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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

約款で暴力団員からの貯金の新規預入申込みを拒絶する旨定めている銀行の担当者に暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明,確約して口座開設等を申し込み,通帳等の交付を受けた行為が,詐欺罪に当たるとされた事例

 

 

              詐欺被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷決定/平成24年(あ)第1595号

【判決日付】      平成26年4月7日

【判示事項】      約款で暴力団員からの貯金の新規預入申込みを拒絶する旨定めている銀行の担当者に暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明,確約して口座開設等を申し込み,通帳等の交付を受けた行為が,詐欺罪に当たるとされた事例

【判決要旨】      暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明,確約して銀行の担当者に口座開設等を申し込み,通帳等の交付を受けた行為は,当該銀行において,政府指針を踏まえて暴力団員からの貯金の新規預入申込みを拒絶する旨の約款を定め,申込者に対し暴力団員でないことを確認していたなどの本件事実関係(判文参照)の下では,刑法246条1項の詐欺罪に当たる。

【参照条文】      刑法246-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集68巻4号715頁

 

 

刑法

(詐欺)

第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

 

自動車の所有者でない所有者登録名義人が自動車損害賠償保障法3条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者にあたるとされた事例

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和50年(オ)第294号

【判決日付】      昭和50年11月28日

【判示事項】      自動車の所有者でない所有者登録名義人が自動車損害賠償保障法3条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者にあたるとされた事例

【判決要旨】      父と同居して家業に従事する満20才の子が所有し父の居宅の庭に保管されている自動車につき、所有者登録名義人となつた父は、右自動車の運行について自動車損害賠償保障法3条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者にあたると解すべきである。

【参照条文】      自動車損害賠償保障法

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集29巻10号1818頁

 

 

自動車損害賠償保障法

(自動車損害賠償責任)

第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

 

債権者が,債務者の発した転勤命令は,業務上の必要性及び人選の合理性もない一方で,改正育休法26条にも反するなど無効であるとして,同命令に基づく就労義務がないとの仮の地位を定める仮処分命令を申し立てた事案

 

 

配転命令無効確認仮処分命令申立事件

【事件番号】      東京地方裁判所決定/平成14年(ヨ)第21112号

【判決日付】      平成14年12月27日

【判示事項】      債権者が,債務者の発した転勤命令は,業務上の必要性及び人選の合理性もない一方で,改正育休法26条にも反するなど無効であるとして,同命令に基づく就労義務がないとの仮の地位を定める仮処分命令を申し立てた事案について,本件転勤命令は,業務上の必要性を認めた上で,債権者に対し,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるという特段の事情が存するから,就業規則6条3項の「正当な理由」があり,本件転勤命令は,権利の濫用として無効であるとして,申立人の申立を認容した事例

【掲載誌】        労働判例861号69頁

 

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

(労働者の配置に関する配慮)

第二十六条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

 

刑法第156条(虚偽公文書作成罪)の法意

 

 

無印虚偽公文書作成等被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和31年(あ)第236号

【判決日付】      昭和33年5月30日

【判示事項】      刑法第156条の法意

【判決要旨】      刑法第156条は信用度の高い公文書の無形偽造を、私文書と異つて特に処罰することにしたものであつて、その保護法益は公文書の信用性に存し、行為者が公務員であるか否かによつてその保護に軽重を設けた規定ではない。

【参照条文】      刑法156

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集12巻8号1914頁

             最高裁判所裁判集刑事125号755頁

 

 

刑法

(詔書偽造等)

第百五十四条 行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。

2 御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も、前項と同様とする。

(公文書偽造等)

第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

2 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。

3 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

(虚偽公文書作成等)

第百五十六条 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。

 

融資を受けるため売買を仮装して不動産を他人名義にした場合と第三者に対する責任

 

 

              所有権移転登記抹消登記手続請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和44年(オ)第1009号

【判決日付】      昭和45年6月2日

【判示事項】      融資を受けるため売買を仮装して不動産を他人名義にした場合と第三者に対する責任

【判決要旨】      甲が、融資を受けるため、乙と通謀して、甲所有の不動産について売買がされていないのにかかわらず、売買を仮装して甲から乙に所有権移転登記手続をした場合において、乙がさらに丙に対し右融資のあつせん方を依頼して右不動産の登記手続に必要な登記済証、委任状、印鑑証明書等を預け、丙がこれらの書類により乙から丙への所有権移転登記を経由したときは、甲は、丙の所有権取得の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗できないと解すべきである。

