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優先順位

 予備校での小論文のクラスの中で、「多くの人が『善』と『悪』という切り口で回答しそうな問題に対しては、『美』と『醜』などの別の対立概念を提示することにより深みが出る場合がある」というような説明を受けた記憶がある-それにしても高校の授業内容はほとんど覚えていないのに、予備校の授業内容は結構覚えているのが本当に不思議だ。浪人中なので真剣に聞いていたためか、講師の力量によるのかはよくわからないが-。例えば、自分の目指す人生像などを問われる問題で、多くの人が善い人や成功することを目指すという風に書くと想定される場合は、自分は美しく生きたいと主張しそれをロジカルに説明できればかなり目立つことができる、というような趣旨だったと記憶している。

 その授業を受けてからいろいろな対立概念について考えることがたまにある。「善悪」、「美醜」、「盛衰」、「苦楽」、「長短」、「大小」、「虚実」、「強弱」、「公私」、「軽重」、「貴賎」、「貧富」、「深浅」などなど。さらにたまにだが、その中で自分は何を重視するのだろうと考えることもある。もっと若いころは「善」と「楽」の優先順位がかなり高かったが、だんだんとそうでもなくなってきた。善悪は結局、相対的なものでしかないことや、「楽」ばかりの人生が必ずしも充実したものではないことがなんとなくわかってきたからかもしれない。

 そのように僕に気づかせてくれたのが「銀河英雄伝説」という小説。かなり記憶があいまいだが、ある指揮官が職場では残酷で狡猾だが、家庭では妻子を愛するよい父親である、というように描写されていてかなり感銘を受けた。大学合格後上京して一人暮らしを始めた直後にはまった。熱狂的なファンが多い作品なので、僕なんかはすごくライトな読者だと思うが、それでも寝食を忘れて読書した経験は後にも先にも本作だけだ。感情移入しすぎて主人公のヤン・ウエンリーが死んだ場面では読んでいて泣きそうになった。

田中 芳樹
銀河英雄伝説〈1〉黎明篇


ラッキーマン

 僕の奥さんは就職活動の特技欄に「運がいい」と書いたツワモノだ。今となっては、なかなかいいセンスだと思うが、バブル崩壊後の日本社会では運に会社の命運を委ねようとする人事担当者はいなかったと見え、彼女の就職活動は困難を極めた。就職活動が越年かというぎりぎりの段階で滑り込みで内定をもらっていたという記憶がある。もっとも、僕の目から見たら彼女は運がいいというよりも悪運が強いタイプ(例えば、10人中5人に商品が当たるというくじには絶対あたらないが、10人中1人しか生存できない事故に巻き込まれたら生き残るタイプ)の人なので、その結果は当然なのかもしれない。

 「とっても!ラッキーマン」は運だけを武器に悪者と戦うヒーローもののギャグマンガ。週刊少年ジャンプのギャグマンガを僕はあまり評価していないが、本作は「ついでにとんちんかん」と並んで僕が大好きな作品だ(ちなみに、こち亀は僕の中ではギャグマンガではなく「うんちくマンガ」として位置づけられている)。やはり、運を武器にして戦うという独創的な発想が素晴らしい。絵はかなり下手だし、ネタはかなり強引なこじつけが多いが、運のよさを生かした攻撃や不運な時に受ける被害が結構ロジカルで毎回感心していた。「DEATH NOTE」の原作者、大場つぐみさんが「ラッキーマン」の作者のガモウひろしさんと同一人物と言う噂があるが、登場人物の名前が当て字なところや、展開が強引でロジカルなところがすごく共通しているので、結構信憑性があると思っている。

主人公の追手内洋一は名前と言い雰囲気といい、俳優の温水洋一さんにそっくりだと個人的には思っている。本作を彼の主演で是非実写映画化して欲しい。スパイダーマンなみのCGを駆使して運による攻撃や不運による被害を表現したら、DEATH NOTE」並みにヒットすると思うのだがいかがでしょうか?


ガモウ ひろし
とってもラッキーマン 1 ラッキークッキーコミックス1巻の巻 (1)
大場 つぐみ, 小畑 健
Death note (1)


変な会社

 子どものころは会社というものはもっときちんとした仕組みや倫理観に従って成り立っているものと思っていた。学校のように朝から晩まで休み時間も分刻みのスケジュールで管理されていて、いろんな作業も細かい手順に従って行われているものだと思っていた。

ところが、いざ自分が社会人になってみてまず持った感想は「会社って結構いいかげんだな」というものだった。恐ろしく仕事ができる人もいれば、一日中ほとんど何もしていないような人もいる。ホッチキスのとめ方など一見どうでもいいようなことにすごくこだわっているかと思えば、建替えた旅費とかが一向に支払われなかったりする。上司にはすごく丁寧な言葉を使う人が、客先やレストランではふんぞり返って話をする。大学までは、年長者が年少者にご馳走することがあたりまえだと思っていたが、支店長との懇親会で新入社員が支店長分の費用も負担するという信じられないことが行われてびっくりしたりもする(もっとも私が出会った大半の先輩はよく私にご馳走してくれたが)。

いつからかこのような会社の奇妙なところをある程度相対化して見ることができるようになった。とはいえ、毎朝5時に携帯メールで出社時間を指定する上司など、自分に対して危害が及ぶ場合は別だ。会社の自分はある役割を演じているだけだと思いながらもときに耐えられなくなる。でも、切れた方がややこしくなることも分かっているので我慢する。

ただ、いくら変な会社といっても、人の頭の中につながっている穴があるところはまずないだろう。「マルコビッチの穴」は、とある会社にある穴が俳優ジョン・マルコビッチの頭につながっていて、15分だけマルコビッチの経験が共有できるというお話。その奇想天外なアイデア一発で引き込まれてしまう。脚本を書いたチャーリー・カウフマンの頭の中を見てみたい気がする。日本でリメイクすると「鹿賀丈史の穴」ぐらいになるのだろうか?


角川エンタテインメント
マルコヴィッチの穴 DTSコレクターズエディション