「おい、見たぞ。カミさん連れてきて泊まらせたんか?」
「いや、女房は来たことあるけど、まだ泊まったことはないよ。仕事で二日続けて休みはなかなか取れないから」
「んじゃ、こないだ朝ハミガキしながら庭を散歩してた若けぇ美人は誰よ? オンナを連れ込んだんか?」
「ハミガキ? ああそりゃ娘っすよ。ゴールデンウィーク中のことでしょ?」
「ホントかよ? オンナじゃないの?」
「オンナって......俺そんな甲斐性はないよ」
-----
今朝は寝坊した。昨夜寝たのが3時半だったから。
夜中のマンドリンで一青窈(ヒトトヨウ)の「ハナミズキ」の練習に熱中したせいだ。
どうしても弾きたくなって、ネットで楽譜を入手し先生のところに持っていったら、ちょうど良い課題曲だと言われ、ちゃんと弾けるようになったらギターで伴奏をつけてくださることになった。
ちょっと試しに合奏してみたら、下手っぴぃのたどたどしい演奏なのになんとも豪華で、何より楽しかった。
何せ私の先生は、プロのギタリストなのだから。
で、今朝はゆるゆると起き出してのんびり朝ごはん。
今日は何をしようかな ♪
そうそう、昨日の続きでコブシの剪定だった。
なぜコブシかというと、、、
-----
昨日の朝「日課のストレッチ草摘まみ」をしていると、視線を感じた。
顔を上げると、ここ木更津東泉寺の主だった。
あるじといっても、ご本尊のことでもなければご住職やその母上(K子さん)のことでもない。
このお寺は今から500年以上前の15世紀、上総武田氏城主の令室(鳳昌院殿)の菩提寺として建立されたのだそうだ。
その墓所が、本堂前の参道脇にある。(花鳥風月 私の「遊び場」の3枚目の写真)
玉砂利が敷き詰められたその墓所には、先代ご住職による説明の碑はあるが、墓石そのものには碑文は見当たらず、訪れる人も、ましてや墓参をする人もない。
玉砂利のお陰で雑草は少ないが、それでもこの季節、小さな草がところどころに生えている。
ご先祖のお墓参りをする人達は、たいてい家の墓地の草取りぐらいはするものだが、鳳昌院殿の場合にはK子さんの他に草取りをする人もいない。
そこでストレッチのつづき。一段高い墓所に上がり砂利石をちょいちょいどけて小さな草を抜いていく。
お墓参りがないからお花もない。
あ、境内にはたくさんの花が咲いているから、ないこともないか。
でも、引っこ抜いた小さなキンギョソウくらい手向けてみようかな。昼までには干からびてしまうだろうけれども。
そうやって墓所を一巡りしてフッと目を上げると、コブシの木にまだ緑色の実がたくさんついていた。
そうか、あの白い花からこういう実ができるんだ。
奥方様が草取りの返礼に教えて下さったのかもしれない。
ところでこのコブシ、奥方様の墓所の後ろ、お寺の駐車場入口の脇にあるのだが、樹高が10mくらいあって庭木としては高すぎるし、かなりの「ボサ子ちゃん」。
そのうち剪定しようとは思っていたが、奥方様が「花は終わったから、切ってね」と促したのかもしれない。
それで昨日から剪定を始めたわけだ。
買い込んだ植木梯子では高さが足りず、寺有の古めかしくて重たい梯子も引っ張り出してある。
-----
そういうわけで、今日もコブシの剪定の続き。
コブシの木は良い匂いがする。切った枝からなのか、そもそも葉がそういう香りなのか、知らないけれども、これも剪定をしてみて初めて知ったこと。
夕方にはだいたい格好がついたかな。少なくとも一番高いところは切り落としたので、あとは形を整えてやればいい。
梯子の上で足がつったりすると危ないので、今日のところはお仕舞いにして、相当な量の枝葉を一輪車で運んで捨てに行き始めた。
そこへ、隣の市営住宅の方から楽しげな話し声と笑い声が聞こえてきた。
一休みしがてらフラフラ見に行くと、段に腰掛けた奥様連を前に、地ベタに座り込んだ禿頭の紳士(ハゲおじさん)が熱弁を振るっている。
「だから林ん中でマムシに出くわしたらよ、目ぇ離さずに手探りで竹を切ってな、先を割ってそいつで首根っこを捕まえちまうんだ」
「えー、蛇なんかヤーヨ」
「おまえ達だってこの辺の出だろ? 蛇なんか珍しくないだろうに。蛇でも蜂の巣でも、やっつけようと思ったら、熱湯をかけちまえば一発さ」
このおじさん、市営住宅のヌシみたいな人で、自治会長ではないけれども、市の担当者からは何かあると連絡が入るらしい(自称)。
実際、独り暮らしの人が多い団地で、何でも屋のように諸々、頼られているらしい(自称)。
毎日黙々と草取りをなさっているK子さんに憚って、近隣の人はあまり東泉寺に入り込まないようなのだが、この人はしょっちゅう出入りしていて、K子さんともおしゃべりをする仲。
私としても、話が面白くて色んな知恵を授けてもらえるので時々話し込んでしまうから、あっちも私のことを話し相手だと思っているらしい。
「お、いいとこ来た。これ見てよ。ボタンが二色とシャクヤクが一番きれいなときに撮ったんだ。後ろに貼ってるんだよ」
境内でよく写真を撮っては、満足げに見せてくれる。今回は牡丹と芍薬の写真を携帯の待ち受け画面の壁紙にしていた。
「そうだ、この写真を撮った頃だな。おい、見たぞ、カミさん連れてきて泊まらせたんか?」・・・
-----
ひとしきり、おじさんや奥様連とおしゃべりをして、
「そうそう、あの伸びすぎて、枯れ葉や花びらがやたらに散らばってたコブシだけど、だいぶ切ったんすよ。見てみて」
「へー。。。でさ、あんにゃろーに言ってやったわけよ……」・・・
まあ花が咲いたっていうような知らせじゃない、そんなに関心がなくても当然だ。
でもきっと、鳳昌院殿は「さっぱりしたわね。ありがとう」って思って下さるんじゃないかな。
ま、チョキチョキ・ギコギコが楽しくて、勝手にやっていることなんだけどね。
【追記】
雨の一夜が明けて、肌寒い曇り空の下、ストレッチ草摘みをしていて気づいた。
鳳昌院殿の墓所にもお花立てがあった。
引っこ抜いた姫金魚草と、そうだな、今は百合だろう、その蕾を手向け、朝のご挨拶をした。