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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断と患者が適切な診療行為を受けていたとした場合の生存可能期間の認定

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成8年(オ)第2043号

【判決日付】      平成11年2月25日

【判示事項】      一 医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断と患者が適切な診療行為を受けていたとした場合の生存可能期間の認定

             二 医師が肝硬変の患者につき肝細胞がんを早期に発見するための検査を実施しなかった注意義務違反と患者の右がんによる死亡との間の因果関係を否定した原審の判断に違法があるとされた事例

【判決要旨】      一 医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係は、医師が右診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度のがい然性が証明されれば肯定され、患者が右診療行為を受けていたならば生存し得たであろう期間を認定するのが困難であることをもって、直ちには否定されない。

             二 肝硬変の患者が後に発生した肝細胞がんにより死亡した場合において、医師が、右患者につき当時の医療水準に応じた注意義務に従って肝細胞がんを早期に発見すべく適切な検査を行っていたならば、遅くとも死亡の約6箇月前の時点で外科的切除術の実施も可能な程度の大きさの肝細胞がんを発見し得たと見られ、右治療法が実施されていたならば長期にわたる延命につながる可能性が高く、他の治療法が実施されていたとしてもやはり延命は可能であったと見られるとしながら、仮に適切な診療行為が行われていたとしてもどの程度の延命が期待できたかは確認できないとして、医師の検査に関する注意義務違反と患者の死亡との間の因果関係を否定した原審の判断には、違法がある。

【参照条文】      民法416

             民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集53巻2号235頁

 

 

民法

(損害賠償の範囲)

第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

 

第3章 消滅時効の見直し

第1節 要約

-重要な実質改正事項-

約120年間の社会経済の変化への対応(実質的なルールの改正)

① 職業別の短期消滅時効の見直し

時効期間と起算点の見直し(シンプルに統一化)

② 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を長期化する特則の新設

不法行為債権に関する長期20年の期間制限を除斥期間とする解釈(判例)の見直し

③ その他、時効の完成を阻止するための手段(時効の中断・停止)の見直しなど

 

消滅時効に関する見直し

「消滅時効」とは、法律的な権利を持つものが一定期間のうちにその権利を行使しないことによってその権利が消滅する制度をいいます。

対義語として、取得時効があります。

(意義)

・ 長期間の経過により証拠が散逸し、自己に有利な事実関係の証明が困難となった者を救済し、法律関係の安定を図る。

・ 権利の上に眠る者は保護しない。

検討課題

〈例〉

債権者Aは、平成27年4月1日、債務者Bに対して、平成10年に貸した1000万円の返済を求めた。

債務者Bは、平成15年頃までに1000万円を分割返済したことから、その領収証等を捨ててしまっている。

 

第2節 職業別短期消滅時効の廃止

職業別短期消滅時効の廃止の必要性

・ 職業別の短期消滅時効(旧法§ 170~174)は、 ある債権にどの時効期間が適用されるのか、 複雑で分かりにくい

・ 1~3年という区別も合理性に乏しい

(母法国のフランスでも2008年に廃止)

2 時効期間の統一化に当たって

・ 時効期間の大幅な長期化を避ける必要

・ 単純な短期化では、権利を行使できることを全く知らないまま時効期間が経過してしまうおそれ

旧法

職業別の短期消滅時効の例

債権の種類 時効期間

医師の診療報酬 3年

弁護士の報酬 2年

飲食代金 1年

動産のレンタル代金 1年

商取引債権 5年

改正法

原則 5年

 

改正法

①    時効期間と起算点に関する見直し

②    シンプルに統一化

問題の所在

改正法の内容

・ 職業別の短期消滅時効はすべて廃止

・ 商事時効(5年)も廃止

・ 権利を行使することができる時から10年という時効期間は維持しつつ、権利を行使することができることを知った時から5年という時効期間を追加【新§166】いずれか早い方の経過によって時効完成

(参考)

異なる起算点からの短期と長期の時効期間を組み合わせる法制は、仏(5年・20年)、独(3年・10年)など多く見られる。

①    時効期間と起算点に関する見直し

 

【参照条文】

改正民法166条(債権等の消滅時効)

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

2 債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

 

②    権利を行使することができることを知った時と権利を行使することができる時とが基本的に同一時点であるケース

〈例〉 売買代金債権、飲食料債権、宿泊料債権など契約上の債権

権利を行使することができる時

(支払期限到来時)

権利を行使することができることを知った時と権利を行使することができる時とが異なるケース

〈例〉 消費者ローンの過払金(不当利得)返還請求権

(過払金:利息制限法所定の制限利率を超えて利息を支払った結果過払いとなった金銭)

