100nights+ & music

100nights+ & music

2020年の1年間に好きな音楽を紹介していました。2023年になっても見てくれる人がいたので、また書こうかと思います。
気に入ったら紹介した音楽を聴いてもらえると嬉しい、よろしく!



孤独な放浪者

 キャット・パワーは、1990年代半ばにデビューしたアメリカの女性歌手。やさぐれた独自の佇まいが気に入っている。
 音はフォーク&ブルースが基本になっていて、パンクやヒップポップの影響もある。ベック、ニック・ケイブ、ボニー“プリンス”ビリーなどと近い匂いがするし、人間味のあるニコっぽい感じもする。

 彼女は、基本的には静けさを持ったどこか不穏な音楽をつくる。

 分かりやすいメロディやポップさはあまりないので、あまり一般受けはしないかもしれない。でも世界中のある種の人には人気者のようだ。

 キャット・パワーの最初の名作は1998年にリリースした『Moon Pix』だと思う。ミニマムな音の中に彼女特有の緊張感がある。

Cross Bones Style


 2003年のアルバム『You Are Free』では、シンプルな中にもいろいろな音楽の影響が見え隠れしていている。
 キャット・パワーの声にはどこか孤立したニュアンスがあり、彼女には自分自身の個性は決して手放さないが、時代時代の音や雰囲気の影響は自然なかたちで受ける人という印象もある。

 「Good Woman」という曲のゲストでは、パールジャムのエディ・ヴェーダー、ニック・ケイブとも一緒にやっているバイオリニストのウォーレン・エリスなどが参加している。

私は良い女になりたい
そしてあなたも良い男でいてほしい
それがあなたから離れる理由
それが二度とあなたに会わない理由
私はあなたの心がとても恋しくなるでしょう
そして私はこの愛を永遠に愛し続けるでしょう


Good Woman

 

 2012年の『Sun』はそれまでとは大きくスタイルを変えながら、最大のヒット作になった。彼女のアルバムの中でこの作品は異質だが、実験性とエネルギーに溢れていて最高だと思う。
 アコースティックギターの音はほぼ聞こえず、エレクトロニクスを多用しながら作りこまれていてフォークっぽさは皆無、ほとんど一人で制作している。

 アルバムの制作資金は、作品に口を出させないためにキャット・パワーが自分で負担したそうだ。そんなエピソードだけでなく、いつもの長い黒髪を短く切って金髪に染め、どこかのパンク姉ちゃんのようになった姿も素晴らしい。


 「Cherokee」の映像は彼女自身が撮っている。

もしも私が、私の時より早く死んだら
さかさまに埋めて欲しい
チェロキー・キサメ
私が倒れるときには


Cherokee

 

 キャット・パワーはライブ・パフォーマーとしても素晴らしく、この頃の映像を見ると特にパンクな感じが強い。
 アルバムの最後に入っている「Peace and Love」のライブを見ると、ギターやピアノを演奏しながら歌っているときの彼女とは全く別の人のようにも見える。

Peace and Love

 

 『Sun』が売れたこともあってか、長く所属していたマタドール・レコードから売れるアルバムを出すように言われたキャット・パワーは、もちろん言われたことなんか聞かず、それどころかレーベルを辞めてしまった。
 次のアルバム『Wanderer』は、レーベルを移籍したこともあってか6年間のブランクの後の2018年にリリースされた。

 前のアルバムとはまた違って生音が中心となっていて、「放浪者」というタイトル通りの、どこか土っぽくブルース感覚の強い内容となっている。

私は出ていくよ
良いことは消えてしまった
私は出ていく
それは良いことさ

あなたが明日も留まればいいのに
あなたに留まってほしい
明日行ってしまわないで
どこにも行かないで


Me Voy


 この後のキャット・パワーは、2022年にカバーアルバム、2023年にボブ・ディランのロイヤルアルバートホールのライブ全曲を再演奏したライブアルバムを発表している。
 そろそろ多くの人が待っている、新曲ばかりのニューアルバムが出るころじゃないかな。

