Ψ(さい)のつづり -14ページ目
聖遺物とじっくりと向き合っていると
不意に涙があふれてくる
あなたはわたしを知っているのですか
わたしはあなたを知っているのですか
わたしは誰だったのかしら
思い出せないんです
棺の表情も
表面の彫刻も
何だか
語りかけているよう
表情が少しずつ
変化していくようで
目が離せない
この感覚は
物理や数学の
難問を解くのに似ていて
触れるようで
触れない
辿り着けるようで
辿り着けない
もどかしさが
わたしを
じりじりと
焦らす
でも
きっと
ヒントを
いただいた
必要なのは
癒しと
時間と
リラックス

光が少なくなり
夏の間にたっぷり与えられた
外からの光と熱を
たくわえておいた
自分の内で
育てながら
使っていく
どんなに暑くても
どんなに寒くても
大雨でも
日照りでも
季節は
巡り巡って
流れ流れて
エネルギーをうむ
リンパ液のように
ゆっくりでも
澱まないで
循環していけば
悪いものは
たまらない
いまの
立場に
安穏としていても
自分が澱みでなければ
良いけれど
いまの
立場は
いつまであるかわからないから
おのずから
そうなるまえに
みずから
すすんで
巡っていくのも
また
一興

世界に美しい橋を架ける
七色に輝く
言霊にのせて
そこかしこで
待っている
存在の
背中に乗せて運び
風とともに
世界中のハートに届ける
希望と
愛を
伝え
情熱と
創造性を
呼び醒ます
この世界で
生きるには
厳しさも
苦しみも
避けてはとおれない
何もなければ
怠けるのが
わたしたちだから
何かないと
成長しないのが
わたしたちだから
でも
こんなにも
美しい
世界に生きることができ
喜びも
楽しみも
限りなくあり
心を開けば
受取ることができる
自由意志が
与えられているから
すべては
自分次第
その背後の
深い深い愛に
感謝して
共鳴する

キンモクセイが
10月8日に咲いて
かぐわしい
秋の香りで
世界を塗り替えた
そのあと
嵐が来たわけではなく
大雨にさらされたわけでもないのに
あっさりと花が
終わってしまった
別れを惜しむ間もなく
あっという間に去ってしまった
年に一度のお楽しみに
ちょっと肩透かしを食らったような
氣持ちでいたけれど
一週間ほどたって
何もないはずの
木から
再び香りがするようになった
返り咲きにしては
間隔が短すぎるし
不思議におもっていた
すると
あれよあれよという間に
実のようなものがたくさんつき
よく見たら
やっぱりそれは
キンモクセイの
小さなつぼみのようで
本当に
二度目の開花をするのだと知った
復活と再生を遂げた
二度目のキンモクセイは
一度目よりも多くの花を咲かせ
いまが満開
自然は
驚くほどの
賢さで
自分らしく
おのれを
表現する

わたしも
鋼鉄のように
いや
かたいかたい
黒檀のように
つやつやで
美しくもありながら
強くなります
そして
中身は
ルバーブジャムのように
鮮やかな赤で
酸っぱい
煮ても焼いても
食べられない
存在になります
どんな苦しみも
どんな逡巡も
決して
表にはあらわさない
先見の明を持ち
どんな経験も
どんな屈辱も
すべて
すべて
糧にする
どんな扱いも
どんな出会いも
すべて
意味があるから
真っ暗闇から
光を目指す
逃げるのではなく
戦うのでもなく
わたしはわたし
他の誰でもない
わたしはわたし
他の誰も
わたしを
規定することはできない