権利を行使することができることを知った時

(支払期限到来時)

(知った時から5年)

権利を行使することができる時

(取引終了時)

過払いであることを知った時

(知った時から5年)

時効期間満了

(知った時から5年)

(権利を行使することができる時から10年)

権利を行使することができる時

(取引終了時)

過払いであることを知った時

時効期間満了

(取引終了時から10年)

(権利を行使することができる時から10年)

(知った時から5年)

ケース①(知った時から5年で時効が完成する場合)

ケース②(権利を行使することができる時から10年で時効が完成する場合)

時効期間満了

(知った時から5年)

(権利を行使することができる時から10年)

旧法(期間制限)

起算点 期間

債務不履行に基づく損害賠償請求権

権利を行使することができる時から 10年

不法行為に基づく損害賠償請求権

知った時から 3年

不法行為の時から 20年

 

第3節 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則

生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則

不法行為債権に関する長期20年の期間制限の解釈の見直し

問題の所在①(生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間)

・ 生命・身体は重要な法益であり、 これに関する債権は保護の必要性が高い。

・ 治療が長期間にわたるなどの事情により、被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合がある。

問題の所在②(不法行為債権に関する長期20年の期間制限の意味)

・ 除斥期間と解釈すると、不都合な結論に至ることがあり得る。

〈例〉 加害者は、被害者を殺害し、自宅の床下に埋めて死体を隠した。

しかし、被害者の相続人は被害者の死亡を知らず、相続人が確定しないまま20年が経過した。

判例(最判平成21年4月28日)は、この事案については、旧法160条の法意に照らし、被害者の死亡を相続人が知ることができない間は相続人が確定せず、確定後6か月間は除斥期間により権利は消滅しないとした。

→ 当該事案は救済されたが、類似の事案で救済が可能か。そもそも時効が進行し、確定後6か月以内に訴訟提起等が必要になるのも酷ではないか。権利濫用等の主張を許すべきではないか。

損害賠償請求権・・・

不法行為により生じる(①~③)ほか、債務不履行によっても生じる(②・③)。

〈例〉① 交通事故により死亡した(後遺障害が残った)場合の加害者に対する損害賠償請求権

② 炭鉱で安全配慮が不十分な粉じん作業に従事し、じん肺に罹患した労働者の雇用主に対する損害賠償請求権

③ 医師のミスにより患者が死亡した(後遺障害が残った)場合の医療機関・医師に対する損害賠償請求権

20年の期間につき、判例は「除斥期間」と解釈

除斥期間とは、期間の経過により当然に権利が消滅するもの。

時効期間と異なり原則として中断や停止が認められない。

当事者の援用も不要で、除斥期間の主張は権利濫用等に当たる余地がない(最判平成元年12月21日)。

 

【参照条文(旧法)】

(相続財産に関する時効の停止)

第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時または

破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

 

改正法の内容①

(生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間)

・人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間について長期化する特則を新設。【新§167、724条の2】

「知った時から5年」(不法行為につき3年から5年に長期化)

「知らなくても20年」(債務不履行につき10年から20年に長期化)

改正法

起算点 時効期間

①債務不履行に基づく損害賠償請求権

権利を行使することができることを知った時から5年

権利を行使することができる時から 10年

②不法行為に基づく損害賠償請求権

損害および加害者を知った時から 3年

不法行為の時から(=権利を行使することができる時から)20年

①・②の特則

生命・身体の侵害による損害賠償請求権

知った時から 5年

権利を行使することができる時から 20年

改正法の内容②

(不法行為債権に関する長期20年の期間制限の意味)

・不法行為債権全般について、不法行為債権に関する長期20年の制限期間が時効期間であることを明記。【新§724】

 

②生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則

不法行為債権に関する長期20年の期間制限の解釈の見直し

 

【参考条文】

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき。

二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

 

(人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第724条の2 人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

 

(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

第167条

人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。

 

第4節 時効の中断・停止の見直し

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

法定の中断事由があったときに、それまでに経過した時効期間がリセットされ、改めてゼロから起算されること。

その事由が終了した時から新たな時効期間が進行する。

承認

(A) 承認の場合【旧法§147③】

〈例〉債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸している。Aが返還を請求したところ、Bは、債務の存在を前提に100万円の一部弁済をした。

(一部弁済) 起算点

時効期間満了

新たに時効が進行(ゼロから起算)

(B) 裁判上の請求の場合【旧法§147①、149】

〈例〉債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸しているが、全く返済してもらえない。AはBに対して1000万円の支払を求めて訴えを提起した。

