2週間ほど前、我が家は箱根に旅行に行ったんですが、帰ってきた翌日にワンコがダニに噛まれていることが分かりました。
かかりつけの動物病院に行きダニを取ってもらい、その後は何事もなかったかのように元気にしています。
【昨日の様子】
もともと我が家はワンコに駆虫剤を投与しておらず、虫がいそうな場所(公園など)に行く場合は、ロンパースを着せて自家製の防虫スプレーをするようにしてきました。
で、今回ダニに噛まれたことを踏まえ、今までのやり方を変えるかというと、そのようなことは考えておらず、
- 防虫スプレーの材料をハーブからヒバ油に変える
- お腹、足などに今まで以上に丁寧に防虫スプレーを塗布する
という対応で済ませています。
このようなことを書くと、「信じられない」、「間違っている」、「ワンコがかわいそう」、「リテラシーに欠ける」と思われそうなのですが、これは私なりに「ノミダニ駆虫剤のリスクベネフィットバランス」を考えたうえでの結論で、特段間違ったことをしているとは思っていません。
ということで、今回は後々振り返れるよう、自分の考え方をまとめておくことにしました。
1.感染症の罹患リスク
まず、病原体を持っているダニがどの程度いるか、についてですが、日本皮膚科学会のホームページに記載されているQAによると、
- 日本では野外のダニが何らかの病原体を持っている確率はきわめて低い
とのことなので、そうした前提を持つ方が良いと思います。
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa19/q04.html
では、ダニによる感染症に罹患する犬はどれくらいいるのでしょうか。
よくニュースで取り上げられる「SFTS」は、2023年6月末時点の累計で45頭、私が住む東京都を含む東日本では1件も事例がありません.
(出典:国立感染症研究所のレポート)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001164499.pdf。
その他の感染症についてですが、私が調べた限りでは「バベシア症」が重篤化のリスクが高いようなので調べてみました。
バベジア症については、帯広畜産大学等が全国の動物病院にアンケートを実施しています。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010832045.pdf
このアンケートによると、私が住む東京都は844の動物病院から回答があり、感染頭数は2009年が10頭、2010年が7頭でした。
全国レベルでみると、2009年は3,802頭、2010年は3,625頭で、エリアを見るとSFTS同様に西日本の方が件数は多いようです。
日本ペットフード協会の調べによると、2023年の犬の飼育頭数は684万頭とのことです。
仮に9割の飼主が駆虫剤を与えているとすると、非投与頭数は68万頭となり、バベシア症の感染率は0.5%~06%となります(3800頭÷68万頭)。
因みに、アニコム損保のホームページに掲載されているバベシア症の「かかりやすさ」に関するデータは下記のとおりです。
何を分母と分子にしているのかよく分からないのですが、この比率が正しいとすると、感染リスクは「ほぼゼロ」といっていいと思います。
2.駆虫剤のベネフィット
以上を踏まえると、あくまでも私見ですが、
- もともと低い感染リスクをゼロにする
ことが駆虫剤のベネフィットだと私は思っています。
言い換えると「ベネフィットは小さい」ということなので、リスクは相当程度低いものでなければバランスしないと思います。
3.駆虫剤のリスク
まず動物用医薬品の承認基準を確認します。
市販されている薬は安全性が確認されているので問題ない、という見方もあるとは思いますが、動物医薬品は
- 効能、効果があると認められないとき
- 効果、効能に対して著しく有害な作用があり、使用価値が認められないとき
に承認しないことが法律で定められているのであって、承認されたからといって安全が確保されている訳ではありません(承認された薬には一定のリスクがある)。
私がリスクベネフィットバランスを重視するのはそのためです。
ここからは楽天のノミダニ駆虫剤ランキングで上位を独占しているフロントラインのリスクを検証していきます。
動物医薬品検査所のホームページを見ると、動物用医薬品の成分や使用上の注意など、様々な情報を確認することができます。
フロントラインについて調べてみると、主成は「フィプロニル」で、濃度は10%(100mg/1ml)、体重が2kg弱のうちのワンコには0.5ml入りが適量であることが分かります。
で、このフィプロニルなんですが、ブログタイトルにあるとおり、ゴキブリの殺虫剤にも使われています。
ゴキブリを殺すレベルの殺虫成分ですので、フロントラインの「使用上の注意」には下記のとおり「触っちゃダメ、絶対」的なことが列記されています。
これをワンコの皮膚に直接滴下投与するっていうんですから…。
私にはできません。
因みに、フィプロニルについては食品安全委員会が安全性評価を行っています。
この評価書によると、フィプロニルのヒトの1日当たりの許容量は、体重1Kgあたり0.00019mgです(体重が65kgの私の場合、1日当たり0.012mg)。
ここで「無毒性量」、「安全係数」という聞きなれない言葉が出てくるので、簡単に捕捉します。
安全係数は、
- 種の違い(例えば「ラットと人」など、異なる種の試験結果をそのまま適用することはできない)
- 個体の違い(特定少数の試験結果をそのまま多数に適用することはできない)
によるリスクを数値化したもの、ということですので、犬の無毒性量が分かれば、それに個体の違いの安全係数10倍を見込むことにより、犬の1日当たり許容量を求めることができます。
そしてそれをフロントラインの含有量と比べれば薬の危険度が分かるのではないかということで、やってみました。
【犬の無毒性量】
食品安全委員会の資料に掲載されている試験結果は以下のとおりです。
