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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

ジュリスト 2023年11月号(No.1590) 【特集1】2023年知財法改正

 

有斐閣

2023年10月25日 発売

定価 1,760円(本体 1,600円)

 

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本号特集1では,第211回国会で成立した知財関連の法改正を取り上げます。企業活動の急速なデジタル化や国際化の進展を背景に,知的財産の国内外での保護強化や制度の利便性向上を目的とした本改正。本特集では,商標法,意匠法,不正競争防止法,著作権法における重要項目を取り上げ,概要や経緯,実務への影響を解説します。

特集2では同国会で成立した民事手続法分野の改正法を取り上げました。国内外での利用活性化のため,仲裁・ADRの強化が図られ,また,民事訴訟手続に続いて,民事執行,民事保全,倒産,非訟事件,民事調停,労働審判,人事訴訟,家事事件等の手続のIT化に関する規定が整備されました。これらの改正内容を解説し,今後の課題を検討します。いずれの特集も要注目です。

 

 

【特集1】2023年知財法改正

◇特集にあたって…小泉直樹……14

 

◇氏名商標の登録要件の緩和…中川隆太郎……16

 

◇コンセント制度の導入…佐藤俊司……22

 

◇新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直し…黒田 薫……28

 

◇営業秘密関連訴訟の国際裁判管轄・準拠法…飯塚卓也……34

 

◇デジタル空間における形態模倣行為の防止…麻生 典……40

 

◇外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充…梅津英明/佐藤浩由……46

 

◇損害賠償額の算定方法の見直し(著作権法・不正競争防止法)…飯田 圭……52

 

【特集2】仲裁・ADRの強化と民事手続のIT化

◇仲裁法・ADR法の改正…山田 文……60

 

◇民事執行・民事保全・倒産に関する手続のIT化…青木 哲……66

 

◇非訟事件・民事調停・労働審判・人事訴訟・家事事件等に関する手続のIT化…杉山悦子……72

 

 

コメント

改正法のポイントが良くわかります。

 

 

第11章 今後の検討課題

 なお、前記消費者契約法専門調査会では消費者契約法の在り方について幅広い議論がされ、平成27年12月「消費者契約法専門調査会報告書」(消費者委員会 消費者契約法専門調査会)においても、各論点について、①解釈の明確化で一定の対応ができるものは、解釈の明確化を図る、②解釈の明確化だけでは対応できないものは、規律の明確化に留意しつつ、速やかに法改正を行う、③上記①②のほか、現時点で法改正を行うことについてコンセンサスが得られていないものについては、今後の検討課題として引き続き検討を行う、という方向で整理がなされています。

 今回の改正は、上記②に関するものであり、今後、上記①や③の対応が予定されています。

 

第三者に対する債務名義を不当に騙取した場合と同人に対する債務名義の効力の有無

 

 

              建物収去土地明渡請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和39年(オ)第1371号

【判決日付】      昭和43年2月27日

【判示事項】      第三者に対する債務名義を不当に騙取した場合と同人に対する債務名義の効力の有無

【判決要旨】      甲が乙と通謀のうえ、第三者丙に対する金銭債権に関する債務名義を騙取しようと企て、丙の住所を真実に反して乙方丙として、丙に対する支払命令ないし仮執行宣言付支払命令の申立等の訴訟行為をし、裁判所が右申立に応じてした裁判の正本等の訴訟書類を乙において丙本人のように装つて受領し、その裁判を確定させた場合においては、当該債務名義の効力は、丙に対して及ばない。

【参照条文】      民事訴訟法201

             民事訴訟法443

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集22巻2号316頁

 

 

事案の概要

 本件は、甲・乙が通謀して丙あての(仮執行宣言付)支払命令をえて、確定させた場合において、甲がこの債務名義にもとづいて丙所有の宅地に対して強制執行をし、Y(被告・被上告人)がこれを競落した。

