日本縦断!人の和と輝く人生に乾杯! ~極彩色に囲まれて~ -17ページ目

秋は月に恋をする②


嗚呼、そうさ…



本当に窮地だった。



例えると我慢してた尿意に堪えきれず、電車内で禁を失なっちゃう感じ?


おっと、そこまで行くとピンチと言うよりアウト、っていうか試合終了かもね。


Speak in Englishだと、「Game Over,don't you?」みたいな?



haha



まあ実際、スレスレの所でGame Overは回避したよ。


普通ならさ、転倒したらノタ打ち回った挙げ句、ヨレヨレになって起こす作業に移るじゃん?

なすがままってか、静止するまでそもそも制御不可だからね。


でもそれって、文字通り地べたを這いつくばるルーザーの諸行で、全くもって“クール”じゃないわけ。

僕に言わせるとね。



そこがトーシロと僕の差だね。


そりゃ転倒して10mはマシンと一緒に横回転しながら地面を引きずられたよ。


けど回転ってさ、遠心力がつくじゃん?

普段以上の力が「オノレ」に宿るっていうか。


だからそれを利用して滑りながら、竜巻旋風脚みたいにマシンを起こしたのさ。

下、左下、左+Kの連打でね。


まあ自慢のリーバイスが右半分、チャイナ服みたいにスリッドになったのは泣いたけどね。


でもこの一つの判断、一つの小さい一歩が人類には大きな一歩だと思うぜ?


たださ、さらに奇跡が起こったわけよ。

それもとびっきりにマーベラスなヤツ。


バイクもろとも立ち上がってビタっと仁王立ち風に止まってさ。

それがちょうど赤信号で「止まれ」の位置だったってわけ。


歩行者から歓声が上がったね。

みんな笑顔でさ。


あのマブイ女を見たら同じように笑顔でこっちを指差してた。



YOU WIN!

ありゃ口説けば簡単に落ちる感じだったね。



「ピンチはチャンス。」


昔の人の言うことは本当に的を得てるってもんだ。

秋は月に恋をする①

僕の仕事はバイク便。

フランチャイズで委託でやっている関係上、バイクの車種は問われない。要はきちんと確実に依頼品を届ければ誰も文句を言わない。

そんな訳で僕はマイマシンであるヤマハの名機「SR400」を仕事の相棒としているんだ。


乗り慣れ、愛着もひとしお、おまけにカッコイイときてる。僕はこの仕事に生きがいすら感じてる。

バイク便とは現代に蘇る飛脚だ。スピード、正確性、確実性においてミスは許されない。だってこれはビジネスだからね。

しかしひとたびマシンにまたがると、気分は二度戻れないカミカゼのゼロ戦乗りみたいなもんだ。(確実にやります)

みたいなね。


今日もダビダのメットを被り、バンソンのシングルライダースにリーバイスの66モデルをはき、足元をレッドウィングのエンジニアブーツで決めて、いざ出っ発したわけだ。


バイク乗りの致命的なミスを知ってるかい?


ああ、エンストだ。やってはいけないミス。


しかしだ、それ以上のミスがある。


そう、転倒だ。


先月僕はその犯してはいけないミスをしたんだ。


渋谷のスクランブル交差点でね…

言い訳じゃないがウェットなロードコンディションだった…


さらに横断歩道脇に佇んでいたべージュのコートを着た女性に気をとられていた。彼女はおそろしく美しい女性だったんだ。


(いいとこ見せてやるか)


そんな下心からのフルバンク。


そして絵に描いたような転倒ショー。


チャンスは一気に窮地になったんだ…。

ブルーライト・ヨコハマ⑩


「おい!?ガット・ウルグアイランドの下げ幅は幾つだ!?」


「クソがっ!?ダボス会議の議決内容が絶対じゃねぇのかっ!?」


部下達の怒号のような電話に僕は苛立ちを覚えていた。



都内十本木オフィス街に聳え立つ十本木ズルヒィービルの193階。
ビル内では「天井」と呼ばれる最上級のフロアだ。


フロアを取り囲む壁には映画館と同じかそれ以上の大きさのスクリーンが整然と映し出され、各国のチャートが昼夜問わず目まぐるしく映し出される。


僕は部屋の中央にあり全方位を見渡せる回転椅子に座り、キュイキュイキュイイーンとけたたましくアラームを流しながら昨日の反発が嘘のようにほぼ直角に下降を辿る各国のチャートに電子式卓上計算機(電卓)を投げつけたい気分だった。


自然薯の先物取引。
世界的な不作に社運を掛けた逆張りを指示したものの、軽く見積もっても今日一日で3兆円を溶かしている試算だった。



「このままではボスに殺される…」



そう思うと、椅子の右に備え付けられたキャリーに入っているパスポートに無意識の内に手が伸びていた。


危機感が体を支配する中、パスポートを鷲掴みして眺めていたら遠い記憶が蘇ってきた。
亜土流布だ。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞


亜土流布との戦いはお互い最終形態に移行したものの、クロスカウンターを叩き込みあい引き分けに終わった。


その後の亜土流布は中山町で発生した不審死に公安からいよいよマークされ、パスポート片手に逃げるように出国した。


ソマリア経由リオデジャネイロ行き。


それが亜土流布が残した最後の記録。


それ以降の足取りはもう30年間掴めていない。
アマゾン川流域から遡ること数百キロにある悪魔の住む村に行ったのかもしれない。


エースのおつしはと言うと稼業のバイク屋を継いだ。

フレームが歪むレベルの事故を起こしたバイクを完璧なリペアによって無事故新車として販売する町内でも指折りの良心店だ。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞



ふと我に返りスクリーンをもう一度見つめる。
チャートは遂にゼロベースを割っていた。


甲子園出場選手から3兆円の投資失敗。
時の流れは残酷だ。


そんな絶望感の中、天井を茫然と見上げると亜土流布が残した最後の言葉をふと思い出した。

ただ純粋に白球を追いかけ、甲子園に向けた県大会決勝前に残した言葉。








「トシ、サッカー好きか?」














って、おい!
それはシュ…、つーかパクリじゃねぇか。



どうやら僕もヤキが回ったようだ。


「ノーサイド。これがレクイエムである…」


そう呟くと、投資失敗の責任をとり仕方がないので自害することにした。






ロータリー戦記第三章
『ブルーライト・ヨコハマ』―完―