ウォッチメンズ⑦
GO!GO!GO!GO!GO!
無線機から発される部下たちの雄叫びを聞きながら、「私」の脳裏には何故かあの映像が浮かんでいた。
東洋人の女生徒が下着も着けずに道端に転がっているあの映像だ…。
あれは確か数ヶ月前。
砂漠地帯の地下に設けられた特殊科学技術研究所のモニタールームでのこと。
目の前の数十のモニターには各国から送信されてくるスパイ映像が映し出されていた。
(当時、極秘開発に成功したナノ型ICチップ取り付けによる昆虫を使った諜報活動が試みられていた)
視察中だった「私」は、たまたまその中のひとつの映像に目を留めたのだ。
正直、映像自体に興味を惹かれたわけではない。この世界にはもっと過激で残酷な瞬間など掃いて捨てるほどある。
しかし何かが引っかかったのだ。
理由はわからないが、他人事とは思えない何かが「私」の琴線を静かに奏で…
「ズガガガガガガ!!」
いけない!
いまは回想をしている時ではない。
作戦はもう始まっているのだ。
敵アジトの南西側の茂みの中で銃撃音を聞きながら、「私」は双眼鏡で突入の首尾をうかがった。
南米のジャングルの奥地。
そこに、長年追い続けてきた国際テロ組織「紅のブッダ」の本拠地がある。
各国の諜報機関が血眼で捜索しても尻尾さえ掴ませなかった伝説の悪の組織を、いままさに「私」の指揮する部隊が壊滅へと追い込んでいるのだ。
思えば長い道のりだった。
2歳で小学校を卒業し、飛び級を重ね7歳で博士課程を修得。
10歳で投資銀行の北太平洋CEOに就任し、M&Aを多数手がけたその後、突然の退社から鳴り物入りで入隊した情報機関を見習いから務め上げ、ようやく今年17歳で部隊長(階級は少将)を拝命した。
(おそらくあの映像の女生徒と歳は変わらないだろう)
世のため人のため、歩く滅私奉公として人生の年輪を刻みながら、ついにあの無法者たちを追い詰めることができたのだ。
奴らの非道行為は挙げればきりがない。
モアイ像に葉巻を吸わせる…
システィーナ礼拝堂で念仏を唱える…
ピラミッドに流氷を投げつける…
数々の犯行声明を出しながら、堂々と世界の歴史を冒涜してきた人非人たちに、ついに正義の鉄槌を下ろす瞬間が近づいているのだ。
思えば今回の作戦は神のご加護の下に成り立ったと言って過言ではない。
あれだけ追っても手掛かりの掴めなかった組織の情報がひょんなことから降って湧いてきたのだ。
そう、ひょんなことから…。
「1Fクリア!」
「2Fクリア!」
「地下室を発見!突入します!」
屈強な部下たちからの無線を聞く限り、制圧は予定よりも早く実行できそうだ。
これも何かの導きなのだろうか。
明けかけた夜空に目を向けると、遠くに大きな流れ星が瞬いた。
そして「私」は、もう一度あの女生徒の姿を思い浮かべた。
ウォッチメンズ⑥
俺の名は「東京都設置許可番号0721919」。
正式名称は当選付飲料自動暖冷適正国体護持入金後選択自動投下販売装置機器とやたら長いが、当たり付自販機と言えば聡明な読者はすぐに察しがつくであろう。
駅前の一等地に配属されて20年、俺の前を通り俺を越えて行く人々に喉の渇きを癒やすオエシスとして身を粉にしてきた。
座右の銘は「動かざること山のフドウ」。
雨の日も風邪の日も24時間365日、じっと腰を据え社会に奉仕している。
それにしてもこの世の中は上っ面な善意とドス黒い悪意にまみれている。
子供の時にアリの隊列を踏み潰した直接的な残虐性は成長するとともに薄れていくが、大人と社会はいつだって汚い。
遅刻した時にヤフーの路線検索のせいにする者、満員電車にわざと最後に乗ってドアにもたれて楽をする者、ブログを会社携帯で更新して個人携帯の通信費を浮かす者。
例を挙げると枚挙にいとまがないが、大半の人間は自分の利益を最優先する。
とどのつまりは他人がどうなろうと知ったことじゃないワケだ。
ピコピコピコピコピコピコ、ピ、ピ、ピ、ブシュン…
デジタルに表示された数字は7、7、6で無常にも止まるとそっと消えた。
「ちぇっ、ママ外れちゃったよ。」
「ヨシオ、次があるわよ。さあ行きましょう。」
次があるわよ?
