僕はもうだめだ -15ページ目

境界例の女 17


前回のあらすじ:

お互いに不信感を募らせはじめる僕とM

Mの部屋のポストに投げ込まれた怪しいDVD

僕はその中身をほぼ確信しながらMのもとへ向かいました

R子の携帯はやはり、繋がらない・・・






Mの部屋に向かっている途中


R子の携帯は電源が入っていないと


悲しいアナウンスを繰り返すばかり



どうか、R子のAV出演に気がつきませんように


僕はMの気持を考えていたわけではなく


R子と二人だけの秘密を失うのが怖かった


僕の存在意義がなくなるような気がしたから


今思えば、そんなものは最初からなかったんだけど



Mの部屋のチャイムを押すと


ニヤニヤしたMが出迎えてくれました


「ただのエロDVDでした」


「多分友達のイタズラでしょうね、ははは」


部屋の奥の小さなテレビには


トイレ盗撮のAVが映っていました



ただの、じゃないんだけどね


僕はこうしている間に


画面にR子が登場するのではないかと


内心ヒヤヒヤしながら


「ふーん、ちょっと観せてよ」


と部屋に上がりました


僕はこの手のAVのどこが面白いのか


さっぽりわからないのですが


Mは興奮して観るのをやめようとしません


その傍らで僕は


画面の中で違う女性がトイレに入ってくるたびに


息をのみ、R子じゃないとわかって安堵、の繰り返し


結局最後まで


R子らしき女性は登場しませんでした


え?


これは違うDVDなのか?


そもそもAV出演さえも疑わしくなってきました


なんだか気分が悪くなってしまい


シャワーに入っているMには声をかけずに


帰ることにしました



・・・・


実はMの部屋にいたときから


ずっと気になっていることがありました


空き家になっているはずの隣の部屋から


何度か小さな物音がしていたのです


僕はアパートの裏手に回り


窓からその部屋を覗いてみました





そこには



真っ暗な部屋で、壁にベッタリと耳をつけ


Mの部屋の様子を盗み聞きしているR子がいました




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境界例の女 16


前回のあらすじ:

Mへの嫌がらせのためにアダルトビデオに出演したR子は

その事実を僕の口からMに伝わるように仕向けてきました

いつまでたってもMに告げない僕に、業を煮やしたR子は・・・・





MはR子が失踪先から持って帰った

五百万円のお金に疑念を抱き

何度も僕に相談しにきました



その顔は失踪中よりもさらにやつれ

誰の目からみても疲労困憊していて

くぼんだ目とこけた頬は骸骨のようでした

もはや廃人寸前まで追い込まれたM

ここで僕がAV出演のことを教えたら

どうなるのだろうか



お金の出どころを知り、とりあえず安心する?

それとも

彼女が痴態を晒したと知って壊れる?



僕らは今まさに

R子が張った広大なクモの巣に絡まり

ゆっくりと丁寧に巻き取られ

R子の口元まで引き寄せられていました



Mはもう、もがく気力もなく

むしろR子に咀嚼されるのを

待ちわびているかのように

虚ろな目で

『もう、どうでもよくなってきました』

と力なく笑いました


(別れるとは言わないんだな・・・・)

僕は小さくため息をつき

アダルトビデオの件は

黙っておこうと決めました



お金の出どころは

AV出演のギャラだけじゃないと思いますが

どうやって手に入れたかは

今でもわかりません

すべては闇の中です



あの頃のR子はお金に興味がない様子で

『こんなの、オマケだよ』

といってました



数百万のお金がオマケって・・・

この人は何をしてきのだろう

僕は怖くて聞けませんでした



この頃から

僕とMの間には不遜な空気が漂ってきました

R子は失踪中のことをMに聞かれるたびに

どこにいて、何をやっていたか

僕だけ知っていると感じさせるような

ニュアンスを意図的に

言葉の端々に付け加えていたようです



Mは僕が知っていると、ほぼ確信している

一方、Mも決定的な何かを隠している

お互い疑心暗鬼

岩の亀裂から

汚水が染み出てくるように

僕とMの関係にジワジワと

汚れが広がっていきました



決定的で絶望的なのは

知らなかったとはいえ

Mの彼女であるR子と寝てしまったこと

そして今、いい人のフリをして相談にのっている

二人が汚水まみれになるのは

時間の問題でした



失踪の件も落ち着いてきた頃

ポストに怪しいDVDが入ってたと

Mから連絡がきました

僕はすぐにR子が出ているAVだと察し

気味が悪いと怯えているMに

今から行くから絶対に観るなと伝えて

Mの部屋に向かいました



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境界例の女 15


近くで見ると

久しぶりに会ったR子の目は

以前とは別人のようでした

完全に光を失い

鉛色の空のように

どんよりと淀んでいましAた



R子はAVに出演するために失踪したと

僕に説明しましたが

おそらく嘘でしょう

Mとの喧嘩が原因のはずです

AVに出たのも、Mへの嫌がらせです



R子はMに絶対に知られたくない、と言いながらも

僕の口からMに伝わるのを望んでいました

Mがこの事実を知らない限りは

嫌がらせにならないのですから

僕の口から聞くことで

嫌がらせパワーは何倍にも増幅して

Mを完膚なきまでに叩きのめすことができるから



AVについては、普通の単体ものではなく

いわゆる覗きものの、やらせ要員ということでした

待機室で尿意を待ってお茶をガブガブ飲んだことや

顔が映らないのをいいことに

ほとんどが高齢の女性だったことなどを

一点を見つめて淡々と話す姿は

まるで腹話術の人形のようで

誰かが後ろで操っているような不自然さを感じました

もう以前のR子には会えないのだろうか



この頃からR子は

「自分の人生を呪う」

と言い出しました



悲しくも自分の人生を呪ってしまったR子が

”それ”と折り合いをつける方法を

見出し、実行するまで

そう時間はかかりませんでした



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