 キャット・パワーの音楽には、彼女の持つ強いアウトサイダーの感覚が、声と音にそのまま出ている。ザクっとしたこの音は唯一無二だと思う。

Metal Heart

 

 

ちょっと似ているかも

Aimee Mann -クールで温かいストーリテラー 

Nick Cave -キリストと死とパンク・ブルース

孤独な心 -Nick Drake とBonnie "Prince" Billy 

 

 

 

 

 

さまよえる楽団

 メトロファルスのヴォーカル、伊藤ヨタロウ氏が亡くなった。そのうち彼らのことも書こうと思っていたのだが、先延ばしにしているうちにこんなタイミングになってしまった。


 メトロファルスは1980年はじめから長く続いたバンドで、演劇っぽい独特のヴォーカル、どこか江戸っ子で文学的な歌詞、日本独自でありながら無国籍でニューウエイブ的な何でもありの音楽性は、社会一般で売れる感じはあまりしないがオリジナリティとクオリティはとても高い。


 彼らを好きになったのは、ライブハウスシーンでは有名になっていてアルバムも数枚リリースした後で、雑誌「宝島」がつくったキャプテンレコードから続けて出した3枚のアルバムの頃だった。
 この3枚は最初からそれぞれ音楽性を変えることを決めていたらしく、1986年の『PAST FUTURE ANIMATORS』はとてもポップな内容だった。
 そこに入っている「べろだし天使」には、ゲストでゼルダの小沢亜子とムーンライダーズの白井良明が参加している。

べろだし天使


 メトロファルスはヴォーカルの伊藤ヨタロウとギターの光永"GUN"巌は変わらないが、ほかのメンバーはけっこうよく変わる。

 この頃は、キーボード等がライオンメリィ、ベースがバカボン鈴木、ドラムは途中で変わったが岩瀬"チャバネ"雅彦と三原重夫だった。(このメンバーがどのくらい凄いかは調べてみてください)

 1987年の『STANDS』はプログレがコンセプトだそうで、シリアスで重めの曲が多い。その頃好きだった「ダモクレスの剣」は、いま聞いてもカッコいいな。

ダモクレスの剣が 俺の頭上に吊るされる
ヴェスビオスの炎に 君の体包まれる
真っ赤な炎が行く手を阻むが 俺は風来坊


ダモクレスの剣

 

 1988年には、バンドサウンドと宅録とアコースティックが良い感じに混ざった『GAIA』と、これまでの3枚を加工してライブを混ぜたりしたベスト盤『Can Do』 をリリースした。
 
 この頃はバブル真っ盛りで、東京を中心に日本中が金儲け主義に走りはじめ、地上げなどで風景が一変していく時代だった。
 メジャーで売れる日本のロックバンドが多くなると同時に、聞く気にならない歌謡曲まがいのロックが流れはじめた時期でもあった。
 その中でメトロファルスは明らかに異彩を放っていた。1989年に終わった昭和の色を強く引きずりながら、そこに留まらないパンク/ニューウエイブ的なスピリッツと音楽な豊かさが特徴だったと思う。

真昼の幻日(パレリオス)


 その後はメジャーレーベルに移って数枚のアルバムをリリースしたのだが何となくあまりハマらず、次に好きになったアルバムは1996年の『LIMBO島』だった。
 この時代は4DやP-modelのメンバーだった横川タダヒコが正式メンバーとして加入していて、バイオリンの演奏だけでなく作曲やプロデュースなどで大活躍している。

 『LIMBO島』は、アイリッシュ、ジプシーミュージック、江戸、プログレ、東京、あの世などなど多様な要素が混ざり、そこにヨタロウ独特のイカレたヴォーカルが乗っている最高のアルバムだ。
 混沌としながらも曲が粒ぞろいの名盤なので、「普通の日本のロック」を期待しないならこのアルバムを最初に聴くことをお勧めする。


