モラトリアムな日々 -16ページ目

モラトリアムな日々

隙あらば壁に張りつき、酒あらば飲んでしまう。そんな日常です。

水没の危機に見舞われ、不安な一夜を過ごした気仙沼の橋の下

を出発(脱出?)した僕は25~6キロ先の陸前高田のユースホス

テルを目指し走り始めた。


25~6キロである。急いで走れば、一時間強で着くことが出来る。

疲れる距離でもない。とにかく飛ばしていこう。

そう意気込んで45号線を走り始めるが、僅か5分後に土砂降りの

雨に降られることになり、わき道の小さなトンネルでの雨宿りを余

儀なくされた。


     0p,jk

        あ~あ、土砂降りだよ・・・・・


さだまさしの「雨宿り」を口ずさみ、雨宿りにも色んなシテュエーショ

ンがあるものだと思った。片や恋人に出会う素敵な雨宿り、片やず

たぼろ自転車旅の雨宿り・・・・・。

30分程経つと、再び雨足が弱まったので走り始める事にした。


陸前高田までの道のりは、短いながらも峠一つに長いトンネルいっ

ぱい、と意外と難コースである。特にトンネルが多い。1キロオーバ

ーの大物が2~3本ある。

2本目の大トンネルを走っている間に、再び土砂降りになった。仕方

なくトンネルで雨宿り。悪い事にこのトンネル、歩道がない。交通量

はさほど多くないが、大型トラックが脇を


ご~~~!!!


っと走り抜けていくのは相当恐ろしい物である。多少気を利かし

て避けてくれるのは分かるが・・・・。(あっちにしても相当迷惑な

話だろうが)

おまけに、もの凄い水しぶきが飛んでくる。全身に浴びるほどに

・・・・・。最初こそ嫌がっていたがそのうち、もうどうにでもしてっ

!!的なマゾヒスティックな感覚に陥った・・・・・・。


トンネルエリアを抜け峠を登りきると、残りの10キロくらいは割と

な道のりである。まずは峠の下りだ~っと、気分よく走り始

めるが・・・・・


ぴちぴちぴちぴちっ!!


何てこった、自転車のタイヤの水しぶきが顔まで飛んでくるぜ!

