今回は時事ネタです。
フジテレビが大変な状態になっています。
中居氏のスキャンダル発覚以降、外資ファンドによる第三者委員会設置要求、フジテレビ社長による会見を経て、今はトヨタや日生など、多くのスポンサー企業がCMを見合わせています。
その結果、同社は収支悪化が予想され、ガバナンスが問われる事態となっています。
この問題、とにかく動きが早くて追いつくのが大変なんですが、会社勤めの私としては、外資ファンドがどう動いてくるかを含めて今後の展開に強い関心があるので、一旦ここで自分なりに整理してみることにしました。
整理するにあたって論点はいろいろあると思うのですが、6月下旬の株主総会がどうなるか、を中心に考察していきます。
なお、私は一応それなりの会社(売上も営業利益も総資産もフジメディアHDを上回る)に勤めており、ほんの数年ではありますが持ち株会社を兼務した経験があるので、それほど見当はずれで頓珍漢な話にはならないと思っております。
考察の流れとしては、
- フジメディアHD(フジテレビグループの持株会社)の業績とガバナンスを投資家情報(有価証券報告書、決算説明会資料等)から確認
- 外資ファンドのレターを確認し、彼らの意図を確認
- 今後の展開を考察
で進めていきます。
1.フジメディアHDの業績
まず、売上と利益の構成を確認します(2023年度決算説明資料より)。
全社の売上は5,664憶円、営業利益は335億円なんですが、重要なポイントは、メディア・コンテンツ事業(フジテレビ等)よりも都市開発・観光事業(サンケイビルディング等)の方が利益が大きい、ということです(メディア・コンテンツ事業は全体の売上の74%を占めるものの、利益は43%にとどまります)。
私がなぜ利益構成を重要なポイントとしているかというと、フジメディアHDの経営陣と大株主の外資ファンド(ダルトン)の都市開発・観光事業(以降は不動産事業と呼びます)のとらえ方、位置づけが正反対であるためです(詳細は後述しますが、ダルトンは不動産事業を「不要」としています)。
なお、それぞれの事業の概要は下記のとおりですので、興味のある方はご覧ください。
ここでフジテレビが属するメディア・コンテンツ事業の業績(営業利益)を確認します(グラフはブログ主が作成)。
これは2022年度と2023年度の営業利益を比較したグラフ(青がフジテレビ、緑がその他のグループ会社の合計)なんですが、中核会社であるフジテレビの落ち込みが大きい一方、グループ会社の伸びは小さく、全体では減益(175億円から157億円へ)となっています。
じゃぁなんでフジテレビの減益幅が大きいかというと、皆さんご存じかもしれませんが、放送・メディア(主にCM)が儲けが少なくなっているためです。
もちろんフジテレビにはCM以外の収入(映画やイベント等のコンテンツ収入)もありますが、粗利益を比べるとCM収入の3割程度しかありません。
放送・メディアの内訳は下表のとおりなんですが、2023年度は71億円、2022年度は110億円の大幅な粗利益減となっています(2022年度の表には粗利益の欄がありませんが、収入が92億円減、原価が18億円増なので、110億円の粗利減です)。
こんな感じでただでさえCM収入の減少を他の収入でカバーできていないところに、雪崩のように各社がCMを止めてきたんですから、業績には相当深刻な影響を及ぼすものと思われます。
目先の注目ポイントとしては、2月5日に予定されているフジメディアHDの第三四半期(2024/12期)決算発表で、通期の業績予想(売上5,983億円、営業利益335億円、経常利益404億円、当期純利益290億円)がどのように修正されるか、だと思います。
CMを出す企業側については、
- フジテレビだけではなく、BSフジ等のグループ会社や系列局のCMも止めている企業が多いと思われる
- 最短でも第三者委員会の調査結果が終了し、それを受けてフジテレビが再発防止策を策定し、その実行に着手するまでは、CMを再開しないと思われる
- また、テレビ離れが進みCMの広告効果自体が小さくなっている中、再開するにしても対象を絞り込む等の慎重な対応をとる企業も多いと思われる
ので、来期以降もフジメディアHDにとっては相当厳しい状況が続くと思います。