 「蝙蝠翁」は、永井荷風をモデルにした『下町を徘徊する偏屈な老人を歌ったPop tune』だそうで、独特のコーラスはZABADAKにいた上野洋子がつくっている。

蝙蝠翁


 伊藤ヨタロウは若い頃に鈴木慶一が率いる「はちみつぱい」のローディをしていたらしく、ムーンライダーズとの縁も深い。
 その鈴木慶一が、『俺さま祭り』というアルバムの宣伝でこんな応援をしていた。大昔に見て何故だかちょっと感動したこのコメントは今でも覚えている。


 もし好ければ共に歩もう 

 不浄の昭和バンドよ
 日本の形をした陰ノウを持った馬鹿共よ 
 共に 共に 


 このアルバムに入っている「夜のポストリュード」は、メトロファルスと伊藤ヨタロウが好きな人はみんな大好きになるだろうと思う。

 

あと一歩のところで 俺は筆を置いて

神々と宇宙に 隙間をあける

 

こんな夜にはいつも思い出す

やるせなさで空を見上げて

朝もや立つ駅で君を待つ

あの頃を映しだす

夜のポストリュード


 もうライブを見ることは出来ないが、関心を持った人はぜひメトロファルスのアルバムを聞いてみて欲しい。日本にはメジャーでなくてもすごいバンドがいることが分かるだろう。

いでよ!来い!亡霊よ!ハラミタの橋渡れ
ハイウェイの橋ゲタで とんでもない世と笑い出せ!
うるせぇや癪のタネ ひと息に飲みなはれ
ハイウェイの橋ゲタの ここは地獄か天国か


Limbo島

 

 

(実はファンの)ライオンメリィが活躍しています

戸川純とヤプーズ ‐NOT DEAD LUNA 

あがた森魚 ‐「遠くにあった何か」への憧憬 

 

Moonriders -薔薇がなくちゃ 生きていけない 

 

METROFARCE/INDEX - メトロファルス オフィシャルサイト

 



キング・オブ・アメリカ

 エルヴィス・コステロは、パンクの時代だった1977年にイギリスでデビューしてから現在までずっと質の高いソングライター、ミュージシャンとして活動を続けている。 
 「怒れる若者」というイメージの割にはバラード系の名曲が多くてパンクロッカーという感じではなかったが、彼のバンド「アトラクションズ」と一緒に生きのいいシンプルでポップなロックを演奏する、ちょっと地味だが良いミュージシャンという印象だった。

 ぼくがエルヴィス・コステロにハマったのは、彼が自分のバンドではなく何とエルヴィス・プレスリーのバンドメンバーなどと一緒に録音し、名前も「コステロ・ショウ」に変えて1986年にリリースした『King of America』だった。

 そのアルバムは音楽のスタイルが派手さのかけらもないカントリーやロカビリーやアイリッシュっぽくなり、それまでも若くは見えなかったコステロが、完全におっさんになったというか偏屈なオヤジになったような感じで、王冠を付けた変なポートレートがジャケットになっていた。

あいつは自分をアメリカの王様だと思っていた
コカ・コーラがまるでヴィンテージワインのように注がれる場所で
俺はいまヒステリックにならないように必死だ
だけど自分が笑っているのか泣いているのか分からない


Brilliant Mistake

 

 この頃はまだイギリスのポストパンクやインディーズを中心に聞いていた時代だったが、コステロの声とメロディそしてうっすら分かるダークな歌詞など、普段聞いている音楽とはまったく違うのにこのアルバムはとても気に入った。

