灰羽紳士による名言・珍言集 -2ページ目

不可侵の理由 その2

 部員以外の人物がこの部室を訪れた場合、大抵の場合厄介事だと相場


は決まっている。つまり視線の先にいる人物は言うならば俺にとっては死の


配達と言ったところかっていうかどこかで見た事あるような。


「中山先生、どうしてんですか?わざわざこんな所に」


 森先輩がそう言いながら微笑んだ。そう言われれば確か、職員室や学校


集会の時に見たことあったかな。直接、授業を受けたことがなかったため記


憶にいまいち残っていなかった。元々人の名前覚えるのは得意ではないの


で仮に授業を受けても覚えていなかったかもしれないが。


「誰?」


 桜沢は声を潜めながら、だが露骨に『誰こいつ』という態度で森先輩に聞く。


俺が言うのもあれだがこいつも大概失礼だよな。


「数学の中山先生でしょ。二年を主に担当されているから一年の子にはあま


り面識が……って去年、担任だったあなたがなぜ知らないのよ」


「えっ……ああっそう言われれば……お久しぶりです中山先生。何か用です


か」


 どうやら、桜沢はこの中山先生に対して敵意があるらしい。中山先生の方


もそれは同じらしく桜沢の失礼千万の発言に少し苛立ったのか元々険しか


った表情がさらに険しくなる。


「変わらないな。君は去年、あまり学校に来ていなかったからな。それに頭


の方もどうもイカれていたようだったからな、私の事を忘れてしまったとして


も特に気にはしないよ」


 無理矢理笑みを作り、おおよそ生徒を見る目とは思えないような蔑んだ目


で桜沢を見下ろしている。事情はよくは知らないがとりあえずこの教師とは


なるべく関わりたくないなと思うと同時になぜか少しこいつを殴りたくなるよう


な衝動に駆られた。


「とりあえずどうぞ上がってください。わざわざ旧校舎のこんな所までいらっ


しゃったという事は何かの依頼ですか? 幸い我が部は客を選ぶような事は


しませんよ。たとえ相手がクソ教師様であっても、ね」


 桜沢は立ち上がると手で中山先生にちゃぶ台の方へ上がるように促す。


「はっ馬鹿にしちゃあいけない。私がお前ら子供のごっこ遊びに付き合う?


冗談も大概にしてくれ。そんなわけないだろう」


 箸を折る音が室内に静かに響き、目の前であきらかにキレる寸前の水上


が殺気を込めた視線で中山先生を睨んでた。


「水上君、気持ちは分かるが抑えて、ね?」


「要の言う通りだ水上、こんな奴、殴ったところで何にもならないわ。君だっ


てその拳で糞を殴るのは嫌でしょ?」


 しれっと教師に対してしかも本人を目の前に糞以下発言とは本当にこい


つは無茶苦茶だな。


「つまり、君は私が糞以下だとでも?」


「あら自覚があったとは意外ですね。少し見直しました」


「かまわないさ。所詮はキチガイの戯言だ。そういう雑音を受け止める事も


教師という職業のペイのうちだからな。届かんよ、私の心にはな」


 二人とも笑顔(両者共目は笑っていない)だが部室の空気は聞いてるこっ


ちの胃が痛くなってくる。どうもこの二人には俺の想像を絶する因縁がある


ようだ。正直、もう帰ってほしい。


「ああっで用があったんだったな。お前はもう私の視界に入るな。精神衛生


上毒なんだよ」


「あんたが……」


「で用件なんだが」


 無理矢理、桜沢の言葉を遮り、自分の話を進める。このままこの二人の


罵り合いを聞くのはこちらの精神衛生上にもよくないので少しホッする。


「端的に言えば、そうだな『査察』だ」


 あまりいいイメージのないその言葉が耳に響くと同時に中山先生の後ろ


三人の人影が現れる。一体、何が始まるというのだろうか。俺は心臓の鼓


動を感じ、その鼓動がなんらかの警鐘のように思えた。


(続く)



 

不可侵の理由 その1

 日常の風景とは人それぞれである。勉強に部活と忙しく充実した日々を送


っている人がいれば俺みたいに夏休みも終わろうとしているのにも関わらず


部室の中で何をするでもなく、ダラダラと過ごしている者もいる。ちょっと考え


ればあまりよくないことは分かっているがそこから一念発起し、何かをやろう


とする気持ちは欠片も湧いてこないのも事実である。

 

