入国管理局の職員が難民不認定処分に対する異議申立棄却決定を受けた被退去強制者を同決定告知の翌日に集団送還の方法により本国に強制送還する措置を講じたことが難民不認定処分について取消訴訟等の提起により司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものであって憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
国家賠償請求控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/令和2年(ネ)第1423号
【判決日付】 令和3年9月22日
【判示事項】 入国管理局の職員が難民不認定処分に対する異議申立棄却決定を受けた被退去強制者を同決定告知の翌日に集団送還の方法により本国に強制送還する措置を講じたことが難民不認定処分について取消訴訟等の提起により司法審査を受ける機会を実質的に奪ったものであって憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し,国家賠償法1条1項の適用上違法であるとされた事例
【参照条文】 国家賠償法1-1
憲法31
憲法32
出入国管理及び難民認定法61の2の6-3
出入国管理及び難民認定法61の2の9(平26法69号改正前)
行政事件訴訟法8-1
行政事件訴訟法46-1
【掲載誌】 判例タイムズ1502号55頁
憲法
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
国家賠償法
第一条1項 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
出入国管理及び難民認定法
(退去強制手続との関係)
第六十一条の二の六 第六十一条の二の二第一項又は第二項の許可を受けた外国人については、当該外国人が当該許可を受けた時に第二十四条各号のいずれかに該当していたことを理由としては、第五章に規定する退去強制の手続(第六十三条第一項の規定に基づく退去強制の手続を含む。以下この条において同じ。)を行わない。
2 第六十一条の二第一項の申請をした在留資格未取得外国人で第六十一条の二の四第一項の許可を受けたものについては、第二十四条各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当の理由がある場合であつても、当該許可に係る仮滞在期間が経過するまでの間は、第五章に規定する退去強制の手続を停止するものとする。
3 第六十一条の二第一項の申請をした在留資格未取得外国人で、第六十一条の二の四第一項の許可を受けていないもの又は当該許可に係る仮滞在期間が経過することとなつたもの(同条第五項第一号から第三号まで及び第五号に該当するものを除く。)について、第五章に規定する退去強制の手続を行う場合には、同条第五項第一号から第三号までに掲げるいずれかの事由に該当することとなるまでの間は、第五十二条第三項の規定による送還(同項ただし書の規定による引渡し及び第五十九条の規定による送還を含む。)を停止するものとする。
4 第五十条第一項の規定は、第二項に規定する者で第六十一条の二の四第五項第一号から第三号までのいずれかに該当することとなつたもの又は前項に規定する者に対する第五章に規定する退去強制の手続については、適用しない。
(審査請求)
第六十一条の二の九 次に掲げる処分又は不作為についての審査請求は、法務大臣に対し、法務省令で定める事項を記載した審査請求書を提出してしなければならない。
一 難民の認定をしない処分
二 第六十一条の二第一項の申請に係る不作為
三 第六十一条の二の七第一項の規定による難民の認定の取消し
2 前項第一号及び第三号に掲げる処分についての審査請求に関する行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)第十八条第一項本文の期間は、第六十一条の二第二項又は第六十一条の二の七第二項の通知を受けた日から七日とする。
3 法務大臣は、第一項の審査請求に対する裁決に当たつては、法務省令で定めるところにより、難民審査参与員の意見を聴かなければならない。
4 法務大臣は、第一項の審査請求について行政不服審査法第四十五条第一項若しくは第二項又は第四十九条第一項若しくは第二項の規定による裁決をする場合には、当該裁決に付する理由において、前項の難民審査参与員の意見の要旨を明らかにしなければならない。
5 難民審査参与員については、行政不服審査法第十一条第二項に規定する審理員とみなして、同法の規定を適用する。
6 第一項の審査請求については、行政不服審査法第九条第一項、第十四条、第十七条、第十九条、第二十九条、第四十一条第二項(第一号イに係る部分に限る。)、第二章第四節及び第五十条第二項の規定は適用しないものとし、同法の他の規定の適用については、次の表の上欄に掲げる同法の規定中同表の中欄に掲げる字句は、同表の下欄に掲げる字句とするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
行政事件訴訟法
(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)
第八条 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。
二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
3 第一項本文の場合において、当該処分につき審査請求がされているときは、裁判所は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。
(取消訴訟等の提起に関する事項の教示)
第四十六条 行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
一 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
二 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
三 法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨
2 行政庁は、法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある場合において、当該処分をするときは、当該処分の相手方に対し、法律にその定めがある旨を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
3 行政庁は、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものを提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない。ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない。
一 当該訴訟の被告とすべき者
二 当該訴訟の出訴期間
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,控訴人Aに対し,30万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人は,控訴人Bに対し,30万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを50分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人Aに対して,500万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,控訴人Bに対して,500万円及びこれに対する平成26年12月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
5 この判決は,第2項及び第3項につき仮に執行することができる。
第2 事案の概要等
1 事案の概要(以下,略称は,別途定めるほかは,原判決の例による。)
スリランカの国籍を有する控訴人らは,在留期間を超えて日本に残留し,いずれも難民不認定処分を受けた後に入管法24条4号ロ(不法残留)に該当することを理由とする退令発付処分を受け,その後,難民不認定処分に対する異議申立てを行ったところ,同異議申立棄却決定の告知を受けた翌日に退令の執行を受け,集団送還の方法によりスリランカに強制送還された。
本件は,控訴人らが,控訴人らに対する退令の執行は,控訴人らに難民不認定処分に対する取消訴訟等の提起について検討する時間的猶予を与えずに行ったもので,控訴人らの裁判を受ける権利を侵害したなどと主張して,被控訴人に対し,国賠法1条1項に基づき,控訴人1人当たり500万円の慰謝料及びこれに対する控訴人らが強制送還された日である平成26年12月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したところ,控訴人らがこれを不服として本件控訴をした。