僕はもうだめだ -16ページ目

境界例の女 14


突然の失踪から1週間

R子の行方は全くわかりませんでした

僕が警察へ捜索願いを出そうと言うと

Mは『それはダメです!』と

猛烈に反対しました



僕はMが何かを隠しているのを感じましたが

とくに追求しませんでした



なぜか?

僕はこのときすでにMの性格を掌握していて

放っておいたって

そのうち抱えきれなくなって、苦しくなって

僕に吐き出すのはわかっていたからです



1ヶ月経ってもR子の行方はわからず

MはR子の身を案じて憔悴しきっていました

僕は意地悪く何度も捜索願を出すように言いました

Mがあきらめて警察に行こうと考えはじめたとき

それを見透かすようにR子から僕にメールがきました



『明日正午に○○駅まで迎えにきて、Mには内緒』



駅内の待ち合わせ場所に立つR子は

少しやせて美しさに磨きがかかっていました

凛とした立ち姿は

雑踏に咲く薔薇のようで

R子の周りだけ空気が違っていました



遠くからでも見て取れる

息をのむような美しさに

均整のとれたスタイル

行き交う人の中には

何度も振り返ってまで

R子を見ている人もいました



僕はそんな様子を

しばらく遠くから眺めていましたが

やがて約束の時間がやってきたので

はやる気持ちを抑えながら

再会の喜びをを噛みしめるように

ゆっくりとR子のもとへ向かいました


「みんな心配してるよ、どこにいたの?」


・・・・


『AVに出演してきた』



荒れる予感



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境界例の女 13


その夜、僕はR子の生い立ちを少しだけ知ります
母親はR子が小学生のときに亡くなっていて
その後から始まった父親との異常な関係

その鬼畜な父親はヤクザで刑務所で服役していること
それでも憎みきれないということ

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今までの疑問が解氷するように

R子の過去がドロドロと溶け出し

僕の足元に流れてきました



あの夜 の作業のようなセックス

やはりあの時

R子の目は僕を見ていなかった

卑しい僕はMが相手とのときはどうなのかと

そればかりが気になってしまい

不機嫌になってしまいました

R子はそんな僕を一向に介さず

ノートに絵を描いてはしゃいでいました

でも、目は笑っていませんでした



やがてR子は布団に入り

僕もそれに続いて滑り込むように

同じ布団で寝ました

R子は僕が着ているTシャツの裾を握ったまま

すぐに寝息をたてはじめました

僕はR子が手を離さないようにと願い

しばらくその美しい寝顔に見とれていましたが

いつの間にか眠ってしまいました



翌朝

テーブルの上にピンクドラゴンを残し

R子は失踪しました



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境界例の女 12


Mからの電話の1時間後

僕はR子の部屋で

異様な光景に立ち尽くしていました

なんだこれは・・・・

床一面にびっしりと敷き詰められたゴミ袋

ソファの上にはおばあちゃんの遺影

電気のブレーカーを落とし無数のキャンドルが

部屋を怪しく照らしていました

部屋の中央では

全身入れ墨のR子が全裸で

家中の刃物を集めて

テーブルの上に並べていたのです

それはまるで何かの儀式のようでした



はっと我に返った僕は

あわてて刃物全てを

自分の車に持って行きました



電話で状況をMに伝えると

今夜は泊まってやってほしいと言います

・・・・ああそうか!

僕がR子のことを好きだって知らないんだ・・・

だからそんなに簡単に言うんだ

ということは

僕はどれだけMに嫉妬してるのかも知らないだろうな

Mは知っててトボけられるほど器用じゃない

逆にR子は確信犯のような気がする



「彼氏なんだから君が泊まりなさい」

とは言いませんでした

「OK、わかった」

僕はR子のかわいい寝顔が見たかったし

R子も僕がいれば少しは落ち着くだろう



微かな期待という小刀を懐深く忍ばせて

斬りかかるチャンスをじっと待っている卑怯者

信用なんてクソくらえだ

僕はいい人なんかじゃない



今思えばこのとき、いや最初から

僕はいつだって蚊帳の外でした

どんなときもR子の「対象」はMだったのです

恋愛の対象・憎悪の対象・攻撃の対象

僕は蚊帳の外



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