否定できるだけの根拠

もないから百歩譲ってあんたの話を信じるとしよう」

「実演してみせたのに、見かけによらず意外に頑固ね」

「その共感覚っていうのは味覚以外も共有出来るんですか」

 とりあえず情報を引き出し、矛盾点や正体を探ってやる。

「一応ね。六感全て共有する事が可能なんだけど部位をあまり増やすと受け手

側への負荷が増えるから一つから二つ必要部位のみにする必要はあるかしら」

「負荷? 」

「あんたがさっきこちらの作った飯を食って七転八倒してたでしょ。あれが負

荷食べる量を増やせば共有出来る部位も増やせるけどやっぱり全く同一の魂魄

ってわけじゃないからどうしても拒絶反応が出ちゃうのよね」

「魂魄? 拒絶反応 ? あんた何を言っているんだ」

 普通に聞くに堪えないような妄言の連発。本当に頭がおかしくなりそうだ。

「さっきの君が食べたあの料理。あれには私の魂魄が練りこまれているのよ」

(続く)

嗤う遊女 その3

「もう一丁、お願い」

 何を? と思うよりも早く脇腹に強烈な衝撃。

「があ゛ぁっっ」

 脇腹に走る重い鈍痛に悲鳴と共に息を吐き再びのたうつ。

「いいわねぇ。その悲鳴に苦悶の表情にもがく姿……そそるわぁ。あと何回くら

いいけるのかしら」

 俺の思考は既に停止し、痛みと焦燥が脳内を支配し、混乱へと誘う。だが直感

的にこのままでは死ぬかもと認識し、過去の俺の経験が反射的に俺を立ち上

がらせ、女に対し迎撃の姿勢を構える。だがダメージは深刻で立ち上がっては

見たものの視界は虚ろで足にもかなりきており、構えてはみたもののそれは虚

勢以外の何物でもなかった。

「あら、もう? 残念ねぇもっと見たかったのに」

 女はそう、つまらなそうに呟くと踵を返し、自分が先程まで座っていた場所に

戻りゆっくりと振り返ると静かに腰を下ろす。

「合格よ。おめでとう、五百蔵君」

 女は残念とやれやれといった態度で小さく息をつく。

「合……格?」

「そう、明日から来てくれるかな。しばらくは試用期間みたいになると思うが問

題なさそうなら本採用としましょう。質問は?」

「ふざけるな」

「今、なんて」

「ふざけるなと言ったんだ。毒を盛られ、挙句の果てに追い打ちまでかけてくる

職場に誰が就職するかよ」

 おれは息も絶え絶えながらもいきなり採用発言に思わず怒りを露わにするも

肉体は既に限界であり、多少の安堵もあったのか俺はそう叫びつつも膝をつく。

「そりぁそうね。私でもそんな仕打ちをされたら怒るし、君の言い分も至極まっ

とうだ。そこで私は君に冷静に話を聞いてもらうためにちょっとした魔法を使お

う。翠あれ持ってきて」

 再び背後の襖が開き、先程の仲居が一礼し、中へ入ってくる。手にはアタッシ

ュケースを持っており、俺のとなり置くとそのアタッシュケースを開け、中身を

俺に見せる。そこにあったのは予想はしていだが金だった。そうアタッシュケー

スに隙間なく詰められた金だ。パッと見だが二千万くらいか?