中断

起算点→ 訴え提起→ 裁判確定

時効の完成が猶予※

中断 新たに時効が進行(ゼロから起算)

※時効の中断とは、時効期間が形式的に経過しても時効が完成したことにならない。

〈例〉 債務者Bが債権者Aに対して債務を「承認」すれば、経過した時効期間がリセットされ、直ちに新たな時効期間が進行する。

債権者Aによる裁判上の請求(訴えの提起など)等があれば、時効期間がリセットされ、裁判の確定等により新たな時効期間が進行する。

 

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

例えば、債権者Aが債務者Bに対して内容証明郵便等により裁判外で貸付金1000万円の返済を請求した(=催告)場合、時効は中断するが、その後6か月以内にAが訴えの提起等の法的手段をとらなければ、時効中断の効力が生じないことになる。

〈例〉 債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸しているが、貸付けから9年8か月後にBに対して1000万円の支払を求めて訴えを提起した。訴え提起から3か月後、Aは訴えを取り下げることにしたが、訴え取下げ後3か月して、Aは、再度訴えを提起した。

訴え提起があると時効は中断するが、条文上は、訴えの取下げがあると遡って中断しなかったことになる(旧法§ 149)。

もっとも、判例は、訴えが取り下げられた場合でも、それまでの間は催告が継続していたと認め、取下げから6か月については時効の完成が猶予されているものとして扱っている。

 

③    時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

時効の停止とは、時効が完成する際に、権利者が時効の中断をすることに障害がある場合に、その障害が消滅した後一定期間が経過するまでの間時効の完成を猶予するもの。

〈例〉 夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻解消から6か月を経過するまで。

債権者または債務者が死亡し、相続人に相続された権利義務については、相続人が確定した時から6か月を経過するまで。

(A) 夫婦間の権利の場合【旧法§159】

被相続人の死亡

※ 相続の場合、相続の開始があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所において相続の放棄の手続がされると相続人とならなかったことになる。そのため、相続の承認がされない場合には、この期間が経過し、放棄がないことが確認されないと相続人は確定しない。

(B) 相続財産の場合【旧法§160】

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

「中断」の制度が複雑(技巧的)で分かりにくいのではないか。

→ 中断の効果としては「完成の猶予」と「新たな時効の進行(時効期間のリセット)」の2つがあるが、それぞれの効果の内容も発生時期も異なることから、新たに2つの概念を用いて分かりやすく整理すべきではないか。

→ 停止についても、中断の見直しと併せて整理をすべきではないか。

裁判上の催告に関する判例法理を明文化すべきではないか。

・ 承認 更新事由【新§152】

・ 裁判上の請求など 完成猶予事由+更新事由【新§147等】

・ 催告など 完成猶予事由【新§150等】

改正法の内容

○ 多岐にわたる中断事由について、各中断事由ごとにその効果に応じて、「時効の完成を猶予する部分」は完成猶予事由と、「新たな時効の進行(時効期間のリセット)の部分」は更新事由と振り分ける。

問題の所在

○ 停止事由については、「完成猶予」事由とする。【新§158~161】

 

③時効の中断・停止の見直し-中断・停止概念の整理-

 

③時効の中断・停止の見直し-停止に関する実質的な見直し-

天災等による「停止」の期間が短すぎるのではないか(←障害が消滅してから2週間)【旧法§161】

天災等による時効の完成猶予の期間(障害が消滅した後の猶予期間)を伸長する(旧法の2週間から3か月へ)。

【新§161】

当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が書面または電磁的記録によってされた場合には、時効の完成が猶予されることとする (新たな完成猶予事由とする。)。【新§151】

改正法の内容

問題の所在①(天災等による完成猶予期間の伸長)

天災による権利行使の障害の発生

権利を行使することができる時

時効期間満了

(10年)

時効の完成が猶予(旧法)

旧法

2週間

 

天災による権利行使の障害の消滅

時効の完成猶予(改正法)

改正法

3か月

裁判上の請求等ができない状態

当事者が裁判所を介さずに紛争の解決に向けて協議をし、解決策を模索している場合にも、時効完成の間際になれば、時効の完成を阻止するため、訴訟を提起しなければならない。

→ 紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうものであり、新たな完成猶予事由を設けるべきではないか。

問題の所在②(協議による時効完成の猶予)

 

なお、改正前民法のときに発生した債権が改正法にまたがる場合の消滅時効期間の考え方ですが、これはシンプルに債権の発生した時点(契約がされたとき)が改正法施行日(2020年4月1日)より前か後かで改正法の適用の可否が決まります。

 

