利川製鋼事件・工場ばいじんと差止請求
有害騒音の発生、ばい煙の排出等禁止等、損害賠償請求併合事件
【事件番号】 名古屋地方裁判所判決/昭和40年(ワ)第2112号、昭和44年(ワ)第3334号
【判決日付】 昭和47年10月19日
【判示事項】 1、因果関係の立証
2、公害に関する公法上の基準と違法性
3、先住関係と違法性
4、公害訴訟において重過失を認定した事例
5、人格的利益侵害による差止請求の肯否(積極)
6、一部請求と時効の中断
【判決要旨】 1、一般に因果関係を事実上推認せしめるいくつかの事実が立証された場合、これをもって因果関係を認めうる。被告がこの認定をさけるためには、反証をもって右推定を破る必要がある。
2、ばいじん、騒音、振動についての受忍限度を決定するに際しては、公法上の基準の設けられた趣旨、目的に照してこれを参酌するほか、右公害の性質、心理的、生理的影響度、地域性、被害の範囲と程度などの具体的事情をも考慮してなすべきである。
3、通常任意処分や放棄を想定してない法益、たとえば人の健康や精神に対する侵害については、先任関係は受忍限度の要素として考慮しえず、その他の侵害についても被害者において危険を引受けたと認められる特段の事情の立証がないかぎり、受忍限度決定の際にこれを考慮する必要はない、と解すべきである。
4、原告らが被告に対し苦情を述べ、県、市も改善命令や勧告等行政指導を続けてきた場合には、被告にはその操業による加害の認識の可能性があったと認められる。そして判示認定のように住宅密集地帯を控えている地域においては、被告には附近住民の生活上の利益を侵害しないような程度と方法で操業すべき注意義務があり、被告はこれを怠ったので、少なくとも重過失が認められる。
5、平穏で快適かつ健康な生活を営む利益が違法、有責の他人の行為によって侵害され、その侵害の程度が著しく、かつこのような将来にわたり継続する高度の可能性が存する場合には、侵害行為の社会的有用性、差止に伴なう加害者の損害の大きさ、加害者の防除の努力等特段の免責事由が存しないかぎり、加害者に対し、一定限度で右侵害の差止を請求しうるものと解すべきであり、民法709条はそのような差止請求権を承認する妨げとはならない。
6、請求額の拡張は、被告の不法行為に対する一個の損害賠償請求権に基づく請求額を増額したものにすぎず、別個の性質を有する新たな請求権を行使したものではないから、この拡張部分につき独立して事項が成立する余地はない。
【参照条文】 民法147
民法709
民法710
民法724
【掲載誌】 判例タイムズ286号107頁
判例時報683号21頁
民法
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。