 正直、金の問題ではないと考えていたが目の前にするとさすがに意思がブレ

る。

「ふっ、なかなか正直な反応ね。敵意と警戒心が揺らいだのが一目で分かる

わ。その金はいわゆる迷惑料といったところね。もし、ここで働いてくれる

ならそれを進呈しようって話。どう?話だけでも聞いてはくれない?」

 俺は大きく息を吐くと崩れるようにゆっくりと腰を下ろす。

「仮に俺がそれでもここで働くのを拒否した場合は?」

「その場合はそうね、一千万程持ってお帰りいただく事になるけど君は今日いろ

いろ知っちゃったからね~~君。出口までたどり着くまでに神隠しに遭うって事

もあり得るかもね。何しろ古い建物でね、そういう妙な噂には妙な噂に事欠かな

いわけでそれでも帰るっていうんだったらどうぞ、お引き取りを」

「随分、露骨に脅迫してきますね」

 つまり、事実上雇われるしかないって事か。やっぱりしくったな、俺。仕方が

ない。とりあえず話を聞きながら次善の策を練るしかない。くそっ。

「私にとっては君は逸材だからね。私もそれなり必死ってわけ。表面上は冷静を

取り繕っているけどね。あくまで私にとってだけどね。だからこその二千万だし

待遇も今までの君の勤めていた所よりずっといい条件を出す。無職で金のない

君にとってはメリットしかないと思うんだけど何か不満?」

「俺のどこにそれだけの価値を見出したんですか?少なくとも俺はこんな大金を

貰うような技能も資格もない。なのにあんたはなぜ、俺を雇おうとする」

「随分と警戒するのね」

「普通は怪しいと思うでしょ。特に今回は初っ端からかまされているわけですか

ら尚更です」

「そう言われればそうね。けど誇っていいわよ。あなたの苦しんでいる表情は三

国一なんじゃないかしら。久々にちょっとエッチな気分になったわ」

 女は妖艶な表情を浮かべ、わざとらしく膝を立て内ももを見せ、挑発する。敵

意と警戒しか感じないはずのその女から放たれる煽情的な雰囲気に思わず生

唾を飲む。しかし、ここでこの女のペースに飲まれるわけにはいかないと改め

て思い、女を睨みつける。

「クスッ、ダメダメ。それじゃあまるで自分には余裕がないですって告白して

るようなものよ。こういう時はジョークで返して欲しいな。まったく、空気が

ギスギスしていけない」

「真意は話す気がないと言いたいんですか?」

「いや、別に。隠す気もないしね。君の反応がおもしろいのでね、ちょっと茶

化してみただけ。ところで君は……実際、経験した事のない与太話、いわゆる

都市伝説のようなものを信じるかい?」

嗤う遊女 その2

 老婆はゆっくりとだがきびきびと歩を進める。思いのほか付いていくのにな


ぜかこちらが少し速足気味になる。歩く速度は老人にしては妙に速く感じた。


廊下は薄暗く、旅館の雰囲気とはほど遠く思えた。そして思っているよりも広


いのかなかなか目的地らしき部屋に着かない。年代を感じさせる造りと薄暗


いせいもあり、まるで見知らぬ樹海を彷徨っているようなそんな感覚を覚え


た。


「こちらで少し、お待ちを」


 やっと着いたらしく、そう呟くと老婆は梅の絵が描かれいている襖の前で立


ち止まり、中へ声を掛ける。


「滄溟、いるかい。あんた欲しがっていた雑用係のバイト、したいって子が来


たから会ってやってくれんかね」


「入って」


 中から女性の声が聞こえた。


「では私はこれで失礼します。終わりましたら店先の近くにおりますので声を


かけて下さい」


 そう言うと老婆は自分を置いて来た廊下へ戻っていく。


 不安だとは思ったがここまで来てしまっては仕方がないのでその部屋の中


へ入る事にした。


 一応、これ面接なんだよな。などとは思いつつも早くもここで働くのはどうか


と思い始めているのでちゃんとすべきかどうか、曖昧な気持ちが心中をかき


混ぜながら襖の取っ手に手を掛ける。


襖を静かに開け、ゆっくりとした足取りで中へ入る。中は廊下と同じく薄暗く


頭の芯を掠めるような、奇妙な香りがし、一瞬目眩を覚える。


 頭を数回、左右に振り、正面にいるであろう、声の人物をまっすぐ見据える。