 まぁそれ抜きに考えてもこの部室は快適に過ぎるが。クーラーは効いてる


静か、そして、


「おーい、切石。餃子出来たぞ」


 旨い食べ物が出てくる。つい入り浸ってしまう。ここにいる事は厄介事に巻き


込まれる可能性があるにも関わらずだ。依頼があったら呼び出されるので結


果的に変わらないが。


「一応、新入りだからあまり言いたくないけど、これ、何の部活なの? 毎日 


ダラダラして活動らしい活動してないじゃない」


 押入れに体を預け、足と腕を組みながら偉そうな態度で紙原もっともな事を


言ってきた。


「依頼がなかったらいつも大体、こんなものよ。入ったばかりのあなたには少


し異様に映るかもしれないわね」


 森先輩が落ち着いた口調で諭すような口調で話す。


「そういう事。郷に入らずんば郷に従えってね。紙原さんもこっちに来なよ。一


緒に食べよ」


 女子の部員が増えて嬉しいのか、桜沢は上機嫌な口調で紙原に話しかける。


 その正体は神憑きに一時的になった俺の監視のために派遣された監視員


なのだけど。まぁ能力的にも性格的にも監視員に向いてるかは疑問ではある


が。


「こんな部活よく認められているわね。傍から見たらただ、遊んでるようにしか


見えないじゃない」


 紙原はしぶしぶ、取り分けられた餃子にタレをつけ、食べ始める。 


 その点に関しては俺もそう思う。学生の部活にしては自由度が高過ぎる。ク


ーラー付きの部屋に寝泊まり自由。水上の料理や事件のたびの移動費や道


具代等の予算。どこから出ているんだろう。桜沢の空気式ダーツ銃、神馬さん


に至っては本物の狙撃銃を持っている。どういう部活なんだよ。


 そんな事を俺も餃子を食べ始める。うまい。これがまたその辺の店より美味


しいから文句の言い辛いところだ。

 突如、ノックもなく部室の戸が開けられ、全員の食事が止まり、視線が戸の


方向へ向く。


 そこには険しい目つきの白いシャツに茶のズボンの中年の男性が立っていた。


(続く)


