苦しんだ昨日とは違い順調に目的地に到着できた僕は、荷物を
置くと早速気仙沼観光へ出かけた。小さなサブザックに洗濯物と
お風呂セットと本を詰め込んで。
日差しは強いが湿度が少なく、カラッとして気持ちのいい天気で
ある。ご機嫌だ。
野宿ポイントから大通りを自転車で10分ほど進むと、気仙沼市
役所への標識が目に入った。どうやら僕が野宿するは所は気仙
沼市外からは少し離れている事が判明した。標識の矢印の差す
方へ一つ大きな坂を越えると、国道沿いの大型量販店の立ち並
ぶ「最近拓けた」街並とは一変し、昔ながらの空気を残す気仙沼
の商店街が現れたのである。
ブラブラ走りながら、自転車屋やコインランドリーの場所を確認し
ておく。商店街を5分も走ると、気仙沼駅に到着した。
・・・・・・ん?これが気仙沼駅?
と思わず言いたくなるほど、こじんまりした駅であった。もっと色ん
な電車とかいっぱいとおってるとおもったのになあ。
意外とこじんまりした気仙沼駅。
駅の隣には、これまたこじんまりした観光案内所があったので温
泉の場所などを聞こうと入ってみることにした。中には暇そうにし
ているおばちゃんが一人。
「すみません、この辺に入浴だけ出来る温泉ありますか?」
と聞くと少し嬉しそうにして観光用の地図を広げ、
「ここに気仙沼ホテル観洋というのがあります。ここは立派な
ホテルですよ」
と、親切に印まで付けて教えてくれた。
僕も嬉しくなり、ついでにお勧めの食事どころや見所など聞きまく
り遂に20分ほど話し続けていた。観光マップには僕の野宿ポイン
トもあったので指差し、
「僕はこの橋の下で野宿するんですよ」
なんて言ったりして盛り上がっていた(これが後に悲劇を招く)。
そのうち観光客らしいおじさんが入ってきたので話をやめ、礼を言
って外に出た。そして僕は思った。
やっぱりおばちゃんが面白いな
、と。
旅も5日目だが、今まで親しく話してきたのはおばちゃんが
多かった気がする。あるいはおっさん。若い女の人はどこと
なくツンとしていて、それは全国どこへ行っても同じような気
がした。そりゃあ、若い女の人と楽しく話せりゃそれは素晴
らしい事ですけどね。
案内所のあばちゃんに教えてもらったマグロ屋さんへ行く前
に、風呂と洗濯を済ませる事にした。駅から2分ほどの場所
にあるコインランドリーへ向かう。
洗剤を買って洗濯物を放り込み、お金を入れて洗濯開始。
30分程かかるらしい。その間僕は小さなイスに座り、気仙
沼の観光マップや、持ってきた文庫本を読むことにした。
まだ昼前のコインランドリーはガランとしている。若い父親
風の人が小さな布団を持って現れ、機械に放り込んでサッ
サと行ってしまってからは、ずっと僕一人であった。
洗濯機と乾燥機の立てるガタン、ガタンという音。大きな窓
から差し込む陽光の中で、本を読む僕。
「洗濯をする」という行為は、自転車旅をする僕にとって特別
な行為であったように思える。疲れた体を温泉で癒すように、
軋んだギアに油を差し自転車をケアするように、汚れた服を
洗いきれいにしていくという事は、再生を意味し、新たな気持
ちで旅を続けていく為の、大切な儀式のような物でもあった。
そしてそれは、僕にとってとても有意義な時間であった。
約1時間後、洗濯と乾燥が終った。この間にコンセントを見つ
け、ちゃっかり携帯の充電を済ませていた事は秘密である。
コインランドリーを出た僕は、温泉に入るためホテル観洋を目
指し再び気仙沼の町をゆっくりと走り始めた。