「随分、若い子が来たものね。少年、歳はいくつ?」


 その女はとにかく美しかった。着崩した和服に、濡れ鴉を彷彿とさせる黒髪


は長く背中辺りまで伸び、端正な顔立ちと合わせどこかこの世の者ではない


ような妖艶な美しさをその女は孕んでいた。そして一番先に感じた感情は恐


怖であった。いつもならばガキ扱いされる事に憤慨する所であったがそれす


ら忘れるほどその女の美貌には妖気と狂気を孕んでいた。


「二十三です」


「ふーん。じゃあ問題ないかな。履歴書、あるなら見せて」


 その女は笑みを浮かべ、俺から履歴書を受け取り、目を通すも履歴書の


内容には興味がないのかすぐに視線を上げる。


 そしてその後、面接のベタな質問が繰り返されたがやはりその答えそのも


のには特に興味はない様子で最後の方に至っては欠伸をし始める始末。一


体なんなんだ。


「姐さん、準備整いました」


 背後から突然した別の女性の声に驚き、思わず振り返る。


 襖が少しずつ開き、綺麗に正座した女性が姿を現す。この女性も若かった


が今まで会った女性とは違い、着物も地味でキチッと着こなしている。この


旅館に来て初めて仲居らしい人に会えた事に若干安堵する。ここまであった


人達はどこか人の形をした別の何かのように無自覚に感じていたのかもしれ


ない。


 その仲居らしき女性は御膳のような物を持ち部屋へ入ってくるとその御膳


を俺の前へ置くとそのまま丁寧に一礼し、去って行った。御膳の上に乗って


いるのは至って普通のご飯に一汁三菜の組み合わせというこれまたボロい


旅館の朝飯みたいなラインナップだ。


「さぁ遠慮せず食べなさい」


 バイトの面接でいきなり飯を出されて、少々戸惑ったのを察してか。女は



俺に目の前の食事を食べるように勧める。


 普通に考えるならこれはマナーを見るテストのように思えるだが気になる。


このような妙な状況で出される食事、そして食事を勧めた際女が見せた三日


月を思わせる不敵な笑み、どうにも嫌な予感がする。


「何? 毒でも入っているとか考えてる? 」


「いえ、そういうわけでは」


「いいのよ。こんな奇妙な場所、奇妙な女性に急に食事を勧められる。少し


思慮のある人ならば警戒して当然よ。むしろ褒めたいくらいよ。礫君、花丸~


♪」


 女は相変わらず妖気を孕んだ笑みをこちらに向けわざとらしく拍手をする。


「すいませんがでは褒められついでと言ってはなんですが少し、食べてはい


ただけませんか?」


 別に不採用でもいいし、っていうかどららかと言うとここで働きたくないので


失礼を承知で聞いてみる。普通ならば怒るところのはずだ。


「君は本当に用心深いな。いいことだよ。この社会には悪ーい人達がたくさん


いるからね~。石橋はたたいて渡るくらいの心構えじゃないとね生きちゃいけ


ない」


 女はクスリと少し笑うと御膳に置いてあった箸を取り、主菜の魚に箸をつけ


きれいに身をくり抜き、自らの口へ運ぶ。


「うーん、美味しい。本当、辰巳の料理はいつ食べても最高ね」


 なるほどさっきまでとは打って変わって本当に嬉しそうに笑みをこぼす。本


当にそれほど美味いのか、それとも食べさせる演技か。そんな事を考えてい


ると女は瞬く間に御膳に載っている料理一通りに箸をつけ、締めに味噌汁を


一口啜り、再び満面の笑みを浮かべ、箸を俺に向けて差し出す。


「一通り箸をつけちゃったけどこれで満足かな、五百蔵君」


「ええ、ではいただきます」


 ここまでされては今更、やっぱりいいですとも言い辛く。仕方なく勧められ


るられるままに料理を食べていく。とりあえず、気持ち、丁寧にゆっくりと食


べる。こうまでするのはこれは試験ではなくおそらく俺にこの料理を食べさ


せる事が目的なのだろうがその真意までは読み取れない。しかし、確かに


料理の味はかなりのものだ。正規の旅館ならともかく『そういう』店でこの味


のレベルは確かに凄い。上品に食べる事を意識したつもりがついつい箸が


進み、気が付けば綺麗に完食してしまっていた。この美味さ、まさか量を摂


取すると発動する毒か?