一方、これより先、X(原告・上告人)は丙から本件宅地を買い受けていた。

そこで、XはYに対し土地所有権にもとづいて建物収去土地明渡を求めたという事案である。

 一、二審とも、Xの請求棄却・要するに、丙あての債務名義が有効に成立している(送達手続にかしがあるけれども)から、丙所有の宅地に対ずる強制執行は有効で、Yは競落によりその所有権を適法に取得したものであり、Xはその所有権取得登記を経ていない以上、Yに対し所有権取得を対抗しえないという。

 本件の前提として、本件債務名義は丙に対して効力を有するか、丙の不服申立方法いかん、さらに、強制執行手続における再審抗告が認められるだけで丙の宅地についての所有権の存否についての実質上の判断を受けられなくすることは憲法上の問題を生じないかとの問題がある。

 そしてXからの上告に対し、当審は、甲が乙と通謀して第三者丙に対して金銭債権を有すると称して丙に対する債務名義を騙取しようと企て、「甲がその債権に関し、丙あてにその住所を真実に反し乙方丙として」訴訟行為をし、「乙があたかも丙本人のよう装つて」その裁判を確定させた場合には、その債務名義の効力は丙に及ばないとし、債務名義がなくしてされた執行手続は丙との関係で無効であると判示し、破棄差戻の結論を出した。

 

(上告の理由)

第三百十二条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。

2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。

一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。

二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。

二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。

三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。

四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。

五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。

六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。

 

民事訴訟法

(判決書)

第二百五十三条 判決書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一 主文

二 事実

三 理由

四 口頭弁論の終結の日

五 当事者及び法定代理人

六 裁判所

2 事実の記載においては、請求を明らかにし、かつ、主文が正当であることを示すのに必要な主張を摘示しなければならない。

 

非行事実の認定に関する証拠調べの範囲、限度、方法の決定と家庭裁判所の裁量

 

 

暴力行為等処罰に関する法律違反、現住建造物等放火未遂保護事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷決定/昭和58年(し)第77号

【判決日付】      昭和58年10月26日

【判示事項】      非行事実の認定に関する証拠調べの範囲、限度、方法の決定と家庭裁判所の裁量

【判決要旨】      非行事実の認定に関する証拠調べの範囲、限度、方法の決定は、家庭裁判所の完全な自由裁量に属するものではなく、その合理的な裁量に委ねられたものである。

             (補足意見がある。)

【参照条文】      少年法

             少年法14

             少年審判規則19

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集37巻8号1260頁

 

 

事案の概要

 1 本件事案の概要と審理の経過等は、次のとおりである。

 すなわち、当時、千葉県立流山中央高校3年生であった少年が、集団で学校の備品等を破壊したという暴力行為処罰法違反の事実(第一事実)および外3名との共謀による学校への放火未遂の事実(第二事実)につき家裁の審判に付せられたところ、少年は、第一事実についてはこれを認めたが、第二事実については徹底してこれを否認し、附添人も、アリバイ証人を含む多数の証人を申請してこれを争った。

原原審裁判所は、附添人申請の証人のうち、アリバイ証人1名、共犯者たる証人3名を取り調べたが、目撃者2名(同高校2年在学の女子生徒)については、保護者の要望を容れて、少年・附添人の立会いなしにこれを参考人として取り調べただけで、両事実をいずれも非行事実として認定し、少年を保護観察処分に付した。

附添人は、原審において、第二事実についての事実誤認を主張するとともに、原原審の右手続を「手続の保障の観点から強く批判」したが、排斥されたため、再抗告趣意においては、右手続が憲法31条に違反すると主張していた。

 2 本決定の法廷意見は、右抗告趣意を、実質は単なる法令違反の主張であるとして排斥したうえ、「なお書きにおいて、決定要旨のような職権判断を示すに止めたが、団藤・中村両裁判官は、原原審の前記手続が、合理的な裁量を逸脱して違法である(ただし、第一事実だけでも、保護観察処分は是認しえないではないから、原決定を取り消さなくても著しく正義に反するとまではいえない)旨の詳細な補足意見を付された。

 

 

少年法

(判事補の職権)

第四条 第二十条第一項の決定以外の裁判は、判事補が一人でこれをすることができる。

 

(証人尋問・鑑定・通訳・翻訳)