そんなものはまやかしに過ぎない。
俺は年に三回までの当たりを出すようプログラミングされているがこの子供が次に来て当たりのシーケンスを抽選しても、永遠に当たりを出すつもりはない。
人生に次はない。
大人になって後悔するより、今のうちに学んだ方がいい。
俺なりの機械ごころってやつだ。
そして毎日俺を通過していく者たちがいる。
毎朝コーヒーを買うサラリーマン、毎晩ジュースを買う苦学生と様々だ。
中でも俺のイチオシは毎朝栄養ドリンクを買う女子高生。
一番の売れ筋である栄養ドリンク「タフ野郎5000」を買うその女子高生はなかなかいいセンスをしていると思う。
そんなことを考えていたら、いつもの女子高生がショートカット用の駐車場を横切ってこちらに向かってきた。
若干時間が押しているのか早歩きだ。
次の瞬間だった。
女子高生が縁石に引っ掛けて豪快に転ぶと、俺のプログラムにはない「何か」が姿を現した。
ウォッチメンズ⑤
自信を持って言えることがひとつだけある。
「私達は働き者だ」
休まる時間があるとしたら、それは仲間が代わりに働いてる時。
または働き過ぎ、我が身がボロボロになって捨てられた時…
うまれた時には私達の運命はもう決まっている。生涯行ける場所は三ヶ所だけ。うまれた場所、引き渡される場所、働く場所。それが私達の宿命。
人生の半分以上はひたすら御主人様に御奉仕し、忠義を尽くすだけ…でも私はそんな自分の人生を呪ってはいない。
なぜなら幸いにも私の御主人様は比較的優しいほうだから。
大事に扱ってくれている。仲間も作ってくれた。
何より私達を必要としてくれている。
こうして穏やかに緩やかに毎日が過ぎ、来たるべき人生の審判の日には笑顔でみんなに別れを告げられそうだ…。そしてわたしの死に顔はきっと微かな優しい微笑みとたくさんの白い薔薇に包まれるの…。
「なに感傷に浸ってんの?」
笑いながら仲間が言ってきた。
いけないいけない、妄想は私の悪いクセ。
「ううん…、私って幸せだなって」
「相変わらず妄想?そんなことより働きなさい」
クスクスと笑いながら仲間は言った。
そう、最近めっきり御主人様へのお勤めが減ってしまった。
若い仲間がたくさん入ってきたことや、御主人様も歳を重ねるにつれ好みが変わってきたこと…。だから古株の私が飽きられてきてるのも解るけど…。
「大丈夫、ちゃんとまた御主人様から御指名あるから」
気遣ってくれる仲間にそう慰められると逆に惨めな気持ちになる…
話しを変えようと私は切り出した。
「…そうね。私もきっとまたお勤めあるわよね。そういえば今日のお勤めは誰かしら?」
「…えっと今日は……、あの子もいるし、あの子もいるし… うーん……、あの子もいる…。 あれっ、みんないる!」
「そんなはずないよ、お勤めがいないなんて!」
「おかしい…、でも確かにみんないる!こんなこと今まで一度もなかったのに! どういうこと?!」
会話を聞いていた周囲の仲間の間でざわめきが起こった。
(どうなってんの?)
(御主人様は?)
(誰も御指名がないなんて…)
しかし私達に解る術はない。
誰かが言った。
「御主人様が帰ってきたらわかるからみんな落ち着きましょ」
「…そうよね、何が訳があるのかもしれないし。帰りを待ちましょ」
「きっとみんなが知らない新入りがいるのよ」
パンティー達がヒソヒソ噂話をしてる頃、従者を忘れた御主人様が秘部を爽やかな朝日の下に晒していることなど、彼女達は知る由もなかった…