Canon story -6ページ目

世の中には同じ雰囲気を持った人がいる。
忘れた頃に、ふいにそんな人が現れる。恋愛のタイミングはいつだってわからない。

例えば交差点で点滅した青信号を前に、渡ろうと言って走るのか、渡る?と相手にあわせるのか、次でいっかとのんびり待つのか。

私の好きだった人は最後のパターンだった。

たとえば街の雑踏で、例えば駅のホームで、一瞬でもあなたに会えたなら、あの日言えなかった言葉を言いたい。

あなたに会いたい…

春待ち風

「直くん、結婚するんだって」
やや遠慮がちに菜々が言う。
「え?」
うそでしょと思いながら、菜々の顔は真剣だった。

「秋にグアムで挙式するらしいよ。びっくりよね…だって、ついこないだまで彼女欲しいとか言ってたくせにさ」

直くんは駆け出しの役者だった。バイトをいくつか掛け持ちし、その合間に舞台稽古をしていた。

彼の舞台を見に行ったのはたったの二回。話という話もできずに別れてしまうから、正直私は舞台上の彼しか知らない。

「直くんのブログの情報だから、詳しくはわかんないけど。直くんのことだから、きっとすごい美人さんな彼女だよ」

菜々には直くんに関わること全て話してきた。当然、私が直くんを好きだったことも知っている。

連絡を取らなくなってから一年。今彼は、私の知らない別の女の子を見ている。

結婚という言葉は、私が積み重ねて来た彼への想いとは比べものにならないくらい重く、同時に彼の結婚を心から喜べない自分。

あの日、彼の手を離したくはなかった。
「また観に来てよ。里緒ちゃんが観に来てくれると励みになるから」
その言葉に、また彼に会えるのだという、絶対の信頼を寄せていたから。


冬の冷たい空気の中に、ふわりと暖かな風が舞い込む。

春が近い

雪花

今年は雪が降るだろうか…?四年前の三月、東京に季節外れな大雪が降った。

今でも思い出す。あの雪の日を境に、互いの気持ちが離れてしまったことを。

ずっと好きだった人。付き合っていたわけではない。ただ、側にいるだけで安心した。優しい声や歩く速度、後ろ姿、あなたが奏でるビオラの深く柔らかな音色…何一つ忘れてはいない。

雪が降るたびに思い出す。大好きだった雪は、今は悲しい思い出に変わってしまった。

歳を重ねるたびに、重くなるこの想いは、あの日地面に降り積もった雪のように、想い募っては消え、繰り返し繰り返しループする。