第十四条 家庭裁判所は、証人を尋問し、又は鑑定、通訳若しくは翻訳を命ずることができる。

2 刑事訴訟法中、裁判所の行う証人尋問、鑑定、通訳及び翻訳に関する規定は、保護事件の性質に反しない限り、前項の場合に、これを準用する。

 

(検察官への送致)

第二十条 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

 

 

少年審判規則

第十九条 刑事訴訟規則中、裁判所の行う証人尋問、鑑定、通訳、翻訳、検証、押収及び捜索に関する規定は、保護事件の性質に反しない限り、法第十四条第一項の規定による証人尋問、鑑定、通訳及び翻訳並びに法第十五条第一項の規定による検証、押収及び捜索について準用する

 

日本電信電話公社事件・採用内定により労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とする解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例

 

 

従業員地位確認請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和54年(オ)第580号

【判決日付】      昭和55年5月30日

【判示事項】      1、採用内定により労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とする解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例

             2、留保解約権に基づく採用内定の取消が有効とされた事例

【判決要旨】      1、日本電信電話公社の社員公募に応じ、試験に合格して採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示した採用通知を受けた者が、同公社からの求めに応じて被服号型報告表を提出し、入社懇談会に出席し、健康診断を受けたなどのことがあり、他方、同公社において、採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなど、判示の事実関係のもとにおいては、社員公募に対する応募は労働契約の申込であり、これに対する同公社の採用通知は右申込に対する承諾であつて、これにより、応募者と同公社との間に、労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とし、解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。

             2、日本電信電話公社が、社員としての採用を内定したのち、その者が反戦青年委員会の指導的地位にあつて、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したとして留保解約権に基づく採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができ、解約権の行使は有効である。

【参照条文】      労働基準法2章

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集34巻3号464頁

 

 

労働基準法

(解雇の予告)

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

 

契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合の債務不履行責任の有無

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/平成20年(受)第1940号

【判決日付】      平成23年4月22日

【判示事項】      契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合の債務不履行責任の有無

【判決要旨】      契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。

             (補足意見がある。)

【参照条文】      民法1-2

             民法415

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集65巻3号1405頁

 

 

事案の概要

 本件は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合であるYに対して平成11年3月に各500万円の出資をしたXらが,Yが上記各出資の約1年9か月後である平成12年12月に金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成11年改正前)8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けて経営が破綻し,出資金の払戻しを受けられなくなったことについて,出資勧誘の際の説明義務違反等を主張して,Yに対し,主位的には不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,出資金相当額及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

 本判決の言渡しの時点で,本件の他にも,Yに対する同種の損害賠償請求事件が複数最高裁に係属していたが,いずれの事件でも,原審までの段階では,不法行為による損害賠償請求については,訴え提起の時期がYの経営が破綻してからかなり後であったため訴え提起に先立ち3年の消滅時効が完成したのではないかが問題となり,債務不履行による損害賠償請求については,出資契約の成立に先立つ交渉段階の説明義務違反につき契約責任としての債務不履行責任を問うことができるのかが問題となっていた。

 

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

 

       主   文

 

 1 原判決中上告人敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。

 2 前項の部分に関する被上告人らの請求をいずれも棄却する。

 3 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人石井教文,同桐山昌己の上告受理申立て理由について

 1 本件は,信用協同組合である上告人の勧誘に応じて上告人に各500万円を出資したが,上告人の経営が破綻して持分の払戻しを受けられなくなった被上告人らが,上告人は,上記の勧誘に当たり,上告人が実質的な債務超過の状態にあり経営が破綻するおそれがあることを被上告人らに説明すべき義務に違反したなどと主張して,上告人に対し,主位的に,不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,予備的に,出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,各500万円及び遅延損害金の支払を求める事案であり,予備的請求である出資契約上の債務不履行による損害賠償請求の当否が争われている。

 なお,原判決中,被上告人らの主位的請求をいずれも棄却すべきものとした部分は,被上告人らが不服申立てをしておらず,同部分は当審の審理判断の対象となっていない。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合であり,平成14年7月31日,総代会の決議により解散した。

