①被害者意識の強い児童
4年男子(S)。毎日のように友達に暴言を吐く。
しかしそれと共に嫌な言葉を言われたと担任に訴えてくる児童でもある。
その男子児童が相談にやってきた。
S「僕は何にもしていないのに、嫌な言葉を言われました」
T「そのとき、あなたは何か言いましたか」
S「言ってません」
T「この数ヶ月間、あななから嫌な言葉を言われたという人を沢山聞きます」
S「……」
T「言ったことはありますか」
S「…うん」
T「2組は全部で30名います。
この30人の中でよく文句を言っている人は何人いるかな」
S「5人ぐらいだと思う」
T「じゃあ、あとの25人って誰か他の人から文句を言われたり、
嫌な言葉を
言われたりしているのかな」
S「それは無いと思う」
T「そうです。文句や嫌な言葉を言わない人は、
他の人からも言われないんです。
止めてもらいたいのなら、あなたも言わないことが大事なんです」
S「でも僕は最近言わないようにしています!」
T「一度でも文句を言った人と遊びたい?それとも遊びたくない?」
S「勿論遊びたくない!」
T「あなたは今、そう思われているんだよ。一度でも嫌なことを言ったら、
あいつはそういう奴、嫌な言葉を言う奴と思うでしょう。
だからそれを変えるには、いい奴と思われるまで、あなた自身が、
もっと努力したり、我慢するしか無いんだよ。25人を見てごらん。
誰からも嫌なことは言われないし、みんなと仲良く遊んでいる。
時間はかかるかも知れないけれど、そうするしか無いと思うよ」
S「…」
T「みんなと仲良く遊びたい?」
S「うん」
T「先生も協力するから、少しずつ変えていくと良いと思うよ」
S「うん」
②陰湿ないじめ行為をする児童
5年女子(K)。
ある女子児童の靴ロッカーに攻撃的な手紙が入っていた。
いじめに繋がるような暴言が多く綴られていた。
筆跡、その時間帯に昇降口にいた人から判断してK子に間違いない。
他の児童でも似た事があったので、加害者は彼女であることは
クラスでは周知の事実である。しかし本人は完全否定。
翌週の学級活動の時間にこんな話をした。
T「実は先週の○日、とっても残念な事がありました。
靴箱に○○と書かれた手紙が入っていました。
(被害者名は明かさないが、書かれたことを一通り読む)
T「こういった事について、みんなはどう思いましたか」
S「(多くの児童に指名。頷いたりしてみんな聞き入る)」
T「K子さんはどう思いましたか」
K「すごくいけないことだと思います」
T「あなたが被害者だったら、書いた人に何て言いたいですか」
K「もうやめてって言いたいし、絶対許せません」
T「そうですね。先生もそう思います。こんな最低なことをする人が
このクラスにいるはずがありません。
もし万が一クラスにそんな人がいたら、とっても悲しいです。
それに名前を書かないで一方的に相手を攻撃するのは
あまりに卑怯な行為です。先生も絶対許せません。皆さんはどう思いますか」
S「(賛成意見が多数。但しK子のみ苦虫を噛みつぶした顔をしていた)」
この日を境にこういった“事件”は一切無くなった。
それはK子が衆目の中で「絶対許せない」と宣言してしまったからだろう。
③保健室通いの児童
5年女子。A子は中学年以降、
体の不調を訴え、度々保健室に通う。
授業中も途中で退席するので、保健係が付き添い、保健室まで同行する。
ただ体の不調というよりも自分の受けたい授業だけ教室に入り、
やりたいことだけ参加する傾向にある。
ある体育の時間。
A「先生、死ぬほど具合が悪いので、保健室に行っていいですか」
T「いつも外で遊んでいる?」
A「いいえ」
T「体の調子を良くするために、これからは休み時間は外で遊ぶといいよ」
A「ハイ!(元気な声)」
T「じゃあ、明日からそうしますか」
A「…」
T「返事はどうでもいいです。ハイ!を100回言っても何にもなりません。
これからまた具合が悪くなって、保健室に行っても構いません。
でも中学、高校になってもそうしますか。
それでは自分のためにならないし、悲しいんじゃないかな。
自分の気持ちを変えていくのだが大事だと思うよ」
A「…」
④被害児童への対応
4年男子。N君は怠惰な生活を送っていて、
その上暴言や暴力が日常的である。
低学年時からずっとその調子で、
いくら指導をしても改善が見られない。
周囲の児童は常に迷惑を被っている。
また被害児童がやってきた。
S「先生、N君がまたボールをぶつけて
きました!」
T「あなたはN君と遊びたい?
