日本縦断!人の和と輝く人生に乾杯! ~極彩色に囲まれて~ -13ページ目

ウォッチメンズ④



ヘンリー・グスタフソンは暇を持て余していた。


宇宙飛行士として地球を離れて194日と19時間19分。
いいかげんこの刺激のない毎日にうんざりしていた。
いや、本来であれば宇宙空間に身を置くことが退屈になどなるはずがない。
しかし彼はいま、ある特殊な状況に直面している。

そもそも有人実験のパイロットになど志願したのが間違いだったのだ。
当初は超難関の選抜を勝ち抜きエリート中のエリートと喝采を浴び自尊心をくすぐられもした。
しかしそんなことはここでは糞の役にも立たない。

もちろん、はじめのふた月ほどは使命に燃え、人類の進歩と発展は我が双肩にありとばかり、日夜実験に精をだしたものだ。

しかし、結果的にそれが良くなかった。

250日を想定して組まれた実験プログラムを僅か100日でクリアしてしまったのだ。
能力の高さからとは言え、後の祭りとは良く言ったもの。

それ以来やることがなくなってしまった上、行動範囲は操縦席とラボを兼ねた居住スペースのみ。
狭い空間でただ時間だけを浪費する日々。
日本のニート以下の生活が始まったのだ。宇宙船の中で。

当然、実験の終了報告と繰上げ帰還申請は数度に渡って行っている。
しかし本部から返ってくる応えは「担当者不在」の一点張り。
最先端の宇宙基地にもお役所仕事が蔓延していたのだ。

しかしそれを知ったっころでグチをこぼす相手すらいない。

できることといえば、小惑星に奇声を発するか、せいぜいコクピット越しに地球へ向けて放屁することぐらいである。



「シャナナナナナナナナナナナ!!」



ブゥーーーーーーッ!!



ガンッ!

痛っ!

今日は苛立ちからあまりに強くオナラを出しすぎてしまったようだ。
前方への推進力で彼は頭から船壁に突っ込んでしまった。




マイガーッ(涙)




全くやることなすこと裏目に出る。

彼は涙目でおでこをさすりながら、仕方なく超高倍率望遠鏡「ゼウス」のスイッチを入れた。

最近ハマっている暇つぶしのひとつで、ピントを地上に合わせて人々を観察するのだ。
ネーミングの勝利と言うべきか、さながら神にでもなった気分が味わえる、、、が、ただそれだけだ。

どうせ今日も大した事件は起こらないだろうな。。

半ば投げやりに地球にレンズを向けながら、彼はピントの調整ダイヤルを回しはじめた。


カチ、カチ、カチ...


お、こいつはニートの国じゃねえか。
いまの自分への皮肉にも似た偶然。
唇の片方だけ釣り上げて自嘲ぎみに笑うと、彼は観察をはじめた。


ふぅ、どれどれ、、


あ!


そこで彼は思いがけないものを目にした。
何気なく向けた望遠鏡の先でスチューデントガールが転んでいるではないか。


おぉ!!


しかもこの角度からだとパンツが、、


倍率をさらに上げて確かめる。




なんだと!!!





「アメイジング...」





眼前に広がるのはまさにあられもないその部分。
彼はしばらく口をパクパクさせながら穴があくほどその穴を凝視した。



が、そこからの彼は素早かった。
おもむろに同じくパンツを脱ぎ捨て、小刻みに動き出す、、、


(シャナナナナナナナナ....)