「探偵以上チンピラ未満」 その1

 人との出会いが縁によるもののように事件や事故にもまた縁に似たような


ものが存在するのではないだろうか。事故がよく発生する場所なんかが正


にそれだし、事件によく遭遇する、巻き込まれる人というのも少なからずいる。


 そんな人物がだ、ただでさえ、常時火薬庫で生活しているような立場にい


ながら『彼女』は平然とそこで花火をやり始める。そんな人物が目の前にい


る。

 僕は今、その彼女を視界に捉えている。腰まである長い黒髪にもう初夏だ


というのに黒いビジネススーツを着、ご丁寧にしっかりとネクタイまでしっかり


上限いっぱいに締め、見ているだけで暑苦しく思う。


 もう夜もかなり更けてきている。いわゆる草木も眠るっていう時間だよい子じ


ゃなくてもそろそろ寝る時間だ。だが彼女にはそのような眠そうな気配は微塵


もない。クリスマスの夜の子供のような……いや、そんな可愛いモノじゃない


な。あれは、そう、獲物を目の前にした、獣の目だ。彼女は待っているのだ今


宵の獲物、僕に言わせれば犠牲者だが。


 そんな事を頭に巡らせていると音もなくゆっくりと彼女の目の前のドアが開


き始めた。僕の全身に緊張が走る。


 来たか。まったく、こういう時の勘は本当に恐ろしく当たるな、あの人。ったく


いらん方向にばかり特化してんなぁ相変わらず。


 姿を現したのは能の翁の面を被り、斧を持った怪人物だった。殺る気まん


まんですってか感じだ。俺の仮説が正しければ中の人物は十中八九、彼だ


ろう。


 少しだが戸惑っているようだ。当たり前か。とっくに寝ているものと当たりを


つけて来てみれば当の本人は自分に向けて、ゆるりとソファに身を沈め、足


を組んでいる余裕の姿勢だ。まるで待ってましたといわんばかりに。


「なぜ……」


 室内の絞り出すように呟いた音声が僕の耳に静かに響く。おそらく今のは


現れた翁の声だろう。まぁ当然の反応だ。


「いいじゃない。そんな事はどうだって。そうでしょ?真犯人さん」


「貴様、やはり」


「だからどうでもいいって。事件のトリックもあなたが犯人かどうかすら言っ


てしまえば私にとっては些末な事なの。重要なのはあなたが私を殺しに来


てその挑戦を私は受ける。さぁ殺りましょう。佐伯 浩二さん。あなたの全


力の殺意、この身に刻んでみなさい」


 あーあ、犯人の名前言っちゃったよ僕としてはまだ確証はないんだけど


なぁ。っていうか相変わらずイカれた思考だな。犯人の方がちょっと引


いてる。


「さぁ、さぁ、早く来なさいよ。肩、それとも足かしら、一撃必殺を狙うなら


頭よ。ほら遠慮せずに」


 出来れば遠慮して欲しいところだ。


「ほら!」


 わざと間合いに入り『来いよ』とばかりに手を広げる。何やってんだ


あの馬鹿女。


 案の定、犯人は彼女の狂気に触発され、斧を振りかぶる。


「ああっそれじゃあダメだよ。そんな殺意(もの)は受け取れないよ」


 そう彼女の声が聞こえた瞬間、聞こえ慣れた、聞きたくない鈍い音


が僕の鼓膜に響く。何回聞いてもも嫌悪感を抱かざる得ない嫌な音。


翁の体が『く』の字の曲がっている。広げた両腕の右手で拳を作り


犯人が斧を振りかぶった瞬間に瞬時に間合いを詰めると同時、無造


作に翁の脇腹を横なぎにした。


 面で表情を窺う事が出来ないので分からないが表情はおそらくか


なり歪んでいる事だろう。今までの経験から言えばこの展開になれば


九割九分勝負はついたとみていい。だがさらに今までの彼女の行動


や思考から考えると、こんなもので済む事も九割九分ないわけでああ


っ、武器を持っている方の腕が今彼女の腋に挟まれ、立ち関節で容


赦なく今、へし折られた。嫌な音がまた僕の耳を凌辱していく。おそら


くここから彼女はさらに攻撃を続けるだろう。犯人は命乞いもするだろ


うし、彼女はそれでも殴るのをやめないだろう。いつものパターンに入


った。


 聞くにも見るにも耐えられなくなり、僕は彼女を視界から外すとイヤ


ホーンを耳から外し、空を見上げ、ただ時間が過ぎるのを願った。


(続く)