【参照条文】      民法94-2

             民法110

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集24巻6号465頁

 

 

民法

(虚偽表示)

第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

 

(権限外の行為の表見代理)

第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

 

 

 

人身傷害保険の被保険者が保険事故により死亡した場合の保険金請求権の帰属

 

 

保険金請求控訴事件

【事件番号】      福岡高等裁判所判決/令和元年(ネ)第347号

【判決日付】      令和2年5月28日

【判示事項】      人身傷害保険の被保険者が保険事故により死亡した場合の保険金請求権の帰属

【判決要旨】      保険法施行後に締結された人身傷害補償保険契約の死亡保険金部分は、その約款に、①保険金請求権者を人身傷害事故によって損害を被った被保険者とすること、②被保険者が被保険車両の運行に起因する急激かつ外来の事故により身体に傷害を被ることによって被保険者が被る損害に対して、保険金を支払うこと、③保険者が支払うべき保険金の額は、約款所定の基準により算定される「損害額」および損害の一部とみなされる費用の合計額を限度額とし、上記「損害額」から保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額およびその損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者に既に支払われたものを差し引いた額とすること、④保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合は、保険者は、保険金請求権者に代位することなどの定めがあるという事実関係のもとにおいては、人身傷害損害保険契約(保険法2条7号)に該当し、死亡保険金請求権は、上記①の定めに「被保険者が死亡した場合は、その法定相続人とします」との注記があっても、被保険者に帰属する。

【参照条文】      保険法2

【掲載誌】        判例タイムズ1482号64頁

 

 

保険法

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 保険契約 保険契約、共済契約その他いかなる名称であるかを問わず、当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付(生命保険契約及び傷害疾病定額保険契約にあっては、金銭の支払に限る。以下「保険給付」という。)を行うことを約し、相手方がこれに対して当該一定の事由の発生の可能性に応じたものとして保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)を支払うことを約する契約をいう。

二 保険者 保険契約の当事者のうち、保険給付を行う義務を負う者をいう。

三 保険契約者 保険契約の当事者のうち、保険料を支払う義務を負う者をいう。

四 被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。

イ 損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者

ロ 生命保険契約 その者の生存又は死亡に関し保険者が保険給付を行うこととなる者

ハ 傷害疾病定額保険契約 その者の傷害又は疾病(以下「傷害疾病」という。)に基づき保険者が保険給付を行うこととなる者

五 保険金受取人 保険給付を受ける者として生命保険契約又は傷害疾病定額保険契約で定めるものをいう。

六 損害保険契約 保険契約のうち、保険者が一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約するものをいう。

七 傷害疾病損害保険契約 損害保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病によって生ずることのある損害(当該傷害疾病が生じた者が受けるものに限る。)をてん補することを約するものをいう。

八 生命保険契約 保険契約のうち、保険者が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約するもの(傷害疾病定額保険契約に該当するものを除く。)をいう。

九 傷害疾病定額保険契約 保険契約のうち、保険者が人の傷害疾病に基づき一定の保険給付を行うことを約するものをいう。

 

子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例

 

 

間接強制決定に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/令和3年(許)第17号

【判決日付】      令和4年11月30日

【判示事項】      子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断に違法があるとされた事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

民事執行法

(間接強制)

第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。

2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。

3 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。

4 第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。

5 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

6 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。

 

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

 

 

 

       主   文

 

 原決定を破棄し、原々決定に対する抗告を棄却する。

 抗告手続の総費用は相手方の負担とする。

 

       理   由

 

 抗告代理人阪本康文の抗告理由について

 1 本件は、抗告人が、その夫である相手方に対して両名の長男を抗告人に引き渡すよう命ずる審判を債務名義として、間接強制の方法による子の引渡しの強制執行の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。

 2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。

 (1) 抗告人と相手方は、平成24年に婚姻し、平成25年2月に長男を、平成27年10月に二男をもうけた(以下、上記の子らを併せて「本件子ら」という。)。

 (2) 相手方は、抗告人及び本件子らと同居していたが、令和2年8月、本件子らを連れて転居し、抗告人と別居した。

 (3) 和歌山家庭裁判所は、令和2年12月、抗告人の申立てに基づき、本件子らの監護者を抗告人と指定し、相手方に対して本件子らを抗告人に引き渡すよう命ずる審判(以下「本件審判」という。)をした。本件審判は、令和3年3月29日に確定した。