 当時のコステロがアイルランドの有名なミュージシャン/プロデューサーのドーナル・ラニーのTVにゲストで出ている映像がある。アルバムの表紙ではすでに偏屈なオヤジになってしまっているが、映像のコステロにはまだ「怒れる若者」の感じが残っている。
 ギターの弾き語りが途中からアイルランド民謡みたいになる「Little Palaces」の演奏は、父親がアイルランド系の彼にぴったりだ。

Little Palaces

 

 このアルバムでは作曲でもエルヴィス・コステロではなく、本名のデクラン・パトリック・アロイシウス・マクマナスという名義が使われている。
 そういえばコステロという姓は彼の祖母の旧姓から、エルヴィスはもちろんエルヴィス・プレスリーから取られている。ただ後者は目立つためにマネジャーが付けただけで、本人はプレスリーのことを好きでも嫌いでもなかったらしい。

 『King of America』は当時流行りのロック/ポップミュージックから意識的に離れているが、今では彼の名盤と言われているようで、2024年には当時のデモやライブなどをCD6枚にまとめたボックスセットまでリリースされている。

 当時はアメリカーナという言い方はなかったが、もしかするとその先駆けみたいなものだったのかもしれない。


 アルバムの中では、特にメロディのきれいな最後の2曲がとても好きだった。

 その1曲「Suit Of Lights」は、このアルバムで唯一、自分のバンド「アトラクションズ」と一緒に録音している。

Suit Of Lights 

 

 そもそも自分の名前で出していない上に音楽的に地味なアルバムだったせいか、リリースされた当時はあまり評判が良くなかったと思う。
 ただ友人たちと屋外にいたときに、でかい音でこのアルバムの最後の曲「Sleep Of The Just」をかけていた時には、夕暮れだったせいか珍しくとても評判がよかったことを覚えている。(普段かける音楽はたいてい評判が悪かった)

 エルヴィス・コステロは現代で最高のソングライターの一人だと思う。このアルバムはいまでもお気に入りの一枚だ。

Sleep Of The Just

 

 

 

 

 

 

ペイズリー・アンダーグラウンドの妹たち

 ザ・バングルズは、1981年にロサンゼルスで結成された女性4人組のバンドで、1980年代に何曲も大ヒットを出した。

 ギターのスザンナ・ホフスとヴィッキー・ピーターソン、ドラムのデビー・ピーターソン、ベースのアネット・ジリンスカスというメンバーで、1982年に5曲入りのEPでデビューしている。

The Real World

 

  バングルズのサウンドは、パンクを経由した1960年代のポップなガレージロックという感じで、演奏はちょっとアレだがコーラスが得意で、聞いていて最高に楽しい。
 それまでなかった自然体な女子のバンドという雰囲気は、同じ1981年に結成された少年ナイフにもどこか近いところがあるかもしれない。

 1983年にはベースがマイケル・スティールに変わり、1984年にファーストアルバムをリリースした。マイケル・スティールは、何とザ・ランナウェイズの設立メンバーだったそうだ。

 この頃のロスアンゼルスには、ペイズリー・アンダーグラウンドと名称を付けられた仲のいい音楽シーンがあった。
 そこには、ドリーム・シンジゲート、スリー・オクロック、レイン・パレードなど、どこかアマチュアっぽさを残した、シンプルでちょっとサイケデリックな感じのバンドが集まっていて、バングルズはその中で最も売れたバンドになった。

Let It Go

 

 当時ペイズリー・アンダーグラウンドに影響を受けたらしいプリンスは、ファーストアルバムを聞いてスザンナ・ホフスの大ファンになり(ストーカーになったという噂もあった笑)、「Manic Monday」という曲をプレゼントする。
 そして1986年にリリースされたサードアルバムが大ヒットして、バングルズはあっというまにスターになる。

 彼女たちは曲も自分たちでつくるが、このアルバムでバンドメンバー以外が書いた4曲「Manic Monday」、「September Girls」、「If She Knew What She Wants」、「Walk Like an Egyptian」は名曲ばかりだった。