「隣人は死神とダンスを踊る」 その14

 そこからは大方、予想通りというかさほど驚く事も起きず作業はつつがなく進


行していった。そう、彼女が行ったのはいわゆる『流し雛』というやつだ。人形に


穢れを移して川に流し、災厄を祓うというアレだ。割と知られた儀式ではあるが


それをダッチワイフで行うなんてのは初めての試みではないだろうか。神聖な


儀式なはずなのだがどこか罰当たりな気もする。香月曰く呪詛の大きさによっ


て人形の質もそれなりの物が必要になるらしい。そこで今回登場したのがこの


『香月』製のダッチワイフらしい。香月はこれはダッチワイフをという枠を超越した


芸術品だとのたまっていたが俺にしてみれば使用目的がアレである以上結局


はその枠からは逃れられないのではないかと思う。っというかこんなもん川に


流して大丈夫なのかそっちの方が心配だ。


「よし、これで術式は終了だな。呪詛もちゃんと人形に移っているし、あんたらは


もう帰っても大丈夫だぞ」


「どうもありがとうございました」


「助かりました」


 俺と紙原はとりあえず、礼を言い、頭を下げる。紙原はどうか知らないが俺とし


てはこいつにお礼を言うのはどうにも抵抗を感じる。


「いいって、心にもないこと言わなくても」


 しれっとイラつく言葉を吐きながら香月は人形をまた元の箱に片付けようとして


いる。


「では、すいませんがお先に失礼します」


 俺はそう言いながら、紙原と共に公園を後にする。


 まったくなんて一日だ。とっとと帰って寝たい気分だったが残念ながら今日は


どうしてもやらないといけない夏期講習の宿題が確かあった。思い出しただけで


めげそうだ。そんな事を考えながら再び帰路についた。


「俺の家はこの先、すぐだけど紙原の家も近くなのか?」


「当然だ。私はお前を監視するのが任務なんだぞ。引っ越す場所も君の家のす


ぐ近くでなければ君を監視できないじゃないか」


「そうかよ」


 俺はぶっきら棒に返事をしつつ、ふとした疑問が頭によぎる。うちの近くにそん


な空き物件あったかな? まぁ俺の心配する事ではないが。


 俺は紙原は自宅の前で別れ、遅くはなったがなんとか帰宅。自室の時計に目


をやると時計を見たらすでに八時を軽く過ぎていた。やれやれと思いながらとり


あえず晩飯を食べた後で宿題をどう片付けようか思案を巡らせていると突然


自宅のチャイムが鳴る。こんな時間にと思うと同時に心当たりが浮かび、そう


でないことを心の底から願った自分がそこにはいた。が部屋の外からした母さ


んの自分を呼ぶ声を聴き、確信し、諦めそしてうんざりした。


「お友達が来てるみたいだけど? えーと紙原さんっていう」


「ああっと、ごめんちょっと出るわ」


 俺はそう言いながら、リビング前を通り過ぎ玄関へと向かう。玄関にはなぜか


体操服を着た紙原が笑顔でたたずんでいた。


「面倒くさいけど用件だけは聞いてやるよ」


「いやぁ、今晩っていうかしばらくそちらに泊めていただけないかなと」


「答えはNOだよ。馬鹿野郎」


 そう言いながら俺は紙原を玄関から外へ出るように促す。意味や事情は分か


らないが俺にとっては災難以外の何物でもない。


「ちょっと、ちょっと事情むくらい聞いてよ。考えてみて普通に考えて会ったばか


りの男子の家に女子が泊めてなんてあり得ない話でしょ。よっぽどの事情があ


ると思わない?」


「知らねぇよ。俺にとってはお前は災厄以外の何物でもないよ。帰れよ」


 俺は紙原の背中を押しながら、外へ出し、扉を閉めようとするもすぐに紙原は


足を挟み込み、それを拒否。お前はやり手のセールスマンか。


「無理、無理あんなやばい化け物がいる家とかあり得ないし、多分師匠、中とか


見ずに家賃だけで物件選んだんだよ。あれは私でも分かるくらいやばい。だか


らお願い。いや、お願いします」


 ったく、あのクソったれリーマン野郎どこまで俺に迷惑かける気だよ。


 俺はドアを閉めるのをやめ、ややうんざりする。


「どっちにしてもさすがに俺の家は無理だよ。いろんな意味で。桜沢と森先輩に


連絡してみるからダメだったら……まぁその時はその時だ」


 もしかしてこれも作戦なのだろうか。俺を監視するためにわざと、いや、それは


ないか。そして俺はとりあえず森先輩に連絡する。桜沢は多分、この時間は高


確率でつながらないだろう。しかし、よく考えてみれば森先輩も桜沢もどうやら


飲んでいるっぽかった。じゃあ事件も収束した今はかなり飲んでいるのではな


いか。そうなると電話にも多分出てもらえないのではないだろうか。


 だとすれば少なくとも今晩はこいつを泊めるはめになるのてはなかろうか。勘


弁してくれと思うと同時に同年代の女子とひとつ屋根の下という状況に少し、心


が躍っている自分になんか腹が立つ。


 ひとつ、ふたつ、コール音がむなしく夏の夜空にむなしく響き、どこからともなく


聞こえる虫の音に胸の辺りに痛みを覚えると俺は携帯電話を耳から離し、空を


見上げる。


 そして俺はあきらめた。



「隣人は死神とダンスを踊る」 その13

 そんな罵り合いをしばらく続け、どれくらいが経っただろう、そんな考えが頭


を掠めた時、自分達のすぐ近くで咳払いのような音が聞こえた。


「ちょっと待て」


 俺は紙原との会話を声と手で制し、一旦、止め、声の方向へ向く。そこには


金髪に浴衣という目を引く格好をし、直方体のでかい荷物を持った女が静か


にたたずんでいた。


 一瞬、誰だと思ったがその変わった格好からテディベアの事件の件の犯人


だった人形師の香月 静留だと思い出す。なぜ、ここにという反射的に湧い


た疑問もタイミングと状況が容易、解答してくれる。桜沢が言っていた『一手』


とはこれの事か。大丈夫かよ。仮にも呪術使って、人の魂を人形にこめようと


した人間だぞ。人の命をなんとも思っていない、俺から言わせれば芸術家を


気取ったクズ野郎だ。


「おいおい、そんな敵意のこもった目で見ないでくれない? 一応、こんななり


だが今のお前達にとっては立派な守護天使様なんだけど」


「じゃあやっぱり桜沢からの」


「そういう事。神馬の知り合いじゃなかったらこんな話聞くまでもなく却下する


んだがな。全くあの件以降、ろくな事がないよ、まったく。『香月』の人形師が


あんなガキの使い走りとは私もヤキが回ったかな」


「誰、知り合い?」


 紙原が怪しい物を見るような目をしながら、耳元で囁く。


「知り合いっていうか知ってる人だな。ある事件で会った事があるんだよ。香


月 静留さん。人形師だ」


「えっなんで人形師がここに来るの?除霊師とかじゃなくて。ここで何か暇つ


ぶしにひょっこりひょうたん島とか見せてくれんの?」


「いちいち、怒んなよ。多少は呪術的な事も扱っている人だからその辺でなん


とかしてくれるんだと思うけど……」

 

