800文字 -95ページ目

最高の野球漫画

 僕は漫画「ドカベン」で漢字を覚えた。山田が怪我の里中を待つときに使った「一日千秋」などの4文字熟語や、谷津が「前略土門さま」で始める「谷津メモ」で手紙の書き方も覚えた。今でもどの巻がどの場面かをすぐに言うことができる。25巻で山田が記憶喪失になり、40巻で明訓高校が弁慶高校に敗れる。僕が好きなのはマニアックな俊足ぞろいのブルートレイン高校が出てくる38巻だ。僕にとっては高校まで、「ドカベン」こそが最高の野球漫画だった。
 ところが、大学に入るとその考えが変わった。高校の友人のR君に川原泉先生の漫画を教えてもらったからだ。受験競争で疲れていた僕にとって、川原先生のゆる~い世界観はとてもしっくりときたし、心がなごんだ。中学のときに所属していた野球部でほとんど楽しい思い出がなかったので(先輩に「けつバット」をされたり、「夕焼けにゃんにゃん」を見るために平日はいつも練習を早退する人にレギュラー争いに敗れたりした)、楽しそうに野球を楽しんでいる登場人物がうらやましかった。何より、どの登場人物も自分の身の丈を理解し、できる範囲で努力し、また自分の人生を楽しんでいる。川原作品によく言われることだが、哲学的な神々しささえある。「人生の秘密」が書かれているとさえ思った。
 かくして、「甲子園の空に笑え!」、「メイプル戦記」が僕にとっての最高の野球漫画になった。女性教師が田舎の高校球児を甲子園に導いたり、女性だけのプロ野球チームが結成されたりする発想もおもしろい。登場人物が打撃ではなく守備を徹底的に鍛えているところも地味だが奥が深い。
 今年の日本シリーズも両チームが守備の堅さで勝ちあがってきたチームだ。野球はやはり「守備力」だと、今更ながら川原先生の見識に感心する。
川原 泉
甲子園の空に笑え!
川原 泉
メイプル戦記 (第1巻)
川原 泉
メイプル戦記 (第2巻)



FIELD OF BAD DREAMS

 父親とキャッチボールしたことのある男性は「フィールド・オブ・ドリームス」を見ると必ず泣くという話を聞いたことがある。野球を軸に父子の愛情を描いた佳作だし、おかしくなる前のケヴィン・コスナーの主演だからそれも説得力のある話だ。僕もこの映画を始めてみたときは、父とのキャッチボールを思い出し涙ぐんでしまった。しかし、その理由は多くの人と異なるものだと思う。

 昨日に続いて身内の逆自慢話で恐縮だが、父とキャッチボールをするときは常に僕がキャッチャー役だった。少年野球でキャッチャーをしているのでその練習のために、というわけではなく、ただ、自分がピッチャーをしたいためだけに。小学生を相手に大の大人が真剣にボールを投げてくる。ショートバウンドが顔や後ろの壁で跳ね返って後頭部に直撃して、よく泣かされた。思い出すだけで、痛くて、悲しくて涙が出てくる。

 父の死後、いかにダメ親父かを示すエピソードとして、この話をよくするが、母いわく「遊んでもらった思い出があるだけまし」ということらしい。別に遊んでもらった気はないが(どう考えてもこちらが遊んでやっていた)、弟は遊んでもらった(いじめられた?)思い出すらないらしい。「悪い思い出」と「思い出自体がない」のでは、どちらが不幸なのだろうか?なかなか奥深い問題ではある。

 「エターナル・サンシャイン」はこの「思い出」について扱った話。「マルコヴィッチの穴」の脚本家だけに、失恋した男性が元彼女の記憶を消すサービスを利用するという奇抜な発想と、時間軸の設定がうまく、最後にうーんとうならされる。ジム・キャリーも珍しく押さえた感じのいい演技をしているし、ケイト・ウィンスレットもタイタニックとは大違いで魅力的。恋愛ならつらくても甘い記憶もあるだろうが、親子の記憶はどうだろうか?


ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
フィールド・オブ・ドリームス ― コレクターズ・エディション
ハピネット・ピクチャーズ
エターナルサンシャイン DTSスペシャル・エディション

二人連れのロードムービー

みなさまの一番古い記憶はどんなものだろうか?僕の一番古い記憶は、3歳くらいのときに、祖父に不動尊に連れってもらったこと。なぜ覚えているかというと、途中で入った店で、祖父がいろんな色のプラスチックの札をお店の人とやり取りしていたのが楽しそうだったから。大人になって、連れて行かれたのは立ち飲み屋で、プラスチックの札は伝票代わりだということに気がついた。それにしても3歳児を立ち飲み屋に連れて行くとは・・・。僕が酒豪になるのは遺伝的にも環境的にも必然的だったとわかる。とはいえ、飲んだくれたおじいさんが孫を連れて旅するという設定はロードムービーとしてはなんとなく面白そうだ。

二人連れのロードムービーという設定に魅力を感じる。そのような設定の映画があるとそれだけで見たくなるし、評価も甘くなる。二人連れのロードムービーのいいところは、

その二人の絆の深まりや葛藤が、旅という非日常的な場面設定や第三者の介入によって、より鮮明に浮かび上がるところだ。家族や友人の場合はこれまでの関係が見直され再構築されていく過程が、赤の他人の場合は次第にお互いに惹かれ合う過程が浮かび上がる。そのような内面の変化に、旅という場面の変化も伴うので見ていても退屈しない。

二人連れのロードムービーと言えば、老人と猫(「ハリーとトント」)、母と子(「アリスの恋」)、赤の他人(「菊次郎の夏」、「ペーパームーン」)、などの名作があるが、老人と孫という設定はあまりないような気がする。酔っ払いのヒーリングカウンセラーが孫を連れて巡礼する映画をMr.オクレ師匠主演で誰か作ってくれないだろうかと思う。「UDON」に続くご当地ムービーとして「お遍路!」というタイトルで公開したら、そこそこヒットするような気がするのだが、四国のみなさまいかがだろうか?


ビクターエンタテインメント
ハリーとトント
ワーナー・ホーム・ビデオ
アリスの恋 特別版
バンダイビジュアル
菊次郎の夏
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
ペーパー・ムーン スペシャル・コレクターズ・エディション