 (4) 抗告人は、令和3年4月5日、本件子らの引渡しを受けるため、相手方宅に赴き、二男についてはその引渡しを受けた。他方、長男については、抗告人及び相手方からの約2時間にわたる説得に応ずることなく、抗告人の下に行くと相手方と会えなくなると述べたり、長男を抱えようとした抗告人を強く押しのけたりするなどして、抗告人に引き渡されることを強く拒絶したため、抗告人は、その引渡しを受けることができなかった。

 (5) その後、相手方は、抗告人に対し、長男が抗告人を怖がっていることから長男の引渡しについて具体的な提案をすることができないとした上で、長男と二男を面会させる機会を設けることを提案した。抗告人は、これに応ずることとし、相手方との間で、令和3年5月30日に長男と二男を面会させることを合意した。

 相手方は、同日、長男を連れて上記の面会の待ち合わせ場所に赴いた。長男は、抗告人が上記待ち合わせ場所に来ることを知らされていなかったため、抗告人の姿を見て強く反発し、抗告人のことは全部嫌だなどと述べ、抗告人に抱かれることを拒否し、泣きながら相手方に対して相手方宅に帰ることを強く求めるなどした。

 (6) 抗告人は、令和3年6月9日、本件申立てをした。

 原々審は、同年7月13日、相手方に対し、長男を抗告人に引き渡すよう命ずるとともに、これを履行しないときは1日につき2万円の割合による金員を抗告人に支払うよう命ずる決定(原々決定)をした。

 相手方は、同月26日、原々決定に対し執行抗告をした。相手方は、抗告の理由として、長男が抗告人に引き渡されることを明確に拒絶する意思を表示していること等からすれば、本件申立ては、間接強制決定をするための要件を満たさず、又は権利の濫用に当たる旨主張した。

 3 原審は、要旨次のとおり判断して、原々決定を取り消し、本件申立てを却下した。

 長男は、令和3年4月5日及び同年5月30日の2回にわたり、抗告人に引き渡されることを明確に拒絶する意思を表示しており、この意思は、現在における長男の真意であると認めることができるから、現時点において、長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる相手方の行為を具体的に想定することは困難というべきである。そうすると、本件審判を債務名義とする間接強制決定により相手方に長男の引渡しを強制することは、過酷な執行として許されないというべきであり、このような決定を求める本件申立ては、権利の濫用に当たる。

 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 家庭裁判所の審判により子の引渡しを命ぜられた者は、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ、合理的に必要と考えられる行為を行って、子の引渡しを実現しなければならないものであり、このことは、子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。したがって、子の引渡しを命ずる審判がされた場合、当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは、直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないと解される(最高裁平成30年(許)第13号同31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁参照)。

 そうすると、長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する意思を表明したことは、直ちに本件申立てに基づいて間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではなく、本件において、ほかにこれを妨げる理由となる事情は見当たらない。原審は、上記意思が現在における長男の真意であると認められ、長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる相手方の行為を具体的に想定することが困難であるとして、本件申立てが権利の濫用に当たるというが、本件審判の確定から約2か月の間に2回にわたり長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまる本件の事実関係の下においては、そのようにいうことはできない。したがって、本件申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

 5 以上のとおり、原審の上記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、本件申立てが間接強制決定をするための要件を満たさない旨の相手方の上記主張に理由がないことも明らかであり、本件申立てに基づき間接強制決定をすべきものとした原々審の判断は正当であるから、原々決定に対する相手方の抗告を棄却することとする。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官宇賀克也の補足意見がある。

 裁判官宇賀克也の補足意見は、次のとおりである。

 私は、原決定には共感できる部分があるものの、本件申立てが権利の濫用に当たるとまでいうことには躊躇せざるを得ないと考えるものであり、その理由について意見を述べておきたい。

 1 記録によれば、本件において、相手方が長男の抗告人への引渡しに協力する姿勢が見られ、相手方が長男に対して抗告人への引渡しを拒否するよう殊更に働きかけている様子もうかがわれない。他方で、長男の言動に照らすと、長男は抗告人に引き渡されることを明確に拒絶する意思を表示していることは、原決定の認定するとおりである。

 2 子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てを権利の濫用に当たるとして却下した最高裁平成30年(許)第13号同31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁と本件との間には、前者では、①間接強制の申立てに先立って引渡執行が行われた際、子が母に引き渡されることを拒絶し執行不能となったこと、②母が父を拘束者としてした人身保護請求の審問期日において、子が母に引き渡されることを拒絶する意思を明確に示し、請求が棄却されたことという事情があり、公的機関により、子の拒絶意思の明確性が確認されていたのに対し、本件では、そのような事情はないという相違がある。しかし、引渡執行の申立ても人身保護請求も監護権を有する債権者のイニシアティブで行われるものであり、債務者のイニシアティブで行うことはできないことに照らせば、公的機関により子の拒絶意思の明確性が確認されていることが間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとされるための条件となるわけではないと考えられる。