 とは言っても俺もこいつの事はよく知らないし、確信は持てないし、正直俺


も不安だ。


「はいはい。喧嘩しない。状況は桜沢から聞いてるし、お前達がなぜと思う気


持ちも分からなくもないけどね。百聞は一見にしかずってね、『人形を創り


扱うのが我ら『香月』。我らは創るだけが能ではないってとこ、見せてあげま


しょう」


 香月はそう言いながら背負っていた直方体の物体……パッと見、棺桶に


近いだろうか。その蓋を開け、その中身を俺達に見せる。


「香月……さん。それは……」


 俺は思わず言葉を失う。隣にいる紙原もどうやら同様に絶句している。そ


の箱の中には吸い寄せるような美しさを持つ全裸の少女……と見紛う程の


人形だった。関節部分にあるあの独特の球体間接がなければ周囲が薄暗


いせいもあるかもしれないが本当に虜になってしまいそうな、そんな奇妙で


恐ろしいほどの魅力がその人形にはあった。


「ふん、香月のモノを見たのは初めてか。言わなくても表情で分かるぞ。どう


だ惚れるだろう。これが『香月』だ。だが勘違いして貰っては困るぞ。こんなも


のは香月にとってはお遊びの領域だ。こんなものじゃないよ我らは」


 誇らしげにそして自慢げに語る。確かに誇るだけのモノではあると同時に


今回の件、桜沢の思惑にようやく気付いた。


 なるほどな。そういう意味でなら、正に人形師をこちらへ寄越すのはベス


トな選択と言える。


「さぁ、さっさとやっちゃおうか。あんたの呪詛をこの最新型ドール『南極百


八号』に移すわよ」


 場は一瞬で凍り、香月は意地悪いえみを浮かべる。狙ったな。紙原はか


なり嫌そうなをし、なぜか俺が睨まれる。いや、俺関係なくね?

 

 俺はそう思いながら、闇夜の空を思わず仰ぎ見た。


(続く)



「隣人は死神とダンスを踊る」 その12

「ははっ、悩んでるふりしてもダメだよ。結論は出ているんだから打つ手無


しの状況に現れた唯一の光明、それを選択しないわけにはいかないでしょ」


「提案者が酔っぱらいじゃなかったらな。それはちゃんとした方法なんだろう


な?非人道的なのは御免だぞ」


「緊急時によくそんなセリフ吐けるわね。厳密には自分事じゃないからって


いうのもあるけど。あんたのそのモラルとかに重きを置く思考っていうのは


大事だからね。大丈夫、その辺に関しては誰も傷つかないし、もちろん死


ぬこともない全て丸く収まるはずだわ。私の予想通りにいったらだけど」


「じゃあそれでいってくれ。すまないけど、それで頼むよ」


「オーライ。じゃあ三十分程そこで待っていてくれ。くれぐれも結界から出


たり、攻勢に出たりしないように。少なくともその結界でも入ってはこれな


いはずだ。死をもたらすとは言っても低位の怪異だからね。そこは安心し


ていいよ」


「わかったよ。なるべく早くな。俺はいいが、当人が今にも無茶しそうで怖


いんだよ。もっとクールな奴だと思っていたんだが思っていたより面倒臭


い奴だったよ」


「活動内容が実際、厄介事に携わる部だからね。そういう人間を引き寄せ


るのかもね。じゃあまた後で」


 そう言いながら電話は切れ、俺はとりあえず一息つく。


(お前がそれを言うかね)


