一抹の寂しさを感じているのでした。
母親が映画好きで、ずいぶん影響を受けた。
大学生の頃は頻繁に映画館に行き、
年に60本以上観た事もあり、そうすると1日に2本以上は
見た事になり、それで観た映画の内容を記憶しているかと言うと
そういうことは滅多にない。言わば刹那的な時間でもある。
一日に3本も観ると、「映画評論家にだけはなりたくない」と
思うようになります。
今回はどういう切っ掛けだったかというと、銀座を歩いていたら、
「私の奴隷になりなさい」という映画のタイトルが、
見えたのであった。それでちょっと銀座の真ん中にしては
不似合いな刺激的なタイトルにひかれて、観ようかと言う気になった。
つまり、まんまと罠にはまったのである。
主演は、「あなたの職業は?」と聞かれたら、
「えっちなおねえさんです」とテレビで答えていた女優の檀ミツ
という女性である。いかにも大衆を小馬鹿にした芸名といい、
気怠そうな態度と素人感覚の、ということはそこら辺りに
ごろごろしていそうな、さほど美人でもない人工的な
「安っぽいエロチシズムがあふれる印象」
の女優さんが主演である。
それにしても「私の奴隷になりなさい」とは、
どういう意味なのか?
男性が女性に言っているのか?
それとも女性が男性に言っているのか?
あるいは男性が男性に言っているのか?
女性が女性に言っているのか?
中小企業の社長さんみたいな人が従業員に言っているのか?
ソフトバンクの孫正義みたいな人が消費者に言っているのか?
はたまた政治家が、有権者に言っているのか?
子供が遊びで言い合っているのか?
封建時代のまねごとをしているのか?
単に性的な遊びで、言い合っているのか?
つぎつぎと疑問が湧いてきて、どうにもならないタイトルである。
どうやらこれは角川書店が自社のベストセラー小説を映画化したようである。
つまり先に「私の奴隷になりなさい」という小説があって、
それが売れたので、低予算で映画化したと言ういきさつが
あるようだ。ま、いきさつがどうであれ、「私の奴隷になりなさい」
とはなにごとか。「俺の奴隷になれ」ではないので、
女性の発言ではないか、と観る前に思ったら、facebookで
やりとりしている大井さんが、男性の板尾ソウジという漫才師
みたいな男が檀ミツを性的に調教する映画だということであった。
つまり大井さんは「男性の板尾の発言だ」と映画を見ないで
決めていたようである。大井さんは下調べをネットでしたようである。
まさか現代社会を戯画的に風刺しているわけではないだろうな、
などと考えていると、むずむずしてくるのであった。
そういう明確な動機がなくとも、この手のピンク映画を
そろそろ観てもおかしくない年齢になったような気がしたので
勇気を振り絞って、行ってきました。
結果、皮相的に見れば、現代社会にありがちなソフトSM映画で、
出版社で働く華奢な若い男(真山明大)が近辺の若い女性とまるで馬のように
まぐわって行く中で、壇ミツにひかれ、調教的なエロス的世界に
はまり込んで行き、ついには檀ミツに
「私を本気で好きなら、私の奴隷になりなさい」という
ちょっと最後のどんでん返しが見事な三流映画という感じでした。
ところで映画を、日本を軸にした政治的風刺映画としてみれば、
面白く感じられます。
檀ミツが戦争に負けた日本で、板尾が戦争に勝ったアメリカ、
そして若い男が韓国か、カンボジアかベトナムか、
そういう風にみると、ちょっと面白いのであります。
多分、原作を書いたサタミシュウと言う人の思考は、
「虐げられた民族」というものがあって、
虐待される側は、本当に「虐げられたのか」という問題に
かかわりたかったのではないか。
あるいは「支配される側の快感はありえるのか」というような
テーマがひそんでいる感じです。つまり沖縄返還とはなんぞや、
という感じです。暴力が情欲の入り口にあり、そこを
通過せずにはなにごとも始まらない感じです。
というのは、SM調教物語としてはあまりにも貧弱であり、
関係性の物語としては、現実の方がもっと過激であり複雑で、
少しも性的興奮と結びついていかない程度なので、
監督の想像力の程度がわかるのであります。
ただ意外にも檀ミツの演技は、その素人感覚故に、
なかなか見応えがあった。これから期待される新人らしい。
余談だが、なによりも驚いたのは檀ミツが演じるのは「ささき・かな」という
名前で、それは僕の知り合いに同じ名前の女性がいることであった。
実在の同姓同名の女性を知っていると、映画は格段に
面白くなるものである。
もっと映画なのだから
「死に至るエロチシズム」があったらなあ、と思った。
観客の中には男女のカップルもいて、楽しそうに
感想を言いながら帰って行くのでした。
知り合いに聞くと昔は、ビデオもネットもなく、
そういう映画館は、中年男性で溢れかえっていたそうで、
平気で自慰行為をする男性もいたらしい。
おもしろかったので、ぜひみなさん、機会を見つけて、
三流映画も楽しみましょう。
僕はこういう映画を作っているスタッフを敬愛します。