フライドチキンと海のおと。 -18ページ目

円環の淵で その2

ある冬のこと。


徹夜が続いた時があった。
二週間会社に泊まりこみ、
そのうちの半分くらいが徹夜だった。
仕事はクレーム処理だ。
自分がまったく関与していない仕事で発生したクレームだった。


「関係ないとか言って逃げる気か。
 会社の仕事は全部自分の仕事だと思え。そう上司に言われました」


なんとか自分が受け持っている量を終え、S君は家路に着いた。

S君はほとほと疲れ果てていた。
鬱の一歩手前にいることを自覚していた。



「一番痛くない死に方ってどんなのだろ? って。
         いつもそんなこと考えるようになってたんです」



心療内科にかかる、というのはいやだったらしい。
とても暗いイメージがあったという。





ある休日の夜。
明日からの仕事に憂鬱さを感じながら、S君は飲み歩いていた。
とはいえいくらか気分もよくなったので、
駅から自宅までを自転車を使わず、ふらふら歩くことにした。



「酔っていたので、後ろからつけられてることに気付きませんでした」



急に両肩を掴まれた。
S君はびっくりしたものの、半ば朦朧としていて頭が働かない。
あっと言う間に上着を剥ぎ取られた。


S君は振り向いた。
剥ぎ取ったのは、ひょろひょろに痩せたホームレスだった。
その男はS君の上着を手に猛然と走り出した。
<つづく>

円環の淵で その1

今は優秀なデザイナーであるS君。
東京で事務所をかまえ、個人でがんばっている。
企業名は出せないが、
懇意にしているお得意先の名前を聞いて僕はびっくりした。
そんなすごいところの仕事をしているんだ、と。
彼とはもう十年くらい前、同じ事務所で働いていた。




大阪での話だ。
一身上の都合で大阪にいることができなくなり、
彼は二十五歳で単身東京に居を移した。



「とりあえず大阪から逃げたかったし。あと、
 やっぱり大阪と比べたら東京はデザインの仕事の量も質も違うしね」



多少の夢を抱いて東京に出たS君。
しかし、最初に入った会社で猛烈なしごきにあった。



「もう、僕の仕事なんかろくに見てくれないんです。
 ほとんど見ずに、全然デザインになってない、の一言で」



あとで知ったことだが、
その会社はデザイン事務所として有名なのだが、
また新人を潰すことでも有名らしかった。
それでもS君はガンコにチャレンジし続けた。
しかし、だめ出しの嵐はやまなかった。
それでも彼は二年間、その会社でがんばった。



「きっと誰もがそんな時間を経験するんだろうけど。
 それにしても、辛い辛い、ほんとに辛い時間でした」
<つづく>

ゆるい雑学の宝庫

『活字博物誌』
/椎名誠著





椎名誠さんが好きで、
家には著書が二百冊くらいある。
それでもコンプリートできていないんだからすごい。


椎名さんはいろんな本を書いている。
超常的SF小説。旅エッセイ。私小説。書評。
どれも好きだが、特に僕は書評がいいと思う。
何がいいかって。
それは、情報がゆるいことだ。
読んでいるとわかってくるのだが、
はっきり言って彼はしっかり調べていない。
でも読書量がはんぱじゃないので、
次々と新しい知識がなだれ込んできているようだ。
それらを深く追求したり科学的な裏づけをとったりせず、


「すごい!これはすごい!」


と思ったことを面白く話してくれる。
これが正しいことではないのかもしれないが、
雑学ってそんなもんでしょう。
僕は<雑学>って語感からして、そんなもんでいいと思うけれど。





この本にも面白雑学がたくさん載っていた。
比較をしている話が特に面白かった。


まず宇宙の話。

いまわかっている恒星の中で一番大きいものはIRS5という名で、
太陽の1万600倍の大きさがあって、直径は実に148億キロもあるんだって。
地球から冥王星までの距離が57億6550万キロあるから、
太陽系の端から端までの距離をそっくり計っても、
このIRS5の直径の中にすっぽり納まっちまうんだって。
わはははは。