 なんとなくそう思い、視線を紙原の方へ向けるが紙原は険しい表情のま


まこちらを睨んでいる……ように見える。


「どうだった? なんとかなりそうなの」


「とりあえずはな。頼った人物が若干『アレ』なんでなんとも言えないけど


ね。三十分程度、ここで待っていて欲しいそうだ」


「そうか、じゃあ待つしかないな。全く来て、早々にこんな目に遭うとはね。


あんたら呪われてんじゃないの」


 自分が原因なのを棚に上げて、随分な言いようだ。少し、イラッとする。


「いや、今回の件は完全にあんたの不注意だろ。『みえる』人間なんだか


らもっと注意すべきだろ」


「はぁ!? 転校してきたその日に下校途中に死神出会うとかあり得ない


でしょ。その時点でのおかしいじゃない。どんな場所よ」


「そんな事、知るかよ。大体、そういう怪異の対処を生業としている人物


が他人の手、煩わせている時点でプロ失格だろ」


「誰も助けて欲しいなんて言ってないし、私が自らの手でカタをつけよう


としたのをあんたが止めたんじゃない。なんなら今からでもプロとアマの


格の違いっていうのを見せてやろうか」


「そんな、一か八かの博打打たなきゃいけないような状況に陥っている


時点でプロ失格なの。たとえて言うならお前は既にうんこ踏んでるだよ。


どう対処してもうんこ野郎なのには変わらない。それをあろうことか素手


で取ろうとしているそれが今のあんたの状況だよ。そりゃあ止めるだろ。


人として」


「誰がうんこ野郎よ。っていうかお前、女子に対してうくこ野郎とかサイテ


ー!死ね!」


「うるせー、お前が死ね」


 俺もいつの間にか、ヒートアップしてしまい、待ち時間の間ずっと紙原


と口論する羽目になってしまった。まぁおかげで待ち時間を不安と重圧


に耐えなくて済んだのはよかったがまだまだ自分が感情を御せない自


分がただ、ただ恥ずかしかった。




「隣人は死神とダンスを踊る」 その11

 なんとなくは予想していたがやはり、その類だったか。紙原は偶発的な事故


に連続して遭遇した。おそらくその手の事象を誘発する怪異だとは考えていた


がストレートにドンビシャとはマジで頭痛がしてくる。


「一応、聞きますけど、対処方ってあります」


 『ない』と言われない事を、そして確立した対処法があってほしいと祈りながら


恐れ恐れ聞いてみる。


「正直、厳しいわね。遭遇した瞬間、死亡フラグが立つような怪異だからなかな


か扱いが難しい部類に入るみたい。確立している対処方もないことはないんだ


けど」


「何か問題が?」


「所謂、呪詛移し、つまりその呪いを誰かになすりつけるという方法なんだけど


そんな方法……」


「もちろん、論外だ」


 そんな糞のなすりつけあいみたいな事をするなど……まぁ呪詛を受けた本人


ではないからそう言えるだけかもしれないが、やはりその方法以外の方法を今


は模索したい。


「表情から察するに状況はあまり芳しくないようね」


 周囲に簡易結界を張り終わった紙原がそう言いながらこちらへ近づいてくる。


「まぁ、現時点では可もなく不可もなくってとこだ。そこまで最悪じゃねぇよ」


「なんにせよ、このままの状態ではいずれジリ貧ね。やっぱり、ここは一か八か


の強行突破しかないんじゃない」


「それが嫌だから、こうやって相談してるんだろうが少し、黙ってろ」


 死を司る怪異に直接攻撃とか正気の沙汰とは思えない。絶対ロクな事にな


らないのは素人の俺でも予想がつく。


 とにかく、なんとかして別の方法を捜さないと。


「んーー。なんとかして死を回避する方法……うーん」


「おーい、要どうして深刻な顔して、そうやってノーパソ開いて、悩ましげな顔


してどうかしたの」


 電話の向こうからなにやら聞き覚えのある声が響く。


「潤。実は……」


 どうやら元々、桜沢と一緒に飯を食っていたらしい。さて、この展開、吉と出る


か凶と出るか。


「だっはははは!お前、またそんな事に巻き込まれてんの?紙原が呪われて


いる以前にお前が呪われてんじゃない、そう『運命』になんてな。あっははは」


「もう、返して!」


 森先輩の声と共に桜沢のバカ笑い、木霊のように遠のいていく。あのバカ、こ


んな時に限ってえらくご機嫌っていうか。いつもよりもテンションだ。どこまでも


面倒くさい奴だな、まったく。


「切石君、ごめんね。ちょっと薦めただけなんだけどまさか一杯であんな事に


なるとは思わなくて」


「以後、あいつにはアルコール厳禁でお願いします」


「そうするわ」


「要、貸して。おう、切石、事情は要から大体、聞いたぞ。困ってるそうじゃない


か」


 おっさんか、てめぇは。こいつ絶対、絡み酒だな。未来永劫、桜沢とは飲みに行


きたくないと心底思った。


「ええ。ですので神馬さんと連絡がつくなら連絡を……」


「その必要はないわ」


「はぁ?」


「なぜならその案件、私がちょちょと数手打てば、簡単に打破出来るからよ」


 桜沢のドヤ顔が容易に想像できる口調の発言。酔っぱらいの妄言か釈迦か


らの蜘蛛の糸か、俺は判断しかねた。


 

「隣人は死神とダンスを踊る」 その10

 とりあえず顔を真っ赤にして怒る紙原をなんとかなだめ、武士のような今ま


での生涯で一番綺麗な正座しながら、自分が思いついた意見を紙原に説明


した。


 顔面の右半分は未だに熱く、そして鈍く痛む。最近というか今の部活に所属


するようになってから顔面にやたらとダメージ受ける機会が増えたなぁとしみじ


みと思わずため息が漏れる。


「あんたの意見は分かったわ。確かに正論だし、私の行動もかなりリスキーな


のも分かるわ。けどじゃあどうするの。このままここにいても事態の好転はあま


り望めないわよ」


「それも分かってるよ。まぁ待てよ。一か八かに出るにはまだ早い。こっちも打


てる手はまだある」


「へぇ。じゃあお手並み拝見といこうか」


 俺は携帯電話を取り出し、アドレス帳から森先輩の電話番号を選択する。本


当は神馬さんを頼りたいところだがこの時間帯に掛けても出てもらえる可能性


はかなり低い。それなら怪異に関するデータベースを持ち、比較的出てくれる


森先輩が確実だろうという判断だ。


 耳元に呼び出しのコール音が静かに一回、二回と響いていく。回数を重ねる


度に不安は増幅されていく。


(頼む出てください)