 (2) 上告人は,平成6年に行われた監督官庁の立入検査において,資産の回収可能性等を基に査定された欠損見込額を前提とする自己資本比率の低下を指摘され,さらに,平成8年に行われた立入検査においても,資産の大部分を占める貸出金につき,欠損見込額が巨額になっており,上記自己資本比率がマイナス1.80%であって実質的な債務超過の状態にあるなどの指摘を受け,文書をもって早急な改善を求められたが,その後も上記の状態を解消することができないままであった。

 (3) 平成10年ないし平成11年頃,上告人は,資産の欠損見込額を前提とすると債務超過の状態にあって,早晩監督官庁から破綻認定を受ける現実的な危険性があり,代表理事らは,このことを十分に認識し得たにもかかわらず,上告人の新大阪支店の支店長をして,被上告人らに対し,そのことを説明しないまま,上告人に出資するよう勧誘させた。

 (4) 被上告人らは,上記の勧誘に応じ,平成11年3月2日,上告人に対し,各500万円の出資をした(以下,上記の各出資を「本件各出資」といい,本件各出資に係る上告人と各被上告人との間の各契約を「本件各出資契約」という。)。

 (5) 上告人は,平成12年12月16日,金融再生委員会から,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの)8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け,その経営が破綻した。被上告人らは,これにより,本件各出資に係る持分の払戻しを受けることができなくなった。

 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの予備的請求である債務不履行による損害賠償請求を,遅延損害金請求の一部を除いて認容すべきものとした。

 (1) 上告人が,実質的な債務超過の状態にあって経営破綻の現実的な危険があることを説明しないまま,被上告人らに対して本件各出資を勧誘したことは,信義則上の説明義務に違反する(以下,上記の説明義務の違反を「本件説明義務違反」という。)。

 (2) 本件説明義務違反は,本件各出資契約が締結される前の段階において生じたものではあるが,およそ社会の中から特定の者を選んで契約関係に入ろうとする当事者が,社会の一般人に対する不法行為上の責任よりも一層強度の責任を課されることは,当然の事理というべきであり,当該当事者が契約関係に入った以上は,契約上の信義則は契約締結前の段階まで遡って支配するに至るとみるべきであるから,本件説明義務違反は,不法行為を構成するのみならず,本件各出資契約上の付随義務違反として債務不履行をも構成する。

 4 しかしながら,原審の上記判断のうち,本件説明義務違反が上告人の本件各出資契約上の債務不履行を構成するとした部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。

 なぜなら,上記のように,一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために,相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り,損害を被った場合には,後に締結された契約は,上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって,上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは,それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず,一種の背理であるといわざるを得ないからである。契約締結の準備段階においても,信義則が当事者間の法律関係を規律し,信義則上の義務が発生するからといって,その義務が当然にその後に締結された契約に基づくものであるということにならないことはいうまでもない。

 このように解すると,上記のような場合の損害賠償請求権は不法行為により発生したものであるから,これには民法724条前段所定の3年の消滅時効が適用されることになるが,上記の消滅時効の制度趣旨や同条前段の起算点の定めに鑑みると,このことにより被害者の権利救済が不当に妨げられることにはならないものというべきである。

 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人らの請求はいずれも理由がないから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する請求をいずれも棄却すべきである。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。

 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見が,本件説明義務違反が債務不履行責任を構成せず,その結果,これにより発生した損害賠償請求権について民法724条前段が適用されるとした点について,次のとおり補足しておきたい。

 本件において,上告人が被上告人らに対し出資契約の締結を勧誘する際に負っているとされた説明義務に違反した点については,契約成立に先立つ交渉段階・準備段階のものであって,講学上,契約締結上の過失の一類型とされるものである。民法には,契約準備段階における当事者の義務を規定したものはないが,契約交渉に入った者同士の間では,誠実に交渉を行い,一定の場合には重要な情報を相手に提供すべき信義則上の義務を負い,これに違反した場合には,それにより相手方が被った損害を賠償すべき義務があると考えるが,この義務は,あくまでも契約交渉に入ったこと自体を発生の根拠として捉えるものであり,その後に締結された契約そのものから生ずるものではなく,契約上の債務不履行と捉えることはそもそも理論的に無理があるといわなければならない。講学上,契約締結上の過失を債務不履行責任として捉える考え方は,ドイツにおいて,過失ある錯誤者が契約の無効を主張することによって損害を受けた相手方を救済する法理として始まったとされているが,これは,不法行為の成立要件が厳格であるドイツにおいて,被害者の救済のため,契約責任の拡張を模索して生み出されたという経緯等に由来する面があろう。

