ウォッチメンズ⑥
俺の名は「東京都設置許可番号0721919」。
正式名称は当選付飲料自動暖冷適正国体護持入金後選択自動投下販売装置機器とやたら長いが、当たり付自販機と言えば聡明な読者はすぐに察しがつくであろう。
駅前の一等地に配属されて20年、俺の前を通り俺を越えて行く人々に喉の渇きを癒やすオエシスとして身を粉にしてきた。
座右の銘は「動かざること山のフドウ」。
雨の日も風邪の日も24時間365日、じっと腰を据え社会に奉仕している。
それにしてもこの世の中は上っ面な善意とドス黒い悪意にまみれている。
子供の時にアリの隊列を踏み潰した直接的な残虐性は成長するとともに薄れていくが、大人と社会はいつだって汚い。
遅刻した時にヤフーの路線検索のせいにする者、満員電車にわざと最後に乗ってドアにもたれて楽をする者、ブログを会社携帯で更新して個人携帯の通信費を浮かす者。
例を挙げると枚挙にいとまがないが、大半の人間は自分の利益を最優先する。
とどのつまりは他人がどうなろうと知ったことじゃないワケだ。
ピコピコピコピコピコピコ、ピ、ピ、ピ、ブシュン…
デジタルに表示された数字は7、7、6で無常にも止まるとそっと消えた。
「ちぇっ、ママ外れちゃったよ。」
「ヨシオ、次があるわよ。さあ行きましょう。」
次があるわよ?
そんなものはまやかしに過ぎない。
俺は年に三回までの当たりを出すようプログラミングされているがこの子供が次に来て当たりのシーケンスを抽選しても、永遠に当たりを出すつもりはない。
人生に次はない。
大人になって後悔するより、今のうちに学んだ方がいい。
俺なりの機械ごころってやつだ。
そして毎日俺を通過していく者たちがいる。
毎朝コーヒーを買うサラリーマン、毎晩ジュースを買う苦学生と様々だ。
中でも俺のイチオシは毎朝栄養ドリンクを買う女子高生。
一番の売れ筋である栄養ドリンク「タフ野郎5000」を買うその女子高生はなかなかいいセンスをしていると思う。
そんなことを考えていたら、いつもの女子高生がショートカット用の駐車場を横切ってこちらに向かってきた。
若干時間が押しているのか早歩きだ。
次の瞬間だった。
女子高生が縁石に引っ掛けて豪快に転ぶと、俺のプログラムにはない「何か」が姿を現した。