 そんな祈りにも似た、念が通じたのか。四回目のコールで森先輩は出てくれ


た。


「はい。切石君が放課後、私に電話をくれるなんて珍しいっていうかどうせ厄介


事でしょ。それ以外で私に電話する理由ないし。あーあ、なんか急に寂しくなっ


てきたわ。何やってんだろ、私」


 なんか、えらく喋る上に暗いな。喧噪のような音が声に混ざっている事を考え


ると嫌な予感しかしないな。まさか……


「そんな事ないですよ。それより、先輩、今、何かしていました?」


「何か、いつものご機嫌なヤツをやってたところよ。気分は最悪だけどね。後で


君も来なさいよ。奢るわよ」


「いえ、そのお誘いはとても嬉しいんですけど、先輩が言われたようにちょっと


トラブルに巻き込まれていまして、それで先輩のノートパソコンのデータヘース


からその怪異の詳細と対策方法を教えて欲しくて。ちょっと助けてもらえないで


すか」


「なるほど。で、その案件が解決すればこっちに合流出来ると」


 誰もそんな事言ってないっていうか脅迫か? 合流しないなら教えない気か?


しょうがないか。行けば絡まれるのは必定だがほっといて補導とかされても面


倒だし。考えてみればあの人、普段とかよく補導されないよな。


「それでいいです。行くまでにあまり飲み過ぎないで下さいよ」


「オッケー、オッケー。じゃあ、サクッと片づけますか。そいつの特徴と起きた事


象を教えてくれる」


 そして俺はここまでの経緯と事象、少女の名と容姿などをを森先輩に説明し


その間、紙原には手持ちの札でとりあえず周囲に簡易結界を作るように指示


する。気付いたら隣にいましたなんて冗談にもならない事態を避けるためだ。


「なんで、あんたに命令されなきゃ」とブツクサ言いながらやっていた。


 そんな紙原の行動を尻目にデータベースから検索結果を待つ。こういうのを


待つ時間というのはやたらと長く感じるものだが理解はしていても妙に気持ち


は焦る。


 落ち着け、落ち着け俺。そう言い聞かせていると携帯から森先輩の声が聞こ


え、緊張と若干の安らぎみたいな感情が同時に来る。


「切石君、お待たせ。こう言ってはなんだが厄介なモノにまた憑かれたな」


「えっ」


 俺は思わず言葉を失う。なんだ思っていたよりも最悪な事態に俺は巻き込


まれているのか。


「それは『笑い女』という怪異だ。分かりやすく言うならそうね、いわゆる『死神』


という類に属する怪異。つまり、それは人を死に導くモノよ」






「隣人は死神とダンスを踊る」 その9

 よし、落ち着けあの子が術者だろうが怪異だろうが冷静に考えればラッキー


じゃないか。捜すところからという一番、面倒な件が解消したのだ(もし捜す


場合その役目は百%俺だからな)


「紙原、あれ」


 俺はなるべくその少女へ視線を合わせないように目線と顔の角度を駆使し


公園の入り口わ指す。


 こちらの緊張が伝わったのか、紙原も慎重な面もちで視線を公園の入り口


走らせる。眼を大きく見開いたところから察するに多少の驚きはあるようだが


それ以上のリアクションがないところを見ると思っていたよりも冷静なのか。


「何か手はあるのか?」


「なんであれ、倒すのがてっとりばやいわ。幸い道具は持ってきてるからそ


れでなんとか……」


 いや、やっぱり装ってるだけか。いろんな意味で厄介だな。


「ちょっと待てよ。攻撃する気か、まだ敵の正体とか情報もなにもないのに」


「私に掛けられているのはおそらく死の運命に導く呪詛だ。おそらく時間が


経つほどジリ貧になる可能性がある。最悪、いきなり心臓マヒってことも、だ


から今、討つ」


 そういうと彼女は鞄の中から刃渡り20㎝くらいの西洋風の美しい装飾の


施されたナイフを取り出す。


 おいおいなんてもの持ち歩いてるんだこの女。いろいろアウトだろ、それ


は! 