鼻にも目にも口にも容赦なく入ってくる。泥除けがないとこうなる

訳だ・・・・・・。雨の路面を時速35キロ以上で走ると、水しぶき

は顔面に到達する、ということを学んだ(だから?)。

スタートから3時間あまり、途中幾度となく雨宿りを繰り返し、後

半やけくそになりながらも何とか走りきり、陸前高田の道の駅に

到着した。

時刻は午前9時過ぎ。前日に携帯で検索しておいた「陸前高田

ユースホステル」に電話をかける。6度ほどベルがなり、受話器

が上がる。


「あのー、今日宿泊したいんですが。一人、素泊まりです」


「大丈夫ですよ。お名前と連絡先お願いします」


「~~~です。チェックインとかありますか?」


「ん~、一応4時なんですが、もっと早く来たいですか?」


「はい・・・・・、今道の駅なんですよ・・・・」


「え!?そんなところにいるの?いいですよ、暇だから。お越し

さい」


「ホントですか!!ありがとうございます!!すぐ行きます(笑)」


いや~、いい人だ。助かった。実際僕は電話から10分立たな

いうちに到着していた。

陸前高田ユースホステルは、道の駅から300メートルほどの距

離にある。小さな川と海に囲まれ、ある意味小さな島とも言える。

大きな橋が2本あり、そこを渡っていく事になる。

近くにはグラウンドがあり、夏場は部活の合宿等で利用される

だ。松林の中にあり、見た目は小さなアパート風。

     uyjt


自転車を停め、受付に向かう。と、奥から人の良さそうなおじさ

(と言うには若すぎるな)が出てきて手続きをしてくれる。さっ

きの電話の人だろうな・・・・。

汚れた僕を見かねたのか、ボイラーを作動してシャワーを使える

ようにしてくれたり、洗濯機の場所を教えてくれたりした。感じの

いい人だなぁ・・・・・。ユースホステルは初めてだけど・・・・。

そして最後にこう言ってくれた。


「もう一人泊まってる大学生がいて、お昼に美味いラーメンを食

べに行くから、もし行くんだったら11時ロビー集合。 じゃあ、ご

ゆっくり」


少し岩手訛りがある人だ。

早速シャワーを使わせてもらう。天井が半透明なガラスになって

いて、昼は電気を使わないでも明るい。いいなぁ、こういうの。

泥だらけの体を洗いサッパリすると、ベットに寝転がった。このま

まゆっくりしたい気もするが、せっかくの誘いだしラーメンを食べ

に行こう。


何だか今日は楽しくなりそうな予感がする・・・・・・。



      e63e6ey

           簡素な部屋に二段ベッド

迷った末無事テントに辿り着いた僕だが、時間が経つにつれ強くなって

いく雨足に大きな不安を抱えるようになった。

出来る事なら明日もここで1日ゆっくりして疲れをとり、次なる目標であ

る宮古までの道のりに耐えうる体にしておきたかった。宮古までは数箇

所の峠越えを含む120キロ超の長丁場である。


しかし、激しい雨音にたびたびラジオから流れる大雨警報を聞くうち、明

日一杯は持たないだろうな・・・・、いやそれ以前に、今日だって怪しいん

じゃないか、という思いが頭をもたげてきた。


その場合、明日はここから20数キロ先にある陸前高田まで進み、そこ

で宿に泊まろう、と思った。出発する際のテントを畳んで荷物を積む、と

いう手間が同じなら、気仙沼市内までチビッと移動するよりは20キロで

も距離を稼ぎ明後日の負担を減らしておきたいと考えたのだ。幸い陸前

高田にはユースホステルがあり、3000円くらいで素泊まりが出来る。


食事を終え、再び川の様子を見てみる。時刻は午後8時。

・・・・気持ち水位が上がっている様にも見えるが、劇的に増水している

という訳ではなさそうだ・・・・。これだけの大雨が3時間降り続いて、この

増量。ということは明日の朝までは恐らく持つだろう・・・・・。

いずれにせよこんな時間からテントを畳んで避難する事なんて絶対しな

いのだろうから、もうこうなったら寝てしまおう。待つ時間こそが苦痛なの

だ・・・・。



突如襲ってきた濁流に僕は飲み込まれた。


黒い水に瓦礫の山。


圧倒的な水のエネルギーに、僕は何も出来ずにただ流されていく。


前方に橋が現れた。このままでは激突してしまう。


何とか避けないと!!


もう目の前だ!!







・・・・・・・!!!夢かよ。


嫌な夢を見たもんだ・・・・。しかしこれほど僕の心理を分かりやすく表し

た夢もなかろう・・・・・・。時計を見るとまだ二時間も寝ていない。

川の様子を見る。やはり劇的な増加はなく、今日一杯は持つという考え

は変わらない。再び寝る事に。

その後2時間おきに目が醒め、その度川の様子を確認した。浅い眠りっ

てのはこういうこっちゃ。この日は朝日が嬉しかった。午前6時、朝食を

食べ終え、テントを出て川を見に行く。


うわっ・・・。結構増えてる・・・。


陸前高田へGO!!という考えは即固まった。

心なしか雨足も弱まっている。今を逃すとチャンスはないかもしれない。

速攻でテントを畳み荷物を自転車に括り付け、25~6キロ先の陸前高

田を目指し、急ぎ足で橋の下を出発した。

気仙沼観光を楽しんだ僕は、観光案内所でもらった地図を頼りに

野宿場所へと戻る事にした。

海辺を少し離れると綺麗な小川があり、また数キロ進むと山がある

。気仙沼は自然に恵まれているな・・・・。

ちょうど小学校の下校時刻に重なったらしく、子供達が小さな土手

を歩く微笑ましい光景を目にする事になった。マウンテンバイクで走

る僕が物珍しいのか、かなりの視線を浴びた。

走り始めて30分近く、僕は地図で指差していた「そこ」に到着した。


・・・・・違う、ここじゃない。


似ているが、ここは僕の野宿場所じゃない。確かな情報は、上を走

る道路が45号線である、ということである。しかしこの道路は45号

線とかいてある。ということは川を間違えたのか・・・・・。

僕は急速に混乱し始めた。観光マップには、他に45号線にクロス

する川は乗っていない。まさか、この地図の範囲ですらないという

事なのか!?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)