それとも遊びたくない?」
S「遊びたくありません!」
T「だったら、遊ばなければいいんじゃ
ないのかな」
S「…」
T「友達って、一緒にいて楽しい人が友達だよね。
嫌だったり、楽しくなければ、
遊びたくないでしょ?あなたが遊びたいと思う人と遊ぼうよ」
S「でもN君から遊ぼうって言われたどうしよう?」
T「他の人と遊ぶから、ごめんね、でいいんじゃないかな」
S「ハイ!そうします!」
N君が最上級生になったとき、担任のBから相談を受けた。
B「N君の対応方法、H先生はどうしていました?」
H「今、N君はクラスでどんな状態なんだろう」
B「N君は暴力や暴言がひどくて、殆ど一人でいます」
H「いろいろ指導してみたんでしょう?」
B「ハイ!でも変わらないんです」
H「私も受け持った半年間はいろいろ改善を試みたけれど、
何ら変わらないので、途中から方針を変更しました」
B「どうしたんですか」
H「たぶん1年の頃から担任がいろいろ指導してきたと思うんだ。
それでも変わらなかったので、改善は難しいと思う。
だから後半は他の児童を
守るための盾になったんです」
B「どういうことですか」
H「暴力や暴言で他の児童が悲しい思いをしないように、
アンテナを張ったんだ。つまりN君の指導というより、
他の39名が楽しく生活を送れることを主眼にしたんだ。
もしそれでも何かトラブルになったときは当事者同士での
解決は絶対させない。私とN君だけの話し合いに変えたんだ。
だからBさんの場合は小学校生活最後の1年が楽しかった言えるように、
クラス児童を守る壁になると良いと思うんだ」
B「そうだったんですか。分かりました、
私もそうします。有り難うございました」
⑤徒党を組む女子3人
6年女子3人組。常に徒党を組む。
悪質な悪戯や行為を繰り返す。
クラスメイトや旧担任への嫌がらせも多数。
当時の学級編制は隔年実施だったので、
2年間クラス児童は変わらない。
また5年担任もそのままスライドして、
最上級生の担任になるのが常識だったが、5年時に学級崩壊。
交代してそのクラスを受け持つことになった。
受け持った2ヶ月間で起こした“事件”は,
掃除ロッカー荒らし、
理科室で3人揃って小便。
揃って授業を遅れてくる、
一部の女子児童を標的にし、机に落書き、
靴箱にゴミ、教科書破り…。
挙げればきりが無い。
まず取り組んだのが3名を引き離すことだった。
係、当番、机配置、グループ活動、全て離して距離を作らせた。
しかし、
「先生、具合が悪いので保健室に行っていいですか」
「先生、調子が良くないので、体育を見学させて下さい」
不調を訴えるときは必ず3名でやってくる。
こういった時、あなたなら何と声を掛けるだろうか。
T「3名揃って聞きに来るのはやめなさい」
S「だって具合が悪いんだもん」
T「3人同時に、しかも3人揃って、
たまたま先生に言いに行こうと思った、こんな事って、あるかな」
T「誰かが言って、後の二人が賛成したんじゃないの?」
S「そうだけど…」
T「今日から話は一人ずつ聞きます。揃ってくるのは認めません」
S「そんなあ!」
T「周りを見てごらん、具合悪い人が揃ってゾロゾロやって来る?」
S「無いけど…」
T「はい、話はこれで終わり」
これ以降は一人ずつになった。そしていつの間にか聞きに来なくなった。
それは1対1になると一気に弱くなるからだ。
例えが悪いが、暴走族は徒党を組むから怖い。
一人だけで走っていたら何ら怖さなど感じないし、
そもそも一人では大それた事など出来るはずもない。
⑥修学旅行
6年男子の不登校児童。低学年時からゲームに夢中で昼夜逆転。
5年時の出席は2日(野活のみ)という話だった。6年時はゼロ。
保護者が修学旅行実施2週間程前に来校した。
P「うちのが修学旅行に行きたいというので、
連れて行ってもらえないでしょうか」
T「今の修学旅行のやり方をご存じですか」 P「分かりません」
T「昔は全体行動のみでしたが、今は4.5名でグループになり、
グループ毎に行きたい場所を決めて回るようになったんです。
