日本縦断!人の和と輝く人生に乾杯! ~極彩色に囲まれて~ -15ページ目

秋は月に恋をする⑧


「ちょ、なんだよ、これ…」


僕は取引先の幸子とかいう全く幸が無さそうな担当者から半ば押し付け気味に渡された箱を開けると絶句した。


箱の中には常軌を逸した体裁のケーキが入っていたのだ。


手作りと思われるそのケーキは、クリームがオハギで作られていた。
そのため外壁は黒衣の宰相の如くどす黒い光を重苦しく放っている。


上にはイナゴとオクラが円を描くように盛り付けられ、ハンマー投げのメダリストが気張っているかのような鬼の形相で懸垂をしている何故か腕のあるこけしが中央に刺さっていた。


そして僕が来るまで膝の上でケーキを温めていたのか、スポンジが柔らかくなっていて刺さっていたこけしは数十度傾いていた。


「凶器が狂喜してやがる…」


普段ならネタ帳に書くような名言を一人言で吐いたのに気づかないほど、ケーキは理解不能だった。


しばし呆然と眺めていたがよく見るとメッセージカードが添えられてることに気付き、恐る恐るカードを開く。


「滅入り苦しみます!少し早いですが貴方へのプレゼントです。世間はメリークリスマスなんて鬼畜米英レベルのこと言ってますが、あれは本来仏教用語だと知ってましたか?滅入り苦しみます。仏教用語では最高の修行とされ、懸垂による極限の苦しみの先に極限の悟りがあることを意味してます。そうだ!カルマを落としに今度懸垂しに行きませんか?業と書いてカルマですよ!良い所知ってるんです。終わった後に出てくるイナゴとオクラの煮付けも美味しいですよ!滅入り苦しみます。貴方のライディーンより」


何回読み返しても2行目以降は何が言いたいのか解読不能であったが、唯一分かることはどうやら本気で誘っているということだった。
それも行先はホームラン級の暗黒面のようだ。


薄ら寒さを覚えた僕はケーキをイージーラックのリュックにブチ込むと、仕事である長野までのバイク便に足早に出発した。



その頃幸子は意を決した達成感から高揚を感じ、デスクに置いてあるコメツキバッタ型のこけしを頭にこすりながら悦に入っていた。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞

高揚と言えば、一一一(ひといちはじめ)巡査は警察官になって以来、最大の高揚を感じていた。
理由は2つだ。


1つに、警らの際にたまたま捕まえた男が大物の実弟だったということ。
そして2つ目に、その男が捕まった当時の記憶を無くしていることだ。


一一という警官は、元々正義感の欠片もない生粋の悪徳警官である。
その日もパチンコで負け、ムシャクシャした腹いせに歩いている男を後ろから警棒でしこたま殴りつけたのだった。

しかし、当たり所が悪かったのか男が気を失ったので自分の身の安全のために緊急逮捕をしたところ、大物の実弟だったわけだ。


幸いにも夜だったので顔はおそらく見られていない。

取り調べをオフレコで行なって男が万が一「お前に突然殴られた」とかガタガタ騒ぐなら、眉間に鉛玉でも撃ち込んで黙らしてやるかと考えていた。


「アーウーアー…」


それが、記憶を無くしているときている。


「いよいよ俺にもツキが回ってきたな…」


一一はそう呟くと、好物のフリスクを数十個ほど口に含んだ。


そして「ギギギギ」と高笑いすると、フリスクを口からこぼしながらさらに男を殴りつけた。



秋は月に恋をする⑦


1984年Ⅹ月16日の朝立新聞記事より抜粋…


『《新興宗教団体教祖の実弟逮捕!裏社会にはびこる魔の手!》

啓視庁視姦課手こき係は昨夜未明、都内某所にて新興宗教団体「コケのむすまで」の教祖、ゲバゲバ大王こと屯田兵の実弟で自称モーレツ企業戦士、大塚ノブオ容疑者をワイセツぶつチン劣罪で緊急逮捕した。

調べによると大塚容疑者は、深夜の住宅街で女装しながら月を見てほくそ笑んだのち、電柱の根元に向かっていかがわしい言葉を投げかけた疑い。啓視庁によると取り調べに対し大塚容疑者は、


「流通業の重鎮ナメんな!」
「これは幕府の陰謀だ!」
「大統領を呼べ!」

などと反抗的な態度を見せているという。

しかし朝立新聞独自のとある消息筋によると大塚容疑者はこのような供述をしたらしい。



「…オレが働いてるビブンセキブンは真夏におでんがバカ売れするんだぜ…」』



§§§§§§§§§§§§§


カランカラン…


(来た!)