因みに、減り続けるメディアコンテンツ事業の収入に対し、彼らがこれまでどんな手を打ってきたのか、なんですが、2023年度の決算説明会資料に「1,103億円の成長投資」という記載があったので中身を調べてみました。
そうしたらなんと、1,103億円の投資の大半(920億円)は不動産(都市開発・観光事業)でした。
しかもフジテレビの設備投資は今後の計画も含め、減価償却費と同水準にとどめており、メディア・コンテンツ事業に関しては「攻める意思」が感じられませんでした。
そもそも成長投資って設備投資以外にもM&Aとか、研究開発とかDXとか人材投資などいろいろあるんですが、フジメディアHDの開示資料をみても、その辺りについて彼らがどのような「お財布」を用意しているかイマイチ分からず、投資意欲があるのか分かりませんでした。
という訳で、次の株主総会では
- じり貧のメディア・コンテンツ事業においてどのような成長戦略を描くか
が問われるのだと思います(成長戦略自体が議案になることはないのですが、株主からは当然に突っ込まれると思います)。
2.ガバナンス
ガバナンスに関してはいろいろ論点があると思うのですが、私は社外取締役の人選が非常に重要だと思っています。
社外取締役には、外部の視点から経営課題に関する知見を提供したり、業務執行の監督をする役割があります。
ですので、社外取締役を機能させるためには、取締役会で彼らが自由に発言し、喧々諤々の議論ができるようにすることが重要で、なぁなぁの関係、なれ合いを避けるために利害関係のない先から選任することが求められます。
また、業務執行を適切に監督してもらうため、高い専門性を有する弁護士や会計士を選任する企業も多いと思います。
参考として、コーポレートガバナンスコード(上場企業が順守すべきガバナンスに関する指針)における「取締役会の実効性確保のための前提条件」を貼り付けておきます。
また、コーポレートガバナンスコードには政策投資株式(株式の持ち合いなど)は行うべきではないという考え方があります。
最近の事例だと、金融庁がビッグモーターの問題を受け、「株の持ち合いを通じた企業とのもたれ合いが一連の不正行為の温床になった」として、損保に政策保有株式の売却を要求した、ということがありました。
ちょっと長くなりましたが、私が言いたいのは
- 社外取締役には独立性と高い専門性が求められる
- 政策投資株式は不正行為の温床となり得るもので、企業ガバナンスにおいて縮減が求められる
ということです。
あと、フジテレビの沿革を見ると、文化放送、東宝等の5社でテレビ免許を申請したことがルーツであると記載されています。
以上を踏まえ、フジメディアホールディングスの社外取締役の出身母体について確認していきます。
なお、弁護士、公認会計士の選任はゼロです。
①東宝
- 前述のとおり、フジテレビの設立主体
- 政策投資の対象で、持ち株数494万株、帳簿価格244億円
②文化放送
- 前述のとおり、フジテレビの設立主体
③産経新聞
- フジサンケイグループを構成する会社
④総務省
- 監督官庁
⑤キッコーマン
- 政策投資の対象で、持ち株数27万株、帳簿価格27億円
- 長寿番組「くいしん坊万歳」の1社スポンサー
⑥大和証券
- 政策投資の対象で、持ち株数10万株、帳簿価格1億円
- フジメディアHDの主幹事証券会社
⑦全日空
- 政策投資の対象で、持ち株数16万株、帳簿価格5億円
これはもう何と言ってよいのか…。
率直な感想としては、「お仲間を集めた」という感じで、高齢者が多い(最高齢は1935年生)ことも含め、本来求められる機能を果たせるのか心配になります。
そしてこれは個々の社外取締役に問題があるというより、選任している社内の取締役側の問題なんだと思います。
ガバナンスコード等の「社会の要請」よりも「自分たちの都合」を優先してやりたいようにやってるように見えますし、そうした行動原理、企業風土、文化があるから
- 記者会見の方法(閉鎖的)
- 調査の方法(第三者委員会ではなく社内の調査委員会)
を同じノリで決めてしまったんじゃないかと私は想像しております。
という訳で、次の株主総会では
- 現経営陣の体制継続を容認するのか
が問われるのだと思います。
3.ダルトン(外資ファンド)について