例えば、2019年中に請負契約を締結していた工事が、2020年4月1日以降に完成し、当該工事に関する債権が発生したような場合には、請負契約自体は改正法施行日前に締結されていたため、改正前の時効期間が適用されることになります。

 

 

 

 

約束手形の振出の偽造者の悪意の取得者に対する責任

 

 

              抵当権設定登記等抹消登記手続請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和55年(オ)第375号

【判決日付】      昭和55年9月5日

【判示事項】      約束手形の振出の偽造者の悪意の取得者に対する責任

【判決要旨】      約束手形の振出の偽造者は、悪意の取得者に対しては手形上の責任を負わない。

【参照条文】      手形法

             手形法77-2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集34巻5号667頁

 

 

手形法

第八条 代理権ヲ有セザル者ガ代理人トシテ為替手形ニ署名シタルトキハ自ラ其ノ手形ニ因リ義務ヲ負フ其ノ者ガ支払ヲ為シタルトキハ本人ト同一ノ権利ヲ有ス権限ヲ超エタル代理人ニ付亦同ジ

 

第七十五条 約束手形ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ

一 証券ノ文言中ニ其ノ証券ノ作成ニ用フル語ヲ以テ記載スル約束手形ナルコトヲ示ス文字

二 一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル約束

三 満期ノ表示

四 支払ヲ為スベキ地ノ表示

五 支払ヲ受ケ又ハ之ヲ受クル者ヲ指図スル者ノ名称

六 手形ヲ振出ス日及地ノ表示

七 手形ヲ振出ス者(振出人)ノ署名

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人林千衛の上告理由一について

 原判決理由の説示に照らし、原判決に所論判断遺脱の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。

 同二について

 偽造手形を振り出した者は、手形法八条の類推適用により手形上の責任を負うべきものであることは、当裁判所の判例とするところであるが(最高裁昭和四三年(オ)第九四二号同四九年六月二八日第二小法廷判決・民集二八巻五号六五五頁)、その趣旨は、善意の手形所持人を保護し、取引の安全に資するためにほかならないものであるから、手形が偽造されたものであることを知つてこれを取得した所持人に対しては、手形法八条の規定を類推適用する余地なく、手形偽造者は、右所持人に対して手形上の責任を負わないものと解するのが相当である。

 これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、被上告人は、Aに無断でみずから同人の印章を押捺しあるいは他人をして押捺せしめて所論の約束手形を振り出したものであるが、上告人は、被上告人がAに無断で右約束手形を振り出すことを知つてこれを取得したというのであるから、右事実関係のもとで、被上告人が上告人に対して右約束手形につき手形上の責任を負うべきいわれはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和三二年(オ)第九二六号同三三年三月二〇日第一小法廷判決・民集一二巻四号五八三頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

 同三について

 本件記録に現われた訴訟の経過に照らせば、原審に所論審理不尽の違法はなく、論旨は、採用することができない。

 同四について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第二小法廷

軽犯罪法1条15号にいう官職の詐称にあたるとされた事例

もと判事補ニセ電話事件

 

 

軽犯罪法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/昭和55年(あ)第490号

【判決日付】      昭和56年11月20日

【判示事項】      1、軽犯罪法1条15号にいう官職の詐称にあたるとされた事例

             2、対話の一方が相手方の同意を得ないで会話等を録音することが違法でないとされた事例

【判決要旨】      1、検事総長でない者が自己を検事総長である特定の人物としてその官職名とともに名乗る所為は、軽犯罪法1条15号にいう官職の詐称にあたる。

             2、新聞記者において、取材の結果を正確に記録しておくため、対話の相手方が新聞紙による報道を目的として同記者に聞かせた録音テープの再生音と同テープに関して右相手方と交わした会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであつても、違法ではない。

【参照条文】      軽犯罪法1

             刑事訴訟法2編第3章第2節

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集35巻8号797頁

 

 

軽犯罪法

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

一 人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者

二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

三 正当な理由がなくて合かぎ、のみ、ガラス切りその他他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

四 生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの

五 公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者

六 正当な理由がなくて他人の標灯又は街路その他公衆の通行し、若しくは集合する場所に設けられた灯火を消した者

七 みだりに船又はいかだを水路に放置し、その他水路の交通を妨げるような行為をした者

八 風水害、地震、火事、交通事故、犯罪の発生その他の変事に際し、正当な理由がなく、現場に出入するについて公務員若しくはこれを援助する者の指示に従うことを拒み、又は公務員から援助を求められたのにかかわらずこれに応じなかつた者

