一昨日は、金沢で私が居候している町屋の戸を開けて、マンドリンを弾いてみた。

 

(*) マンドリンと私の馴れ初めは、「マンドリンが趣味になるか?」その他の過去記事を参照。


 

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道を通るのは、旧街道を抜け道として使う車と、地元の年配の人達ばかり。

 

足を止める人など、いはしない。

 

と思ったら、一人だけ「網」にかかった。

 

元ギタリストだという近所の住民で、私と同年配。

 

マンドリンを手渡すと、ほれぼれと眺め、掻き鳴らしてみて綺麗な音だとうっとりしていた。

 

彼が言うには、テクニックは問題じゃない。その楽器の音を愛する心だと。

 

指使いなど分からなくても、オープンコード(弦を押さえない)で爪弾き、その音に夢中になるかどうかだと。

 

彼が初めてギターを習った先生は、抱きしめて寝るぐらいに惚れ込むのが大事だと言ったそうだ。

 

ちょっとばかり息が酒臭いあんちゃんの言葉ではあったが、不思議に胸に残った。

 

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昨日は温泉をハシゴした。

 

午前中、石川と富山の県境をわずかに越えて、「ぬく森の郷」なる温泉に行ってみた。

 

まゆさん(崖っぷちの彼女。コラムつれづれ2 -柏の御縁- に登場)を含め、何人もの人達から勧められた温泉だ。

 

眼下に雲海を望む絶好のロケーション、立派な岩をふんだんに使った露天風呂と、贅沢な温泉だった。

 

露天風呂でぼーっと頭上の曇り空を眺め、耳元で雨粒がスンスンと音を立てるのを聞き入りながら、思った。

 

「ちとヌルいなぁ。冬の露天風呂としてはなぁ」

 

すると、これも人に勧められた「熱い温泉」が頭に浮かんだ。

 

加賀の「片山津温泉」というところ。

 

一度「熱い湯」を想像してしまうと、今浸かっているお湯がますますぬるく感じられてしまう。

 

せっかく来たのだからとしばらくは粘ってみたが、まだお昼だということも手伝って、ど〜〜~しても行きたくなってきた。

 

そこで、たった1時間半という、私としては勿体無いくらい短時間で上がってしまい、キノコとろろ蕎麦を一杯呑んで、一路加賀へと向かった。

 

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片山津温泉。

 

広い田んぼが広がる豊かな加賀市の北部、柴山潟のほとりにある温泉地で、私の古い車の古いカーナビには国立療養所が出るから、きっと昔ながらの温泉町だろう。

 

1時間ほどのちょっとしたドライブで到着すると、なんと総湯(温泉街の共同浴場)が工事で臨時休業中。

 

まあ仕方ない。温泉は後回しにして湖畔へ出てみた。

 

そこに、浮御堂なるものがあった。

 

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説明書きによると、むかし、柴山潟が今よりずっと大きかったころ、湖にオロチが住み暴れていた。

 

そこへ天女が現れて、大蛇に琵琶を聴かせて鎮め、龍神として守り神になるよう言い聞かせたということだ。

 

桟橋を渡って御堂まで行き、手を合わせてからガラス戸の中を覗き込むと、果たして琵琶を抱えた天女の像が祀ってあった。

 

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ほぅ。琵琶というのは、形がマンドリンに似ているなぁ………

 

う~~ん。日曜日の午後遅くで、周りには人影もない。

 

私のマンドリンの先生は、聴く人がいればその分だけ上達が早くなると言われる。

 

たしかにそうだ。

 

ここまで、下手でも臆面もなく人の耳に届くところで弾いてきたことが、上達につながっていると思う。

 

ただ、町屋で出会った元ギタリストの言葉も、引っかかっていた。

 

自分で音に聞き惚れているかというと、最近はそうでもない気がする。

 

うん、ここは丁度良いかもしれない。

 

そこで総湯の駐車場まで戻り、いつも持ち歩いているマンドリンをかついで再び浮御堂へ。

 

御堂の後ろ側、湖の中央にある大噴水に向かった側に座り込み、弾き始めた。

 

遠い山並みに雲が重くかかっている。

 

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穏やかな水面からときどき鴨の鳴き声がするだけで、あたりは静かだ。

 

丁寧に、心ゆくまでチューニングをしてから、音を出し始めた。

 

人のそばで弾くときとは違って、確かにマンドリンの音色に自分自身が耳を傾けることができたように思う。

 

もしかしたら龍神様か天女様が聴いていて、楽しんでもらえているかもしれないな、なんてことも思ったりした。
 
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ところがどっこい!
 
4,5曲弾いたところで雨が降り出した。
 
最初は気にせずもう1曲弾いたのだが、雨脚がますます強まり、御堂の短い軒では凌ぎきれなくなってしまった。
 
これはあまりにヘタクソだから、あるいは、楽しんでもらえるなどと思い上がったから、天女か龍神の怒りに、いや逆鱗に触れてしまったのかもしれない。
 
このまま続けて龍神が悪いオロチに戻ってしまったりしたら、コトだ。

 

そそくさと楽器をケースに仕舞って退散した。

 

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もちろんその後は、熱~い温泉(ホテルの日帰り湯だが)に浸かって、今度は2時間、芯まで温まったのは、言うまでもない。