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雨のテントでの過ごし方

 6月に入りそろそろ梅雨入りしそうなので雨についての話を。

 学生時代山登りをしていた。多少の雨だと当然歩くが、豪雨の場合はテントの中で天気の回復を待つことになる。4~6人パーティーで行動することが多かったが、雨天待機時の過ごし方も人それぞれである。ひたすら眠る人、読書する人、トランプする人、後輩に恋愛話を共用する人などなど。僕は読書かもしくはひたすらお菓子を食べまくる派だった。

 あるとき、あまりの豪雨に3日間連続で待機を余儀なくされたことがあった。もともと仲のよい集団ではなかったので、さすがに会話も途絶えた。お菓子を賭けてのページワンも手持ちのお菓子が乏しくなり、熱くなり過ぎたので(最後には二十歳前後のおっさん二人が、羊羹の取り合いをするなどすごく醜い事態になった)、封印された。持って行った本も当然読み終えたので、かなり時間を持て余していた。本を貸し借りできればよかったのだが、マクロ経済学の教科書と官能小説というあまりにも極端な選択肢しかなかったのでそれもかなわなかった。官能小説など借りれば、自分の性体験の暴露を強要されかねない。

全員の退屈が頂点に達したときに、ある人が時刻表で空想の旅に出るという技を編み出した。この技は全員のツボにはまったのか、時刻表の取り合いが始まり、いかに自分の旅が素晴らしいかの自慢合戦になった。このとき、あまりに退屈すぎると人間は少しおかしくなるということを学んだ。以後、登山には何度も読める本を持っていくことにしている。

結構重宝したのが、谷川俊太郎さんの詩集。薄いし、繰り返し読んでも飽きないし、下山したときの女の子受けもよかった。宮沢賢治の童話も、先輩から恋愛話を強要されたときに「クラムボンが笑ったよ」などと朗読して、話の腰を折れるのがよかった。さすがに、歎異抄を持っていったときは内容理解がほとんどできなかったし、周りから引かれた。


谷川 俊太郎
これが私の優しさです―谷川俊太郎詩集
宮沢 賢治, 小林 敏也
やまなし
金子 大栄
歎異抄


ささやかだけれど、役にたつこと

 先日、子ども達と公園で遊んでいるときに、次男が滑り台の上から顔面から落ちた。最近、子ども達は滑り台を逆から上がって行くことがお気に入りで、次男は長男が通せん坊しているところを自分の腕力も顧みず避けて上ろうとして落ちてしまった。外傷は顔をすりむいただけのようだったが、すごく大泣きしていたし、以前にも頭を強打して吐いて、救急車で運ばれたことがあるので、急いで連れて帰った。

 連れて帰る途中にお茶を飲ませると、泣きやんでだいぶん機嫌もよくなってきた。しばらく自分で歩きさえしたが、すぐに疲れたのか抱っこしてくれと言い出した。抱っこしてあげると、すぐにスースー寝息を立てて眠り始めた。あまりにもすぐに眠りだしたので、このときはこのまま死んでしまうんじゃないかとすごく心配になった。

 村上春樹さんが翻訳したレイモンド・カーヴァーの「ささやかだけれど、役にたつこと」のエピソードがこのとき頭をよぎっていた。息子の誕生日に交通事故でその子を亡くしてしまう夫婦の話だ。確かこの男の子は交通事故にあった後もしばらくは普通に歩いていて、家に帰って眠っている最中に死んでしまったと記憶している。うちの息子も同じ症状だったらどうしようという考えが頭から離れなかった。

 幸い家に帰って寝かせようと靴を脱がせた瞬間に目が覚めて、家で掃除していた母親と目があったこともあり、再び大泣きしてくれた。安心したと同時にすごくお腹が減ってきた。この小説の中で、失意に沈んだこの子の両親が、パン(この子の誕生ケーキを頼んでいたパン屋が、誕生ケーキを連絡もなくキャンセルされたので嫌がらせの電話をしていたが事情を知ってパンを焼いて持ってきてくれる)を食べるシーンがあるが、その場面を思い出して長男と食パンを1枚ずつ焼いて食べた。すごく幸せな気分だった。


レイモンド カーヴァー, Raymond Carver, 村上 春樹
Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選

ウィーン

 最後に一人旅をしたのは社会人5年目の年末に行ったヨーロッパ旅行。学生時代からあこがれていたユーレイルパスを買って、イギリス、ベルギー、オランダ、ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、フランスの8カ国を夜行列車であわただしく周った。

 一番印象に残っているのは、クリスマスに訪れたこともあり、ウィーンの街の美しさだ。古い建物や庭園が電球でライトアップされて、引き締まった冷たい空気の中を夜散歩しているととても楽しかった。幻想的な街の中を音楽を聴きながら路面電車に乗っているとすごく幸せな気分になった。ジョン・アーヴィングの「熊を放つ」に出ている市庁舎公園や「第三の男」で有名なプラーター遊園地の観覧車など、小説や映画の舞台となった場所もたくさんあり感慨深かった。でも、不思議と観覧車に乗った記憶はない。冬で閉園していたのか、時間がなくて乗れなかったのだと思う(滞在時間はわずか15時間)。

 話は変わって、先日、くるりのニューシングル「JUBILEE」をタワーレコードの視聴機で聴いた。普段は視聴機でフルコーラスを聴くことはまずないのだが、思わず引き込まれて最後まで聴いてしまった。誇張ではなく聴いていて鳥肌がたった。「ワールズエンド・スーパーノヴァ 」を初めて聴いたとき以上の衝撃。今まで聴いたことのない、その創造性と革新性にとても感心した、というか聴いていてとても気持ちよかった。ストリングスアレンジが印象的なことから、おそらくビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」との比較で語られることが多いと思うが、何かと比較するのはおこがましいほど、独自の世界観を切り開いた傑作だと思う。

 このシングルを含む次のアルバムはウィーンでレコーディングされたものらしい。このアルバムを聴きながらウィーンの路面電車に乗れたらとても幸せだろうな、と思う。

ザ・ビートルズ
サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド
くるり
タイトル未定


ジョン アーヴィング, John Irving, 村上 春樹
熊を放つ〈上〉
アイ・ヴィー・シー
第三の男
くるり, 岸田繁, Stephan ”Alf” Briat
JUBILEE
くるり, 岸田繁
ワールズ・エンド・スーパーノヴァ