なお、資料に出てくる「切迫と殺」というのは、その場で殺さざるを得ないような酷い状態に陥った、ということだと思います(せめて安楽死であったことを祈ります)。
素人目で見ても、与える量次第で凄まじい毒性を発揮することが分かります。
これらの試験の中で、最も無毒性量が小さかったのは、「1年間慢性毒性試験①」の「0.2mg/kg 体重/日」ですので、それを個体差の安全係数10で割った「0.02mg/kg 体重/日」が犬のフィプロニルの許容量になると思います。
うちのワンコたちの体重は約2kgですので、1日当たりの許容量は0.04mgになります。
ここでフロントラインに含まれるフィプロニルの量を再掲します。
フロントラインのフィプロニル濃度は10%(100mg/1ml)、体重が2kg弱のうちのワンコには0.5ml入りを使いますので、フィプロニルは1回の投与で50mg体内に入ることになります。
フロントラインは投与間隔は1ヶ月ですので、1日あたり平均は1.67mg、1日あたり許容量0.04mgの41.7倍となります。
これが私の考えるフロントラインを投与することのリスクなんですが、これって「もともと低い感染リスクをゼロにする」というベネフィットとバランスしてるんですかねぇ。
もちろん私はバランスしてないと思っております、ハイ。
ついでといってはなんですが、ノミダニに加えてフィラリアにも対応しているネクスガードスペクトラについても同様の検証をしてみました。
この薬の主成分のアフォキソラネルとミルベマイシンオキシムについて、承認時の議事録に前者はイソオキサゾリン系、後者はアベルメクチン系であることが記載されています。
今回はアフォキソラネルとミルベマイシンオキシムの安全評価書を見つけることができなかったので、イソオキサゾリン系のフルキサメタミド、アベルメクチン系のアバメクチンの評価書を使って検証していきます(なお、私はド文系なので、このような検証が学術的に適切なのか分かっておりません…)。
まずはフルキサメタミドから。表紙に思いきり「農薬」と書かれています。
これらの試験の中で、最も無毒性量が小さかったのは、「1年間慢性毒性試験①」の「100mg/kg 体重/日」ですので、それを個体差の安全係数10で割った「10mg/kg 体重/日」が犬のフルキサメタミドの許容量になると思います。
うちのワンコたちの体重は約2kgですので、1日当たりの許容量は20mgになります。
ネクスガードスペクトラは、2kgの犬に対して1ヶ月に1回、1錠(アフォキソラネル9.38mg)を投与するので、1日あたり平均は約0.3mgとなり、1日あたり許容量(20mg)を大きく下回る(約1/66)ので、フロントラインより遥かに安全だと思われます。
続いてアバメクチンです。こちらは農薬かつ動物用医薬品とのことです。
それにしても死亡例が多く、毒性は相当強いのではないかと思います。
ちょっと気になるのは散瞳(瞳孔が開きっぱなしになる)で、これって緑内障に見られる症状ですし、失明になりかねないような話だと思います。
駆虫剤を飲み続けたワンコと飲んでいないワンコの失明率の違いのデータとかってあるんですかね。
個人的には気になりますが、調べる人なんて誰もいないんでしょうね。
ちょっと脇道にそれましたが、アバメクチンの試験の中で、最小の無毒性量は「0.25mg/kg 体重/日」ですので、それを個体差の安全係数10で割った「0.025mg/kg 体重/日」が犬のアバメクチンの許容量で、うちのワンコたちの体重は約2kgですので、1日当たりの許容量は0.05mgになります。
ネクスガードスペクトラは、2kgの犬に対して1ヶ月に1回、1錠(ミルベマイシンオキシム1.88mg)を投与するので、1日あたり平均は約0.06mgとなり、1日あたり許容量(0.05mg)を約25%上回ります。
ネクスガードスペクトラについては、アフォキソラネルの代わりにフルキサメタミド、ミルベマイシンオキシムの代わりにアバメクチンの安全評価を使って検証しているので、見当違いのことをやっているかもしれません。
ただ、私レベルの素人が開示されている情報に基づき検証するとしたら、これが限界な気がしています。
動物医薬品検査所のホームページを見ても、医薬品の申請者がどのような試験をしてどのような結果だったかなんてほとんど開示されていないですし、その他の媒体においても有意な情報なんてほとんど確認できないので。
4.まとめ
これまでの内容をまとめると下表のとおりです。
この表の「投薬のリスク」は、
- 1か月に一度投薬するのではなく、毎日少しずつ投薬すると仮定した場合に、その投薬量(表のA)が1日あたりの許容量(表のB)の何倍になるのか
を数値化(表のA/B)したものですが、この数値をどうとらえるかは、ワンコの生活環境によって変わってくると思います。
また、投薬のベネフィットについても同様で、ワンコの住んでいる地域等によって変わってくると思うので、投薬の要否に関する「正解」はないんだと思います。
ただ、虫に刺されること自体をリスクととらえ、殺虫成分を切らすことなく体内に残し続けることを推奨するような今の風潮は、「やりすぎ」だと私は感じています。
蚊やダニが媒介する人獣共通の感染症はいろいろありますが、自分自身が殺虫剤や農薬を服用しようとは全然思いませんし、よほど感染率や致死率が高くならない限り、それを犬に服用させようとも思わないので。
5.最後に
今回はノミダニ駆虫剤について、無毒性量のデータを使ってリスクベネフィットを検証しましたが、私は以前ペットフードの安全基準についても同様の検証をしたことがあります。
その時、
- 安全係数は1だけど健康被害の報告がないから問題なし
などという、私からすると滅茶苦茶な理屈で数値基準が設定されているのが分かり、あきれ返るとともにとても残念な気持ちになりました。
その他にフィラリアなどについても調べてきましたが、自分なりに調べれば調べるほど、ペット業界の情報開示が貧弱であることに対する不満が高まっています。
データや根拠を示さずに不安を煽り、ワクチンや投薬を半ば強要するような「商売」のやり方に抵抗を感じている買主って、私くらいなんですかねぇ。