 俺は食べ終わると箸を静かに置き、目の前にいる女を再び見据える。そ


の表情からなぜか笑みが消え、少し驚いているのか、口を少しだけ空け


視線から少しだが驚愕の色が見て取れる。


「これは想像以上ね。まさか完食するとは……五百蔵君、気分が悪いとか


頭痛がするとか、何か体にさっきとは違う違和感みたいなもの感じない?」


 いや、そういう事、当人に言うか? やはりさっきの料理は毒入り、そして


量摂取すると危険な毒物という事になる。とにかく今すぐ吐かないとそう考


え喉に指を突っ込もうと考えたその瞬間であった。視界が暗転したと思った


刹那、胸部に激痛が走ると同時に俺は嘔吐していた。気道を胃酸が焼く感


覚、そして次と訪れたのは間接及び頭部の激痛そして絶え間なく来る強烈


な吐き気、俺は吐瀉物をまき散らしながらのた打ち回る。


「やはり、拒絶反応が出たか。しかし、これは……」


 そうどこからともなく聞こえてきた声を気にする余裕は最早なく、辛うじて


呼吸していられるのが精一杯という状態であり、自分の今にも途切れそうな


呼吸音が聞こえるだけで激痛や吐き気もマシにはなったが継続中であり立


ち上がる事もままならない。


「五百蔵君、すまないな」


 俺は横たわり体を丸めようにし、痛さに耐え、声の方向へ視線を向ける。


そこには少し困った表情を浮かべ微笑む、女の姿があった。


(続く)






嗤う遊女 その1

 人生のターニングポイントっていうのは誰にも分からない。多くの人はあ


の時こうしておけばよかった。こうしておけばああはならなかった等と思い


ながら生きる。誰もが後で気づくのだ。あの時がターニングポイントだった


のだと。


 そういう定義のもとにある人生のターニングポイントだが俺は今、その岐


路にいる事を実感している。そう、俺はたった今、会社を辞めてきたのだ。


元々、ブラック気味の会社だったし、上司もクソだったので清々したと同時


に自由を手に入れた感覚はあるもののたつきの手段を失った喪失感と不


安の部分の方が大きかった。ここからの身の振り方によって未来は千差


万別、正に今自分は人生の岐路に立っていると言えるだろう。とは言えと


りあえず次の職を探すのはもちろんだがそれまで食い繋ぐバイトを探す


必要があった。


 そんな事を考えながら、途方に暮れ、歩いているといつも通っているは


ずの道に立っている電柱に見慣れないものが貼ってあるのに気づく。い


つもは気にした事もない電柱だったが心境の変化のせいで今まで貼って


あったが気づかなかったのか、それとも本当に最近貼られたのかは分か


らないがなんとなく俺はその貼り紙を読んでみたところ、それはどうも求人


広告のようだった。


 内容は


 旅館    華影荘 アルバイト募集


 業務内容 掃除、使い等の雑務


 時給    1000円~


 女性のたくさんいる華やかな職場です。仕事も簡単なものばかりで経験


不問です。ぜひ、お気軽にお尋ね下さい。

 