九 相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者

十 相当の注意をしないで、銃砲又は火薬類、ボイラーその他の爆発する物を使用し、又はもてあそんだ者

十一 相当の注意をしないで、他人の身体又は物件に害を及ぼす虞のある場所に物を投げ、注ぎ、又は発射した者

十二 人畜に害を加える性癖のあることの明らかな犬その他の鳥獣類を正当な理由がなくて解放し、又はその監守を怠つてこれを逃がした者

十三 公共の場所において多数の人に対して著しく粗野若しくは乱暴な言動で迷惑をかけ、又は威勢を示して汽車、電車、乗合自動車、船舶その他の公共の乗物、演劇その他の催し若しくは割当物資の配給を待ち、若しくはこれらの乗物若しくは催しの切符を買い、若しくは割当物資の配給に関する証票を得るため待つている公衆の列に割り込み、若しくはその列を乱した者

十四 公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者

十五 官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者

十六 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者

十七 質入又は古物の売買若しくは交換に関する帳簿に、法令により記載すべき氏名、住居、職業その他の事項につき虚偽の申立をして不実の記載をさせた者

十八 自己の占有する場所内に、老幼、不具若しくは傷病のため扶助を必要とする者又は人の死体若しくは死胎のあることを知りながら、速やかにこれを公務員に申し出なかつた者

十九 正当な理由がなくて変死体又は死胎の現場を変えた者

二十 公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者

二十一 削除

二十二 こじきをし、又はこじきをさせた者

二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

二十四 公私の儀式に対して悪戯などでこれを妨害した者

二十五 川、みぞその他の水路の流通を妨げるような行為をした者

二十六 街路又は公園その他公衆の集合する場所で、たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者

二十七 公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物又は廃物を棄てた者

二十八 他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者

二十九 他人の身体に対して害を加えることを共謀した者の誰かがその共謀に係る行為の予備行為をした場合における共謀者

三十 人畜に対して犬その他の動物をけしかけ、又は馬若しくは牛を驚かせて逃げ走らせた者

三十一 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

三十二 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者

三十三 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者

三十四 公衆に対して物を販売し、若しくは頒布し、又は役務を提供するにあたり、人を欺き、又は誤解させるような事実を挙げて広告をした者

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 被告人本人の上告趣意第二について

 所論は憲法三七条一項違反をいうが、原審において不公平な裁判をするおそれがあることを理由として裁判官の忌避を申し立てることができたのにこれをしなかつた場合には、同じ理由により上訴審において当該裁判官に回避の事由があつたと主張することは許されないと解すべきであるから、所論は「当審において主張することの許されない事項に関する違憲の主張であり、適法な上告理由にあたらない(なお、記録を調査しても、原審裁判長に不公平な裁判をするおそれがあつたことをうかがわせる事情は認められない。)。

 被告人本人の上告趣意第三及び弁護人近藤良紹の上告趣意第三点について

 所論は、憲法三一条違反をいう点を含め、すべてその実質は軽犯罪法一条一五号、四条の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であり、適法な上告理由にあたらない。

 所論にかんがみ職権をもつて判断するに、軽犯罪法一条一五号にいう官職の詐称には、自己の同一性については正しく表示しながら単に官職のみを潜称する場合のみならず、当該官職にある特定の人物をその官職名とともに名乗る場合も含まれると解すべきである。本件のいわゆる偽電話テープに現われた被告人の言辞を総合すれば、被告人は自己を検事総長の布施であると称したことが認められるから、被告人が検事総長の官職を詐称したものとして同号の罪の成立を認めた原審の判断は、相当である。

 被告人本人の上告趣意第四及び弁護人近藤良紹の上告趣意第一点について

 所論は憲法三七条違反をいうが、第一審が被告人の弁護人選任権の行使を妨げたとは認められないとした原審の判断は相当であり、また、記録によれば、第一審及び原審が被告人に対する予断と偏見をもつて審理判決をしたとも認められないから、所論は、いずれも前提を欠く違憲の主張であり、適法な上告理由にあたらない。

 被告人本人の上告趣意第五及び弁護人近藤良紹の上告趣意第二点について

 所論のうち、符一号及び同八号の録音テープに関して憲法一一条、一三条、三一条違反をいう点は、実質においては、録音の違法性を否定してそれらの録音テープに証拠能力を認めた原審の判断を論難する単なる法令違反の主張であり、その余は、原審において主張判断を経ていない事項に関する違憲の主張、実質においては単なる法令違反、事実誤認の主張に帰する違憲の主張及び単なる法令違反の主張であり、すべて適法な上告理由にあたらない。