事前にグループ毎にめあてや
約束、係を決め、協力して観光地を巡ります。
そのため最低10日以上前から話し合いに参加できれば可能だと思います」
P「…」
T「では、家に帰ってから息子さんとよく話し合ってみて下さい」
勿論参加しなかった。
しかし「参加させなかった」が正解かも知れない。
それから7年後…、
ある6年主任のクラスで非常によく似た事例があった。
やはり男子(Y)で実情は上記児童に近い。
唯一の違いは保護者の願いを聞き入れたことだ。
なおY君の6年時の出席日数は、修学旅行の2日間のみである。
旅行後、Y君と保護者からクレームがあった。
またそれとは別にY君を受け入れたグループからも、
クレームがあった。
・Y君の声
「友達に無視された。途中で休もうと言っても聞いてくれなかった」
「無視されて、先に行ってしまった。もう学校なんて行きたくない」
・保護者の声
「(息子の声とほぼ同様)、せっかく行ったのに、全然楽しくなかったし、
いじめられたと言ってます。一体先生はどういう指導をしているんですか」
・グループの声
「先生に頼まれたから、無理無理Y君を入れたけど、歩かないし、文句は言うし、
もうやだあ。修学旅行をすっごく、すっごく楽しみにしていたのに、
全然楽しくなかった!なんであんな人連れて行ったんですか!」
勿論主任はY君が参加出来るように何度も詳細な電話連絡。
家庭訪問も4月以降、旅行前日までだけで7回。
しおりを持参したが、本人とは会えなかった。
⑦公園の片隅で…
6年女子(U)。ネグレクト児童である。
虚偽と体臭が酷く、特に男子児童から嫌がられていた。
T「あなたはなぜ嘘をついちゃうのかなあ?」
U「うん、なぜか分かんない」
T「これからどうしよう?」
U「やっぱりいろいろ言われたり、男の子が避けるのはいや」
T「そうだねえ…」
6月のある日、数日続けて休んでいたので、
家庭訪問をすると本人が出てきた。
近くの公園でブランコに乗ったり、ベンチに腰掛けたり…、
かれこれ1時間近く話をしたと思う。
まだ20代前半の時代、どう指導していけば良いのか分からず、
ただただ話を聞き、男子児童を叱りつけた。
それでもU子はその日を境に欠席は無くなった。
ここで紹介した児童は100人100通り。
個々の児童に対して、全く同じ対応をすることはあり得ない。
より良い接し方を考えていくのが大事であるので、
ひとつの事例として読んでいただければ幸いである。
最後に…
紹介した児童(一部除く)は、それぞれ様々な問題行動を起こしていた。
発端は何処にあるのか。
これは明快で、ほぼ間違いなく保護者に責任があるだろう。
保護者に連絡したり、面談したり…、
担任だけではなく、
学年主任や教頭も交えながら手立てを施してきたが、
何ら改善されず、ただただ無力感に苛まれるときが多かった。
ではクラスでこういった児童をどう“扱って”いけば良いのか。
一つはひたすら指導を継続する。
その反面、担任が他の児童を守る役に徹する。
そしてそういう行為は許さないという姿勢が必要である。
極論になるかも知れないが、
一歩校外に出れば、その児童のトラブルは管轄外である。
しかしクラスにいる時間は必ずクラスの約束を遵守してもらう。
これに尽きる。
もう一言。
これらの問題は殆ど家庭環境に起因している。
本来学校は学習を教え、
個々や集団に関わる規律を指導する場であるので、
それらの児童が存在していても、
担任が悪い訳ではなく、悩みを抱える必要もない。
若手ほど自身の力量不足と考えがちであるが、
基本は保護者の責任である。
今から数十年前に『金八先生』というドラマがあった。
中学担任で熱血漢だ。
不登校生徒がいれば、家まで押しかける。
そして無理矢理学校に連れて行った。
そんな様子が描かれていた。
それから暫くすると、
不登校生徒に対しての扱いが180度変わった。
「登校刺激を与えない方が良い」
「行く気持ちになるまで、時間を掛けた方が良い」
そう考える医師が溢れ、引き籠もりは100万人…。
風霜に耐えぬ世である。