「バイク便でーす」


アタシは少しだけコケシ柄のブラヒモを見せ、ドキドキしながら言ったの。



「月月火水木キンタ…」


「で、ご依頼の品は?」


遮られたわ!やり手ね!

でもめげないのアタシ。それに仕事中だし。だから平然と言ったわ。


「今日はこれを甲府まで。生ものだから急ぎでね!」


「生もの…ですね」


「そう、…もうすぐ生もの」


「…?…」


「孵化直前のカマキリの巣。気をつけて運んでね。…それと、はい、これは個人的に」


「…はあ、ありがとうございます」


(イエス!渡したわ!)


「後でゆっくり見てね」


「…わかりました」


§§§§§§§§§§§§§


キモい女だぜ…


しかしなんだこの生暖かい紙袋は…


とりあえず開けてみっか。




そして僕は開けたことを死ぬほど後悔することになったんだ…。

秋は月に恋をする⑥


オレは名は、大塚ノブオ。
地元のコンビニ「ビブンセキブン」の時期バイトチーフを狙う35歳だ。
フリーター歴15年の、いわゆる今時の若者ってヤツさ。

主な仕事はレジまわりと商品補充。
ま、簡単に言うと、流通業の未来を最前線で担う仕事ってとこかな。
ちなみにチーフへの対抗馬である大学生とは知らぬ仲じゃないが…、出世競争に私情は禁物!(これ、企業戦士のつらいところね)。

趣味はパソコン(Linux!)。
特技はコスプレ(主に二次元)。
今のところ人生=彼女いない歴だけど、いい娘がいれば付き合ってあげてもいいとは思ってる(ただしコジハル以上!オレ的にそれ以上の妥協はナシだぜ)。

以上、オレのスペックはそんなとこ…、ん?
オレのことをもっと知りたい?
…まったく、やれやれだぜ。
だがいいだろう、今日は特別だ。何が聞きた…


ドカッ!!


「オイ!テメー!ブツブツ言いながらボヤッとしてんじゃねえ!」

(おっといけねっ、ペロッ、客の弁当を温めてる最中にトリップしちまったぜ)


「は、はい!すいません!」

(しかしそんなにアングリーすることないはずだぜ、坊や)


「ぁりがとぅござぃましたぁアップ

(その敷居は二度と跨がせん、悪魔と契約してでも)

オレは鼻に抜ける爽やかな声でその客を送り出すと、コツンと自分のアタマを小突いて、今度はウィンクしながらもう一度舌を出してみた。


それにしても、最近この辺りも物騒になった。
客のいない店内を見回してからオレは洋モクに火をつけ、ふかした煙を蛍光灯に向け盛大に吐き出した。
随分前にそこの豪邸に住む何とか国宝のオヤジが殺されて以来、どうにも雲行きが怪しい。
歩きタバコ、自転車の二人乗、一時停止無視と、もはや何でもござれの無法地帯だ。
こりゃあパトロールを強化しなきゃならんな…。
虚空をひと睨みしレジ脇のおでんをもてあそびながら呟く。
「月が呼んでる、か」

オレは縦じまのエプロンをはぎとると、私服のセーラー服(白百合仕様!)に袖を通し機関銃(もちAKレプリカ!)を構えながらコンビニの裏口を出た。(店長すまん、今は街の治安が優先だ)
悪党どもよ、今夜はオレに出会わぬことを祈るんだな…。





警ら中の一一一(ひといちはじめ)巡査が壁づたいに移動する不審者を取り抑えたのはそれから数分後のこと。
銃把で殴られ気絶する寸前、ノブオはつぶやいた。

「…逝ってよし、か」