 と内容は割とある感じのアルバイト募集広告だったのだが俺はなんとな


くだがもうこれでいいんじゃねという思考が頭をよぎる。俺は大体、いつも


そうだ。選ぶ事はしない選択肢が大してないなら目の前にあるモノを掴む


学校も就職先もそして今も。だから今の状況に陥っていると言えるし、逆


にそれがそこそこうまくいっているからここまで辛うじてこれているという


のもある。そしてバイトを探していて、いきなり目に入った広告が求人広


告、これは天啓であり、縁ではないか。そう思えたのだ。


 広告の地図から見ると場所はどうやらここからそう遠くないらしい。ただ


近くにそんな旅館があっただろうかと少し疑問に思う。


 地図の示している通りの場所へ行くと確かにその旅館はあった。ただそ


の旅館は路地へ入った先になぜか雑居ビルに囲まれるように静かにたた


ずんでいた。パッと見た印象は昔からある由緒ある旅館のような独特の風


情があるだが何かが違うそんな気がした。建物周囲の状況もそうだが何か


がおかしい、そんな気がした。


 とはいえここで引き返してしまってはなんとなく収まりが悪い感じがし


吸い込まれるように俺は建物へ近づき、引き戸を開けていた。


 中にはなにやら達筆な文字が書かれている衝立と板の間の玄関が目の


前に広がる。やはり空気感がどことなく俺の知っている旅館と違う。俺の


好きなあの旅館独特の匂いではなく、人口的に作った花の香りのようなも


のが漂っているように感じる。


 奥の方から派手な着物の女性が現れ、俺は驚きと同時に身構える。


 仲居? いや、それにしては着物が派手過ぎるし、客にしてもこんな派手


な着物で食事に来るか? しかも着方が妙に崩れている。


「いらっしゃいませ。予約の方でしょうか?開店時間はもうちょっと先なの


ですが何か特別なご予約を……」


 何やら俺に対して接客し始めたところを見るとどうやら仲居らしいがこ


んな仲居はおそらくいないだろうから多分……


「いや、そこに貼ってあったバイト募集の張り紙見て来たんですけど」


 俺はそう言い引き戸の方を指さす。


「ああ、そうなの。道理でいくらなんでも3時は早すぎだし、おたまさん、お


客。えっそっちの客じゃなくてバイト募集の。そう」


 その女はやや態度を変えると奥の廊下に向かい、よく透る声を放つ。よく


見るとなかなか都会的な美人だ。着物がかなり似合っていないが。


 すると奥からこれまた着物に来た老婆が薄暗い廊下の闇から湧き出る


ように現れ、思わずギョッとする。こちらは当たり前だが着物はちゃんと着


ており、様にもなっている。


「あんたが? 随分、幼く見えるが学生さんかえ?うちは学生さんは雇えん


よ」


 しわがれたどこか不気味なその声はどこか俺の心をザワつかせた。とい


うか今、この婆さん、俺を学生って言ったか? スーツ着ていてなぜ学生見


えるかな。慣れているとは言えやはりむかつく。


「いえ、一応、二十三なんですけど」


「そうかい、じゃあ付いてきとくれ。案内するんで」


 そういうと老婆再び、廊下の闇に向かい歩きだし、俺は慌てて靴を脱ぐと


その老婆の後を追った。

 



