【NO325|新釈古事記伝 第38回】

おはようございます。けんいちです。
■ 前回の振り返り
前回のNO323では、「なぜ犠牲者は生まれるのか」というテーマで、八岐大蛇に7人の娘を差し出してきた夫婦と、最後に残ったクシナダヒメの物語を見てきました。
そこで見えてきたのは、誰かが「役割」に固定されていく3つの段階でした。
・断りにくい人から、静かに選ばれていく
・一度引き受けた役割が、その人の役割として固定される
・周囲が慣れてしまい、その人は孤立していく
そして、その構造の外から現れた一人の男――スサノオが、夫婦にひとつの問いを投げかけたところで、前回は終わりました。
「なぜ、毎年差し出しているのか」
■ 今回の問い
この問いは、その後、何を変えたのか。
今日はこの続きを読み解きながら、「構造を変えるとは、具体的に何をすることなのか」を一緒に考えていきます。
あなたの職場にも、家庭にも、学校にも、地域にも、
「毎年、同じ時期に、同じことで困っている」ものが
きっとあるはずです。
それを変えるために必要なのは、
新しい力でも、新しい人材でもないかもしれません。
たった一つの「問い」かもしれない。
■ スサノオが現れた意味
スサノオは、剣を構えて現れたわけではありません。
最初から「怪物を倒す者」として登場したのではなく、
ただの「外から来た旅人」として、
泣いている老夫婦の前に立っただけでした。
そして彼が最初にしたことは、
戦う準備でも、計画を立てることでもありませんでした。
ただ、尋ねただけです。
「何があったのか」
「なぜ、そんなに泣いているのか」
これが、すべての始まりでした。
■ 彼が変えたのは「戦い方」ではなく「問い」
夫婦も、村の人々も、長い間、ひとつの前提の中で生きていました。
「八岐大蛇が来る。娘を差し出す。それは変えられない。」
この前提の上では、考えられることは一つしかありません。
「どうすれば、少しでもうまく差し出せるか」
「どの娘なら、まだ差し出せるか」
「どうすれば、村全体が今年も生き延びられるか」
これはすべて、「戦い方」の話です。
ルールの中で、いかに上手にふるまうか、という話。
スサノオが持ち込んだのは、まったく別の次元の問いでした。
「そもそも、なぜ差し出さなければならないのか」
これは、戦い方の話ではありません。
ルールそのものに向けられた問いです。
■「どう差し出すか」から「なぜ差し出すのか」への転換
「どう差し出すか」を考えている間、人は常にルールの内側にいます。
ルールを前提に、最善の行動を探しているだけです。
しかし、「なぜ差し出すのか」と問うた瞬間、人は一度、ルールの外に立ちます。
そして外に立つことで、初めて見えてくるものがあります。
「本当に、差し出す以外に方法はないのか」
「このルールは、誰かが決めたのか。それとも、誰も決めていないのか」
「今までやってきたから、ということ以外に、続ける理由はあるのか」
スサノオが立てた問いは、夫婦に「答え」を与えたわけではありません。
ただ、夫婦が長い間、考えることをやめていた場所に、もう一度、光を当てただけです。
しかし、それだけで十分でした。
問いが変われば、見える景色が変わる。
見える景色が変われば、選べる行動が変わる。
これが、「構造を変える」ということの正体です。
構造そのものを力で壊すのではありません。
構造を成立させている「問い」を、別の問いに置き換える。
それだけで、構造は静かに動き始めます。
■ 現代の職場・家庭・学校・地域への接続
これは、あなたの周りでも、すでに起きていることです。
職場では、毎年同じ時期に同じ業務が誰かに集中します。
そのとき、多くの人が考えるのは「どうすれば、今年も乗り切れるか」です。
しかし、本当に必要な問いは、「なぜ、この業務は毎年この人に集中するのか」かもしれません。
家庭では、毎回同じ話題で同じやりとりが起きます。
そのとき考えるの「どう言えば、今回はもめずに済むか」です。
しかし必要な問いは、「なぜ、この話題はいつも同じ展開になるのか」かもしれません。
学校では、毎年同じようなことが、同じようなタイミングで起きます。
先生たちが考えるのは「どう対応すれば、今回はうまく収まるか」です。
しかし必要な問いは、「このルールや仕組みは、今も本当に必要なのか」かもしれません。
地域では、毎年同じ行事を、同じ人たちが、同じやり方で支えています。
考えるのは「どうすれば、今年も人を集められるか」です。
しかし必要な問いは、「この行事は、今の形であり続ける必要があるのか」かもしれません。
どの場面にも共通しているのは、「どうやるか」だけが繰り返し問われ、「なぜ、こうなっているのか」が、長い間問われていない、ということです。
■ 構造を変える最初の一歩
ここまで読んで、「自分には、構造を変えるような力はない」と感じた人もいるかもしれません。
しかし、もう一度思い出してください。
スサノオが最初にしたことは、怪物を倒すことではありませんでした。
壮大な計画を立てることでもありませんでした。
ただ、「なぜ」と尋ねただけです。
構造を変える最初の一歩は、構造をすべて変えることではありません。
その場にいる誰かが、今まで誰も口にしなかった「なぜ」を、一度だけ、声に出してみることです。
「なぜ、これは毎年この人がやっているんだろう」
「なぜ、このやり方を今も続けているんだろう」
答えが出なくてもいい。
すぐに何かが変わらなくてもいい。
その問いを口にした瞬間から、その場にいる人たちの「見え方」が変わり始めます。
そして、見え方が変わった場所には、これまで存在しなかった選択肢が、少しずつ姿を現してきます。
■ 今日のまとめ
・「どう差し出すか」を考えている間、人はルールの内側にいる
・「なぜ差し出すのか」と問うことで、人は一度ルールの外に立てる
・構造を変えるとは、構造を支えている「問い」を変えることである
・スサノオが最初にしたのは、戦いではなく、「なぜ」という問いだった
・構造を変える最初の一歩は、その問いを一度、声に出してみることである
■ 今日の問いかけ
あなたの職場や家庭、学校や地域で、「どうやるか」だけが繰り返し問われていて、「なぜ、こうなっているのか」が長い間問われていないことはないでしょうか。
もしひとつでも思い当たることがあれば、今日、その「なぜ」を、心の中だけでもいいので、一度、自分自身に問いかけてみてください。
■ 次回予告
スサノオは、「なぜ」という問いを立てたあと、具体的にどのような行動を選んだのか。
次回は、その「問い」が、実際にどんな「準備」や「設計」につながっていったのかを読み解いていきます。
問いを立てたあと、人は何をすればいいのか。
そこに、構造を変えるための、もう一つの鍵が隠されています。
今日も、小さな学びを一緒に重ねていきましょう。
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