で、ここからも面白い。
太陽系の大きさを東京ドームに例えたら、
IRS5は本州と九州とをあわせたくらいの大きさ。
もちろんこのIRS5は恒星、つまり太陽であるわけだから、
このばかでか星を軸にしてまた太陽系があるのだ。
まったくもう想像もつかないようなとてつもなくでかい太陽系が。
わはははは。わけわかんねー。



まあこんな感じでこの本は続く。
ほう、へえ、わはは、と言っているうちに読み終えてしまう。
一遍も短いので、どのページから読んでもするする読めていい。
まあ知識としては、
居酒屋できれいなねーちゃんを口説く時に使えるくらいだけど。


でも雑学ですからね。
いんじゃないでしょうか。






擬態

大学時代に周囲に徹底的に無視されたD君。


彼は大きな銀杏の街路樹の幹に、
“眼”を見つけたことがあるという。
眼は二つ。
白目があり、その中心に黒目がある、いわゆる眼だ。


車の助手席にいるD君と眼が合うと、
その二つの眼はゆっくりとまばたきをした。
D君を見つめたまま動かない。


五秒ほどして、D君は視線を前に戻した。
それ以上はやばい、と思ったらしい。


その後、同じ場所を何度も通った。
しかし、
かの銀杏に眼を見つけることはないという。

電子書籍ねー。

電子書籍になみなみならぬ興味がある。
僕、実はこの電子書籍専用端末なるものを二十五年前から予言していたのだよ。
小学校五年生の時の学級文集的なもの。
そこに僕は『いつか欲しい夢の道具』と銘打ち、
手帳くらいの大きさの、
何百冊もの本の情報をインプットして好きな時に読めるコンピュータ、
としっかり活字化している。
あきらかにこれは電子書籍専用端末ではないか。
おお。天才ここに在り。



ま、それはさておき。


活字中毒である、ということは記事にも度々書かせてもらっている。
本は確かに好きだ。
愛しているといっても過言ではない。
読むだけではなく、所有欲も満たしてくれる。
本棚で分厚い背表紙をびしりを光らせているのを見るだけで、


「ああ、こいつまだ読んでいない。これが終わったら、もうすぐ読める。むききき」


なんて思って楽しくなってくる。
本が鞄にないと不安だ。本のない人生なんてつまらない。
そんなふうにいろいろ思うんだけれどね。



でも薄さ数ミリの中に数千冊入れられるというのにも惹かれる。
旅行の時、いっつも何の本を持ってくかですごく悩むのだ。
で、結局失敗を怖れて、読んだことないやつには手を出さない。
一回読んで、これは面白かったというやつを何冊か鞄に入れる。
そして重い。結局あんま読まなかったりする。
まったくバカヤロウかつ無駄だなあ。
まあ、どの一冊を選ぶかというのも楽しいんだけどもさ。


電子書籍ならその労苦からも解放されるなあ。
いつでもどこでも、ポケットに数千冊。むうん、いい。
でもどれを買ったらいいかでまた悩む。
家電に強いわけでもないしなあ。





話変わって、
自分でも電子書籍を作ってみようかな、とも思っている。
そういうの請け負う会社ってあるじゃないですか。
書き溜めた小説もあることだし。
ホラーもいっぱい。
青春小説もいっぱい。
純文学(?かな)は、ちょっとだけ。
あとラブストーリーとか。
スチームパンクっぽいSFもあるかな。
スラップスティックも、コメディも。
ま、このブログのテーマにあるもんが小説としてもストックしてあるわけですよ。
その辺を電子書籍にできたらいいなあ、とか。
それをまた読者の皆さんが読んでくれたらいいなあ、とか。


夢が膨らんどりますの、はい。