 所論にかんがみ職権をもつて判断するに、記録によれば、符一号及び同八号の録音テープはいずれも被告人の同意を得ないで録音されたものではあるが、前者の録音テープは、被告人が新聞紙による報道を目的として新聞記者に聞かせた前示偽電話テープの再生音と再生前に同テープに関して被告人と同記者との間で交わされた会話を、同記者において取材の結果を正確に記録しておくために録音したものであり、後者の録音テープ(被告人の家人との対話部分を除く。)は、未必的にではあるが録音されることを認容していた被告人と新聞記者との間で右の偽電話に関連して交わされた電話による会話を、同記者において同様の目的のもとに録音したものであると認められる。このように、対話者の一方が右のような事情のもとに会話やその場の状況を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであつても、違法ではないと解すべきである。したがつて、録音が違法であることを理由にそれらの録音テープの証拠能力を争う所論は、すでにこの点において前提を欠くものといわなければならない。

 弁護人近藤良紹の上告趣意第四点について

 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

 被告人本人のその余の上告趣意について所論は、違憲をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であり、適法な上告理由にあたらない。

 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

  昭和五六年一一月二〇日

     最高裁判所第三小法廷

 

 

 

 

 

同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定と憲法13条、14条1項及び24条

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      大阪地方裁判所判決/平成31年(ワ)第1258号

【判決日付】      令和4年6月20日

【判示事項】      1 同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定と憲法13条、14条1項及び24条

             2 同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定を改廃しないことが国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められないとして、立法不作為を理由とする国家賠償請求が棄却された事例

【参照条文】      憲法13

             憲法14

             憲法24

             民法739-1

             戸籍法74

             国家賠償法1-1

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      法学セミナー67巻10号118頁

 

 

憲法

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

 

第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

② 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない

 

 

民法

(養親子等の間の婚姻の禁止)

第七百三十六条 養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第七百二十九条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない。

 

 

戸籍法

第六節 婚姻

第七十四条 婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

一 夫婦が称する氏

二 その他法務省令で定める事項

 

 

国家賠償法

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

 

 

       主   文

 

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

  被告は、原告らに対し、各100万円及びこれに対する平成31年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

 1 事案の概要

   本件は、同性の者との婚姻届を提出したが、両者が同性であることを理由に不受理とされた原告らが、同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規定は、憲法24条、13条、14条1項に違反するにもかかわらず、被告が必要な立法措置を講じていないことが国家賠償法1条1項の適用上違法である旨を主張して、被告に対し、慰謝料各100万円及びこれに対する訴状送達の日である平成31年3月4日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 2 前提事実

   当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠(なお、証拠について枝番号を省略したものは枝番号を全て含む趣旨である。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、次のとおりである。

  (1) 性的指向

    性的指向とは、人が情緒的、感情的、性的な意味で、人に対して魅力を感じることであり、このような恋愛、性愛の対象が異性に対して向くことが異性愛、同性に対して向くことが同性愛である(以下、性的指向が異性愛である者を「異性愛者」、性的指向が同性愛である者を「同性愛者」という。)。これに対し、性自認とは、自分の性をどのように認識しているかであるところ、性自認の性(心の性)が生物学上の性と一致する場合もあれば、一致しない場合もあり、性自認と生物学上の性が一致しない者をトランスジェンダーという。女性の同性愛者(レズビアン)、男性の同性愛者(ゲイ)、同性愛と異性愛の双方の性的指向を有する者(バイセクシャル)及びトランスジェンダーの性的少数者を総称してLGBTという。

    我が国における異性愛以外の性的指向を持つ者の人口は明らかではないが、LGBTに該当する人については、平成27年4月当時において全国の20歳~59歳の約7万人を対象とした調査で7.6%、平成28年5月当時において上記年代の約10万人を対象とした調査で約5.9%、同年6月当時において全国の20歳~59歳の有職の男女の約1000人を対象とした調査で8%とする調査結果等がある(甲A567)。

  (2) 原告らの関係等

   ア 原告1及び原告2は、いずれも男性であり、同性愛者である。

     原告1及び原告2は、平成31年2月、居住地において婚姻届を提出したが、両者が同性であることを理由に不受理とされた。

   イ 原告3及び原告4は、いずれも女性であり、同性愛者である。

     原告4は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の国籍を有しており、原告3及び原告4は、平成27年8月、米国オレゴン州において婚姻し(甲C3)、平成31年1月、日本の居住地においても婚姻届を提出したが、両者が同性であることを理由に不受理とされた。

   ウ 原告5及び原告6は、いずれも男性であり、同性愛者である。

     原告5及び原告6は、平成31年2月、居住地において婚姻届を提出したが、両者が同性であることを理由に不受理とされた。

 