そもそもなぜダルトンがフジメディアHDの株を買ったかについてですが、その理由はフジメディアHDのPBRの低さにあります。
PBRが低い、というのは株の時価総額がその会社の自己資本(純資産)を下回っている、ということで、フジメディアHDの場合、PBRが0.46倍なので、株式の時価総額(4,473億円)は自己資本の46%しかないということになります(下表参照)。
どうしてそういうことが起こるかというと、
- 投資家が「フジメディアHDは持っている資産にふさわしい水準の利益を稼げていない」と思っている
- 投資家が「フジメディアHDが資産を売って資金を回収することはない」と思っている
ためで、総じてそういう会社は、いわゆる「ハゲタカさん」のターゲットになりやすいと言えます(なお、フジに限らず、キー局のPBRはすべて低水準です)。
という訳で、2024年5月30日にダルトンがフジメディアHDの取締役会に送付したレターの内容を確認します。
【レターの全文のURL】
彼らの主張は、
- フジメディアHDの株価低迷は、同社がメディア企業ではなく、不動産も行う複合企業であることに起因している
- 全株主のための価値と株主還元に重点を置き、MBO(経営陣による全株式取得)を直ちに実施することを推奨
- MBOが難しいのであれば、サンケイビルを切り離し、その利益を既存株主の持ち株比率に応じて分配
- さらに年間配当を純利益の100%まで増額し、持ち合い株の売却を原資にして今後5年間発行済み株式総数の50%の自社株買いを実施する
- 株主総会(2024/6)では、社内取締役全員の再選に反対票を投じるように呼び掛ける
- 社外取締役については、産経新聞の元役員以外の全員への賛成投票を推奨する
というものでした。
<レターの該当部分の抜粋>
要は、
- 不動産を売却してその利益を株主で分け合いましょう
- 資産効率の低い政策投資株式を売却し、大量の自社株買いをして株価を上げましょう
ということだと思うのですが、今年は中居氏の問題への対応のまずさもあるので、さらに踏み込んで「取締役の選任に関する株主提案」をしてくることが予想されます。
その際、
- フジメディアHDが描いているものとは大きく異なる成長戦略(例えば、M&Aや海外展開、人材戦略など)を打ち出し、
- それを実現できそうなピカピカの経歴を持ち、なおかつMBOに前向きなプロの経営者を社長候補(フジテレビの社長ではなく、フジメディアHDの社長です)とし、
- 独立性、専門性の観点で懸念のない人物を社外取締役候補とする
くらいのことはしてくるような気がします(これは完全に私の憶測ですが…)。
<参考:フジメディアHDの成長戦略(中期経営計画より)>
それに対し、フジメディアHDが今までと変わらない経営体制を維持しようとする、もしくは小幅な入れ替えにとどめようとする場合、ガバナンスの改善が見られないということで株主の賛同を得られず「反対票ドミノ」が起こる可能性があります。
特に大量の株式を持つ機関投資家には「スチュワードシップコード」という行動指針があり、ガバナンスについて厳しく見てくるはずなので…。
<参考:スチュワードシップコードの一部を抜粋>
今回の問題に対するフジメディアHDの対応を見ていると、真摯に取り組んでいるようには見受けられず、
- 株主総会も「今までのノリ」で突っ込んでいきそうな気もしますし、
- そもそも総会まで残された時間も少なく、今から取締役の人選や調整に入ったとしても間に合わない可能性がある
ので、ダルトンにとって今年の総会は大チャンスなんじゃないでしょうか。
この1週間のフジメディアHDの株の値動きを見ていると、「ダルトンの勝利」を予想する人が増えていて、その「買い」が暴落を食い止めているような気もするんですが、実際はどうなんですかね。
最後はいつものように「今日のわんこ」で締めます(当ブログは「犬との生活」をテーマとしています)。
今日の散歩は明治神宮外苑近辺に行きました(外周路でマラソン大会が行われていました)。
そのあと明治公園に行ったんですが、お座りしてもすぐ立ち上がって近づいてくるので、イマイチいい写真を撮ることができませんでした。
そして午後は東京ミッドタウンに買い物に行きました。
帰りの車で折り重なるようにしている姿がとてもカワイかったです。