2023年6月11日
43. 世界で最初の男性と女性って誰? (PART2)
皆さん、こんにちは
前回、「世界で最初の人間の男性と女性って誰?」というテーマで、旧約聖書に
登場した「アダムとイブ」について書きました。
今回は、もう一つ西洋文化発展の源になっているギリシャ神話に着目し、その中
で描かれている最初の人間の男女を見ていきます。
まず、ギリシャ神話の中で、人間界最初の女性は、前回名前だけ紹介した
「パンドラ」です。
私たちは、パンドラと聞くと、パンドラの箱(壺という説もあります)を開けて
しまって、人類に「不幸や嫉妬、疾病、犯罪や悲嘆、疑念などの厄災」をまき散ら
した女性としての印象が強い気がします。
でも、その箱の最後に、「希望=エルピス」が残ったと言われています。エル
ピスは古代ギリシャ語で、「予兆」とか「期待」という意味があるそうです。
人々は、困難や絶望に打ちひしがれても、絶望せず未来に希望を持ち、再び立ち
上がることが出来る」という意味です。
エルピスと聞いて、思い出す人も多いかも。そうです。昨年後半、目黒蓮君と
川口春奈さん主演の「Silent」が大人気となった頃、報道キャスターの世界を
舞台にした長澤まさみさん、眞栄田郷敦君主演の「エルピス」というドラマも
話題となりました。
数々の困難に立ち向かう主人公の前に立ちふさがる暗闇の先の僅かな曙光の
ような希望、すなわちエルピスをタイトルにしていました。
さて、ギリシャ神話に戻り、パンドラの物語を見てみます。そのためには、
ギリシャ神話の時間軸を遡る必要があります。
神(ゼウス)は、男性だけの人間を造りましたが、彼らは飢えや寒さに苦
しい生活を送っていました。同じく神であるプロメテウスは、その人間の姿を
あわれに思い、ゼウスのもつ天の火を盗み出し、それを人間に分け与えました。
それから人間は、火を使うことを覚え、急速に文明を発展させていきました。
以前、日経新聞が日本の科学や経済の発展のための特集記事を連載したとき、
タイトルに「プロメテウスの火」と謳っていたのを思い出します。
さて、大切な火を盗まれたと知り、怒り心頭のゼウスは、プロメテウスを
捕らえ、大岩に括り付け、更に、大鷲に内臓を食いちぎらせるという罰を与
えます。
しかし、プロメテウスも神であり、不死なので、食われた内臓もすぐ復元
するので、また食われるという苦しみが日々続きます。
(安心してください。後に関係は修復されます。)
そしてゼウスは、人間にも罰を与えるため、ヘパイストスに命じて、泥と
水をこねて、人間初の女性パンドラを造り、神々は彼女に様々な贈り物を与え
ます。
因みに、パンドラとは、パン(全ての意味)とドラ(贈り物)という言葉から
成り、「すべての贈り物」を意味する古代ギリシャ語です。
贈り物には、次のような豪華なものが並びました。
1. 女神アテナが、織機や女のすべき仕事の能力を与えます。
2. 女神アフロディテ(別名ヴィーナス)が、男性を惑わせる魅力を与えます。
3.更にヘルメス(フランスのエルメスの名前の由来)が嘘や狡猾さなどを
与えます。
そして、仕上げに、女神たちが、パンドラに華麗な衣装や装飾品で飾り
立てました。
このようにしてパンドラは、人間界に苦痛を与える存在として送り込まれま
した。「ファム・ファタール」(男性の運命を変えてしまう魔性の女性)第一号
とも言われます。
ファム・ファタールについては、また別に機会に取り上げてみたいと思います。
さて、そのパンドラは、ゼウスから決して開けてはならないと言われた箱を
持たされ、プロメテウスの弟である「エピメテウス」の下に届けられました。
エピメテウスは、パンドラを見て、その美しさにポーッとなって、すぐに心を
奪われてしまいます。彼は、兄のプロメテウスから、もしゼウスの贈り物があっ
ても、受け取るなと忠告されていたにも関わらず、パンドラに夢中になり、
結婚を申しこみ、そして二人は結ばれます。
ここから、ギリシャ神話での、人類初の男性として、「エピメテウス」の固有
名詞が残りました。
さて、一緒になった二人の生活が始まり、パンドラはある日、ゼウスから
託されていた箱を思い出し、好奇心に勝てず、開けてしまいます。そこからは、
上でお話した流れです。
どうも、旧約聖書で、イブが蛇に唆され、禁断の木の実を食べてしまう話と
展開が似ていますね。禁じられた命令や約束ごとを破ってしまう人間の性
(サガ)については、ギリシャ神話や聖書以外の他の文化にも見られ、日本の
神話や昔話にも必ず出てきますね。
このような逸話が、時代も場所も異なりながら、多く見られるということに
ついて、その偶然の類似性を心理学者ユングは、「普遍的無意識」と説明して
います。
パンドラは、一見悪女的な気質にも見えますが、ギリシャ神話では、もっと
おおらかに捉えられているようです。
二人の間に生まれた娘ピュラーは、後に結婚するデウリカーンと共に、
大洪水(旧約聖書では、ノアの箱舟の逸話か)を生き残り、後のギリシャ
文明の祖となる「へレーン」を設けたと記されています。
異なる2つの文化に描かれた人間最古の男性と女性の話を書きましたが、
その特色を対比の形で見てみたいと思います。
|
聖書(旧約・新約) |
ギリシャ神話 |
時期 |
・BC1~3世紀頃 |
・BC5~10世紀頃 |
位置づけ |
・神が預言者を通じ編纂 (人々の信仰を広める) |
・古代の神話を伝承 (文化、価値観の継承) |
特色 |
・宗教的(ユダヤ教、キリスト教)同右 |
・哲学的、心理学的 (文学、絵画、音楽に影響) |
口調 |
・戒律的 (人間を「原罪」から 救う目的) |
・自由奔放 (愛憎表現豊富であり、 自由のままに行動) |
神の存在 |
・一人 |
・多神(殆どが神) |
天使 |
・多数(神の補佐) |
・なし(キューピッド=神) |
初の男女 |
・アダム/イブ |
・エピメテウス/パンドラ |
禁を破る |
・禁断の木の実を食す |
・パンドラの箱を開ける |
大胆に要約した比較表ですが、特色の違いは伝わるのではと
思います。
今日の世界に繋がる、数千年の歴史を彩った文化の潮流の源と
なった2つの男女の物語に着目してみました。
今回も、お読みいただき、ありがとうございました。