 

 

レンタカー業者に自動車損害賠償保障法3条による運行供用者責任が認められた事例

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷/昭和46年(オ)第447号

【判決日付】      昭和50年5月29日

【判示事項】      いわゆるレンタカー業者に自動車損害賠償保障法3条による運行供用者責任が認められた事例

【判決要旨】      自動車賃貸業者が、自動車を賃貸するにあたり、借主につき免許証の有無を確認し、使用時間、行先を指定させ、走行粁、使用時間に応じて預り金の名目で賃料の前払をさせ、借主の使用中使用時間、行先を変更する場合には、賃貸業者の指示を受けるため返還予定時刻の三時間前に連絡させ、車両の整備は賃貸業者の手で行われ、賃貸中の故障の修理も原則として賃貸業者の負担であつたなど判示の事実関係があるときは、賃貸業者は、借主の運行による事故につき、自動車損害賠償保障法三条による運行供用者としての責任を免れない。

【参照条文】      法3

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事115号33頁

             判例時報783号107頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト94号12頁

 

 

自動車損害賠償保障

(自動車損害賠償責任)

第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人武田峯生の上告理由第一点及び第二点について。

 原審が適法に確定したところによれば、上告人はレンタカーを賃貸するに当り、借主につき免許証の有無を確認し、使用時間、行先を指定させて走行粁、使用時間に応じて預り金の名目で賃料の前払をさせ、借主の使用中使用時間、行先を変更する場合には、上告人の指示を受けるため返還予定時刻の三時間前に上告人にその旨連絡させ、これを怠った場合には倍額の追加賃料を徴収するものとし、車両の整備は常に上告人の手で責任をもって行われ、賃貸中の故障の修理も原則として上告人の負担であったというのであり、右事実関係のもとにおいては、上告人は本件事故当時本件自動車に対する運行支配及び運行利益を有していたものということができ自動車損害賠償保障法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者としての責任を免れない旨の原判決の判断は、正当として是認することができる。

 所論引用の当裁判所の判例は、特定のドライブクラブ方式による自動車賃貸業者が、その賃貸した自動車の賃借人による運行に対し、運行支配及び運行利益を有していなかったとの事実認定を前提として、右自動車賃貸業者が同条の運行供用者に当らない旨を判示したものであって、本件のような事実関係のもとにおいて上告人を同条の運行供用者と認めることをも否定する趣旨とは解せられない。それゆえ、論旨は採用することができない。

 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

第1章 はじめに

  平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立しました(同年6月2日公布)。

   民法のうち債権関係の規定(契約等)は,明治29年(1896年)に民法が制定された後,約120年間ほとんど改正がされていませんでした。

今回の改正は,民法のうち債権関係の規定について,取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に,社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。

今回の民法改正では,契約等に関する基本的なルールについて,合計200項目程度の改正をしています

  今回の改正は,一部の規定を除き,令和2年(2020年)4月1日から施行されました。

 

※本書では、法令名を次のように記載しています。

民法…2020年4月施行後の民法(明治29年法律第89号)

旧民法…2020年4月施行前の民法(明治29年法律第89号)

 

 

第2章 改正の目的

民法のうち債権関係の規定は、1896年に制定されて以降、約120年にもわたって、実質的な改正が行われていませんでした。そのため、社会・経済の変化に対応できていない内容であることが指摘されるに至りました。すなわち、制定以来、多数の判例法理が蓄積され、民法の条文からは解釈することが困難であるルールが実務で定着し、一般の国民には分かりにくいものとなってしまったのです。 そこで、一般の国民にも分かりやすい内容とするために、民法が改正されるに至りました。

 

改正された対象範囲は、民法のうち、契約に関する規定が中心となります。改正事項は、その性質に応じて、 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの に分けることができます。

 

このうち、重要な改正ポイントは②です。

 

すなわち、①は、実質的には、今までと同じ運用となるため、実務には大きな影響はないものと考えられます。そのため、従来の民法を理解されていた方にとっては、あまり気にされなくてもよい改正といえるでしょう。

他方で、②は、実務上、従来とは異なる運用がなされますので、しっかり理解しておく必要があります。

 

『知らないと恥をかく世界の大問題14 大衝突の時代‐‐加速する分断』 (角川新書)

池上 彰 (著) 

 

新書

¥1,034

 

長引くウクライナ戦争。分断がさらに進む世界。リーダーの次なる一手は?

