静けさと強い意志
ドゥルッティ・コラムは、ヴィニ・ライリーのソロ・プロジェクト。
セックス・ピストルズがマンチェスターで行った伝説のライブを切っ掛けにトニー・ウイルソンがファクトリー・レコードを立上げ、そこで1979年にドゥルッティ・コラム、キャバレー・ヴォルテール、ジョイ・ディヴィジョンという最高のバンドのオムニバスをリリースした時代から、もうずいぶん長い間活動を続けてきた。
ドゥルッティ・コラムは、とても独得の印象を与えるユニットだった。他のバンドもこれ以上ないほどユニークだったが、普通の音楽としても聞くことができるドゥルッティ・コラムのサウンドには、ポストパンクとしての妥協しない意志が感じられた。
1980年のファーストアルバム『Return Of The Durutti Column』は、ヴォーカルなしで全編がギターと少しのパーカッションという、まったく派手さのないアンビエント的なサウンドだった。
この美しい内容のLPジャケットはサンドペーパーで出来ていて、レコードショップで盤を探していると前後のレコードジャケットが削れていくという、悪意バリバリの仕様になっていた。
Sketch For A Summer
1981年のセカンドアルバム『LC』は、ヴォーカル入りの曲やピアノの音が入っていて全体的にカラフルな印象がある。
ドゥルッティ・コラムは、それほど曲による大きな違いがないのであまり優劣を言いにくいのだが、このアルバムは全体的な統一感や曲の瑞々しさが際立っていて、特に素晴らしいと思う。
1980年に自殺したジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーチスに捧げた「The Missing Boy」などを聞くと、親しい友人の死を悼むだけではなく、どこかパンク(ロック)のレクイエムを歌っているようにも感じたことを覚えている。
この野外ライブは、とても楽しそうなドラマーと表情を変えないヴィニ・ライリーが対照的だ。
ある少年がいた、ぼくは彼のことを良く知っていた
視線を交わし、ぼくを気分よくさせてくれた
いくつかの印を残して、伝説になってしまった
The Missing Boy
ドゥルッティ・コラムは、ニューアルバムを待っていつも聞くというよりも、ときどき新しい音を聞きたくなって探して手に入れることが多い。
ヴィニ・ライリーが自身の名前をタイトルにした『Vini Reilly』は、気に入ってよく聞いていた。オペラっぽいサンプリングやフラメンコタッチのギターなど、落ち着いている中にも変わらないラジカルさが感じられる内容だった。
ただ、このアルバムで一番好きな曲は昔ながらのギターとビアノだけのシンプルな「Red Square」かな。こんな曲を書ける人はやっぱり他にいない。
Red Square
ヴィニ・ライリーは2010年に脳梗塞になって、うまくギターが弾けなくなってしまった。2013年には金銭的に困窮して寄付を集めたりもしていたが、2014年に友人に支えられて集大成のような2枚組『Chronicle XL』をリリースした。
一枚は病気になる前に、もう一枚は病気の中で完成させた内容で、ワインレッドの箱の中にはCD2枚に加えて、曲へのアクセス・コードが書かれたサンドペーパーと写真が入っていた。
その2枚目は多くの曲でゲスト・ヴォーカルを迎えていて、最初の曲「Free From All The Chaos」ではマンチェスターの女性シンガー、カオイルフィオン・ローズと共演している。このアルバムは最後の傑作かもしれない。
Free From All The Chaos
ドゥルッティ・コラムはポストパンクとして、どこか「終わりから始めた」ような「希望はあまりないが終わりには向かわない」ような印象がある。
自分自身にもどこそういう感覚があり、それが長くドゥルッティ・コラムを聞き続ける理由になったのかなとちょっと思う。
輝きが空気の中に落ちていく
ぼくたちの横たわる草むらの中へ
雲雀は完璧なピッチで上向きに螺旋を描いている
飛行機が永遠に空を渡っていく
夜明けに
Sketch For Dawn I