 他方、民事執行法が、効率的かつ迅速な手続運営を図るため、裁判機関(権利確定機関)と執行機関(権利実現機関)を分離し、執行機関は原則として請求権の存在等の実体法上の問題については審査せずに執行を行い、実体法上の問題については、請求異議の訴えにより審理する仕組みを設けていること、そのため、間接強制手続においては子の意見聴取や家庭裁判所調査官の調査は予定されていないことに照らすと、間接強制の申立てが権利の濫用となるためには、債務者として引渡しのためにできる限りの努力を行うことは必要であると考えられる。

 3 本件においては、相手方には、長男の抗告人への引渡しに協力する姿勢が見られるものの、長男の抗告人に対する強固な忌避感情を取り除く努力が十分であったとまではいえないと思われる。そして、かかる努力を行っても、長男の抗告人に対する強い忌避感情を和らげることが期待できないと判断したときは、相手方は、長男の監護者の変更の申立てを行うことや間接強制決定自体を債務名義とする執行力の排除を求めて請求異議の訴えを提起することができる。したがって、本件で直ちに間接強制決定が権利の濫用に当たるということには躊躇せざるを得ず、今後、上記のような努力がされることが望まれるところである。

左舷側外板亀裂による浸水沈没事故が生じた船舶について発航の当時公的検査に合格し船体外板が船級協会の規則を満たす板厚を有していたとしても国際海上物品運送法五条一項一号の堪航能力保持につき注意義務が尽くされたとは認められないとされた事例

 

 

損害賠償等請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成9年(ネ)第4599号

【判決日付】      平成12年9月14日

【判示事項】      一 左舷側外板亀裂による浸水沈没事故が生じた船舶について発航の当時公的検査に合格し船体外板が船級協会の規則を満たす板厚を有していたとしても国際海上物品運送法五条一項一号の堪航能力保持につき注意義務が尽くされたとは認められないとされた事例

             二 運送契約により運送品である丸太を陸揚港の岸壁に陸揚げして引き渡すことが約定されている場合における海没した丸太の引き揚げ費用と商法五八〇条二項の適用

【判決要旨】      1 丸太を運搬して航海中の船舶が左舷側外板亀裂による浸水沈没事故を生じた場合において、右船舶が錆が生じ腐食しやすい丸太運搬船で、外板に溝状腐食が生じやすいものであって、事故の1か月前に右舷側外板に亀裂浸水事故を惹起しているなど判示の事実関係のもとにおいては、右船舶が公的検査に合格しており、発航の当時、亀裂を生じた部分の船体外板が船級協会の規則の定める最大衰耗率の範囲内の衰耗しか認められなかったとしても、国際海上物品運送法5条1項1号の堪航能力の保持につき注意が尽くされたとは認められない。

             2 運送契約により運送品である丸太を陸揚港の岸壁に陸揚げして引き渡すことが約定されている場合における、丸太の引渡前に発生した船舶の浸水沈没事故により海中に没した丸太を右岸壁に引き揚げる費用については、商法580条2項の適用はない。

【参照条文】      国際海上物品運送法5-1

             国際海上物品運送法5-2

             国際海上物品運送法(平成4年法律第69号による改正前のもの)20-2

             商法580-2

             民法416

【掲載誌】        高等裁判所民事判例集53巻2号124頁

 

 

国際海上物品運送法

(航海に堪える能力に関する注意義務)

第五条 運送人は、発航の当時次に掲げる事項を欠いたことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責任を負う。ただし、運送人が自己及びその使用する者がその当時当該事項について注意を怠らなかつたことを証明したときは、この限りでない。

一 船舶を航海に堪える状態に置くこと。

二 船員の乗組み、船舶の艤ぎ装及び需品の補給を適切に行うこと。

三 船倉、冷蔵室その他運送品を積み込む場所を運送品の受入れ、運送及び保存に適する状態に置くこと。

 

 

商法

(荷送人による運送の中止等の請求)

第五百八十条 荷送人は、運送人に対し、運送の中止、荷受人の変更その他の処分を請求することができる。この場合において、運送人は、既にした運送の割合に応じた運送賃、付随の費用、立替金及びその処分によって生じた費用の弁済を請求することができる。