不可侵の理由 その5

 静かだ。まるで日中の喧騒が嘘のように辺りは静まりかえっている。普段から


これくらい静かであれば落ち着いて仕事に励めるだろうに。この学校の教師、中


山 正樹は真夜中の職員室で自分のデスクにある電話を静かに眺めている。


 掛かってこなければ負け、掛かってくれば私の勝ち。実に単純である。この時


のために飼っていた駒だ。役に立ってもらわないとな。あの女の泣きっ面を想像


すると思わず口元が緩む。


「電話なら掛かってきませんよ。中村先生」


 突如室内に響く女性の声。


 突然の声に驚き、中村は反射的に声の主の方向を向く。そこには職員室の戸


にもたれかかり、腕を組みながら佇んでいる女性の姿があった。職員室の電気


は消していたため姿はよく見えなかったがシルエットと声から女性と判断でき


た。


「だれだ。こんな時間に。下校時刻どころかよい子はもう寝る時間のはずだ


が?」


 ここにはたまたま自分は残業でいた、と主張するように中村は冷静を装い、正


体不明の人物に話しかける。


「残念ながら、私は悪い子ですから。悪たれ達にはここからがゴールデンタイム


ですよ先生。まぁそれはどうでもいい事で、お忘れですか神馬です。お久しぶり


ですね。中村先生」


  『神馬』その名前を聞いた瞬間、中村の表情はみるみるうちに険しくなってい


き苦悶に近い声を上げる。


「貴様が関与しているとはやはりお前は災厄だ。学園に厄介事をいつも持ち込


む。どうせあの馬鹿共を集めたのもお前だろう。何も変わっていない。やっと消


えてくれたと安堵していたのにまたこうやって姿を現し、災厄をバラまく。最低最


悪の屑野郎が。なぜここにいる!!」


 怒りと焦燥を混ぜたように絞り叫ぶように中村は神馬に対して吠える。


「そちらも相変わらずですね。五年前に何度もも言いましたよね関わらない方が


身のためだと」


「あの問題児共を野放しにしろと? 寝言は寝て言えよ」


「問題児……ですか」


 神馬は目を伏せ、軽くため息をつく。


「怪しげな活動、旧校舎での事故、続発する事件にはあいつらが関与もしくは間


接的に関わっている、勝手に休む、これを問題児として言わずしてなんだ」


「その程度、別に黙認しても差し障りないでしょうに。それにいくら問題だとしても


そのためにチンピラを雇い、部員を拉致らせようとしたのはいくらなんでも度が


過ぎてはいませんか」


「どこで知った?」


 中村の表情は突如強張り頬からは一筋、汗が落ちる。


「あなたは一回やらかしていますからね。注意人物にも指定されていますので


ある程度の動向は把握しています。その人物が明らかに怪しい動きをしていれ


ば必然的に私の耳に入りますよ。まったく大した先生様だ。聖職者が聞いてあ


きれる」

不可侵の理由 その4

「お前ら一体、どんな手を使った」


 戸惑いを残し、表情に悔しさをにじませ中山先生は声を絞り出す。


「さぁ? ただ、そういうことです。残念ですがお引き取りを」


 森先輩は中山先生に対して『シッ、シッ』と言わんばかりの態度で再びパソ


コンに視線を落とし、静かに言い放つ。


「なるほど、こういう事か。得心がいったよ」


 生徒会役員の優男はこの事態には特に驚きの様子は見せず、まるで想定


内のようなリアクションを取る。他の生徒会の人たちも同様だ。もしかして中山


先生の目的と彼らの目的は最初から違っていたという事か。


「中山先生、電話の相手が誰だったのか教えていただいていいですか」


 優男は中山先生に質問する。


 俺もそれが気になっていた。ナイスだよ、あんた。普通に考えると校長とかだ


ろうか。仮にそうだとしてもなぜ校長がこんな弱小マイナー部を庇う? 以前言っ


ていた後援の組織とかが関係しているのだろうか。疑問が尽きない。


「お前たちが知らなくいい事だ。クソっどうして……このままで済むと思うなよ」


「でしょうね。そう言うと思いました」


 これも『でしょうね』といった感じ程度の反応に一瞬、視線に冷気を帯びたよう


な気がした。


「それは悪党のセリフだよ旦那。しかもやられ役の雑魚野郎の、ね」


「はっ、問題児が調子に乗りやがって」


 中山先生の怒りのボルテージもかなりいい塩梅にグツグツきている。


「まぁ先生、そう言いなさんなって、私は寛大だ。たとえあんたがクソ人間でも


屑教師でも地雷原にあほ面下げてのこのこと向かっているのを見たら、それは


もう声を掛けざる得ないでしょ、人として」


「何が言いたい?私には白痴の戯言にしか聞こえないのだが」