「ふふっ♪ いいだでしょ、これ。ただのナイフじゃない。聖鉄と呼ばれる金


属で作られている。退魔はもちろん地面に刺すだけでも周囲十メートルが


結界になるっていう優れ物だ」


 得意気に話すところを見るとまるで新しい玩具を買って貰った子供を彷


彿とさせる。そして同時に危なっかしい、キ○ガイに刃物というフレーズも


頭に過ぎる。


「どうする気だ」


「まずは奴に近づき、この退魔用の札を貼る。これでまず術者か怪異か


を見分ける。効かないなら術者、効く、少しでも怯めば怪異だ。で前者な


ら体術で締め落とし、後者ならこのナイフ刺す。どうこれ以上ないくらい


完璧なプランでしょ。見てなさい、これがプロの仕事って奴だから」


 随分、穴だらけのようなプランのように思える。そもそも、この事態は


想定外の事象のはずだ。どうして自分の上司、あの黒峰とかいう男に相


談しない?それにあの少女もおかしい、術者にしろ怪異にしろどうして姿


を見せた? もし少しでも呪いの存在に気付いていれば攻撃されるのは


必定。なのに俺達の目の前に現れた……結論、罠だろ、これ。


「私の体術とナイフ捌きを見て、くれぐれも惚れないように。じゃ、ひと狩


り行って来ますか」


「ちょっと!?」


 罠という結論が頭を過ぎった瞬間に紙原は足に力を入れ、少女に向


かって猪突猛進の加速を加えようとする。止めようとした俺は思わず


背後から胴タックルをし、制止を試みる。紙原の体温とスカートのひだ


を肌に感じつつ、加速前だったせいもあってなんとか一緒に倒れなが


らも止める事が出来た。


 だが次の瞬間、視界に映ったのは紙原のスカートの中にある白い


ナニカと超スピードで襲い来るうちの学校指定の靴だった。


 そして鈍い音と共に世界は揺れ、鈍い痛みと共に世界がグルリと回


転した。

「隣人は死神とダンスを踊る」 その8

 俺達は近所にある空き地へ行き、とりあえずなんらかの対策を考えることにし


た。まったく、もう少しで帰宅出来たのになんでこうなるかな。ただ、今回は原因


が明白な分マシと言えばマシだが俺にとっては悪夢のような展開なのは変わら


ない。


「なんとなく原因は分かるけどここからどうする気ですか。あんたその道の一応


プロなんだろ」


 ちょっと挑発気味に聞いてみる。不幸中の幸い。多分、これでこいつの正体が


分かるんじゃないかとなんとなくだがそう思った。


「一応は余計よ。ええっ原因、分かったの!?何っ、何か違和感的なモノ、ここ


までであった?」


 やっぱりこの人、いろんな意味でやっぱりダメな人だな。おそらくだが今回、俺


に監視をつけるという目的は隠れ蓑、おそらく別の目的が……その件は後で神


馬さんにでも相談するとして現状の打破、これが今の優先すべき事だ。


「あんたがさっき女の子といろいろと会話していたでしょ。多分あれですよ」


「はっ、お前は馬鹿か、あの女の子の姿はお前にも……あっお前、もしかして


『見える』人?」


「ああいう部に所属しているですよ。普通はそう考えませんか?っていうかそう


いう基本的な情報もなしに対象を監視しようと?」


「バカにしないで。あんたの個人データは既に本部からメールで来てたんだけ


どいろいろと忙しくてまだ見ていなかっただけよ。今日中に目を通すつもりだっ


た」


 ややムキになって反論するももはやその姿にプロの雰囲気など一切なく(最


初からそんなものなかったが)ただのイタい女子高生にしか見えなくなってい


た。


 しかし、なるほどこれで少し得心がいった。あの凛とかいう少女を見つけた時


わざわざ、指さし、俺に確認をとったわけか。こいつなり処世術といったところ


か。いろいろと穴の多い方法ではあるが。


「まぁその件は置いておくとして、現状、マジな話、どう分析する?」


「そうね。おそらく系統としては呪詛、おそらく偶然を装って殺す類のモノ。対象


は私。おそらく掛けてあの凛っていう少女で怪異か呪術師かは不明。今時点で


分かっている事こんな所かしら」


「俺は素人だからこういうのってよく分からないんだけど、この場合、術者をどう


にかすれば呪いは解けるのか?」


「一概には言えないけどね。その可能性が高いのも事実ね」


 いまいち確実性の薄い話だ。だいたいもし術者だった場合、どうにかしたらそ


れは犯罪になるだろう。だとすれば……


(いつの間にか巻き込まれてるーー!?)


 俺は思わず頭を抱えると同時に視界には公園の入り口で笑みを浮かべる先


程出会った、少女の姿があった。