 有力な学説には,事実上契約によって結合された当事者間の関係は,何ら特別な関係のない者の間の責任(不法行為上の責任)以上の責任を生ずるとすることが信義則の要求するところであるとし,本件のように,契約は効力が生じたが,契約締結以前の準備段階における事由によって他方が損失を被った場合にも,「契約締結のための準備段階における過失」を契約上の責任として扱う場合の一つに挙げ,その具体例として,①素人が銀行に対して相談や問い合わせをした上で一定の契約を締結した場合に,その相談や問い合わせに対する銀行の指示に誤りがあって,顧客が損害を被ったときや,②電気器具販売業者が顧客に使用方法の指示を誤って,後でその品物を買った買主が損害を被ったときについて,契約における信義則を理由として損害賠償を認めるべきであるとするものがある(我妻榮「債権各論上巻」38頁参照)。このような適切な指示をすべき義務の具体例は,契約締結の準備段階に入った者として当然負うべきものであるとして挙げられているものであるが,私としては,これらは,締結された契約自体に付随する義務とみることもできるものであると考える。そのような前提に立てば,上記の学説も,契約締結の準備段階を経て契約関係に入った以上,契約締結の前後を問うことなく,これらを契約上の付随義務として取り込み,その違反として扱うべきであるという趣旨と理解することができ,この考え方は十分首肯できるところである。

 そもそも,このように例示された上記の指示義務は,その違反がたまたま契約締結前に生じたものではあるが,本来,契約関係における当事者の義務(付随義務)といえるものである。また,その義務の内容も,類型的なものであり,契約の内容・趣旨から明らかなものといえよう。したがって,これを,その後契約関係に入った以上,契約上の義務として取り込むことは十分可能である。

 しかしながら,本件のような説明義務は,そもそも契約関係に入るか否かの判断をする際に問題になるものであり,契約締結前に限ってその存否,違反の有無が問題になるものである。加えて,そのような説明義務の存否,内容,程度等は,当事者の立場や状況,交渉の経緯等の具体的な事情を前提にした上で,信義則により決められるものであって,個別的,非類型的なものであり,契約の付随義務として内容が一義的に明らかになっているようなものではなく,通常の契約上の義務とは異なる面もある。

 以上によれば,本件のような説明義務違反については,契約上の義務(付随義務)の違反として扱い,債務不履行責任についての消滅時効の規定の適用を認めることはできないというべきである。

 もっとも,このような契約締結の準備段階の当事者の信義則上の義務を一つの法領域として扱い,その発生要件,内容等を明確にした上で,契約法理に準ずるような法規制を創設することはあり得るところであり,むしろその方が当事者の予見可能性が高まる等の観点から好ましいという考えもあろうが,それはあくまでも立法政策の問題であって,現行法制を前提にした解釈論の域を超えるものである。

ビジネス法務2023年12月号【特別企画】総まとめ知財一括法

 

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定価(紙 版):1,800円(税込)

発行日:2023/10/20

 

 

【特別企画】

総まとめ知財一括法

 

本年度の通常国会で成立した「不正競争防止法等の一部を改正する法律」,すなわち「知財一括法」は,「知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の更なる進展などの環境変化を踏まえ,スタートアップ・中小企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするなど,時代の要請に対応した知的財産制度の見直し」(経済産業省ウェブサイトより引用)を目的としています。

かの発明王・エジソンも取得に苦労したといわれる知財権にかかわる本改正について,いざ総チェック!

