高橋幸宏 - ARE YOU RECEIVING ME ? | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!



薔薇色の明日

 最近は好きなミュージシャンの紹介をしようとすると追悼文になることが多くなってきた。そういうのは書きたくなくて高橋幸宏も少し避けていたのだが、6月6日の彼の誕生日にサブスクも解禁されたようなので、このタイミングで紹介したいと思う。

 高橋幸宏は有名人なので多くの人が知っているだろう。ぼくが彼を知ったのは多くの人と同じようにYMO時代で、実は最初は苦手だった。

 YMO直前に彼がやっていたバンド「サディクテックス」は嫌いなフュージョン系だったし、最初のソロアルバムはおしゃれ系と、パンク/ニューウエイブにハマっていた10代の中頃は自分とは関係ないミュージシャンだと思っていた。

 その印象が決定的に変わったのは、1983年に出た『薔薇色の明日/Tomorrow's Just Another Day』というアルバムだった。

 ポップでセンスが良い中に感じられた研ぎ澄まされたデリケートな感覚が好みに合ったし、幸宏の人間性がはじめて理解できたこともある(それまでは気取っていて気難しい、嫌な奴なんじゃないかと何となく思っていた、若い頃は自分がそうだったな笑)。

ここは暗闇で、ぼくはただ一人ぼっち
君はぼくを受け止めてくれるだろうか?


Are You Receiving Me?


 高橋幸宏は、腕のいいドラマー、ソングライター、サウンドメーカー、ボーカリスト、デザイナー、釣り師など、それぞれの部分で優れた顔を持っていたが、ぼくにはポップシーンの中にいる繊細な芸術家という印象が強い。


 ただ、バンドで演奏しているときの彼がそんな感じから抜け出して楽しそうなのは、歌うドラマーということもあるのかもしれない。

 幸宏が最初期のシーナ&ロケッツに書いて、YMOでも演奏をしていた「Radio Junk」は当時からみんなが大好きな曲だった。映像のタイトなドラムを聞くと幸宏が本当にいいドラマーだったことがよく分かる。

Radio Junk



 『薔薇色の明日』の後のアルバムは落ち着いた感じが続いたが、1988年に東芝EMIに移籍した最初のアルバム『EGO』は全体的に緊張感が漂い、恐らくレコーディングにも費用をかけた大作という感じだった。
 ただこの緊張感は本人には居心地が悪かったようで、1990年代に入るとどんどん脱力系というか、情けない系というかヒリヒリした緊張感とは別のテンションのアルバムを作るようになっていく。

 まだ緊張感が強いが脱力系に少しづつ移行しつつある時期の曲が、次の『BROADCAST FROM HEAVEN』に入っている「6,000,000,000の天国」かなと思う。現代の黙示録的な歌詞はムーンライダーズの鈴木慶一が書いている。
※鈴木慶一と組んだユニットTHE BEATNIKSは次に紹介しようと思っています

6,000,000,000の天国


 最近公開された加藤和彦をテーマにした映画は、バンド仲間だった高橋幸宏の発言をきっかけに製作されたらしい。その中で、彼は加藤和彦のことを「音楽で社会を変えようと思っていた人じゃなくて、音楽を楽しもうと思っていた人だったから」みたいに話していた。
 幸宏は個人的な苦悩や繊細さを反映したデリケートな楽曲を使って、かつて影響を受けた洋楽のように、いつだって自分にとってリアルで最新のアルバムを作ろうとしていたんだろう。それは楽しかったに違いないと思う。

あんな奴もこんな奴も、ぼくを知らない

どんな奴もきっと奴も、きみを知らない

 

あんな風にもこんな風にも、生きたくない
昔風にも今風にも、生きたくもない


空気吸うだけ

 

 高橋幸宏は、聞きようによってはJポップのようにも聞こえる一般的な音楽、エレクトロニカと歌ものを合わせた実験的な音楽など、その後もずっと良いアルバムを作り続けた。

 そこら辺についてはTHE BEATNIKを除くと断片的にしか聞いていなかったので、残念ながらぼくに彼の音楽人生を網羅した文章を書くことはできない。

 彼は、2006年の『Blue Moon Blue』などエレクトロニカを多用した音楽を製作していた時期があった。それらの曲のバックでハイハットの代わりのようににリズムを刻んでいる神経質だがどこか安心感を与えてくれる「チリチリした細かいノイズ」は、とても幸宏らしいなと思うし、その感覚はどこかで共有していたような気がしている。
 そんな曲の中では「Where Are You Heading To?」が特に好きだった。

きみはどこに行くの?
きみはどこへ向かっているの?


Where Are You Heading To?


 高橋幸宏は10代でバンドを始めてからずっと、一人だけでは音楽制作をしなかったし、最後まで意識的に若いミュージシャンと対等に音楽を作ろうとしていた。そして彼の作る音楽が、偏屈でも嫌な奴でもなく、少し神経質だが穏やかで優しい心を失わなかった人であることを証明していたと思う。
 
 最初に彼のそんな部分をどこかで感じたのは、『薔薇色の明日』に入っている「6月の天使」だった。シンプルなポップソングなんだけど、どこか心に強く残るものがあった。それはいま聞いても変わらない。

 

七色の楽しげな舗道

空からは絶え間ない銀の糸

ポケットに溢れそうな夢は

ぼくの靴 誘い出して踊り出す
 

6月の天使