人間あせればあせるほど、冷静さを失いせわしなく動き回ってしま

う生き物である。僕は川という川を見つけては、ひたすら上流下流

に、自転車を飛ばし続けた。


・・・・・見つからない。


1時間も迷い続けていると、本格的に焦りはじめた。もう4時過ぎだ。

このままでは日が暮れてしまう。街灯も無い暗闇の中では、探し当

てるのはもっと困難になる・・・・・・。おまけに雨まで降ってきた。

見知らぬ町で迷うということが、こんなに怖い事だとは知らなかった。

迷子の子供の心境である。許されるなら、ベソだってかきたい。


その時僕の眼に、大型スーパーの看板が目に入った。気仙沼市街

に入ってきたときに見覚えのあるものである。

そうだ、この町に入った場所に行き、最初から思い出していこう。

スタート地点からはじめ、物色した公園などを見ながら、記憶を辿

っていく。そして走る事数分、遂に野宿場所を探し当てた。

心の底からホッとした。雨足が強まっていく中、橋の下でテントを組

み立て、サッサと入ってしまった。全くとんだ勘違いから、いらぬ苦

労をしたもんだ・・・・・・。全てが上手くいくことなんて、そうそうないの

かもしれない・・・・・・・・・。


晩御飯の米を炊いている間にも、雨足はどんどん強まっていった。

ラジオでは、


「宮城、岩手地方では今夜から明日にかけて大雨注意報、波浪注

意報が出るでしょう」


なんて物騒な事を言っている。

僕がテントを張っているのは、小さな川から僅か60センチほどの高

さである。「自転車漂流講座」には、小さな川はすぐに増水するから

なるべく避けたほうがいいと書いてある。


・・・・・・・・。


明日は休養の為にここでゆっくりしようと考えていたが、それは叶わ

ぬ夢なのだろうか。いや、それ以前に、今日一日持つのだろうか?


不安で、長い長い夜の始まりである。




ホテル観洋は商店街から少し走った、海の側にあった。

ぬ~、かなり大規模なホテルである。駐車場まで上がっていく坂

が長くて、そこで一苦労。ようやく着いたと思ったら、ちょうど大型

観光バスが3台ほど帰る場面に遭遇し、ホテルの従業員が大勢

でお辞儀をし手を振っていた。


これはまたしっかりしたホテルですなぁ~・・・・・・・・。


明らかに僕には場違いなホテルではあるが、臆せずズカズカ入っ

ていけるだけの図々しさを、僕はこの旅で獲得していた。

厳かに入り口をくぐり、いざロビーへ!!


まあキレイなお姉さん・・・・・


汚い格好ですみませんねェ・・・・・。おお恥ずかしい・・・・。

700円を支払うと、そそくさと風呂へ向かった。


    9km8


さすが大ホテルの大浴場、外装も立派である。ガラッと扉を

開け中へ入る。


やった!!貸切だ!!


大喜びで浴室へ。僕がいつも利用するこの時間は、どこの温泉

もほぼ貸切である事が多い。自転車旅冥利である。体を洗い、露

天風呂(イェイ)に入る。

お湯はサラッとしている。肌をこすると、キュっとする。手でお湯を

すくい顔を流す。


・・・・・と、しょっぱい。


お湯はしょっぱかった。海水くらいしょっぱい。あまりお肌に良くな

い気もするんですが・・・・・、どうなんでしょう?試しにシャワーの

お湯もなめてみたが、やはり少ししょっぱかった。これだけ海が近

いと完全な真水を出すのは難しいのかな・・・・・。

体を洗いサッパリすると、お昼ご飯を食べにいった。おばちゃんに

教えてもらったマグロ専門店である。ここのホールの人が、またビ

ックリするくらいキレイな人。気仙沼は美人が多いのか・・・・?

僕が注文したのは、三色マグロ丼 1000円 そして生ビールであ

った。ややあって、生ビールが登場。


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       ヒューヒュー!!まぶいね!!


風呂上りということもあり、冷えたビールはたまらなく美味そうに見

える。グイッと一口。


・・・ん?しょっぱい?