 

 

民法

(損害賠償の範囲)

第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

 

刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為の意義

 

 

保護責任者遺棄致死(予備的訴因重過失致死)被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/平成28年(あ)第1549号

【判決日付】      平成30年3月19日

【判示事項】      1 刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為の意義

             2 子に対する保護責任者遺棄致死被告事件について,被告人の故意を認めず無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決に,刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例

             3 裁判員の参加する合議体で審理された保護責任者遺棄致死被告事件について,訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すべき義務がないとされた事例

【判決要旨】      1 刑法218条の不保護による保護責任者遺棄罪の実行行為は,老年者,幼年者,身体障害者又は病者につきその生存のために特定の保護行為を必要とする状況(要保護状況)が存在することを前提として,その者の生存に必要な保護行為として行うことが刑法上期待される特定の行為をしなかったことを意味する。

             2 低栄養に基づく衰弱により死亡した被告人の子(当時3歳)に対する保護責任者遺棄致死被告事件について,被告人において,乳児重症型先天性ミオパチーにり患している等の子の特性に鑑みると,子が一定の保護行為を必要とする状態にあることを認識していたとするには合理的疑いがあるとして被告人を無罪とした第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,第1審判決の評価が不合理であるとする説得的な論拠を示しているとはいい難く,第1審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまっていて,第1審判決が論理則,経験則等に照らして不合理であることを十分に示したものとはいえず(判文参照),刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があり,同法411条1号により破棄を免れない。

             3 保護責任者遺棄致死罪として起訴されて公判前整理手続に付され,検察官が,公判前整理手続期日において,公判審理の進行によっては過失致死罪又は重過失致死罪の訴因を追加する可能性があると釈明をするなどした後,裁判員の参加する合議体により審理が行われ,第1審裁判所の裁判長が,証拠調べ終了後の公判期日において,検察官に対して訴因変更の予定の有無につき釈明を求めたところ,検察官がその予定はない旨答えたなどの訴訟経緯,本件事案の性質・内容等(判文参照)に照らすと,第1審裁判所としては,検察官に対して,上記のような求釈明によって事実上訴因変更を促したことによりその訴訟法上の義務を尽くしたものというべきであり,更に進んで,検察官に対し,訴因変更を命じ又はこれを積極的に促すべき義務を有するものではない。

【参照条文】      刑法218

             刑法219

             刑事訴訟法382

             刑事訴訟法411

             刑事訴訟法312

             刑事訴訟規則208

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集72巻1号1頁

 

 

刑法

(保護責任者遺棄等)

第二百十八条 老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三月以上五年以下の懲役に処する。

(遺棄等致死傷)

第二百十九条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 

 

刑事訴訟法

第三百八十二条 事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

 

第四百十三条 前条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し、又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、上告裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

 

第三百十二条 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。

② 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。

③ 裁判所は、訴因又は罰条の追加、撤回又は変更があつたときは、速やかに追加、撤回又は変更された部分を被告人に通知しなければならない。

④ 裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。

 

 

『官邸官僚が本音で語る権力の使い方 (新潮新書)』 新書 – 2023/3/17

兼原 信克 (著), 佐々木 豊成 (著), 曽我 豪 (著), 髙見澤 將林 (著)

 

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総理大臣には働いてもらわなければならない。それも最初から、全力で。しかし、巨大タンカーのごとき日本政府を操るにはコツが必要だ。政治家の意思で、霞が関は動かせるのか。そして「本物の有事」に直面した時、政治は自衛隊などの実力部隊をコントロールできるのか。歴代最長の安倍政権で内政・外政・危機管理の各実務トップを務めた官邸官僚が参集し、適切な権力行使のための「官邸のトリセツ」を公開する。

 

 

著者について

兼原 信克  同志社大学特別客員教授。元内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長。

 

佐々木 豊成 元内閣官房副長官補(内政担当)、TPP政府対策本部国内調整統括官。

 

曽我 豪 朝日新聞政治部編集委員(元朝日新聞政治部長)。

 

髙見澤 將林 東京大学公共政策大学院客員教授。元内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)、国家安全保障局次長。

 

 

出版社 ‏ : ‎ 新潮社 (2023/3/17)

発売日 ‏ : ‎ 2023/3/17

新書 ‏ : ‎ 272ページ

 

 

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安倍元総理大臣のやり残した政策が、よくわかる本です。