 

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以降、新しい局面に突入した世界。分断が加速し、対立が深まる中、世界のリーダーはどう動くのか? ロシアと隣接するヨーロッパNATO諸国の対立、覇権争いや台湾をめぐり対立する米中関係、新たなグローバル・サウスの動きなど。世界、そして日本が抱える大問題を、歴史的な背景を交えながらわかりやすく解説していく池上彰の人気新書「知ら恥」シリーズ最新第14弾。大転換の時代に欠かせないニュース解説本だ。

 

 

著者について

●池上 彰:1950年生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、愛知学院大学特任教授。立教大学、信州大学、日本大学、関西学院大学、順天堂大学でも講義を担当。慶應義塾大学卒業後、73年にNHK入局。94年から11年間、「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年に独立。角川新書「知らないと恥をかく世界の大問題」シリーズ、『何のために伝えるのか? 情報の正しい伝え方・受け取り方』、角川文庫『池上彰の「経済学」講義1・2』など著書多数。 --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。

登録情報

出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA (2023/6/10)

発売日 ‏ : ‎ 2023/6/10

 

 

コメント

私は、ニュースをよく見ている方です。

それでも、新しい発見がありました。

ロシアのプーチン大統領の見方。

イラン、ドイツの動向など。

 

利川製鋼事件・工場ばいじんと差止請求

 

 

              有害騒音の発生、ばい煙の排出等禁止等、損害賠償請求併合事件

【事件番号】      名古屋地方裁判所判決/昭和40年(ワ)第2112号、昭和44年(ワ)第3334号

【判決日付】      昭和47年10月19日

【判示事項】      1、因果関係の立証

             2、公害に関する公法上の基準と違法性

             3、先住関係と違法性

             4、公害訴訟において重過失を認定した事例

             5、人格的利益侵害による差止請求の肯否(積極)

             6、一部請求と時効の中断

【判決要旨】      1、一般に因果関係を事実上推認せしめるいくつかの事実が立証された場合、これをもって因果関係を認めうる。被告がこの認定をさけるためには、反証をもって右推定を破る必要がある。

             2、ばいじん、騒音、振動についての受忍限度を決定するに際しては、公法上の基準の設けられた趣旨、目的に照してこれを参酌するほか、右公害の性質、心理的、生理的影響度、地域性、被害の範囲と程度などの具体的事情をも考慮してなすべきである。

             3、通常任意処分や放棄を想定してない法益、たとえば人の健康や精神に対する侵害については、先任関係は受忍限度の要素として考慮しえず、その他の侵害についても被害者において危険を引受けたと認められる特段の事情の立証がないかぎり、受忍限度決定の際にこれを考慮する必要はない、と解すべきである。

             4、原告らが被告に対し苦情を述べ、県、市も改善命令や勧告等行政指導を続けてきた場合には、被告にはその操業による加害の認識の可能性があったと認められる。そして判示認定のように住宅密集地帯を控えている地域においては、被告には附近住民の生活上の利益を侵害しないような程度と方法で操業すべき注意義務があり、被告はこれを怠ったので、少なくとも重過失が認められる。

             5、平穏で快適かつ健康な生活を営む利益が違法、有責の他人の行為によって侵害され、その侵害の程度が著しく、かつこのような将来にわたり継続する高度の可能性が存する場合には、侵害行為の社会的有用性、差止に伴なう加害者の損害の大きさ、加害者の防除の努力等特段の免責事由が存しないかぎり、加害者に対し、一定限度で右侵害の差止を請求しうるものと解すべきであり、民法709条はそのような差止請求権を承認する妨げとはならない。

             6、請求額の拡張は、被告の不法行為に対する一個の損害賠償請求権に基づく請求額を増額したものにすぎず、別個の性質を有する新たな請求権を行使したものではないから、この拡張部分につき独立して事項が成立する余地はない。

【参照条文】      民法147

             民法709

             民法710

             民法724

【掲載誌】        判例タイムズ286号107頁

             判例時報683号21頁

 

 

民法

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

一 裁判上の請求

二 支払督促

三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停

四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。

二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

 

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

 

 

 

 

手形行為と商法23条

 

 

為替手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和39年(オ)第815号

【判決日付】      昭和42年6月6日

【判示事項】      手形行為と商法23条

【判決要旨】      銀行との当座預金の取引および手形行為についてのみ自己の氏名商号の使用を許諾したにすぎない者は、右許諾を受けた者が許諾者名義で引受けた為替手形につき、商法第23条による責任を負わない。

【参照条文】      商法23

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事87号941頁

             判例タイムズ209号144頁

             金融・商事判例61号4頁

             判例時報487号56頁

             金融法務事情483号31頁

 

 

商法

(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)

第十四条 自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。