僕の舌がおかしいのか?ビールがしょっぱいはずが・・・・・。

あ、もしかすると、ジョッキを洗った水がしょっぱいのかもな。ここも

海から近いし・・・・・。

三色マグロ丼は、期待していたよりは普通の味で、まあそこそこ美

味しくいただけたのでした。


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店を出ると土産屋や、漁港付近をフラフラし、3時頃になると晩御飯

のボンカレーを買って野宿場所に帰ることにした。


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    なかなか雰囲気のある漁港町。



今日は有意義な一日であった。早く着けば観光を楽しめるってのも

自転車旅の魅力だよなぁ・・・・・、などと思いながら気仙沼観光マッ

プを見る。僕が泊まるのは、さっきおばちゃんの前で指差した、ここ

である。川と国道45号線のクロスする「そこ」を目指し、僕はご機嫌

で走り始めた。悲劇が待っていることも知らずに・・・・・・・。

苦しんだ昨日とは違い順調に目的地に到着できた僕は、荷物を

置くと早速気仙沼観光へ出かけた。小さなサブザックに洗濯物と

お風呂セットと本を詰め込んで。

日差しは強いが湿度が少なく、カラッとして気持ちのいい天気で

ある。ご機嫌だ。


野宿ポイントから大通りを自転車で10分ほど進むと、気仙沼市

役所への標識が目に入った。どうやら僕が野宿するは所は気仙

沼市外からは少し離れている事が判明した。標識の矢印の差す

方へ一つ大きな坂を越えると、国道沿いの大型量販店の立ち並

ぶ「最近拓けた」街並とは一変し、昔ながらの空気を残す気仙沼

の商店街が現れたのである。

ブラブラ走りながら、自転車屋やコインランドリーの場所を確認し

ておく。商店街を5分も走ると、気仙沼駅に到着した。


・・・・・・ん?これが気仙沼駅?


と思わず言いたくなるほど、こじんまりした駅であった。もっと色ん

な電車とかいっぱいとおってるとおもったのになあ。


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       意外とこじんまりした気仙沼駅。


駅の隣には、これまたこじんまりした観光案内所があったので温

泉の場所などを聞こうと入ってみることにした。中には暇そうにし

ているおばちゃんが一人。


「すみません、この辺に入浴だけ出来る温泉ありますか?」


と聞くと少し嬉しそうにして観光用の地図を広げ、


「ここに気仙沼ホテル観洋というのがあります。ここは立派な

 ホテルですよ」


と、親切に印まで付けて教えてくれた。

僕も嬉しくなり、ついでにお勧めの食事どころや見所など聞きまく

り遂に20分ほど話し続けていた。観光マップには僕の野宿ポイン

トもあったので指差し、


「僕はこの橋の下で野宿するんですよ」


なんて言ったりして盛り上がっていた(これが後に悲劇を招く)。

そのうち観光客らしいおじさんが入ってきたので話をやめ、礼を言

って外に出た。そして僕は思った。


やっぱりおばちゃんが面白いな


、と。

旅も5日目だが、今まで親しく話してきたのはおばちゃんが

多かった気がする。あるいはおっさん。若い女の人はどこと

くツンとしていて、それは全国どこへ行っても同じような気

がした。そりゃあ、若い女の人と楽しく話せりゃそれは素晴

らしい事ですけどね。


案内所のあばちゃんに教えてもらったマグロ屋さんへ行く前

に、風呂と洗濯を済ませる事にした。駅から2分ほどの場所

にあるコインランドリーへ向かう。


    jn,jnk


洗剤を買って洗濯物を放り込み、お金を入れて洗濯開始。

0分程かかるらしい。その間僕は小さなイスに座り、気仙

沼の観光マップや、ってきた文庫本を読むことにした。

まだ昼前のコインランドリーはガランとしている。若い父親

人が小さな布団を持って現れ、機械に放り込んでサッ

ってしまってからは、ずっと僕一人であった。

洗濯機と乾燥機の立てるガタン、ガタンという音。大きな窓

ら差し込む陽光の中で、本を読む僕。


「洗濯をする」という行為は、自転車旅をする僕にとって特別

な行為であったように思える。疲れた体を温泉で癒すように、

軋んだギアに油を差し自転車をケアするように、汚れた服を

洗いきれいにしていくという事は、再生を意味し、新たな気持

ちで旅を続けていく為の、大切な儀式のような物でもあった。

そしてそれは、僕にとってとても有意義な時間であった。


約1時間後、洗濯と乾燥が終った。この間にコンセントを見つ

け、ちゃっかり携帯の充電を済ませていた事は秘密である。

コインランドリーを出た僕は、温泉に入るためホテル観洋を目

指し再び気仙沼の町をゆっくりと走り始めた。