 バングルズが大スターになったのは、この4曲があったからだと思う。ただ、本来のシンプルなガレージバンドとのイメージの乖離もそこら辺から始まってしまったような気もする。

WALK LIKE AN EGYPTIAN


 このアルバムでは、当時は忘れられた存在だったビッグスターのポップスタイルの曲「September Girls」を取り上げている。
 それがアレックス・チルトンの再評価につながったことは、ちょうど同じ時期にビッグスターのダークサイドを取り上げたディス・モータル・コイルと同様に、彼女たちの功績のひとつだと思う。

September Girls



 1988年のサードアルバムは、カバーなしで全曲をメンバーが書いている。それぞれ普通に良い曲だが、彼女たちはすごい名曲を書くタイプではない。
 ただスザンナの書いた曲の共作者は有名なソングライターチームで、その1曲はバラードのすごい名曲になり、世界中で特大ヒットした。
 
 しかしプロデューサーや外部の奴に、もとはシンプルなバンドをいろいろいじられたこと、とても目を引くスザンナばかりがピックアップされたりしたことなどから、バンドの人間関係が悪くなってここで一度解散してまった。
  曲作りもボーカルも4人で分け合い、ほとんどの曲では4人でコーラスも付けていたバンドだったので、そのバランスが壊れたのは致命的だったんだろう。


 バングルズは1998年に映画のサウンドトラックを制作したことをきっかけに再結成した。そして、これまでに2枚のアルバムをリリースしている。

 バングルズにはポップバンドとしての一面とガレージロックバンドとしての一面があり、その両面ともとても良いし、いつだって楽しそうに演奏しているところは最高だと思う。
 あとプリンスと同じ意見になってしまうけど笑、スザンナの声とキャラクターはとても魅力的だ。背が小さくて気が強そうだが、バンドの中で一人目立つことを嫌がっているようにも見える。多分普通に良い人なんだろう。

 この映像は2000年の再結成後にアコースティック・バージョンで演奏された「Manic Monday」。みんな良い感じに年齢を経ていて、素晴らしい。


Manic Monday

 

 現在のバングルズは、2005年にベースのマイケル・スティールが抜け、オリジナルのベーシストだったアネット・ジリンスカスが再加入している。

 元気いっぱいだった女の子たちが、いろいろなことがありながらも相変わらずフェミニンな感じを失わずに、子育ても終えた大人の女性になって同じ仲間とバンドを続けている。
 そんな彼女たちの2019年の「Hazy Shade of Winter」なんかを見ると、ちょっと感動するな。

Hazy Shade of Winter

 

 

少年ナイフ  -ほんの少しだけ それで It's all right 

Joan Jett & The Blackhearts -アイコンになったロッカー

Big Star -アレックス・チルトン 

 

 

 

 

40年間続く、聖なるひどくメランコリーなサウンド

 

 ザ・バンド・オブ・ホリー・ジョイというバンドを知っている人はあまり多くないかもしれない。1984年にロンドンで結成され、解散や再開を繰り返しながら現在もコンスタントに活動を続けている。
 
 ザ・バンド・オブ・ホリー・ジョイは、バイオリンやアコーディオンを加えた多人数編成で、メンバーの入れ替わりも多い。
 何かを願っているように叫ぶボーカルにはロック時代よりも昔の歌手みたいな感じもあり、うらぶれた都会の裏町とキラキラした輝きが同居しているような、独特の個性を持っている。

 最初期に音楽的にいろいろな実験をしていた彼らがファースト・フルアルバムをリリースしたのは1987年だった。その『More Tales From The City』は、派手さはないが混沌した部分が少しだけ残った好きなアルバムだった。

 後にベストアルバムのタイトルにもなった「Leaves That Fall In Spring」は、最初はメランコリックなバイオリンとピアノで始まり、途中からチープなカシオトーンとリズムが入り、それが去っていって終わる。

 

