フライドチキンと海のおと。 -35ページ目

空中ブランコ その2

その小学校は郊外にあった。
郊外ということも手伝ってか校舎は古い。
コンクリート造りの新校舎とL字型になって、
木造の旧校舎がぼろぼろに朽ちながらも残っていた。
山に面した側に新校舎があり、
海に面した側に旧校舎がある。
旧校舎はもう長く使われておらず、
取り壊しが決まっていた。


アルバイトの先輩からは、


「旧校舎は使われていないので見回る必要はない」


と言われていた。
Yさんはほっとした。
仕事自体は楽でも、
この大きな学校を自分一人で守るというのはなかなかのプレッシャーだったし、
第一朽ちかけた木造の旧校舎など、
普通の神経の持ち主なら誰も見回りたくなどない。


ただし、普通の神経の持ち主なら、である。
Yさんは少しばかり、神経の構造が変わっている。
恐怖心よりも好奇心が少し勝っているのだ。


「旧校舎はな、出るぞ」


その先輩は両手を胸の前でだらり、とたらした。


「冗談でしょ」
「ばか。何度も目撃されてんだよ」
「うわさ話が一人歩きしてるんですよ」


Yさんは取り合わなかった。
それどころか、
あわよくばその時書いていた怪談モノのシナリオの肥しにでもできれば、と考えていた。





その夜もYさんは新校舎だけを見回った後、
宿直室でこつこつと原稿用紙のマス目を埋めていた。
午前三時過ぎ。
さすがにうとうとしてきた。
今書いているシナリオは今日明日中に仕上げなければならない。
眠気覚ましを兼ねて、
Yさんは旧校舎を見回ることにした。
<つづく>

空中ブランコ その1

Yさんがそのアルバイトに就いた理由は三つ。
まず昼間は就職活動をしたいので、
夜にびっしり働ける仕事がよかったということ。


もうひとつは時給。
夜間のアルバイトなので高額時給なのは当然だが、
それでもガテン系くらいの時給は必要だった。
彼には真剣に付き合っている彼女がいて、
できれば二十五歳くらいまでに結婚したいとも考えていた。
その時は定職に就けていなかったけれど、
それでも家賃を払いながら貯金もしたかったのだ。


そしてもう一つの理由。
彼は当時シナリオライターを目指していたので、
できれば夜中、
仕事の合間を見つけてシナリオが書けたらなと思っていた。
今から三十年近く昔の話だ。
そんな都合のいい仕事なんてそうそう見つからないよ、
と友達には言われていたのだが、彼は見つけた。
小学校の夜間警備員だ。
週何日か決まった日だけ、
宿直室に泊まって何時間かおきに校内を見回る。
朝、八時になると交代の人が来る。
仕事そのものは全然きつくない。
何よりYさんの望んだ通りシナリオは存分に書けるし、
何だったら仮眠も取れるし、
それでいてバイト料はガテン系くらい貰える。
願ったりかなったりだった。


それでもそのバイトはあまり人気がなかった。
それが時給の高い理由だ。



ご察しの通り、
夜の学校というのはとてつもなく怖いからだ。
<つづく>

味覚ハカイダー

ロイズ、というチョコレートに大ハマリしている。
ポテトチップスをチョコレートでコーティングしたやつだ。
塩味が、本当にちょうどいい。
あまじょっぱさが後をひく。
でもちょっと高いんだよなあ。



夏ごろ、アサヒのグリーンコーラにハマッてずっと飲んでいた。
最近見かけないなあ。
コンビニでもほとんどみかけないし、
自動販売機では皆無に等しい。
必ず置いていたスーパーでも置かなくなったし。
だめだったか。
自然な甘さがよかったんだけど。

ほとんど見ないので、
たまーに見つけた時に買い溜めすることにしている。
だからカバンの中に10本くらい突っ込んで、
ヒモが千切れそうなくらい重いやつを必死に背負って家に帰ることもままある。
でもいずれは枯渇するんだろなあ。



僕が美味しいと思った飲み物は、けっこう消える。
覚えている人がいればとてもうれしいが、
昔「サスケ」という炭酸飲料があった。
あれも美味しかった。でもすぐ消えた。
「メローイエロー」も好きだ。今はほとんど見かけない。
「マウンテンデュー」も絶滅危惧種だ。
全部美味しいのになあ。
ちなみに壜のラムネも見つけたら買い溜めする。



そういえば、好事家の間では大人気の「ルートビア」。
じいちゃんの体みたいな匂いのする炭酸飲料だ。
沖縄のスーパーならどこでも売っている。
僕、これが大好きで、沖縄雑貨屋などでは買い溜めする。
沖縄に行った時も一ダースくらい買う。
向こうなら、安い時は七十円くらいなのだ。
友達などに飲ませると哀しい顔をされる。そして


「俺たち、他の味覚は合っているのにね」


と言われる。


「本州じゃ通用しねえなあ」


とも言われる。





漫画『あたしンち』の中でも、
ユズヒコ君が同じ想いを抱くシーンがある。
彼はお気に入りだった「バナナしるこ」が自販機から消えているのを知ってガクゼンとする。
そして、


「俺は将来ジュースの味を決める仕事に就いちゃいけないな……」


と肩を落とす。
わかる。わかるよ、その気持ち。
でも飲んでみてえなあ、バナナしるこ。
甘そうだなあ。ひ。ひひひひひ。



メール

< お待たせっ★もうすぐ迎えに行くねー(^ー゚)ノ >



Wさんの携帯に、彼氏からこんなメールが届いた。







Wさんの彼氏は先月、自殺している。

どんっ。

E君が深夜、高速道路を車で走っていたら、



どんっ



と大きな音がして、車の屋根に何かが落ちてきた。
あわててハザードをたき、
車を路肩に停めて外に出た。



屋根のど真ん中が大きくへこんでいた。
へこみの中心に、直径30センチくらいの手形があった。



E君は思わず空を見上げた。




降るような星空だった。