「この部にはもう関わらない方が身のためです。これは忠告であり、警告でもあ


ります。その腐った脳みそにせいぜい深く刻んどいてください」


 桜沢は忠告のつもりらしいが傍から見たらただ挑発しているようにしか見えな


い。本人もそのつもりかもしれないが。


「そろそろお暇するとしよう。お前の妄言は私の脳には届かないがこれ以上は


聞くに堪えんのでな」


 中山先生はそう言うと踵を返し、部室から出ていき、生徒会(らしい)の人たち


もそれにつられるような形で退室していく。


「なるほど、これで得心はいった。氏家会長が言われたように特殊、いや、異質


というべきか。なるほど興味深い……」


 眼鏡の生徒会の人は最後尾におり、なぜか先ほどまでの柔らかな表情から


一転、笑みの消えた真剣味を帯びた表情しながらなにやらぶつぶつと呟いて


いた。なんだ? それに中山先生のが退室する時にしていたあの表情。あれ


は諦めたり、納得した人間の表情ではなかった。あれは……そう、何かに気づ


きそして、たくらんでいる。退くにしてもやけにあっさりだった。一体、何に気づ


いたのだろうか?





不可侵の理由 その3

「あなたたちは生徒会の……」


「どうも。正式に会うのは久々ですね」


 中山先生とは対照的にやわらかい物腰のその男はそう言いながら、他の二


人と共に部室内に入ってきた。残念ながら知っている顔はいない。生徒会の人


物ということはもしかしたら名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。


「なかなか、壮観ね。風紀委員のお二人まで。何、今日は私の誕生パーティで


もあるのか?」


 桜沢は 視線は冷たいまま、乾いた笑みを浮かべる。どうやら今、ここに来た


全員がこの民俗学研究部にそして桜沢になんらかの因縁があるらしい。


「そんなわけないでしょ。さっき中村先生が言われたとおり、査察よ。査察」


 風紀委員の一人のちょっとヒステリックそうな印象を覚える女性が呆れたよう


に言う。


「これだけと人員が揃っているところを見ると今回のその査察っていうのは公


認の?」


「そういう事だ。いよいよお前らも年貢の納め時というわけだ」


 中山先生の微妙にドヤ顔に妙なイラつきを覚える。なんとなくだが桜沢が


この教師を嫌う理由がなんとなく分かる気がする。


「具体的にはどのような査察を?」


 森先輩は特にリアクションもせず冷静に聞く。


「とりあえずここ一年の活動を記録したものもしくはレポートの類があれば提


出してもらえるかな。もし、ちゃんとした活動をしている証拠がないようだと部


室内の所謂、家宅捜索を行う。仮に問題になるような物が出てきた場合、部


活停止の処分となります。といった感じになるけど」


「まぁどうせお前らの事だ。何も残っていないだろ。あったとしても小学生低


学年のガキが作ったようなお粗末なモノだろう?大体、想像がつく」


「そうですか。でしたらどうぞ」


 そう言うと森先輩はちゃぶ台の上にぶ厚い紙の束が置かれる。


「なんだ? これは。ふん、厚さだけは一丁前に。どうせ中身はスカスカ……


いや、元からあったものの流用の可能性だって」


「読んでいただければ分かります。どうぞ」


 既に勝利を確信したように森先輩は静かに微笑みレポートを薦める。


「ふん、言われるまでもない。どうせ数ページで化けの皮が剥がれるさ」


 そう言いながら中山先生はレポートへ手を伸ばす。


 中山先生がレポート触れると同時に部室内に携帯電話の着信音らしき


音が響く。


 中山先生の動きが一瞬止まり、それと同時に森先輩が携帯電話を取り


出し、わざとらしく中山先生に一瞬、視線を寄越し、話をし始める。なんの


つもりだ?


「全く、いろんな意味でマナーがなっていないね。私は君はもう少しマシな


人間だと思っていたが買被りだったかね」

 

「先生に変わってほしいそうです。どうぞ」


 森先輩は中山先生に携帯電話を微笑みながら手渡す。


「私に? 誰からだ」


「出てみれば分かります」


 訝しみながら中山先生は電話に出る。


「まっ、ちょっと考えれば分かるでしょうにアホな奴」


 桜沢は鼻で笑い、中山先生を蔑んだような視線を投げる。どうやら電話


向こうの相手について知っている感じだ。


「えっ、はい。今、はいそうです。えっ!?そんな……。いえ、そういうわけ


では」


 中山先生は明らかな戸惑いを見せる。



 

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