玉手箱

 

イワタバコ

 

何百年も前から

 

毎年初夏に

 

岩に咲き

 

通りがかった人たちを

 

そっと見つめてきた

 

江戸時代の商人も

 

ここで休んだだろうし

 

平安時代

 

いいえ

 

もっともっと昔から

 

この星の形のお花は

 

大きな葉っぱを広げ

 

ひかえめに

 

歓迎してきた

 

五芒星と

 

六芒星の

 

伏し目がちな

 

お顔で

 

 

 

 

幼稚園まで

 

歩いた道

 

小学校にあがって

 

少し遠くまで

 

通った道

 

驚くほど

 

変わっていない

 

坂の表情や

 

ところどころにある

 

階段

 

道幅が狭かったり

 

記憶より曲がっていたり

 

公園も小さかったり

 

はあるけれど

 

驚くほど

 

そのままだった

 

古い家は

 

当時のまま

 

時を刻み続けている

 

そこに行って

 

何を

 

するのかなと

 

言われるから

 

一人で

 

時を遡る

 

わたしは

 

こんなにも

 

繊細に

 

世界を感じていた

 

だからこそ

 

いまでもそのままの記憶で

 

地図がなくても

 

この場所をたどることができる

 

景色をからだが覚えているから

 

ラジオ体操の公園の

 

隣の家もそのままで

 

再会に

 

涙が出そうになったけれど

 

こうやって

 

残っている家もたくさんある中

 

わたしの家はもうない

 

知ってはいたけれど

 

いま

 

目の当たりにする

 

わたしの家の車庫だった基礎は

 

そのまま生かされているようだけれど

 

それ以外の名残は一切ない

 

梅の木も

 

ネズミモチも

 

何もかも

 

家の跡地に3軒の家が

 

窮屈に建ったように見える

 

裏の景色は変わってしまっていたから

 

もしかしたら違うけれど

 

横にある階段はそのままだから

 

きっと

 

そうなのだろう

 

とにかく

 

当時いた

 

わたしにさえ

 

にわかには

 

わからない変わりようだった

 

いまだにある

 

友だちの家や

 

近所の家

 

わたしの家も

 

本当はまだ

 

使えるはずだったのに

 

ここだけが

 

わたしの記憶と

 

写真の中だけにしかいない

 

その怒りと悲しみが

 

どうしようもなく

 

からだを

 

突き抜けていった

 

でも

 

ここに戻るまでに

 

本当に

 

本当に

 

長い道のりだったから

 

甘いだけじゃないのはわかっていたけれど

 

帰ってきたんだよ

 

ありがとう

 

ありがとう

 

ありがとう

 

美化しないで

 

そのまま

 

記憶しておくね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

源氏物語を

 

読みながら

 

普段乗らない電車に揺られていると

 

すごく遠いところまで

 

きた氣がする

 

やっぱり家が

 

いちばんなら

 

出かけなければ

 

いいじゃない

 

 

思っていた

 

かつては

 

でも

 

出かけてこそ

 

あらためて

 

いつもの居場所の良さが

 

実感できるのだと

 

いまはわかる

 

別の空氣や

 

おいしいものを

 

味わって

 

でも

 

そろそろ家に

 

帰りどきだなというのも

 

からすが鳴いても

 

鳴かなくても

 

わかる

 

帰ったら

 

帰ったで

 

休んだ分よりも

 

動いている

 

氣にもなるけれど

 

それもまた

 

一興

 

どんなに好きなところに

 

いたって

 

別の場所も必要なんだ

 

光源氏のように

 

 

 

 

 

虫を無視

 

したいけれど

 

どうして

 

排除したくなるんだろう

 

だいたいの

 

虫は無視できるし

 

ちょっと

 

そちらへ行っていてね

 

くらいの

 

あしらいで

 

済むけれど

 

どうしても

 

完全に

 

徹底的に

 

いなくなってもらわないと

 

困る

 

断固

 

許すまじ

 

 

なってしまう

 

虫もいる

 

この世界には

 

もちろん

 

虫だけでなく

 

いろんな

 

存在がいて

 

みんなに共通しているのは

 

生きていること

 

当たり前に

 

生きたいし

 

生きるために

 

必死なこと

 

だからこそ

 

勝手な判断で

 

排除していいとは思わない

 

とはいえ

 

自分の家が

 

安心できない場に

 

なるのも困る

 

こういうのを

 

煩悩というのかな

 

 

 

 

 

大風吹いて

 

大雨降って

 

本当に

 

濡羽色の

 

カラス

 

なんとか

 

嵐の中でも

 

連絡を取り合う

 

あらためて

 

カラスは美しいと

 

雨のかからない場所にいて

 

勝手な人間は思うけれど

 

カラス自身は

 

それどころではなく

 

じっと

 

お家で

 

休んでいるわけには

 

いかない模様

 

今日は猫も

 

濡れ猫

 

軒先で

 

しばし

 

雨宿り

 

ゆっくり

 

おやすみなさい