Leaves That Fall In Spring


 それまで小さなレーベルから音源をリリースしていたバンドは、1989年に当時最大のインディペンデント・レーベルだったラフ・トレードと契約した。

 ラフ・トレードからリリースされた2枚のアルバムは日本でも発売され、ごく一部かもしれないが人気もあったと思う。

 

 1989年のセカンドアルバム『Manic, Magic, Majestic』は、どこかロンドンの場末やジプシー的な感じを感じさせるとても良い内容だった。

 タイトル曲のライブ演奏を見ると、音楽の下地や変遷には全く共通点がないがとても音楽的で、労働者階級のガラの悪い感じを含めてザ・ポーグスと似ているといわれるのも分かる気もする。

 

Manic,Magic,Majestic

 

 ボーカルのジョニー・ブラウンがそこら辺にあったチープな楽器で友人とバンドを始めた頃は打ち込みやノイズも使ったポストロックバンドだったが、この頃にはバイオリンやアコーディオン、トロンボーンなどを含む7人編成になっていた。


 とても聞きやすい「Baubles, Bangles, Emotional Tangles」のプロモーション映像は、上と同じライブをスローにして使っているようだが音はレコードそのままだった。

 ライブはバンスキング(路上の大道芸)みたいな感じが強かった一方で、ラフ・トレードからリリースしたアルバムではバンド編成にこだわらない洗練されたアレンジが加えられている。 

 

Baubles, Bangles, Emotional Tangles

 

 1990年には、前作をさらに充実させたアルバム『Positively Spooked』をリリースした。
 このアルバムの1曲目に入っている「Real Beauty Passed Though」のプロモーション・ビデオは、若き日のエリザベス女王のやたらに大きなポートレートの雑な扱いなど、とてもイギリス的で皮肉っぽい曲。

残った残骸をかき回す
二度と君みたいな人には会えないことは知っている
それは時間が経てば分かるだろう
まあいい 乾杯、さよなら

過ぎたことに幻想を抱いたりはしない
愚かな奴は、ぼくのドアの前を通り過ぎればいい
生身の人間に、ぼくも別れを告げよう
本当の美しさが、いま通り過ぎた


The Band Of Holy Joy - Real Beauty

 

 「Bitten lips」は、マリリン・モンローに似ていたイギリスのモデルが、若くして同じように孤独な死を迎えたことをテーマにした曲らしい。
 トーキング・ブルースとイギリスの古いフォークソングを混ぜたようなジョニーの歌い方は、こんな感じの曲にぴったりだ。

そして彼女はお気に入りの曲のフレーズを口ずさんだ
「私はあなたと一日を過ごしたいけれど、何もしたくないの
 あなたの部屋に入れてくれないかしら
 あなたの部屋は遊び場だけど、わたしの部屋は墓場だから」


彼女はスクリーンで見るほど、背は高くないんだよ
だけど俺たちは夢を創りつづけている
ドリーム ベイビー ドリーム


Bitten lips

 

 彼らはその後にラフ・トレードの破産と買収に巻き込まれたらしく、2作に続くアルバムは発表されず、バンド名を短縮したりした挙句に1993年に解散した。

 そして2002年頃に一度、そして2007年にバンドは再結成され、現在もtheをつけないバンド・オブ・ホリー・ジョイとして活動を続けている。
 当時の独特の切迫感は失われてしまったが、オリジナリティのある良いバンドであることに変わりはなく、2025年もニューアルバムを発表している。

 ザ・バンド・オブ・ホリー・ジョイの音楽はとても聴きやすいのに、街角の片隅や綺麗なものの影についてのペシミスティックで喜悲劇のような歌詞を歌うボーカルの緊張感が、聴いていてリラックスさせてくれない。


 そのせいか長く聞いていると疲れるというかお腹一杯になる感じがあって、いつも聞くわけではないが、このバンドのことを忘れることもない。

Look Who's Changed With The Times