 

 

コメント

改正法のポイントが理解できます。

 

ビジネス法務2023年12月号【特集2】民法上の「代理」要点解説

 

 

中央経済社

定価(紙 版):1,800円(税込)

発行日:2023/10/20

 

 

【特集2】

民法上の「代理」要点解説

 

民法99条にて定められる代理人の意思表示は,契約交渉の場面でその範囲や錯誤といった点で重要となります。そこで,本特集においては民法上の代理について,条文上の規定から,典型項目である「代理権の逸脱・濫用」「双方代理・利益相反」を中心に,実務上において問題となり得る各点を解説します。

民法上の規範において重要となる「代理」についての知識を改めて確認し,アップデートしましょう。

 

 

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基礎的な条文・凡例の再確認ができました。

 

第10章 第10条の例示

民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効と規定する第10条の例示として、消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものとみなす条項を規定することとした。(第10条関係)

 

消費者の利益を一方的に害する条項の前段要件(10条前段要件)の例示

消費者の利益を一方的に害する条項とは

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第10条 民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 消費者契約法10条は、①「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」(10条前段要件)が、②「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する」(10条後段要件)場合、当該条項を無効とする旨を規定しています。

 

 もっとも、どのような条項が消費者契約法10条に該当し無効になり得るのか必ずしも明らかではありません。

 

改正による例示

 そこで、改正法により、10条前段要件を満たす場合として、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み・承諾をしたとみなす条項」が例示されることになりました(改正法10条)。

 

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

10条後段の要件

 なお、10条前段要件を満たすとしても、10条後段要件を満たさない限り、当該条項が無効とならない点は現行の消費者契約法と同様です。

 具体的な判断は個別事案によりますが、雑誌の定期購読契約における自動更新条項(契約期間が終了しても、当事者から特段の意思表示がなければ同じ条件で契約が更新されるといったもの)や、預金契約における条項(期限到来時に特段の意思表示なしに定期預金が普通預金に自動的に切り替わる)といった条項は、形式的には10条前段要件を満たすものの、消費者に予測できないような新たな負担を課すとまではいえず、10条後段要件を満たさないものと考えられます。

 

 これに対し、例えば、冷蔵庫の購入者を対象とした、「冷蔵庫配送時にウォーターサーバーを設置し、特にお断りの連絡がなければ同サーバーのレンタルを行う」といった契約条項は、消費者が積極的な行為を何もしていないにもかかわらず無条件に契約を成立させ、当該契約成立後には当該消費者の認識にかかわらず当該契約に基づく代金支払いを負担させるものです。このため、消費者に不測の損害を与える可能性があり、10条後段要件を満たし、無効と判断される可能性があると考えられます。

 

 

8 その他

適格消費者団体の差止請求の対象となる行為の追加等の所要の規定の整備を行うこととした。

 

被疑者に対する長時間の取調べが任意捜査として許容される限度を逸脱したものとまではいえないとされた事例

 

 

強盗致死、有印私文書偽造、同行使、詐欺被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/昭和60年(あ)第826号

【判決日付】      平成元年7月4日

【判示事項】      被疑者に対する長時間の取調べが任意捜査として許容される限度を逸脱したものとまではいえないとされた事例

【判決要旨】      午後一一時過ぎに任意同行の上翌日午後九時二五分ころまで続けられた被疑者に対する取調べは、特段の事情のない限り、容易に是認できないが、取調べが本人の積極的な承諾を得て参考人からの事情聴取として開始されていること、一応の自白があった後も取調べが続けられたのは重大事犯の枢要部分に関する供述に虚偽が含まれていると判断されたためであること、その間本人が帰宅や休息の申出をした形跡はないことなどの特殊な事情のある本件においては、任意捜査として許容される限度を逸脱したものとまではいえない。

             (反対意見がある。)

【参照条文】      刑事訴訟法197-1

             刑事訴訟法198-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集43巻7号581頁

 

 

刑事訴訟法

第百九十七条 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

② 捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

③ 検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押え又は記録命令付差押えをするため必要があるときは、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、三十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる。この場合において、当該電磁的記録について差押え又は記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。

④ 前項の規定により消去しないよう求める期間については、特に必要があるときは、三十日を超えない範囲内で延長することができる。ただし、消去しないよう求める期間は、通じて六十日を超えることができない。

⑤ 第二項又は第三項の規定による求めを行う場合において、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる。

 

第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

② 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

③ 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。

④ 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。

⑤ 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。