そして、、、、、




「んんはぁ!」


小さな呻き声とともに、彼は後方にふわっと浮き上がった。




そう、そこは無重力空間。

なにがしかの「推進力」が働いたのである。




ウォッチメンズ③

「それにしても大変でしたね。」

「ええ、全くもって災難でした。まさか、僕の育てた椎茸市場がシメジに駆逐されることになるなんて。でもこれが時代の潮流なんだと甘んじて受け入れました。それに…」

「それに?」

「シメジの方が美味しいですしね。」

「なるほど。それがその時の御仁(ごじん)の決断だった訳だ。そろそろこの辺で。次週のゲストははパンナコッタ長瀬さんです。ではまた来週!」

瀬戸外爆聴(せとがい ばくちょう)がお決まりの締めゼリフを吐くと収録は無事に終了した。

ばくさんの二番底カバン。

言わずと知れた昭和から続く日本を代表する最長寿トーク番組だ。

最後の締めゼリフは某局の明日来てくれるかな、に匹敵する国民的キャッチフレーズである。

と言っても周知の事実であるが実態は新進気鋭の実業家を持ち上げる、経済界御用達のいわゆるプロパガンダ番組でもある。

スポンサーもぺニーにポナソニックと一流どころが名を連ねている。

そんな番組を初回からナビゲーションしている爆聴(以下、ばくさんと略す)は敬虔なる精進坊主で、出家してから既に50年の月日が経過している。

つまり俗世界と真逆に位置している訳になるが、そんな真摯な出家者がゲストとゼニゲバについてアツく語るそのギャップが番組最大の売りだ。

「フー、疲れたぜ…」

収録が終わり局が用意した帰宅用タクシーに乗り込むとばくさんは大きく息を吐いた。


ゲストとのトークが盛り上がるとついつい時間を忘れて朝方になることもあり、時刻は6:30を回ったところだった。

小脇に抱えていた唐笠模様の風呂敷を広げると中に入っていた部品を手際よく組み立て、ペットボトルの水とフレーバー粉を混ぜ火をつけた。

ばくさんの囁かな楽しみであるトルコ式水パイプだ。水は硬水ながら滑らかさがあるクリスパル・ガイガーを愛用している。

彼なりのこだわりだ。

昨今のタクシーは禁煙だ。車内にコパトーン臭が充満すると運転手も訝しい目で見てきたが、いわゆる「タバコ」とは根本的に違うためばくさんは意にも返さず煙を楽しんだ。

一息つけると窓の外をまんじりと眺めた。

世間は出勤、登校途中の人々がそれぞれに足早と吸い込まれるように駅に向かっていた。

世間様はこれから仕事だってのに、こっちは朝帰りか。一番の俗物は自分なのかもな…

そんな自虐的な禅問答をすると、ばくさんは一人で軽く苦笑いをしたが次の瞬間に信じられないことが起きた。

「おいっ運転手!今すぐ止めろ!!早くだ早くっ!」

窓の外で登校途中と思しき女校生が転倒したのだが、どう考えてもノーパンだったのだ。

「運転手何やってんだよ、クソっ!早く止まれよ!」

「はいっ?どうしもした?」

初老と思われる運転手は耳が遠いのか、俺の叫びがまるで届いていない。

窓から後ろを振り返って見たが、女校生はどんどんと小さくなっていった。

「畜生、なんだってんだ。この運転手…」

ばくさんは歯ぎしりをしながら、搾り出すように言うのがやっとだった。

ばくさん自身が言うとおり、彼は一番の俗物に違いなかった…

ウォッチメンズ②

私の名前は岩田巌(いわたいわお)、36歳のサラリーマンだ。

この硬そうな名前から、ついたあだ名は「玄武岩」、就いた職業も堅い会計監査院だ。


30歳でマイホーム、二児の父にしてクルマはオデッセイ、遊びのないメガネに地味なネクタイ、夫婦の営みは縁遠くなりつつあるごくごく普通のリーマンだ。


正直毎日つまらない。


しかしあと24年残ってる家のローンと子供の養育費を考えると贅沢はいってられない。年に二回のボーナスを楽しみに、きちんと6時には起き、決まった時間の電車に乗って出社しなくてはいけないのだ。

今日もいつも通りの朝だ。朝食をとりながら日経を読み、日経を読みながら用を足し、用を足しながらヒゲを剃り、ヒゲを剃りながら歯を磨く。流れるような朝の作業だ。

「いってくるぞ」

いつものセリフをはき、玄関を出たらきっかり53歩あるいて左折、信号は12秒で青、そしてここで犬に吠えられる(ワンワン!)



よし、異常なし。


ここの角からママチャリに乗ったおばちゃんが出てくる(チリンチリン)、パン屋『パニー』のシャッターが開く(ガラガラ)、パチンコ屋の裏路地から出てくるちょっとカワイイ女子高生(ヒョコッ)。

全ていつも通りだ。


ん?


いつもの女子高生、やけに急いでやがるな。

チラリと腕時計を見ると予定より17秒の遅れ。

チッ、どこで何が狂ったんだ?
私としたことが…

しかし考えてる間はない。電車は無情にもやってくるのだ。よし近道だ。

二時の方角にある駐輪場を突っ切り17秒をリカバーせねば。前の女子高生も同じ考えのようだ。

縁石を越えるための助走距離は3メートルでオッケー、その後時速9キロメートルで駅に向かえば電車到着13秒前には到達、よし大丈夫だ…


「ドカッ!」


不意に縁石に足を引っ掛けた前走者が転倒した。


いかん、計算が狂うぞ…歩を速めないと…

そんな事を考えていたその瞬間、


「キャ!」



「…?! おおぅ!」






昔のヒトは言いました。



「たなぼた」









転んだ前走者のスカートの中からは赤貝よろしく「中身」が顔を覗かせていたんだ…。